成人の肺炎球菌ワクチンが 2 種類になりました 我が国の超高齢社会の進行に伴って、肺炎は悪性新生物、心疾患に次いで死因の第 3 位 になり、特に高齢者は感冒やインフルエンザなどのウイルス感染症の罹患後に肺炎球菌性 肺炎にかかりやすく、重症化しやすいです1)。そこで口腔ケアや手洗いの励行などの日常生 活上の予防に加えて、誤嚥対策、インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチン接種による 予防が重要となります2)。今回、新しく成人にもプレベナー13 ワクチンが使用可能になり ましたので考察してみます。 最初に使用された肺炎球菌のワクチンは、ニューモバックスで、アメリカで 1983 年に承 認され、日本では 1988 年に使用可能になりました。このニューモバックスは、23 価肺炎 球菌莢膜ポリサッカライドワクチンで略して PPSV23 と略記されます(pneumococcal polysaccharide vaccine の略で PPV とも言われます)。肺炎球菌は莢膜に包まれており、そ の成分により、90 種類以上の莢膜型に分類されています。その型によってどのような病気 になり易いかが概ね決まります。また、大人に病気を起こし易い型もあり、 逆に子供に病 気を起こし易い型もあります。また日本で流行しやすい型と、海外で流行しやすい型など もあります。ニューモバック(PPSV23)は、そのうち肺炎や髄膜炎などの原因になり易い、 23 の莢膜型を選んで、ワクチンとしたものです。その型を順番に並べると、1、2、3、4、 5、6B、7F、8、9N、9V、10A、11A、12F、14、15B、17F、18C、19A、19F、20、22F、 23F、33F です。基本的にはこの 23 種の型に対して、ニューモバックスを一本打てば、成 人における肺炎球菌の85%をカバーでき、無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験の報 告では,PPSV を接種することによる肺炎球菌性肺炎および全肺炎の発症抑制効果が示さ れ、さらに肺炎球菌性肺炎による死亡もプラセボ群の 35.1%に対し PPSV 接種群は 0%で あり、死亡率抑制効果にも有用であることが示されています1)。 このワクチンの適応は、2 歳以上とされています。 その理由は、PPSV ワクチンは蛋白質を抗原としていないため T 細胞というリンパ球に よる免疫は活性化せず、IgG 抗体という液性免疫を上昇させる効果しかありません。従って、 肺炎球菌に対する抗体が減少した時点で、ワクチンの効果が消失し、ブースター効果もな いため 2 回目を接種しても効果が強くなったり持続期間が長くなったりしないのです。ま た血清にのみ抗体が存在するので血流の悪い、中耳炎や咽頭炎、副鼻腔炎などへの予防効 果はありません。2 歳未満の子供では、免疫系が未成熟で、血清のみに抵抗力があっても実 際の感染症での局所の抵抗力が弱く、PPSV は 2 歳未満の予防効果はないとされています。 それに対して、2000 年にアメリカで認可され使用が始まったのが、プレベナーというワ クチンです。このワクチンは莢膜のポリサッカライドに、人工的に無毒性変異ジフテリア 毒素という蛋白をくっつけて製造されています。このため、このワクチンは、T細胞にも 認識され、通常のワクチンと同じように、ブースター効果も持つことが推定されます。 更には粘膜の免疫を、 誘導する作用も確認されています。このワクチンを肺炎球菌結合 型ワクチン( pneumococcal conjugate vaccine, PCV )、と言います。このワクチンを打つ と粘膜にも抵抗力が出来るので、その有効な型の肺炎球菌は、鼻や咽喉の粘膜に定着する ことが出来ません。つまり、PPSV とは異なり、感染自体を予防する効果があるのです。 PCV は当初 7 種類の型( PCV7 )で作られ後に 13 種類の型( PCV13 )に増やされました。 PPSV に含まれている型のうち、13 種類を選択して作られたものです。PCV は 2010 年に 日本でも乳幼児専用の肺炎球菌ワクチンとして接種開始され現在も続けられています。 PCV の抗体誘導効果は 2~6 ヶ月齢の小児にも強く認められており、ブースター効果も証明 されています 3)。また肺炎球菌による侵襲性感染症は、IPD ( invasivepneumococcal disease)と略され、肺炎球菌が身体の内部まで侵入する重篤な感染症のことです。PCV13 は優れた免疫原性で小児の IPD を著明に減少させる効果も証明されており3)、その効果は 実証済みです。安全性について 2011 年 3 月、ヒブワクチンや PCV7 の同時接種後の死亡 症例報告を受けて、これらワクチンの接種一時的見合わせをするという事例がありました がその後因果関係は否定されており安全なワクチンとされています。このような優秀なワ クチンであり世界 120 ヶ国以上で承認されています。しかし、日本では成人での PCV は認 められておらず PPSV のみが承認されていました。 PCV の成人に対する効果はどうでしょうか?米国と欧州で行われた2つの多施設無作為 研究で、PCV13 と PPV23 の免疫能のある成人に対する単回接種による免疫原性が比較さ れ、PCV13 のほうが優れた結果が示されました4)。これを受けて米国では 2011 年 12 月、 50 歳以上の成人の肺炎および IPD 予防に対して PCV は承認されました。 これらの外国の趨勢をうけて日本でも成人の肺炎球菌ワクチンとしてプレベナー 13( PCV13 ) が 2014 年 6 月に承認されました。 効果という点で見れば、PPSV より PCV13 の方が、よりその予防効果は高いと考えられ、 副作用も同等なので今後、PPSV は使用されず PCV13 に置き換わっていくものと予想され ます。ただ、PPSV の値段が当院では 7500 円前後なのに対して、PCV が 10500 円前後と やや高価になる点と、PPSV がやや重篤な副作用が少ないという報告もあり、両者をうまく 使い分けれたら良いかと思います。 プレベナー13 の接種は乳幼児は皮下注ですが、成人には上腕三角筋への筋注です。 平成26年7月15日 参考文献 1 ) 門田 淳一:特集 感染症 ―肺炎―予防―肺炎の発症を予防するための総合的ストラ テジーは?-日呼吸会誌 2013 ; 2 ; 703 – 707 . 2)新型インフルエンザ感染症と肺炎球菌ワクチン http://www.nobuokakai.ecnet.jp/5063.html 3)中野 貴司:肺炎球菌予防戦略の展開~結合型ワクチンの中耳炎予防効果は . 小児耳 2011 ; 32 ; 297 – 304 . 4)Use of 13-Valent Pneumococcal Conjugate Vaccine and 23-Valent Pneumococcal Polysaccharide Vaccine for Adults with Immunocompromising Conditions: Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP). CDC MMWR . 2012 ; 61 ; 816-819 .
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