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人工呼吸器
- 上級編 臨床工学科
医療機器安全セミナー 5
November 18, 2014
重村 真琴
麻野 秀人
Department of Clinical Engineering ,Nishinokyo Hospital
上級編の内容
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換気モード PCV・PEEP ..etc.
非侵襲的換気療法 NIV
グラフィックモニタ
カプノメトリと死腔換気
ARDSの定義と治療戦略
加温加湿の重要性
人工呼吸管理中の気管吸引
人工呼吸器関連肺炎 VAPとは
換気モード
PCV・PEEP ..etc.
PCV -圧規定換気吸気圧と吸気時間を設定し、設
定した圧を維持して吸気時間に
達すると呼気に変わる
⇒Time-cycle
肺コンプライアンスの変化が換
気量に影響する
換気量は一定しないので、換気量
モニタは必須
プラトー圧 25cmH2O以下
PCVの有用性
1.一定圧しか加圧されない
肺胞の過膨張が起こりにくい
柔らかい肺にも、その圧しかかからない
2.吸気時間中は一定気道内圧を維持する
膨らみにくい肺胞にも圧が伝わる
吸気ガス分布の均一化が期待できる
3.吸気流量パターンが自発呼吸に類似
漸減波になるため呼吸仕事量が減少
PCVが優れているというエビデンスはないが、
ICUでの治療で主力の換気モードである
BIPAP -二相性陽圧換気• 2つのPEEPレベルを任意の時間設定で交互に繰り
返すモード
• 基本的にはCPAPモードのため、どちらのPEEPレ
ベルにおいても自由に自発呼吸が可能
2つのPEEPレベル
からなるCPAPであ
ると同時にPCVの
性質を兼ね備えた
《自発呼吸とPCV
の混合型》である
PEEP –呼気終末陽圧 機能的残気量の増加、虚脱し
た肺胞の回復
 コンプライアンスの改善およ
び、肺内シャント減少により
血液の酸素化が改善
 1回換気量の増加、二酸化炭
素の排出効果による呼吸仕事
量の軽減
換気に伴う肺胞の虚脱-再拡張の反復による肺
損傷を防ぐ
その他の換気モード
APRV (Airway Pressure Release Ventilation)
気道内圧開放換気
二相性陽圧換気の低圧相時間を極端に短くし、高圧相
から解放するモード
自発呼吸を活かすため呼吸仕事量の減少と、鎮静・筋弛
緩剤の減量ができる
酸素化改善に特化した
PCV
非侵襲的換気療法
NIV
非侵襲的換気療法
Noninvasive ventilation (NIV)
気管内挿管や気管切開を行わず、鼻マスクま
たはフェイスマスクを使用して陽圧換気を行
なう換気療法
NIVの適応と注意点
適応
・意識がよく協力的
・循環動態が安定している
・気管内挿管が必要でない
(気道が確保できていること、喀痰の排出ができること)
・顔面の外傷がない
・マスクをつけることが可能
・消化管が活動している状態 (閉塞などがないこと)
注意点
• 気管挿管のタイミングを遅らせない
頻呼吸、呼吸補助筋の使用、低酸素血症、高二酸化炭素
血症、頻脈などが改善しない時は気管挿管を行う
NIVの一般的禁忌
絶対的禁忌
• 呼吸停止
• マスクフィットができない
相対的禁忌
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ショック
不安定な心筋虚血
不整脈
コントロール不良な大量の上部消化管出血
興奮、非協力的
気道確保困難
大量の気道分泌物
多臓器障害
最近の上気道や上部消化管手術
NIVマスクの種類
鼻マスク
フルフェイスマスク
トータルフェイスマスク
適応
慢性期で在宅療養中の
患者
呼吸不全の急性期で、比較
的重症な患者
呼吸不全の急性期で重症な
患者
長所
・会話や食事ができる
・圧迫感が少ない
・高い圧がかけられる
・開口しても圧が逃げず、口
呼吸の患者に使用可
・高い圧がかけられる
・サイズの選択がないため、
急性期の第一選択となる
短所
・高い圧がかけられない ・頬のくぼみが大きいとマス
・口呼吸の患者には使用 クのフィット性が不十分にな
できない
り、リーク量が増える
・皮膚トラブルが生じやすい
写真
・サイズの選択がないため顔
の小さい患者には使用不可
・顔全体を覆うため、不快感
が強い
NIVの換気モード
• Sモード(Spontaneous)
自発呼吸を検出して吸気気道陽圧(IPAP)と呼気気道陽圧(EPAP)
を供給
• Tモード(Timed)
あらかじめ設定した呼吸サイクル時間内に自発呼吸が検出され
なかった場合に、自動的にIPAPが供給
• S/Tモード
SモードとTモードを合わせたもの
• CPAP
在宅人工呼吸器療法
Home mechanical ventilation(HMV)
呼吸器疾患や神経・筋疾患などにより換気補助が
必要な療養者に対し、家庭で人工呼吸による補
助換気を行う治療法
また、心不全の治療法の一つとして、
順応性自動制御換気
(Adaptive Servo Ventilation:ASV)
の活用が大きく注目されている
グラフィックモニタ
グラフィックモニタ
• 気道内圧-時間波形
• 流量-時間波形
• 換気量-時間波形
• 気道内圧-換気量曲線
• 流量-換気量曲線
気道内圧-時間波形
VCVの波形
PCVの波形
流量-時間波形
内因性PEEP
気道抵抗上昇時
換気量-時間波形
回路内リーク時
気道内圧-換気量曲線
肺胞の過伸展
流量-換気量曲線
回路内リーク時
カプノメトリと死腔換気
カプノメーター
気管チューブと人工呼吸回路の間に専用のア
ダプターとセンサーを装着して、呼気に含ま
れる二酸化炭素分圧を非侵襲的かつ連続的に
測定
患者血液中のCO2濃度の推定
挿管チューブの位置確認
気道閉塞の有無
死腔換気量の推定
カプノグラムの波形
カプノグラムの代表的な変化
右上がりの波形
気道抵抗の上昇
→肺胞からのガスに到達し
ていない
基線の上昇
呼気の再呼吸、装置の構成
不良
カプノグラムの消失
呼吸回路の外れ、呼吸停止、
肺血流の低下、心停止
→センサがCO2を検出できて
いない
死腔換気とカプノグラム
PaCO2
肺胞換気量
ET
解剖学的
死腔
CO2
肺胞死腔
呼気量
死腔換気率=(PaCo2-PETCO2)/PaCO2
正常値 0.3以下
気管挿管時
ARDSの定義と治療戦略
ARDSとは
急性呼吸窮迫症候群
(Acute respiratory distress syndrome)
非心原性肺水腫による低酸素性呼吸不全
びまん性に肺胞および毛細血
管が、炎症性の障害を受ける
ことが原因とされている
しばしば多臓器不全を伴っており
急性呼吸不全の中で最も重篤な病態
ARDSの定義
発症のタイミング
-2012年 ベルリン定義-
軽度
中等度
Mild ARDS
Moderate ARDS
重度
Severe
ARDS
胸部画像診断
(C-XP,胸部CT)
基礎疾患発症から1週間以内
急性もしくは増悪する呼吸器症状
両側透過性低下
胸水,肺葉・肺の虚脱あるいは結節性病変
肺水腫の原因
心不全,輸液過剰では説明のつかない呼吸不全
危険因子がない場合,心エコーなどの客観的評価で静水圧性肺水腫
の否定
酸素化 PaO2/FiO2
201-300mmHg
101-200mmHg
100mmHg以下
(PEEP≧5cmH2O)
以前の定義にあった、肺動脈楔入圧は削除
ARDSの危険因子
直接的原因
間接的原因
• 肺炎
• 胃内容物の吸引
• 敗血症
• 重症外傷
• 肺挫傷
• 有毒ガス吸入
• 溺水
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(誤嚥性肺炎)
(ショック・大量輸血を伴う)
熱傷
薬物中毒
急性膵炎
大量輸血
ARDSの胸部画像
胸部レントゲン
両肺野にびまん性の湿潤影
胸部CT
すりガラス陰影と湿潤影
細気管支拡張像(矢印)
ARDSの薬物療法
有効である可能性
• 低用量のステロイド
急性期(72時間以内)
後期(7日以降14日未満)
• サーファクタント(乳幼児・小児)
• マクロライド
• GM-CSF
賛否両論あり
• エラスターゼ阻害薬(シベレスタット)
• NO吸入
• β2刺激薬
自発呼吸は温存すべきか
障害肺に自発呼吸を温存すると…
腹側肺よりも背側肺に設定値以上の換気量に相当する
伸展を引き起こす
自発呼吸努力が強いと…
吸気時に肺胞の過進展、呼気時に肺胞の虚脱が起こり
人工呼吸関連肺障害(VALI)を助長
軽度ARDS:自発呼吸温存
重度ARDS、自発呼吸努力が強い:筋弛緩
人工呼吸関連肺障害とは
Ventilator-associated lung injury (VALI)
人工呼吸によって引き起こされる急性肺障害
 Barotrauma(圧力外傷)
高すぎる設定圧によって生じる肺損傷
 Volutrauma(容量外傷)
多すぎる設定換気量によって生じる肺損傷
 Atelectrauma(無気肺損傷)
虚脱肺胞が膨張と虚脱を繰り返すことで生じる肺損傷
 Biotrauma(生物学的肺損傷)
物理学的、機械的刺激によって産生された炎症性サイトカインに
よって生じる肺損傷
体位呼吸療法
仰臥位での睡眠は哺乳類の中で人間だけが行う
哺乳類において、腹臥位は生理的な呼吸様式
背面を開放することが重要
腹臥位への体位変換
① 換気血流比の改善
② 換気様式の改善
③ 心臓による荷重の軽減
→酸素化の改善
加温加湿の重要性
湿度について
大気
絶対湿度
20℃
9mg/L
(50%)
空気単位体積中の水分量
上気道
32℃
30mg/L
(90%)
下気道
37℃
44mg/L
(100%)
相対湿度
ある温度下での水蒸気の飽
和度
飽和水蒸気量
ある温度における単位体積
あたりに含み得る最大水蒸
気量
相対湿度=
絶対湿度
飽和水蒸気量
×100
気道の役割
上気道の役割:加温・加湿
空気は上気道の大きい面積の血管
や粘膜から熱や水分を奪って加温
加湿される
呼気時は吸気ガスから熱と湿度を
回収
下気道の役割:粘膜繊毛運動
吸入気に含まれる異物が気道粘膜
面に付着
気道粘膜の繊毛運動により、粘液
を外へ送り出し、痰として排出す
ることでウイルスの侵入を防ぐ
もし加温加湿をしなかったら…
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気道粘膜の乾燥
気管・気管支の上皮細胞の損傷
気道粘膜の線毛運動の低下・障害
細菌感染
気道分泌物の粘稠度上昇
喀痰喀出困難→気道閉塞・気管チューブの狭窄・閉塞
気道抵抗の上昇
肺表面張力が増加、無気肺の形成
呼吸仕事量の増加
加温加湿の目的
• 乾燥した医療ガスを適度に加温加湿する
• 気道の湿度を保持することで粘膜繊毛運動の
機能を最適化する
気道の浄化、感染防御システムの維持
加温加湿器使用時の
温度・湿度の変化
チャンバー出口と口元間で相対湿度が下がることで、
結露を防いで細菌繁殖の防止に繋がる
人工呼吸管理中の気管吸引
気管吸引とは
定義
人工気道を含む気道からカテーテルを用いて機械的に分
泌物を除去するための準備、手技の実施、実施後の観察、
アセスメントと感染管理を含む一連の流れのことをいう
目的
気道の開放性を維持・改善することにより、呼吸仕事量
(努力呼吸)や呼吸困難感を軽減すること、肺胞でのガス
交換能を維持・改善することである
日本呼吸療法医学会 気管吸引ガイドライン2013より
痰の発生
気道液
1日に約100mL産生
気道、呼吸器疾患の発症や進展を防ぐ役割
気道粘膜の繊毛上皮細胞の繊毛運動によって,細菌やほこ
りなどの異物とともに、絶えず口腔に向かって排出
気道疾患を発症すると気道液の分泌が亢進、
喀痰として体外に排出
気管吸引の必要性
除去しなければ蓄積され続け
• 気道を塞ぐ
• 肺に入る空気圧力の増加
• 肺に凝集塊が落下
・局所的な気道閉塞
・肺炎の病原体を肺中に拡散
・自発呼吸患者の呼吸仕事量の増加
注意を要する状態
気管吸引には絶対的な禁忌はない
•低酸素血症
•出血傾向、気管内出血
•低心機能・心不全
•頭蓋内圧亢進状態
•気道の過敏性が亢進している状態、吸引刺激で気管支痙攣
が起こりやすい状態
•吸引刺激により容易に不整脈が出やすい状態
•吸引刺激により病態悪化の可能性がある場合
•気管からの分泌物が原因となり重篤な感染症を媒介するお
それがある場合
日本呼吸療法医学会
気管吸引ガイドライン2013より
開放式気管吸引
人工呼吸を中止しないと吸引・洗浄操作ができない
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人工呼吸の中断
FiO2の低下
PEEPの解除
SaO2の低下
低酸素血症、肺胞虚脱などの合併症の恐れ
院内感染の原因になる
開放式吸引による病原体の飛散
患者の換気装置を外した際に微生物が飛散
• 肺から空気が抜ける
• 患者の咳嗽 肺分泌物
バイオフィルムの凝集
肺炎の病原体
微生物を含んだ液滴が落ちる
• 患者の衣服やリネン類
• 患者近くの環境:ベッドサイドテーブル、ベッド柵など
• 汚染された物品:体温計、聴診器、血圧計、開封した手袋の箱
• 医療従事者:顔、手や腕、白衣
閉鎖式気管吸引
人工呼吸を中止しないで吸引・洗浄操作ができる
• 人工呼吸中断の必要がない
• FiO2の安定
• PEEP維持
• SaO2の安定
• 低酸素血症、肺胞虚脱など
の合併症の予防
• 院内感染の機会の減少
人工呼吸器関連肺炎
VAPとは
VAPとは
Ventilator Associated Pneumonia
(人工呼吸器関連肺炎)
人工呼吸管理前には肺炎がなく、人工呼吸管
理導入後48時間以降に発症する肺炎
早期VAP:48~72時間以内
晩期VAP:72時間以降
すべての医療関連感染症の中で
最も重篤な合併症
VAPの危険因子
単独で最大の危険因子は
気管チューブ
舌下部に分泌物が溜まる
構造で、カフから下気道
に分泌物が流れ込み、誤
嚥を引き起こす
細菌数
唾液:108~109/mL
歯垢:1011/g
大腸:1011/g
人工呼吸管理が1日ごとに
VAP率:1~3%
死亡リスク:2~10倍
VAPの徴候と症状
• 胸部X線上、他の原因に起因しない
進行性の湿潤像
• 膿性喀痰
• 38.5℃以上の発熱
• 白血球増加
• 痰・血液培養の陽性
• PaO2の低下
VAPバンドル
Ⅰ.手指衛生を確実に実施する
Ⅱ.人工呼吸器回路を頻回に交換しない
Ⅲ.適切な鎮静・鎮痛を図る
特に過鎮静を避ける
Ⅳ.人工呼吸器からの離脱ができるか、毎日
評価する
Ⅴ.人工呼吸中の患者を仰臥位で管理しない
日本集中治療学会
人工呼吸関連肺炎予防バンドルより
VAP防止の3大原則
• スタッフ教育
VAPを知ることがVAP対策の第1ステップ
• コロニゼーション抑制
スタンダードプリコーションの実施と口腔ケア
• 吸い込み(誤嚥)回避
誤嚥防止にヘッドアップ30~45度