ヘイトウシンカイヒバリガイのレクチンの精製 - jamstec

ヘイトウシンカイヒバリガイのレクチンの精製
○鈴木
紫乃・神保
充(北里大学),吉田
井上
尊雄・丸山
正(海洋研究開発機構)
,
広滋(大気海洋研)
【目的】深海に棲息する無脊椎動物はしばしば化学合成細菌と共生しており,共生細菌が有機物の供
給源となっている場合もある。共生は宿主の生存に有利に働くが,その共生機構はあまり明らかにさ
れていない。今までに,共生に関わる因子のひとつとしてレクチンが報告されている。レクチンは糖
結合タンパク質の総称であり,マメ科植物による根粒細菌の選択やサンゴに共生する褐虫藻の形態変
化など様々な生物に関与すると示唆されている。近年,本研究室ではシマイシロウリガイのレクチン
が,共生している硫黄酸化細菌と同じ部位に存在することを明らかにした。これらのことから,レク
チンが様々な生物の共生に関与していると推測される。深海性二枚貝のヘイトウシンカイヒバリガイ
Bathymodiolus platifrons も,エラ組織に共生するメタン酸化細菌の化学合成によって産生される有
機物を利用して生きていると考えられているので,この共生においてもレクチンが何らの役割を果た
していると推定される。そこで本研究では,まずヘイトウシンカイヒバリガイからレクチンを精製す
ることを目的とした。
【方法】ヘイトウシンカイヒバリガイは,NT10-08 行動において,相模湾初島沖水深 850 m で採集し
た個体を用いた。B. platifrons の血リンパ粗抽出液は,貝柱を切って得られた血リンパを遠心した
上清を用いた。凝集活性測定は, 緩衝液で 2 倍系列希釈した粗抽出液を 4% 各種動物血球浮遊液に混
合し室温で 30 分間静置して検討した。緩衝液は,50mM Tris-HCl pH 8.5, 150 mM NaCl, 10 mM CaCl2
を使用した。レクチンをより高感度で検出するために凝集活性反応の条件検討として緩衝液の塩濃度
と凝集活性測定の反応温度,Ca2+イオン要求性を粗抽出液で検討した。レクチン結合試験は,8 種類の
糖結合樹脂と粗抽出液を混合後 4℃で 1 時間結合させた後,残った上清の凝集活性を測定した。レクチ
ンの精製は,50 mM Tris-HCl pH 8.5, 400 mM NaCl, 10 mM CaCl2 で糖結合樹脂に結合させた後,50mM
Tris-HCl pH 8.5, 400mM NaCl, 0.2 M の糖で溶出して行った。糖阻害試験は予め試料と 24 種類の糖
を混合して 25℃で 1 時間保温した後,凝集活性を測定して行った。
【結果】B. platifrons の血リンパにレクチンが存在するか検討するため,各種動物血球を用いて凝
集活性を測定したところ,ウマ血球浮遊液で活性が最も高く,ウサギ・ヒツジがつづいた。したがっ
て,血リンパにレクチンが存在すると推定される。次に,レクチンを感度良く検出するため,凝集活
性反応の条件検討を行ったところ,400 mM NaCl, 10 mM CaCl2 を含む溶液中で 反応させると凝集力価
が高くなることがわかったので,精製にはこの緩衝液を用いることとした。また, 反応温度は 25 –
37℃で最も高い凝集活性力価を示したので,凝集活性の測定は今後 25℃で行うこととした。次に精製
に用いる糖結合樹脂を選択するためレクチン結合試験を行ったところ,N–アセチルグルコサミン結合
および,ガラクトース結合 Sepharose 6B の順番で上清の凝集力価が低下した。そこで,両方の糖結合
Sepharose 6B を用いて精製を試みた両者の回収率は 約 20 %で差は見られなかった。しかし,SDS-PAGE
ではガラクトース結合 Sepharose 6B でより多くの成分が得られたことから,レクチンの精製にはガラ
クトース結合 Sepharose 6B で行うこととした。溶出された画分を透析したところ,最終的に回収率は
40.6 %となった。得られた溶出画分の主要成分は,14.5 kDa と 9.8 kDa であった。粗抽出液と溶出
画分の両方の糖結合性を糖阻害試験により検討したところ,両方とも N-アセチル-D-ノイラミン酸のみ
で凝集が阻害された。シアル酸結合レクチンは,シアル酸が結合したガラクトースを認識することが
報告されていることから,このレクチンはガラクトース結合 Sepharose 6B で精製できたと思われる。
B. platifrons と同じ科に属する Modiolus modiolus のレクチンは,シアル酸結合性で,その活性は
Ca2+に依存していた。そのレクチンは 14 kDa,17.5 kDa,20 kDa の成分から構成さており, B. platifrons
のレクチンと類似している事から,B. platifrons レクチンは,Modiolus modiolus レクチンと相同で
ある可能性がある。