Journal Article / 学術雑誌論文 イネ縞葉枯病の流行機構 Epidemiology of rice stripe disease 岸本, 良一; 山田, 佳廣; 岡田, 斉夫; 松井, 正春; 伊藤, 清光 Kisimoto, Ryoichi; Yamada, Yoshihiro; Okada, Muneo; Matsui, Masaharu; Ito, Kiyomitsu 植物防疫. 1985, 39(11), p. 531-537. http://hdl.handle.net/10076/11189 イ ネ 縞 葉 枯 病 5 31 の 流 行 機 構 イ ネ 縞 葉 枯 病 の 流 行 機 構 三重大学農学部昆虫学研究室 は りようい ち 良一 ・山田 佳虞 おか だ むね お 岡田 斉夫 ・松井 農林水産省農業研究センター まつ い まさはる やま だ きしもと 岸本 よ しひろ い とう きよみつ 正春 ・伊藤 清光 下旬に定植す る型)が 1 96 0年 ごろか ら導入 され, これ じ め に も数年をいでず して RSV の大流行を引き起 こした。 こ イネ縞菓枯病 ( RSV)はすでに前世紀の末 ごろか ら群 の場合はムギの上で生育 した ヒメ トビウソカ第-世代虫 局,栃木,長野の各県で発生 した と報告 されている ( 天 が周辺にモザイク状に散在す る早植え田へ侵入す ること 野, 1 93 3 )。栃木県における RSV の流行のようすを示 を容易に した ことが主要因 と考え られ る. ここで注 目す す一例 として,天野 ( 1 93 3) は次のように述べている。 1 9 5 9-6 0年)に べ きことは早植えされた面積は最盛期 ( 1 92 6年には数 1 0aで初めて問題にな り,翌年にはその おいてもわずかに全水田の 5-6% に過ぎなか ったこと 周辺の町村の lha に拡大 し,1 92 8年には 4郡にわたる で,早植え栽培は RSV 流行に よって 急速に 衰退 した 55ha, 1 92 9年には全県下で 2万 ha に発生 した。全耕 が,普通植え田における流行はその後 1 0数年続いた。 作地の 2 8% に発生 し,5 0% 減収田は 2, 2 69ha ( 3%) これは広域地帯 にわたる RSV の密度が 一度高 くなる に達 した。 しか し,翌年には発生地は拡大 したが,被害 と,作型を変えても急速には下が らない ことを示 してい の程度は減少 した とい う。 る。 栗林 ( 1 931 ) は RSV が ヒメ トビウンカに よって媒介 このように RSV の発生は単にその年の気象条件 とか され ることを明 らかに し,本病が北は福島,山形か ら, 栽培条件に よって増減す るのではな く,かな り長期的な 南は愛媛,高知 まで,広 く発生 していることを示 した。 変動の波があるように思われ, この波を描 まえる指標 と して媒介虫であるヒメ トビウソカ個体群の中の ウイルス これ以降,何回かの流行を繰 り返 して今 日に至 ってい るが,中でも目だ った ものとしては岡山県における1 94 9 保有個体の比率,いわゆる保毒虫率 (この言葉はあまり 山田 ・山本, 1 9 5 5 ),四国,九 -53年にかけての流行 ( 適当とは思われないが,広 く使われてお り,簡単である 州にまたがる 1 9 5 0年代末か ら以降 1 0数年にわたる大 ので当面用いる. ことにす る)を追跡す ることとした。 自 流行が挙げ られ よう。岡山県児島郡における流行では, 然界におけるイネ縞葉枯 ウイルスそのものの絶対量は発 いわゆる麦聞直拝が きっかけ とな り,それ以前には散発 病 イネ体量の多い出穂期が もっとも多いと考 え られ る 94 9,50年には 的にしか認め られなか った RSV が 1 が, これはイネの収穫,枯死 とともに急減 してほとんど 1 00ha にわた って 5-2 0% の減収を引き起 こす発生 と ゼ ロになるであろ う。 これに対 して ヒメ トビウソカ個体 なった。麦聞直播に よって, ムギの上で生育 しているヒ 群内における保毒虫率はその率の変動機構を知 ることが メ トビウンカは容易に若いイネ-移 ることができ, これ できれば,特殊 な場合,例えば保毒虫の大量飛来を除け が,それ まで低い密度で推移 してきたいわば ウイルス濃 ば,その地域のウイルス濃度を示す碍標 としてはもっと も適当なものと考えられ る。 度を高めた ものと考え られ る。 1 9 52-53年 に 麦聞直播 が衰退す るとともに,RSV の流行 も急速に収 まった。 Ⅰ イネ縞葉枯病の発生程度を支配する要因 西 日本各地における RSV の流行はその規模はさらに 大 きか った。いわゆる早期栽培 ( 早生品種を 4月下旬か RSV の発病はイネが感受性を持つ期間中に 1回以上 ら 5月上旬に定植す る型)紘,1 953年 ごろか ら始 まった の有効なウイルス接種吸汁を受けた場合に起 こる。 1本 が,数年後には ツマ グロヨコバ イが媒介す るイネ萎縮病 のイネに対す る接種吸汁の回数は保毒虫の密度に比例す の流行を引き起 こした。 これは越冬世代のツマ グロヨコ ると考え られ,普通品種では,保毒虫密度の増加に従 っ バ イの本 田への侵入を容易に した ことが主要因 と考え ら て発病率は 1 00% に接近す る飽和曲線で表 さ れ る。例 れ る。続いていわゆる早植え栽培 ( 普通品種を 5月中 ・ えば善通寺市 ( 1 96 4-66年),筑後市 ( 1 967 -6 9年), Epi de mi ol ogyofRi ceSt r i peDi s e a s e. ByRyoi t i KI S I MOTO, Yos hi hi r o YAMAI ) A, Mune o OKAI ) A, Ma s a ha r uMATS UIandKi yomi t s uI TO - 鴻巣市 ( 1 97 4-82年)における 無防除の試験は場 にお ける感受性期間 ( 田植え後 3 0 日間)中に黄色水盤に入 った雌成虫数 と保毒虫率 との横,つまり保毒雌成虫数 と 2 9- 5 3 2 植 物 ・防 疫 第 3 9巻 第 1 1号 ( 1 9 8 5 年) いが, RSV 発病には強い抵抗性を示す とい わ れ て い る。 したが って これ らの品種 の上では無毒の ヒメ トビウ ソカが吸汁に よって保毒虫になる可能性は非常に低い こ とになる。以下においては,普通の水稲品種は大体 同程 度に高い感受性を持つ と考 えて論議を進める こ と に す る。 Ⅱ 各地における保青虫率の実態 第 1図 各地におけるヒメ トビウソカ保毒虫密度 ( 普 色水盤による田植え後 1か月間の総捕獲雌数 ×保毒虫率) と発病指数の間に見 られ る飽和 曲線 Z: 善通寺, 1 9 6-6 6 年,Ch:筑後, 1 9 6 7 -6 9 4 年, K :鴻巣, 1 9 7 4 -8 2 年,いずれ も総捕獲数 が3 0個体以上 の場合だけを計算の対象 とした・ 筆者 らが野外における保毒虫率を系統的に調査 し始め 9 6 4年か らで,その うち主要なものを第 1表に たのは 1 示 した。 9 6 4年は RSV の流行の最盛期 もしく 善通寺市では 1 はやや ピークを過 ぎた時期であ ったが,無防除の早植え 0 0%に近か った。その後, 田での発病指数はほ とんど 1 保毒虫率は しだいに低下の傾向を示 したが,数年間は終 , そのほ場の 発病指数 ( 各棟の発病茎率の 程度を 0, 1 息には至 らなか った。筑後市において調査は継続 された 2 ,3に分類 し,調査全株 3の場合を指数 1 0 0 とす る) 9 6 7年には 保毒虫率は 7 % 台で が,調査の 始 まった 1 との関係を示す と第 1図の よ うであった。 あって,早植え田での発病指数はまだ相当高か った。そ 保毒虫数 ( X) と発病指数 ( Y%) の 関係式 Y-l o o [ 1-e xp(-aX)] の係数 aは調査地点間でかな り違 って の後,保毒虫率は急速に低下 し, ネ ッ トトラップや黄色 水盤に よって調査 された ヒメ トビウソカの密 度 も低 下 いる。 ここでは雌成虫だけを用いた こと (これは雄成虫 し,RSV の発生 もほ とん ど終息 し,早植え田で も発病 の伝染能力が非常に低い こと,黄色水盤や読み取 り法で はほ とん ど見 られな くなった。その後 1 9 8 0-8 3年 の調 は性比が 1:1にな らない ことが多い ことを考慮 してと 査ではネ ッ トトラップに よるヒメ トビウソカの発生密度 りあえず雌だけを使 った),飛来虫の産んだ次世代虫 も発 6 0-1 , 5 0 0に回復 したが ( 平尾,私信),保毒虫率は は 2 病に関連す る可能性があ り,その程度は地域に よって異 1 -2 % の低率 で,RSV の発生 もほ とんど問題 ない とい 9 8 2 -8 3年調査 した結果,保毒 う。善通寺市の周辺で 1 虫率は 4 -7 % で発病はほ とんど問題にな らなか った。 1 9 6 8年に九州全域の 1 0 3地点 より越冬世代虫を採集 なる可能性があること, また気温や イネの生育条件など も地域に よって異なるので, これ らが組み合わ されて生 じた もの と思われ る。 発病程度は飛来侵入す る保毒虫密度 と一定の関数関係 して保毒虫率を検定 し,その後の RSV の発病株率を追 にあるが, この保毒虫密度は ヒメ トビウソカの発生密度 跡 した ところ, 第 2 国の よ うな 結果 となった ( 岸本, と保毒虫率 との環であ り,両者はお互いに独立に変動す 1 9 6 9 ) 。 ヒメ トビウソカの 発生密度の 調査がないので, るもの と考 え られ る。 しか し,RSV の流行を長期的に 保毒虫密度 と発病程度の間の関数関係は得 られないが, とらえると, ヒメ トビウソカが相当発生す る年や地域で 0% を超える地 経済的被害水準 と考え られ る発病株率 1 も RSV はあま り発生 しない ことがあ り, この場合には 帯では,保毒虫率は 5 -6 % 以上であると考え られた。 保毒虫率は非常に低い と考え られ るのに対 し, ヒメ トビ つ ま り, これ以上の保毒虫率を示す地帯では流行の危険 ウソカの発生が少ないのに保毒虫率が高 くて RSV の発 性があると考えてもよい といえよ う。 生が多い とい う例はあま りあ りそ うにな い。 し た が っ 1 9 7 7 -7 8年に関東中北部各地で同様な調査を したが, て,独立に変動す るといっても,保毒虫率の変動の基礎 第 3図に示 した よ うに被害の限界は 8 -1 0 % と考 え ら 条件の一つに ヒメ トビウソカの発生密度があるといえよ れ る。 9 6 8年,留萌 北海道で初めて RSV が発生 したのは 1 う。 さらに流行を支配す る要田 として重要な ものは, イネ 管内小平町であ ったが,その後上川管内では 1 9 7 0年以 品種の RSV に対す る感受性である。例 えば,関東地方 降増大 し, 1 9 7 7 -7 8年には作付面積の 4 0% 近 くに発生 に見 られ る陸稲では ヒメ トビウソカの発生は多いが,発 す るよ うになった。 1 9 8 2 -8 4年には減少 し,2 0 % にな 掛 ま例外的に しか見 られず, また近年導入された水稲の -2 0%)以上の発生面積 っている。中程度 ( 発病株率 6 RSV 抵抗性品種 もヒメ トビウソカの発生には影響 しな 9 7 8年には 1 4 % に達 した。 1 9 7 6 -7 7年 の 越冬世 は 1 - 30- イ 第 1表 ネ 縞 葉 枯 病 の 流 行 機 533 構 善通寺市 ,筑 後市 にお け る各年 次 の保毒 虫率, ヒメ トビウン カ発生 量 と無 防除 田にお け る発病 程度 班 雌 雄 雌 保毒 虫率 は第 -位 代 虫, ネ ッ トトラ ップは 6月未 まで の合計,黄 色水盤 虫は 田植 え後 3 0 日間の合計, a):2区平 均, b): 3区平均, ¢):極 低率 ● ●o o ● 0 ● 00 0 ●o O ● ●0 関東北部 1 977-7 8年 発 病 株 率 第一世代 00 ( %) ●越冬世代 1 0● 実質的に無発病 5 第 3図 1 0 保毒虫率 ( 越冬世代 ) ( %) 第 2図 九州各地 にお け る越冬世 代 の保毒 虫率 とそ 1 968) の地 にお け る発病 抹率 ( 2 0 30 保毒虫率( %) 関東北 部各地 にお け る保毒 虫率 ( ● :越冬 節-世 代) とそ の地 にお け る発 世 代, ○ : 病 抹率 ( 1 977 -7 8) 1 982-85)0 いる ( 兵 庫農 総 セ ンター, 1 そ の他筆 者 が現地 に協 力 して行 った上記 以外 の各地 の 代 虫か ら保 毒 虫率 の検定 を始 めたが,す でに流行状態 に 2表 の とお りであ る。 RS V の発 0-2 0% に達 してお り,地 点 に よ 入 っていた地域 では 1 保 毒 虫率検定結 果 は第 っては 4 0% を超 えた。 1 97 9-80 年越冬世 代 以降保 毒 生 のほ とん ど問題 に な らない東北 ,北 陸 で も低 率 なが ら 0% 前後 を 変動 してい る とい う 虫 率 は 低 下 し, 現在 1 保 毒 虫 は存在 してい るが, この低 い保 毒虫 率が維持 され 00km 離 る機 構 は まだ 解析 され ていない. 陸地 か ら約 4 ( 上川 農試報告)0 兵 庫県 に おけ る赤血球 凝 集反応法 に よる保 毒 虫率 の検 れ た東 シナ海定 点 ( 1 2 6o E, 3lo N) ではつ ゆ末期 に ヒメ 982-83年 の越冬世 代 か らであ ったが,そ の年 の 定は 1 トビウソカが セ ジ pウソカ, トビイ pウソカに次い で多 秋 RS Vの多 発生 した地帯 で は 11-27% に達 し,す で 数採 集 され るが, そ の中に も保毒 虫が含 まれ てい る こと に流行 状態 に入 ってい る ことがわか った。 そ の後 現在 ま で RS V多 発生地帯 の保 毒 虫率 は高い レベ ルを維 持 して - が 明 らか に され た。 これ は RS Vの流行 を考 え る場 合非 KI S I MOTO, I1 9 81 )0 常 に示唆 に富む もめ と考 え られ る ( 31 53 4 植 第 物 防 昇3 9巻 疫 2表 各地の保毒虫率 第 1 1号 ( 1 98 5年) ば しているとい う調査結果は まだ知 られていない。 ヒメ 年 トビウソカの生育中の各種環境要田が,経卵保毒虫率に どの よ うな彪響を与 えるかについてはほ とん ど分析 され ていない。 吸汁獲得保毒虫率については,吸汁時間 と獲得保毒虫 巻 率 との間に飽和曲線の よ うな関数関係が実験的に得 られ 9 55;新海, 1 962;岸本, 1 967 ) てい る ( 山田 ・山本, 1 が,実験の行われた吸汁時間内では得 られた保毒虫率は 2 0-6 0% 程度で, 1 00% にはほ ど遠 いことが示 さ れ て い る。 この保毒虫にな らなか った個体が ウイルスとの親 和性が低いか らか ど うかは疑わ しく,む しろ各個体が一 定時間吸汁 して 獲得す る 確率は低 く, 生育期 間内 では 1 00% に達 しないため と考 えたほ うが よさそ うである。 親和性については保毒雌が産 んだ子世代虫の うちの無毒 虫の場合に もいえることで, この無毒虫は獲得吸汁す る 津 ことに よって十分保毒虫になることが示 された ( 岸本, 未発奉)0 NAKAS U J IandKI RI T ANI( 1 97 2 ) はイネ萎縮病発病 イ ネ体 の比率 と吸汁に よって獲得 した保毒虫率 との間に同 様 な飽和 曲線で示 され る関係があ ると報告 している。 イ 検定は,赤血球凝集反応法による. ネ縞葉枯病について も同様な関係が期待 され る。 Ⅲ RSV の流行と保青虫率の変動q) 機構 ヒメ トビウソカの各世代の保毒虫は,①経卵保毒虫率 と,②その世代 内での吸汁獲得保毒虫率の和 で あ る と RSV や イネ萎縮病 の流行を記述す るモデルについて し, さらに③吸汁獲得保毒虫率は発病程度 と関数関係に は,河野 ( 1 96 6),NAKAS U J Iand KI RI T ANI ( 1 97 2 ),村 あ り,発病程度は侵入保毒虫密度 と関数関係にあ ると考 松 ( 1 97 9) の報告があ るが,詳細は紙面のつ ご うで省略 える。 以上の過程をモデル式で表す と, したい。 Pn-vPn-1+( 1-vPn-1)[ 1-e xp( -mwH)]・ ・ ・ (1) ある地域 内におけ る ヒメ トビウソカの年間各世代の保 毒虫率の賓 動の模式図を示す と第 4図の とお りである。 となるdノPn は第 n世代 ( n-0, 1 ,2 ,・ ・ ・ ,5 )の保毒虫 あ る世代の保毒虫率は三つの部分か ら成 り立 っている。 率で,0 は越冬世代であ る ( 関東地方では 5は最終世代 第-は経卵保毒虫率で,第二は吸汁獲得保毒 虫 率 で あ る。第三は外部か ら飛来 した保毒虫であるが, ここでは 一応触れない ことにす る。経卵保毒虫率は保毒雌が産 ん V とヒメ トビウ だ子世代虫の うちの保毒虫の率で,RS 5% ( 山田 ・山本, 1 955 ) ・ , ソカの 組み 合わせでは 91. 97. 0-97. 5% ( 新海, 1 9 62 ), 93・ 8-94・ 0% ( 筑後系統, 0-98・ 4% ( 鴻巣系統,岸本, 未発 岸本,未発表),95・ 秦)で,い ままで知 られてい るウソカ, ヨコパ イ類に よ って媒介 され る植物 ウイルスの経卵伝染率の中では もっ 0世代以上系統選抜す る とも高い。 ヒメ1 ビウソカを 1 ことに よって経卵保毒虫率の高い系統,低い系統に分け KI S I MOTO, 1 9 67 ), ウイルスに変 ることがで きること ( 3 第 4図 異型があ って,経卵保毒虫率 も高い もの と低い ものがあ 5 6 7 8 9 1 0月 ヒメ トビウソカ, イネ縞葉枯病 の発生経過 と保毒虫率 の世代変化 の模式図 T :田植 え,H :収穫, M :移動, OW :越 冬, I F:累積発病率, Ⅴ :経卵保毒虫率, W :吸汁獲得保毒虫率 97 2)がわか ってい るが, .. 自然界におい ること ( 岸本, 1 てほ この よ う・ な要因が保毒虫率の変動に大 きな影響を及 - 4 ・ 3 2- イ ネ 縞 第 3表 葉 枯 病 の 流 行 機 構 5 35 鴻巣市周辺におけるイネ縞葉枯病の流行 1 9 82年以降は抵抗性品種が導入 されたので内容が異なる場合がある&). P。:越冬世代保毒虫率, Pl:同第一世代, Nn:ネットトラップ第一世代期捕獲虫数, Ac:埼玉県水稲作付面積 ( ha ),H( obs ):埼玉県におi するイネ縞葉枯病発生程度 ( 説明は本文), 1 9 82年以降のカッコは抵抗性品種導入率 1 9 82年以降,抵抗性品種導入後はそれ以前の 9年分の最尤推定値),H( 1 ):Pュ を ( 埼玉農試),W :吸汁獲得能率 ( 用いた発病程度の推定値,PB ( I ):Plを用いたその年の最終世代 ( 翌年の Po )の保毒虫率の推定値 (カッコの中の 値は経卵保毒虫率だけが働いた場合) は経卵保毒虫率,Hは最 え無防除田では発病指数は 2 0-5 0% でかな り高 か っ 終の発病程度で,m はある世代における発病程度の到達 た。7 4-7 5年 とヒメ トビウソカの発生は平年並み,発病 率で,普通作期 イネを対象に考える場合,越冬世代 と第 程度 も軽 く, 保毒虫率は しだいに低下 した。 特に 1 97 6 一世代では発病植物が実際上はない と考えて 0,第二世 年には ヒメ トビウソカの発生数が非常に低 く,発病 も少 つまり翌年の 0世代 となる)0 V 第4 代には 0. 5,第三,第四世代はそれぞれ 1とした ( な く,越冬世代の保毒虫率つま り 1 97 7年の P。ほ約 7 図)。 これは発生経過が違 う地域や作期 イネでは 適当に 97 7 %, さらに Plは 6% 台にまで低下 した。 しか し,1 変える必要がある。 この式の第 1項は過程①に相当し, 年の ヒメ トビウソカの発生密度はきわめて高 く,平年の 3倍程度に達 し,そのため,低保毒虫率なが ら,発病程 第 2項は⑧に相当す る。過程⑧は別のモデル H-1-e xp( -a NPl) ・ ・ --・ ・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ (2) )には保 度は高 くな り,その年の越冬世代 ( 1 97 8年 P。 ・ 毒虫率は 1 3% 近 くまで急上昇 した。1 97 8年 の ヒメ ト を用いる。Plは第一世代つ まり飛び込み世代 の 保毒虫 率, Nは ヒメ トビウソカの発生密度で,NPl は飛び込み ビウソカの発生数は前年 よりは少なか ったが,なお平年 保毒虫密度 とな り,aは吸汁伝染能率を示す係数である。 の 2倍程度であ り,保毒虫率が高か った こともあって, Ⅰ Ⅴ 鴻巣市周辺におけるイネ縞葉枯病の流行状 態とモデルの当てはめ 発病程度はさらに 高 く, 次いで 越冬世代の 保毒虫率は 2 0% 近 くまで上昇 した。1 97 9,8 0年は ヒメ トビウソカ の発生量は平年程度にまで下が ったが,高保毒虫率のた 1 97 3年以降,鴻巣市周辺約 4km の中で,越冬世代 め,発病程度は高か った。1 981年には第二世代虫 の 発 と第一世代の保毒虫率の調査を開始 した。保毒虫検定に 生が多 く,晩植田への侵入が 目だ って,発病程度はさら は赤血球凝集反応法を用い,越冬世代 に は 約 3 0個 体 に高 く,保毒虫率はついに 22% に達 した。 このような 秤,2 , 000-4, 000の休眠幼虫, 第一世代では 1 0枚の コ 状態の中で,1 982年以降抵抗性品種の導入が行われた。 ムギ畑か ら 2 , 000-3 , 000の成,幼虫を採集 した。第一 これ までの経過を前に述べたモデルに当て は め て み 世代虫の発生密度は地上約 1 8m に設置 したネ ットトラ た。 まず,越冬世代か ら第一世代にかけては植物体上に ップ ( 径 1m,長 さ 1・ 5m), 各作期 ごとの試験は場に は ウイルスは実際上存在 しない と考え, P。と Plの関 設置 した黄色水盤を用いて調査 した。その他各試験区で 係か ら野外における 経卵保毒虫率の 推定値 Ⅴ -0. 94 31 の第一世代侵入虫密度,発病程度を追跡調査 した。結果 を得た。 この値は飼育実験で得 られた ものに近いことが ?主要部を第 3表に示 した。 1 97 3年には保毒虫率は 1 0% 程度で 5月下旬 の 早植 わか った。 次に (2)式の aを求めるため,以下のデータを用い 33 --- 5 3 6 植 物 防 疫 第 3 9巻 第 1 1号 ( 1 98 5年) た。 N としてほネッ トトラップによる第-世代成虫期の た。最近はイネ作付面積の減少債向が大 きいのでこのよ うな取 り扱いをしたが, これが妥当か どうかは検討の必 要があろ う。発病程度は埼玉鼻試か ら出された年報の発 病程度別発生両帝か ら求めた。すなわち発生程度甚は発 病株率 6 0%,多を 3 5%,中を 1 2・ 5%,少を 2・ 5% と し,県下の平均発病株率を求め, Hとした。 H±1-e xp( -3. 56 86NPl) が得 られた。 ただ し,曲線は原点を通 るものとし,また 1 9 81年に 相当す る値はあまり他の年 とかけ離れているので除外 し た。前述のようにこの年には第二世代成虫の飛び込みが 多 く,そのため遅い作期のものにも発病が多か った と報 ヒメ-ビウンカ第 一世代ネ ッ-捕獲虫数7 稲作全面積( N) 描獲数を埼玉県全体のイネ作全面積で除 した 値 を 用 い 告 されている。 0 なお, 第一世代期間内の 最高株当た り読み取 り虫数 Nv, あるいは同期間内の黄色水盤描獲総数 Ny と調査 は場の発病指数 1 0 2 0 3 0 4 0 越冬世代保毒 虫率 ( Po) ( %) 第 5図 ( HB) との間にはそれぞれ HB-I-e sp( -1. 21 04Nv Pl) ・ 0 HB -1le XP( -007327NyPl) 越冬世代の保毒虫率 ( P。 ) と第-世代 ヒメ N) から年間の保毒 トビウンカ発生密度 ( 虫率の変動を推定する曲線群 CN 曲線は保毒虫率を変化 させない 「 臨界発 生密度曲線」で,これより上下に 2,4,6% そ れぞれ増加 もしくは減少させる曲線を等高線 状に示 してある.破線は抵抗性品種を 60% 導入 した場合の CN 曲線.また折線は各年次 ごとの P。とNの実測値をとり,年次順に結 んだもの( 白丸は抵抗性品種を導入 した年). の関係式が得 られた。 これ らは特定のは場の発病程度を 予測する場合に利用できよう。 ,V,H,m の観測値 (1)式に各年次 ごとの Po ,PS または推定値を代入 し, W の値を求めた。 1 97 3年に対 応す るWは P.か ら PS への減少が大 きす ぎて得 られな PS( 観測値)-Ps ( 推定値)]2を か った. この 9年間の [ ベルで CN 曲線の 周辺を変動 してお り, 低率安定の様 最小にする W の最尤推定値を計算 した結果, W-3・ 1 4 6 相であったが,77 ,7 8年 と ヒメ トビウソカの発生が多 とな り, 各年次 ごとの推定値の 単純平均 3・ 1 5 6に近か く,CN 曲線 よりず っと上のほ うに偏 ったため翌年-向 った。 けて保毒虫率は増加 した。 そ して 7 9-8 2年の問 は 1 8 (1), (2) 式にそれぞれ実測値,計算値を次々と代入 -2 0% の辺 りで, CN 曲線の近 くを変動 し,高率安定 す ることに より発病程度 H( I )( Plか らの推定値),PS の状態になった ことを示 している。なん らかの要因に よ ( 1 )( 翌年の P。で Plか らの推定値)を計算 し,第 3 り, ヒメ トビウソカの発生が少な くな り,CN 曲線 より 表に示 した。すでに述べた 1 981年を除いて,実測値 と 下のほ うに くれは,保毒虫率はしだいに減少す ることが 推定値はかな りよい一致を示 した。 期待 され る。同 じようなことは P。と発病程度について ヒメ トビウソカの発生量 Nが大 きければ P。 -PS は増 も考えられ るが, ここでは省略す る。 加 し,小さければ減少す るので,RSV の今後を予想す Ⅴ ることができる。第 5図はこの年間保毒虫率の変動の 目 抵抗性品種の導入と保青虫率の変動 安を示す もので,保毒虫率を変動 させないような Poと 1 982年以降関東北部地方ではむさしこがね, 青い空な N との関係を CN 曲線, つまり臨界発生密度曲線で示 どの RSV抵抗性品種の導入が進め られた。 ウイルス増 し,また 2 ,4,6% それぞれ増加 または減少 させ るよう 殖に対 して強い抵抗力を示すが, ヒメ トビウンカの発育 なNの曲線 も示 してある。ある年の P。とN との交点が にはほとんど影響 しないこれ らの品種が,その地域の保 CN 曲線 より上に くれは 翌年の P。は 増加 し, 下に く 毒虫率の変動,ひいては RSV の流行の将来にどのよう れは減少するで串ろ う.その増減の程度 も推定できるo この図には,また 各年次 ごとの 実測値 を 取 り,年次順 な効果を示すかは非常に興味深い。 に結んである.1 97 3-7 6年の間は P。が 1 0% 以下の レ 種栽培画賛分だけゼ ロとお くことに よって,第 5国に示 - (1), (2) 式において期待 される発病程度を抵抗性品 3 4- イ ネ 縞 葉 枯 病 の 流 行 機 5 3 7 構 た 1 983,84年には,経卵保毒虫率だけで Plか ら 4世 代経過 した と仮定 した値 よ りも大 きい低下率を示 した。 この原因は まだ解析 され ていないが,抵抗性品種 の上で の保毒虫率の変動は興味深い。いづれに して も抵抗性品 種 の導入に よって保毒虫率が確実に低下 してい ることは 明 らかであ る。 お わ り に 以上述べた よ うに,RSV の流行状態を保毒虫率を指 標 として示す ことがで き, これが数年 ∼1 0 数年に わ た る大 きな波を示す ことがわか った。鴻巣周辺では よ うや く流行 の最盛期 を過 ぎ,終息に近づいてい るよ うに見え るが, これは強 力な抵抗性品種 の導入に よる面が大 きい 越冬世代保毒 虫率( %) 第 6図 と考 え られ,その効果発現の過程が追跡 された この よ う い ろい ろな抵抗性品種導入面積率におけ る な例 は過去に もほ とん どな く,非常に興味深い もの と考 ヒメ トビウ ン カ臨 界発 生 密度 曲線 え られ る。 当分は経過を見守 るとともに,抵抗性品種が RSV の伝播機構 に及ぼす影響の解析的研究を進め るこ した臨界発生密度 曲線 ( CN)を高いほ うへ移動 させ るこ とがたいせつであろ う。 良-6 0%) とがで きる。一例を国中上 のほ うに破線 CN( で示 してあ る。第 6図に示 した とお り,2 0% 程度の抵抗 性品種導入面積率ではたい した CN 曲線 の 移動はない 0-6 0% 以上 の導入率では大 き が,現在行われ てい る 4 な効果が期待 され る。つ ま り,か な りの媒介虫多発生年 で も CN 曲線 の 下側に入 り, 確実 な保毒虫率低下が期 待 され る。第 3表においては 1 982年以降は埼玉農試に よる抵抗性品種導入率を考慮 に入れ て P5 を推定 した。 推定値 は翌年 の Poの実測値 よりもか な り大 きい保毒虫 率低下を示 してお り, さ らに抵抗性品種導入率の高か っ - 引 用 文 献 天野悦平 ( 1 9 3 3 ):病虫雑 2 0:6 3 4 -6 3 8. KI SI MOTO,R.( 1 9 6 7 ):Vi r ol ogy 3 2:1 4 4 -1 5 2. 5:9 0-91 . 岸本良一 ( 1 9 6 9 ):九病虫雑 1 ( 1 9 7 2 ):遺伝 2 6( 1 2 ):3 4-4 0. KI SI MOTO,R.( 1 9 81 ):Re v.Pl antPr ot .Re s .1 4:2 6 -5 8. 河野達郎 ( 1 9 6 6 ):植物防疫 2 0:1 31 -1 3 6. 栗林数衛 ( 1 9 31 ):長野農試報 2:4 5-6 9. 村松義司 ( 1 9 7 9 ):静岡農試報 2 4:1 -1 3 . NAKASUJI ,F.andK .KIRITANI ( 1 9 7 2 ):Re s .Pop.Ec ol . 1 4:1 8∼3 5. 新海 昭 ( 1 9 6 2 ):農技研報 C 1 4:1 -1 1 2. 日」田 斉 ・山本秀夫 ( 1 9 5 5 ):岡山農試臨報 5 2:9 3-1 1 2. 3 5
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