溶菌酵素の精製とクローニング - 大阪府立産業技術総合研究所

C - 41 酵素とインテリジェント材料を用いた殺菌システムの研究
∼ 溶菌酵素の精製とクローニング ∼
○ 井川 聡
客員研究員
酵素応用グループ
藤原 信明、増井 昭彦
大阪府立公衆衛生研究所
鈴木 定彦
材料技術部
背景と目的
ゼラチンゲル
現在、切削加工において、切削油の腐敗防止の
ために大量の化学殺菌剤が使用されているが、人
体や環境への悪影響が懸念されている。そこで溶
菌酵素とゼラチンゲルなどのインテリジェント材
料を用いた新規殺菌システムの開発が進められて
いる。これまでに腐敗初期の主な原因菌である緑
膿菌(Pseudomonas aeruginosa)を効果的に溶菌す
る酵素を生産する菌株Bacillus clausii N7を得てい
るが、その酵素生産量は非常に少なく工業的に用
いるための障害となっている。本研究では組み換
えタンパク質発現系を用いた溶菌酵素の大量生産
を行うために、まず本酵素を精製し、さらに酵素
遺伝子のクローニングを行った。 プロテアーゼ
溶菌酵素
緑膿菌の増殖
緑膿菌
溶菌酵素による殺菌
新規殺菌システムの模式図
緑膿菌が分泌するプロテアーゼの働きにより溶菌酵素
が必要なときにだけ放出され、緑膿菌の増殖を抑える。
酵素タンパク質の精製
(kDa)
1 2 3 4
175
B. clausii N7の培養上清を濃縮し、硫酸アンモニ
ウム塩析による分画を行い、溶菌活性の高いフラ
クションを回収した。その後、陰イオン交換クロ
マトグラフィー、疎水クロマトグラフィーを経て、
最終的に約110kDaの溶菌酵素を電気泳動的に単一
になるまで精製した。この酵素のアミノ酸配列の
一部を決定したところ、枯草菌(Bacillus subtilis)
の溶菌酵素の一種であるN-acetylglucosaminidaseと
高い相同性を示すことが明らかとなった。 溶菌酵素
83
Lane 1 : 分子量マーカー
2 : 50% 硫酸アンモニウム沈殿
3 : 陰イオン交換カラム溶出物
4 : 疎水カラム溶出物(精製酵素)
47.5
32.5
精製酵素の電気泳動による解析
塩析、イオン交換、疎水クロマトグラフィーを経
て、最終的に約110kDaの単一なタンパク質を得た。
(kb)
酵素遺伝子のクローニング
23
9.4
6.5
4.4
2.2
精製した酵素のアミノ酸配列をもとにプライ
マーを作製し、PCRによる部分遺伝子の増幅を
行った。さらに増幅された遺伝子の配列を基に新
たなプライマーを作製し、最終的に溶菌酵素遺伝
子全長を含むDNA断片をクローニングした。塩基
配列を解析した結果、溶菌酵素の構造はN末端に
触媒ドメインを持ちC末端側にSH3bドメインの繰
り返しを持つ、特殊な構造をしていることが予想
される。 シグナルペプチド
H2N
LYZ
溶菌酵素遺伝子を含むDNA断片
クローニングベクター
電気泳動による溶菌酵素遺伝子の確認
PCRで増幅したDNAをベクターにクローニング
した。このDNA断片には溶菌酵素遺伝子の全長
が含まれていた。
SH3bドメイン
SH3b
触媒ドメイン
SH3b
SH3b
SH3b
SH3b
SH3b
SH3b
予想される溶菌酵素の機能構造
SH3b
SH3b
SH3b
COOH