アセチリド錯体を構成要素とする 分子性磁性体の構築と その構造及び磁気特性の評価 分子研 ○西條 純一,西 信之 遷移金属ニトリル錯体: 数多くの興味深い磁性体を生む [Fe(TCNE)(NCMe)2][FeCl4] [Mn(5-TMAMsaltmen)(TCNQ)](ClO4)2 K.I. Pokhodnya et al., JACS (2006) H. Miyasaka et al., Chem. Eur. J. (2006) ・強い磁気相互作用 ・各種の光学特性 ・構造変化と磁性の相間 しかしその一方で…… ニトリル錯体アセチリド錯体 n+ (n-2)+ R R N L L M L L L M L L L N 等電子配置 R R ・数多くの磁性体 ・極少数の研究例のみ ・優れた光学特性 ・磁性の発現例はない 遷移金属アセチリド錯体は,分子性磁性体の空白地 遷移金属アセチリド錯体は なぜ使われなかったのか? 不安定だから ・酸素や水により分解 ・熱,光で分解 ところが近年,安定なアセチリド錯体が実現 Ph P Ph P M R P Ph P Ph Ph R P P Mn P P R R N N Cr N N R Ph [(P P3 )M(CC-R)]+ + [Mn(dmpe) 2 (CC-R)2 ] [CrCyclam(CC-R)2 ]+ S=1 S = 3/2 S = 1/2 R = 3-Thiophene, Ph しかし,これらを用いた磁性体の開発は行われていない いずれも合成後は大気中,水,室内光などに対し安定 磁性体の構築に好都合 アセチリド錯体で磁性体が構築できることを示す 組み合わせる錯体としては,ジチオレン錯体を使用 (分子間相互作用を構築しやすい) 今回は,いくつか試した中から[Ni(mdt)2]– 錯体との組み合わせを報告する S S S S Ni S S S S [Ni(mdt)2]– 結晶の作成: [CrCyclam(CC-R)2]OTf 40 mg / 1,2-dichloroethane 25 ml (Bu4N)[Ni(mdt)2] 40 mg / PhCl 25 ml を混合し1日放置 得られた結晶: [CrCyclam(CC-3-Thiophene)2][Ni(mdt)2] 0.2×0.2×0.005 mm3程度 [CrCyclam(CC-Ph)2][Ni(mdt)2](H2O) (水分子は溶媒由来) 0.4×0.05×0.005 mm3程度 磁気測定は,多数の結晶を無配向でアルミのカプセルに封入して測定 1. [CrCyclam(CC-3-Thiophene)2][Ni(mdt)2] [CrCyclam(CC-3-Thiophene)2][Ni(mdt)2]の構造 c a b r1(NH-S): 3.575 Å r2 c軸方向へのフェリ鎖 r1 r2(NH-S): 3.764 Å r3(S-C): 3.459 Å 鎖間相互作用 r3 ※ P21/c,thiophene環にdisorder 磁気測定 25 3 Hz 2.3 2.1 鎖内: 2J = -6.1 K 鎖間: 2J'eff = +0.26 K 1.9 B = 50 mT 1.7 1.5 0 20 40 60 T/K 80 M / B' / emu mol -1 Experimental Single Chain " / emu mol -1 T / emu K mol-1 2.5 20 10 Hz 3 30 Hz 15 100 Hz [1/2 - 3/2] フェリ鎖の磁化の2項の和による表現 2 J.S. Miller, M. to Materials vol. I 10Drillon, Magnetism: Molecules BAC = 0.35 mT 1 5 0 6 -1 5 1.8 K -2 4 100 -3 3 -6 -4 -2 0 2 4 2 B/T 1 ソフトなフェリ磁性体 (T = 2.3 K) 3 2 2.2 c2.4 2.6 2.8 0 1.8 6 3.2 T/K "遷移金属アセチリドを用いた初の磁性体" ・弱い鎖間相互作用を持つ[1/2 - 3/2] フェリ磁性体 ・転移温度はあまり高くない(弱い鎖間相互作用,disorderも影響?) 新たな物質群への道を開く 2. [CrCyclam(CC-Ph)2][Ni(mdt)2](H2O) [CrCyclam(CC-Ph)2][Ni(mdt)2](H2O)の構造 フェリ鎖のスタッキング c r3 b r2 a r1 r2(NH-O): 2.94 Å, r3(NH-O): 3.21 Å 水分子を介した鎖間相互作用 水分子の位置のdisorder r1(NH-S): 3.790 Å (b-a) 軸方向に伸びるフェリ鎖 磁気測定 2.5 Experimental Single Chain 2.3 1.8K 3.3K 4K 2 2.1 M / B T / emu K mol-1 2.5 1.9 1.5 0.2 0.1 1 0 B = 50 mT 1.7 1.5 0.5 -0.1 鎖内: 2J = -5.7 K 0 20 40 60 80 100 T/K -0.2 -0.04 -0.02 0 0 1 2 3 4 0 0.02 5 B/T ・鎖間相互作用の弱いフェリ鎖 ・低温で小さな自発磁化(0.01[email protected], 0.12 [email protected] ) → 弱強磁性体 6 0.04 7 FC-ZFC,交流磁化率 ' / emu mol-1 8 0.15 FC (1 mT) ZFC M / B 0.1 3 Hz 10 Hz 30 Hz 100 Hz 6 4 BAC = 0.35 mT 2 '' / emu mol-1 0 B = 1 mT 0.05 3 2 1 0 1.5 2 2.5 3 T/K 3.5 4 4.5 0 1.5 2 2.5 3 T/K ・3.7 K前後で転移 ・2.9 K前後でもう一段階の変化 3.5 4 4.5 磁化過程の温度依存性 0.15 1.8 K 2.0 K 2.2 K 2.4 K 2.6 K 2.8 K 0.1 3.0 K 3.2 K 3.4 K 3.6 K 3.8 K M / B 0.05 0 -0.05 -0.1 -0.15 -15 -10 -5 0 5 10 15 B / mT ・3.7 > T > 2.8 K : 残留磁化増大,保磁力はほぼ一定 ・2.8 K > T : 第二の転移以下で保磁力が顕著に増大 (転移の詳細の解明は今後の課題) 弱強磁性の起源 通常,弱強磁性の起源としては ・Dzyaloshinsky–Moriya相互作用 ・相互作用のフラストレーション ・スピンの配向における異方性 などが考えられる. 本物質の磁気構造 単位格子には1分子しかいない 単純な磁気構造 → フラストレーションはない Dzyaloshinsky–Moriya相互作用は存在しうるか? ・反転対称が存在すると相互作用は生じない ・結晶全体ではP-1であり隣接するカチオン間に反転対称 ・局所的には水分子が一方のサイトのみを占有(対称性が破れる) Dzyaloshinsky–Moriya相互作用が許容に → 弱強磁性の発現 まとめ 遷移金属アセチリド錯体を用いた磁性体を構築 今後の新たな物質群の開発へ繋がる ・[CrCyclam(CC-3-Thiophene)2][Ni(mdt)2] アセチリド系初のフェリ磁性体(Tc = 2.3 K) ・[CrCyclam(CC-Ph)2][Ni(mdt)2](H2O) アセチリド系初の弱強磁性体(TN = 3.7 K) 保磁力のほとんど無い弱強磁性体 2.9 Kでもう一度転移 保磁力の急激な上昇 転移の詳細は現時点では不明 弱強磁性の起源は局所的な対称性の破れか? 今後の課題 ・ [CrCyclam(CC-Ph)2][Ni(mdt)2](H2O)における 二段階の転移の解明 ・アセチリド錯体としての特徴を生かした物質の開発 アセチリド部位を使った光学特性 アセチリド部位での分子間磁気相互作用
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