H25年度向け概算要求資料

大型計画 HL-LHC
の論点
2012年11月29日
素核研運営会議
徳宿克夫
なぜHL-LHCか?
• LHCは今後10年以上にわたって唯一
のEnergy Frontier加速器
• LHCの衝突点収束系磁石と、実験の
Inner trackerは300-500fb-1のデータ
収集後、放射能損傷によって寿命を迎
える。(2020年代前半)
日本が貢献したビーム収束磁石
– 積分ルミノシティ1000-3000fb-1の物理を
やるにはupgradeが必要。
• どうせなら3000fb-1を目指そう。クラブ
空洞を入れて5x1034cm-2s-1での
luminosity leveling による運転。(実験
グループにとっても闇雲にLumiを上げ
るよりは楽: それでもNint =100)
アトラス測定器の模式図
2008年に測定器が完成し2009
年から衝突実験が始まってい
る。
– この環境でも、現在以上のパフォーマンスを持つ測
定器がほしい。
2
1000-3000fb-1の物理
• Higgsの精密測定
• もし2015年からの13TeVランでBSM新粒子が発
見されれば、
– その性質測定、さらなる探査
• 発見されなければ
– Kinematic limitギリギリまでの探索。
陽子PDF
→ 高いエネルギーのパートンは非常に少ない
→ 高統計が必要
Higgsの精密測定
(非常にconservativeな見積)
• κγ/κZ tested at 2%
• gg loop (BSM) κt/κg at 7-12%
• 2nd generation ferm. κμ/κZ at 8%
4
Higgsの精密測定
H→μμ
H→γγ
Universal KV、KF noBSMの仮定なら
5
BSM
HL-LHC リーチ
– 3TeV squarks 2.5TeV gluinos
– 300fb-1よりも 400 GeV 進める
6
何をやるか基本的な考え方
• 加速器
– とりあえずKEKが貢献出来るところをやる(今回の見積)
– ただし、HL-LHCに対する日本のシェア等を考えるとそれ以上の貢献が求めら
れる可能性もある。(例えば日本企業の優れた製品をIn kind供給とか →
今後の議論だが早めに固める必要があるか?
• 測定器
– これまで責任をもっていたところはきちんと責任を持つ (Muon Trigger、
Silicon Strip)
– 技術的な興味と日本の得意分野での貢献 (Pixel)
– 小規模だがさらなる拡張(CAL/Track Trigger)
– ATLASでは、建設当時のシェア程度の貢献を求められるので、必要な金額は
既にほぼ決まっている。
• 計算機
– HL-LHCにというよりは、恒常的にアップグレードが必要なので、大型計画には
加えない。(つまり、東大のTier2関連はとりあえず含めない)
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計画表
2013
2014
2015
補修
LHC運転
2016
2018
13-14TeV運転
補修
建設
設置
前段加速器整備
2019
2020
2021
加速器建設
設置
建設
設置
技術協力
クラブ空洞
設計・開発
飛跡検出器
部分設置
建設
2024
2025
2026
2027
2028
2029
2030
設置
設置
建設
設計・開発
その他のトリガー
2023
測定器建設
建設
設計・開発
ミューオン
2022
補修
14TeV運転
設計・開発
収束磁石
HL-LHC運転
2017
2031
設置
2032
実験遂行(3年に1度ぐらいで長期補修がある見込み)
10年間で積分ルミノシティ3000fb-1をめざす。
8
*
(運転経費2億円/年 程度 )
*現在通り、加速器の運転経費を払わないと仮定
HL-LHC加速器への貢献(1)(磁石)
LHC建設の際に日米で協力開発・建設した衝突点最終収束部の磁石を交換し、
より大口径でより耐放射線の高いシステムとして、高輝度化に対応する。
以下のような開発研究が進行しており、この計画ではD1磁石を日本が担当すると
想定して算出している。
•
EC FP7-HiLumi LHCへKEKは公式に参加(2011~2015)
– 加速器のビーム光学、磁石、クラブ空洞、その他の概念設計、基礎開発
•
KEKの開発分担(磁石):ビーム分離用大口径超伝導双極磁石(D1)
•
D1の仕様、開発要素
– 6T級+大口径(φ130~150)+外径の制限
→ コイル応力、磁場精度(鉄の飽和、漏れ磁場)
– 大量の放射線、入熱(1022n/m2, 数10MGy,~100W)@3000fb-1
→ 耐放射線性材料の開発・評価、冷却・除熱性能の向上
– NbTi超伝導線が最有力(バックアップNb3Sn)
•
頭脳循環プログラム(代表・徳宿教授)により徐が2011年3月からCERNで概念設計
を開始。
ATLAS、CMSのビーム最
終収束部を交換
衝突点
D1: KEK
Q1-3:
US-LARP(Nb3Sn) or
CERN(NbTi)
D2: BNL
Q4-6:
CEA/Saclay
現行LHCビーム最終収束部磁石配置とHL-LHCでの磁石開発分担
現在検討中のD1磁石断面
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HL-LHC加速器への貢献(2)(PSB空洞用アンプ)
J-PARCで開発した金属磁性体合金を使った高周波加速空洞は、ルミノシティ向上を目指すためのLHC入射器
アップグレード計画の一環として、LHCにビームを入射するための前段加速器で採用されることとなった。特に
最初の円形加速器であるPSブースター(PSB)の改造の中心項目となっている。試作した空洞がすでにリング
に設置され、ビームを使った最終確認試験が進んでいる。J-PARCでの経験を活かした空洞技術協力とともに、
高周波用の低故障率で高出力半導体アンプの開発供与を行う。
金属磁性体空洞の中身。5つの空洞で
構成され、各空洞に2枚ずつ磁性体リン
グコアが装填されている
設置直前の5連空洞とアンプ5台(手前)。今回
の概算要求では4階建てのリングに必要な数の
半分にあたるアンプ40台製造する。残りはセル
ン側で制作する。
PSBリング4(4台のリングのうちの最上段)に
設置された金属磁性体空洞。既に実際の
ビームを使った加速試験、ビーム負荷試験
が進行している。
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HL-LHC加速器への貢献(3)(クラブ空洞)
瞬間輝度を常に最大にすることを目指すのではなく、輝度を一定期間一定に保つことができれば、実
験の条件を一定にしたうえでビームの寿命を長くすることができ、積分のルミノシティを多くできることが
わかっている。日本がKEKB加速器で実用化したクラブ空洞により、衝突時のビームの衝突時の角度
を変えることで、瞬間輝度を制御する。どれだけ貢献するかは今後の議論によるが、日本が実機制作
に関与する可能性は低い。KEKBでの経験をもとに、表面処理、KEKの施設を使った低温での空洞
試験など技術協力を検討中。さらに、シミュレーションによるビーム軌道安定性の研究等での協力も検
討する。
KEKの加速空洞用の電解研磨装置
クラブ空洞を使ってバンチの向きを変えること
により衝突輝度を上げることができる。LHCで
は、ビーム強度が少なくなったときに角度をつ
けていくことで、ルミノシティーを長時間一定
に保ち、積分ルミノシティを高くできる。
KEKB用のクラブ空洞
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アトラス実験(1) 内部飛跡検出器の総入替
HL-LHCでは、瞬間輝度は5×1034cm-1s-1となり、一度のバンチ衝突では100以上の陽子・陽子衝突が
重なり、大量の粒子が発生する。精密測定を進めるためには、このような状況でもそれぞれの衝突を
分離でき、個々の荷電粒子の運動量を精度よく測れるように、現在のアトラスの飛跡検出器の総入替
を行う。すべてをシリコン検出器にし、ストリップ型及びピクセル型の検出器をそれぞれ160m2、6m2と
いう大規模な延べ面積分製作する必要がある。日本グループは、これまでアトラス実験の中でSCT,I
BLという半導体検出器を担当してきた実績を活かして、ストリップ型、ピクセル型の両方の製作に貢
献する。
すでに、ストリップ型、ピクセル型ともに、プロトタイプ開発を進めており、高耐放射線のシリコンセン
サーの製作には目途がついている。最初の数年で、読み出しのASICを接続したシステムテストを続け、
2016年から約5年かけて実機の製作に入る。2011年に完成させて宇宙線等でのテストをしたうえで、
2012年にアトラス実験装置の内部に組み込む。
ピクセル検出器
飛跡検出器のレイアウト案
(外側がストリップ型検出器)
ストリップ型検出器の試作機
後方は8モジュールを組合せたテスト機
10cm
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HL-LHCでの事象シミュレーション。115事象が重なっている
アトラス実験(2) ミューオントリガーシステムの改良
日本グループはアトラス測定器の端部ミューオンシステムをイスラエル・中国とともに建設し、それをも
とにミューオントリガーシステムを構築した。
HL-LHCの高ルミノシティ環境では、衝突からくるミューオンが増加するので、より高運動量分解能を
持ったトリガーシステムが必要となる。また、反応粒子数の増加とともに偽のトリガーが出る頻度を極
力抑える必要がある。
このために新たに内部に設置するミューオン検出器を取り込んで総合的にミューオン粒子の有無を判
断するトリガーシステムを開発する。2018年のLHC改造期に合わせて、まずこの総合システムを導入し
て、偽のトリガーの頻度を押さえる。
その後、より位置分解能の高いミューオン測定器[ドリフトチューブ型測定器(MDT)]の情報を取り込
んだシステムを構築し運動量分解能の改善を図り、2022年に設置する。
Inner MDT
Middle MDT
(BW)
Outer
MDT
m
高分解能のミューオン検出器を総
合したトリガーシステムの概念図
2018年に交換する内部ミューオン
検出器
日本グループが建設したトリガー用
の端部ミューオン測定器
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アトラス実験(3) 後段トリガーの整備
ミューオントリガーで収集されたデータをそのまま記録するにはまだ事象頻度が高すぎる(約数10kHz)
ため、他の測定器の情報も使って、収集したデータを精査し、偽のミューオンや運動量を間違って見積
もってしまったミューオンなどを排除して、記録可能な頻度(約1kHz)まで落とす。これが後段トリガー
の役割である。
これには、大規模なネットワークと計算機を配備したコンピュータファームによる方法と、特殊なハード
ウェア計算機システムによる方法との2通りが考えられ、現在のアトラス実験でも両方を混用して使っ
ている。特殊なハードウェアの例としては、現在早稲田大学が中心になって行っている、内部飛跡検
出器を使ったトラッキング専用システムなどがある。
アップグレードにおいても、両方の手法が議論されており、ミューオンのトリガーに関して言えば、内部
飛跡検出器とのマッチングやカロリメータとのマッチングなどを検討している。
ハードウェア開発は、プロトタイプを2018年のLHC改造期に合わせて部分的に導入し、性能を確認した
うえで、2022年に設置する。計算機ファームは、設計と小規模システムでテストした後、実験開始の二
年前の2021-2022年に一気に導入設置をすることで、その時点での最新の計算機を使えるようにす
る。どちらにウェイトを置くかは今後数年間の開発研究によって決まる。
高分内部飛跡検出器の情報からトラックの情報を取り出す専
用ハードウェアの開発基板
カロリメータトリガーの専用ハードウェアの模式図。この後に
ミューオンの情報とカロリメータの情報を組合せる回路をおく
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可能性を検討する。
年次計画
年度
2013
2014
2015
2016
2017
2018
2019
2020
2021
2022
10年積算
(千円)
LHC収束磁石
82,800
69,600
18,000
526,080
376,720
706,960
646,960
347,960
297,640
259,480
3,332,200
0
0
6,000
48,000
48,000
24,000
0
0
0
0
126,000
クラブ空洞等(HL-LHC)
12,000
12,000
12,000
12,000
12,000
12,000
12,000
12,000
12,000
12,000
120,000
シリコン検出器入替
62,000
83,000
62,000
329,000
329,000
493,000
329,000
165,000
10,000
20,000
1,882,000
5,000
10,000
15,000
21,000
38,000
288,000
196,000
705,000
213,000
13,000
1,504,000
0
0
10,000
10,000
70,000
50,000
10,000
10,000
200,000
200,000
560,000
アップグレード小計
161,800
174,600
123,000
946,080
873,720
1,573,960
1,193,960
1,239,960
732,640
504,480
7,524,200
アトラス実験運転
200,000
200,000
200,000
200,000
200,000
200,000
200,000
200,000
200,000
200,000
2,000,000
LHC全体
361,800
374,600
323,000
1,146,080
1,073,720
1,773,960
1,393,960
1,439,960
932,640
704,480
9,524,200
PSB空洞アンプ
ミューオントリガー改造
後段トリガー改造
アップグレードための加速器・測定器建設と並行して、現在のLHCでの実験が並行して進む。この分
に必要な経費は年間2億間であるので、それを最後の欄の「アトラス実験運転」で示してある。
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参考資料:LHCとその前段入射加速器
LHC
ATLAS実験
設置場所
SPS
PSブースター
PS
LINAC4 建設中(2018年)
使用開始
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参考資料: LHC/ATLAS 改造総額
年
2013
2014
2015
2016
2017
2018
2019
2020
2021
2022
2023
11年積算
(百万スイスフラン)
LHC Injector Upgrade
15
23
28
28
41
33
7
LHC Performance improving
consolidation
15
17
22
30
41
44
44
49
76
76
47
461
0
15
22
40
50
50
51
50
41
30
11
360
LHC Performance upgrade (HLLHC)
加速器全体
ALTAS upgrade
175
996
アトラスのアップグレード予算の全体の年次計画はまだできていない。
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注: 加速器の建設・改造経費に関してはまだCERNは公開しておらず、
内部文書を基に作成。今後大きく変わる可能性がある。
LHC Peformance improving consolidation と Performance upgradeの区別は
あまり明確に公表されていないが、収束磁石は前者、クラブ空洞は後者に
該当すると考えられる。
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