積層パワーインダクタ(MDT)用高周波対応材の開発

技術時報 2011 No.22
積層パワーインダクタ(MDT)用高周波対応材の開発
Development of Multilayer Power Inductor (MDT) at High frequency material
土屋
祐一 Yuichi TSUCHIYA
商品開発センター
携帯機器等の小型化・長寿命化要求を受け、それに搭載されるスイッチング電源回路の動作周波数の高周波化
が進んでいる。これに伴い、使用されるパワーインダクタには、高周波動作時に低損失であることが要求される。
積層パワーインダクタ(MDT)における小型化、高周波化対応として、フェライト材料の最適化を行い、高周波
領域での材料の磁気損失を低減した。
Mobile terminal equipment such as has received a demand for compact and long life,
has progressed higher frequency switching power of circuits that are mounted to it. As a result, Inductors are used to
require being low-loss high-frequency operation. Multilayer Inductors (MDT) in miniaturization, as the high frequency
response, optimization Perform of the Ferrite material composition, has reduced the loss of magnetic materials at high
frequencies.
1.まえがき
半導体技術の進歩により電源回路に使用される IC の小型
化が進んでいます。これに伴い、搭載されるインダクタ等の
受動部品も一層の小型化が要求されています。IC 小型化に
伴い動作周波数が 6MHz以上の IC も開発されています。
DC-DC コンバーター等に搭載されるインダクタに印加さ
れる電圧と流れる電流の関係は次式で示されます。
V (t )  L
dI (t )
dt
L:インダクタンス値
t:印加時間
電圧と電流が同じ場合、電圧印加時間(スイッチング ON
時間)を短くすれば、必要なインダクタンス値も小さくなり
ます。すなわち、より小型のインダクタでも対応可能になり
ます。これには、より周波数の高いスイッチングが必要とな
り、搭載されるインダクタにもその周波数に対応した低損失
化が要求されます。特に携帯機器では低消費電力が要求され
る為、低損失化要求は年々高いものになっています。
磁性体を使用したインダクタの損失は、ワイヤーロスとコ
アロスに大別されます(1)。ワイヤーロスは巻き線による損
失で、コアロスはコアに使用される磁性体のヒステリシス
損、渦電流損、残留損によります。
共に周波数の上昇に伴い増大しますが、近年の DC-DC コン
バーターのスイッチング周波数、数 MHz 以上の領域では、コ
アロスの支配率が極めて大きくなります。この為、インダク
タの損失低減には、製品の構造だけでなく使用する材料の低
損失化が必要となります。本稿では、フェライト材料の最適
化により、コアロスを低減し高周波スイッチングに対応した
材料を開発しましたので、これを報告します。
2.高周波低ロス材の開発
(1)目標特性
高周波対応材の開発に際し、目標を以下のように定めまし
た。
①対応周波数 6MHz 以上(6MHz動作時に低損失)
②透磁率の温度特性が-40℃~85℃で±5%以内
①はフェライトの適用周波数を高周波へ伸ばすことにな
ります。フェライトの透磁率の周波数特性は、スヌーク則に
従い透磁率の低い材料ほど、高周波へ伸びます(2)。フェラ
イトの限界周波数 fr は、fr∝1/μですので、周波数帯域を
6MHz とすると、目標透磁率は従来材μ≒120 よりも低いμ≒
60 狙いで設定しました。②は IC の動作環境-40℃~85℃で
安全動作が求められるため、温度範囲内でのインダクタンス
値変動が小さいことが必要となります。
(2)材料の基本特性
図 1 に材料の複素透磁率の周波数特性を示します。従来材
の共鳴周波数が 25MHz であるのに対して、開発材は 50MHz
になっており、狙い通り周波数特性が高周波化していること
が分かります。
Permeability(μ',μ'')
積層パワーインダクタ(MDT)用高周波対応材の開発
式③が求められ、周波数に比例しない成分、すなわち残留損
失に相当する項 Pr/f の差が大きいことが図 3 で確認できま
す。このことから、従来材とのコアロスの差は残留損による
と推測されます(3)。残留損の発生機構は諸説あり完全な解
明はなされていませんが、高周波領域に適用する材料には残
留損の小さい材料を選択することが重要であるといえます。
従来材
1600
開発材
10
100
Frequency(MHz)
図1
Pcv(kw/m3)
1
1200
1000
1000
現行材
800
L os s
High
1400
新材料
600
400
周波数特性比較
200
(3)材料損失(コアロス)評価
0
図 2 に従来材と開発材のコアロスの周波数特性を示しま
す。3MHz 以上でコアロスが低減されていることが確認され
ます。この測定結果を元に、コアロスの解析を一般的手法で
行いました。コアロスは主に、ヒステリシス損、渦電流損、
残留損から分類され、次式①で示されます。
1
図2
…①
従来材残留損
Pr :残留損
ヒステリシス損は周波数に比例、渦電流損失は周波数の 2 乗
に比例し、式②で示されます。
Pcv  (kh・ Bm 3・ f)  (
2
ke・ Bm ・ d ・ f
)  Pr
ρ
…②
Pcv/f(kw/m3/KHz)
Pe :渦電流損
2
材料損失(コアロス)比較
0.14
Ph :ヒステリシス損
2
10
0.16
Pcv:コアロス
Pcv  Ph  Pe  Pr
Frequency(MHz)
開発材残留損
0.12
渦電流損
0.10
0.08
0.06
0.04
0.02
ヒステリシス損
kh : ヒステリシス損失係数
ke : 渦電流損失係数
Bm : 飽和磁束密度
d
f
ρ : 抵抗率
: 周波数
1
10
: 渦電流半径
Frequency(MHz)
図3
これを元に各測定値を周波数で割ることにより、
2
0.00
(4)温度特性評価
2
Pr
ke・ Bm ・ d ・ f
Pcv
 (kh・ Bm 3 )  (
)
)(
f
ρ
f
残留損比較
…③
材料の温度特性は製品の温度特性に反映されます。この為、
製品の動作温度範囲と同じ-40~85℃の範囲で透磁率の変化
率が±5%以内であることを材料開発の目標としています。
開発材の温度特性を図 4 に示します。透磁率変化率は-40~
85℃の範囲で±2%以内であり、製品での温度特性が良好で
あることが予想されます。
2
5%
85
4%
High
3%
81
2%
1%
0%
-1%
-2%
従来材
-3%
開発材
79
Vi= 5.5V
Vo= 1.8V
77
75
-5%
-40℃ -25℃ 0℃
25℃ 55℃ 85℃
73
開発材
71
従来材
67
0.001
0.010
0.100
I-out(A)
Temperature(℃)
図4
温度特性比較
(5)効率評価
降圧型DCDC コンバーター(TI製:TPS62600
最大
fsw=6MHz)を使用してコアロス低減の効果を確認しました。
同一寸法のトロイダルコアに巻き線を行い 1μHとして、そ
れぞれの変換効率を測定しました。表1に作製したトロイダ
ルコアの特性を、図5に結果を示します。Rdc(巻き数)の影
響が顕著となる高出力域の効率は同等ですが、IC出力が交流
の間欠発振となり、交流損失の影響の大きい低出力域では約
1%の効率改善を確認しました。開発材トロイダルはRDcが同
等にも関わらず変換効率が高いことは、コアロスの低減効果
が現れていることを表しています。
製品適用時は、周回径、ターン数等、現行の製品構造と異な
ることが予測されます。従って、トロイダル評価結果が製品
の結果と同一とはいえませんが、製品の効率向上が期待され
ます。
表1
L=1μH
69
-4%
Effciency
83
Effciency(%)
Permeability Change rate (%)
積層パワーインダクタ(MDT)用高周波対応材の開発
図5
1.000
降圧型 DCDC コンバーター効率比較
3.むすび
携帯機器用の DC-DC コンバーターにおけるスイッチン
グ周波数は数 MHz 以上に高周波化が進んでいます。搭載され
るインダクタの損失が、電源回路の総損失に占める割合は高
く、その低減は大きな課題となっています。開発材は、高周
波帯域でのコアロスが低減されており、製品適用時に低ロス
化が期待でき、DCDC コンバーターにおける効率改善が見込
まれます。今後、製品へ適用し製品特性を確認するとともに、
材料特性に適合した製品構造について、さらに検討を行いま
す。
参考文献
[1] 飯島洋祐, “磁性部品における損失解析と最適化設計”,
第 30 回武井セミナー予稿集,p73,2010
[2] 平賀貞太郎他, “フェライト”, 丸善, p83,1981
[3] 中尾文昭, “NiZn フェライトを用いた高周波パワーインダクタの開
発”,TECHNO-FRONTIER2007,pE6-2-1,2007
トロイダルコア評価
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