大腸菌 HSP60 のペリプラズム局在の 可能性と熱ショック対応機能について ① 【目的】 我々は、食塩溶液中でスフェロプ ラストを破砕させずに攪拌しペリプラズム蛋 白を分離する方法 等 で、大腸菌spirosomeの ペリプラズム局在を示唆した(第78,80回本 学会総会)。この方法を用いるとspirosome 蛋白と共に60kDaの蛋白が検出された。分子 量等からHSP60の可能性が考えられ確認を 試 み た。大腸菌 の HSP60は細胞質内局在と 考えられているが、近年、別の菌種では細胞 表面や培養液からも検出され、その意義が論 議 さ れ て い る 。今回、大腸菌HSP60のペリ プラズム局在の可能性と、その機能について 考察した。 (前回) Spirosomeの局在を調べる目的で ② 細胞膜を壊さずペリプラズムの 蛋白 を分離することを試みた リゾチーム液で処理した菌体を 3% NaCl 液に懸濁し、攪拌処理 によりペリプラズム蛋白を外液に遊離させる 細胞壁 ペリプラズム 細胞膜 細胞質内 ③ (今回)同じ方法で60kDa蛋白の産生を調べた 【方法】リゾチーム処理したE. coli Bのス フェロプラストを1.75~3%食塩溶液に懸濁 し、30秒間撹拌後、攪拌前後のスフェロプ ラストと遠心上清 中 の 60kDa 蛋 白 をSDSPAGEと抗HSP60抗体(LVC社製) を用いた Western blottingで解析した。 更に HSP60のペリプラズム局在と機能 を考察するため、大腸菌安定型L型菌と非 安定型L型菌における60kDa蛋白の産生と 40~45℃培養でのHSP60の発現を調べた。 Absorbance(A600 ) 【方法】 ④ NaCl 1.75~3%の溶液中で攪拌しても 大部分のスフェロプラストは壊れない 1 0.5 0 0 1 2 3 4 5 6 7 8 更に10000回 転30分遠心 Concentration of NaCl(%) リゾチームで作成した スフェロプラスト NaCl溶液中で 30秒間攪拌 3000回転 試料 15分遠心 ③攪拌 後上清 試料 試料 ①攪拌前 スフェロプ ラスト ②攪拌 後ス フェロ プラスト 【結果】 ⑤ 大腸菌スフェロプラストを1.75% NaCl液に懸濁し、攪拌した 前後の蛋白の比較 1 2 3 1. 試料① 撹拌前のスフェロプラスト菌体 kDa 2. 試料② 撹拌後のスフェロプラスト菌体 3. 試料③ 攪拌後上清成分。 9467- Spirosome 43- 60kDa 60kDa蛋白 は、攪拌後の菌体に は見られず、攪拌後の上清に検 出された。 30SDS-PAGE E.coli B 30℃と45℃培養(PYG培地 静置培養)による60kDa 蛋白の発現 1 2 1 30℃ 培養 94 2 45℃ 培養 67 矢印 60kDa蛋白 43 60kDa蛋白 は、30℃培養に 比較して45℃培養で著しく増 加した 30 SDS-PAGE ⑥ 大腸菌スフェロプラストのNaCl液攪拌上清に見られた 60kDa 蛋白の抗 HSP60モノクローナル抗体による確認(ウエスタン ブロッティング解析) A 1 2 3 kDa B 3 kDa 94 94- 67 67- A, 1. 撹拌前のスフェロプラスト菌体 2. 撹拌後のスフェロプラスト菌体 3. 上清成分。 B, 43 43- 攪拌後の上清成分(A,3)の ウエスタンブロッティング。 30- 矢印 60kDa蛋白 SDS-PAGE ウエスタンブロッティング 上清中の60kDa蛋白 は、HSP60と確認された。 ⑦ 大腸菌スフェロプラストのNaCl液攪拌上清を、1万回転30分遠 心し、上清をさらに4万回転、2時間遠心した沈査の電子顕微 鏡像 矢印はHSP60像、スケールは100nm ⑧ ⑨ 本法で精製(分別遠心)した60kDa蛋白の電子顕微鏡 像(ネガティブ染色) Viitnen P.V,et.al. 1992 J.B.C. 文献と同様のHSP60の形態が観察された 60kDa蛋白がペリプラズム局在ならL型菌ではどうなっているのか ⑩ 大腸菌野生型と 安定型 L型菌(EcL株)の全菌体成分の 比較 (35℃、8時間培養) 1 2 kDa 94- 1 E.coli B (全菌体) 2 E.coli L型菌EcL株 (全菌体) spirosome蛋白 67- 60 kDa 蛋白 43- 35℃ 培養の安定型 L型菌 EcL株には spirosome蛋白と60 kDaに相当するバンドが なかった 30- SDS-PAGE 45℃培養では60kDa蛋白が増加するか? 45℃培養における 安定型L 型菌(EcL株)の 60kDa蛋白とHSP60の確認 A 1 2 3 B 1 2 3 ⑪ A, SDS-PAGE 1. 野生型(E.coli B)全菌体 kDa 94 94 67 67 43 43 2. 安定型 L 型菌全菌体 3. 安定型 L 型菌培養上清 B, 抗HSP60モノクローナル抗 体(LABVISION #MS-263-P1ABX USA)によるウエスタンブロッティ ング。 1. 野生型 30 30 2. 安定型 L 型菌 3. 安定型 L 型菌培養上清 SDS-PAGE ウエスタンブロッティング 矢印 60kDa蛋白 45℃培養の L型菌にも60kDaのバンドは見られず、HSP60産生の確認もできな かった。 (安定型L型菌 EcL株はHSP60を産生せずに45℃で増殖できた) 大腸菌の野生型と安定型L型菌 EcL株における HSP60の発現 1 2 3 4 5 1 E.coli B株 37℃培養 全菌体 kDa 2 E.coli B株 45℃培養 全菌体 67- ポンソーS染色 67- 3 E.coli L型菌EcL株 37℃培養 全菌体 4 E.coli L型菌EcL株 45℃培養 全菌体 5 E.coli L型菌EcL株 ウエスタンブロッティング 45℃培養の培地 安定型 L型菌EcL株は45℃で増殖できる。しかしHSP60は発現し ていない。 ⑫ 大腸菌非安定型L型菌 NC7 株の60kDa蛋白と HSP60産生の確認 ⑬ 抗HSP60モノクローナル抗体によるウエスタンブロッティング 1 2 kDa 3 1 2 3 1 E.coli K-12 (野生型) 2 NC7株 ( 非安定型L型菌 ) 3 EcL株 (安定型L型菌) 67- (3株とも40℃培養) 矢印 60KDa HSP60蛋白 SDS-PAGE ウエスタンブロッティング 大腸菌非安定型L型菌 NC7株は40℃ 培養で60kDa蛋白を産生 し、HSP60と確認された。しかし45℃では増殖できなかった。 大腸菌L型菌 2 株の45℃での増殖能と HSP60の産生 45℃での増殖 HSP60の産生 安定型 EcL株 + - 非安定型 NC7株 ー + (NC7のHSP60は40℃での産生を示す) L型菌のHSP60産生量は45℃増殖能とは必ずしも相関しない (HSP60は熱ショックストレスに直接には関連していない?) ⑭ ⑮ 大腸菌L型菌 EcL株と NC7株の形質の違い - EcL株 HSP60 親株に復帰 できない Spirosome - 10μm NC7株 細胞壁を作 り親株に復 帰できる 45℃培養で大型化 HSP60 + Spirosome + 低塩濃度培養で親株に復帰 親株に復帰できない(細胞壁を作れない)安定型L型菌は HSP60を産生しない(?) ⑯ 【結果と考察】大腸菌スフェロプラストを1.75~3%食塩 溶液中で撹拌すると、Spirosome蛋白と60kDa蛋白が上清 中に検出された。ほとんどの菌体は破砕されておらず、ま た攪拌後の菌体でこれらの蛋白が減少していることから、 この二つの蛋白は細胞膜表面にゆるく結合していたと考え られ、ペリプラズム で の 局在が示唆された。 こ の 60kDa蛋 白は45℃培養で増加し、抗HSP60抗体と反応した事から HSP60と考えられた。 安 定 型 L型菌のEcL株は45℃で増殖 したが抗HSP60抗体と反応する60kDa蛋白は検出されず、 一方、非安定型NC7株は45℃で増殖しなかったが40℃培養 で 60kDa蛋白が検出された 。 こ れ ら の 結 果 か ら 、 細 菌 の HSP60 は 熱ショックに対応する本質的なものではないと 考 えられた。Mclennan N.らは大腸菌HSP60が細胞壁合成に 必須であると報告しており(Nature 1998)、今回の結果 も細菌におけるHSP60が耐熱性よりも細胞壁合成と関連す る事を示しているものと思われる。 ま と め 1.大腸菌 のスフェロプラストを1.75%NaCl液中で攪 拌すると60kDa蛋白は細胞質分画より攪拌上清の 方により多く見られ、ペリプラズム局在(または菌体 表面)が示唆された。 2.この60KDa蛋白は抗HSP60モノクローナル抗体に よってHSP60であることが確認された。 3.大腸菌の安定型L型菌EcL株はHSP60を産生して いないが45℃で増殖した。一方、非安定型NC7株で はHSP60を産生しているが45℃で増殖しなかった。 4.大腸菌のHSP60がペリプラズム(または菌体表面) に局在し、耐熱性より細胞壁合成に関与している可 能性が示唆された。 ⑰ 参考文献 ⑱ NATURE Vol 392 1998
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