2P31 電子状態計算に基づく分子類似性解析とその応用 (2) -電子的記述子の検討 ○岩根 陵,杉本 学 熊本大学院自然科学 [email protected] 【緒言】 近年創薬や機能性材料の開発において、情報化学的手法が活発に利用されている。その手法 の一つとして、既知化合物の代替となる類似化合物を探索する手法が注目を集めている。本研究では、 化学的性質を支配する電子状態に基づいて分子の類似性を評価できないかと考え、電子状態計算によ り得られる様々な数値を記述子とする評価アルゴリズムを開発し、その有用性について検討した。 【計算方法】 分子ペアの類似度を計算するために、分子の電子状態に基づく記述子を用意した。記述 子として、IR 因子、Raman 因子、軌道因子、UV 因子、フロンティア軌道因子を用いた。IR 因子、Raman 因子、軌道因子、UV 因子について電子状態の分布を図 1 のようにグラフ化した。これらの関数をそれ ぞれ f(x), g(x)とする。これらを用いて、次式より類似度 r を計算した。 !! ! ! ! ! ! !! ! !" ! ! ! ! ! !" ! !"" !" フロンティア因子は次式を用いて、類似度 r を 算出した。 ! ! !"# !! ! ! ! !!"# ! ! ! !"" !!"# 図 1 グラフの重ね合わせによる類似度評価の例 このとき、ε に HOMO のエネルギー準位、LUMO のエネルギー準位、HOMO-LUMO エネルギーギャップ幅を代入した場合の、3 通りの類似度を計算し た。εref は参照物質のパラメータを表す。 分子セットには、5 種類のカロテノイドと、他 11 種類の簡素な構造の有機分子を用いた。このとき、 ルテイン A というカロテノイド分子を参照物質に用いた。全ての電子状態計算は非経験的分子軌道計 算プログラム Gaussian09 を用いて行った。構造最適化、振動数解析は DFT(CAM-B3LYP)/6-31G(d,p)法 により、孤立分子系について計算した。励起状態は孤立分子系の最適化構造を用い、 TDDFT(CAM-B3LYP)/6-31G(d,p)法によって計算した。励起状態計算においては、溶媒効果を考慮する ため、PCM 法によりエタノールのパラメータを用いて計算を行った。 【結果と考察】 IR 因子によるルテイン A と他分子間の類似度を計算したところ、アスタキサンチン を除いたカロテノイド分子の類似度は90.0 % を超える高い類似度を示した。 その他の分子は67.2 % と いう結果を示した。この類似度の差から、IR 因子による類似度は、類似物質と非類似物質を区別する ことが出来ている。Raman 因子によるルテイン A の類似度を計算した場合、カロテノイド分子との類 似度は全て 80.0 % 以上を示し、それ以外の分子については、全て 12.5 % 以下を示した。類似度の差 から、Raman 因子による類似度は類似物質と非類似物質を判別出来ている。次に軌道因子によるルテ イン A の類似度を計算した結果、カロテノイド分子との類似度は 96.2 % 以上という非常に大きい類似 度を示し、その他の分子は、80.4 - 51.7 % という数値を示した。このことから、類似度の差より類似物 質と非類似物質の区別は出来るが、その差は小さい指標であると言える。UV 因子によるルテイン A の類似度を計算したところ、カロテノイド分子はいずれも 70.5 % 以上の類似度を示し、その他の物質 は 7.3 % 以下の類似度を示した。その類似度の差は大きく、類似物質と非類似物質を区別出来ている。 フロンティア軌道因子についても同様であり、HOMO の類似度、LUMO の類似度、HOMO-LUMO ギ ャップの類似度のいずれにおいても、カロテノイドとその他の分子の類似度の差は大きく、類似物質 と非類似物質を区別出来る指標であることが示唆された。
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