粒径分布モデルの結晶

混相流
粒径分布モデルの結晶
Kuochen Tsai,John Kreinbrink(米国 テキサス州フリーポート,Dow Chemical Company),
Terry Ring(米国 ユタ州ソルトレークシティー,ユタ大学)
,Kumar Dhanasekharan(Fluent Inc.)
過飽和分布の鉛直断面.過飽和比は入口近傍の方が高く,
そこで溶質が豊富に供給されている.
NaCl(固体)の体積分率分布の鉛直断面.固体粒子はある
程度沈殿している.
4.0
個数密度(粒子/m3/m)
3.5
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
0.4
0.6
0.8
1.0
結晶径(x10-4 m)
1.2
1.4
業務用晶析装置では,結晶の粒径分布
(CSD)
制御という大きな課題
があります.CSD制御は製品の品質や純度に加えて,晶析装置の順調
な稼動を確保する上で欠かせないもので,ろ過,遠心分離,粉砕を始
めとする下流プロセスを左右することがよくあります.しかし,その
重要さにもかかわらず,CSDはあまり理解されていません.流れパ
ターンや熱伝達が理想と異なるため,粒径分布が晶析装置の中で場所
ごとに異なったり,時間変化したりして,扱いにくいということもあ
りますし,溶液の熱力学と結晶化現象も一役絡んでいます.
晶析の挙動を理解するには,数値モデルを利用するというのも手で
す.単純なモデルはこれまでも利用されていたのですが,混合が進ん
だ晶析装置で流体力学の効果が無視できるという前提に基づいていた
ため,デザインが保守的となり,収率が最適になりませんでした.最
近になり,晶析装置のCFDモデルが開発され,ポピュレーションバラ
ンスの手法が取り入れられました.このモデルにより,流体力学と晶
析現象を連成させた効果が考慮できます.ポピュレーションバランス
では,流体の流れが晶析相の発達プロセスと絡み合って発生し,核形
成や成長,分解,凝集,破壊が起きると,特定状態の粒子が生成され
たり,他の状態への遷移,系からの消滅が起きたりします.
そこでFluent社,Dow Chemical社,およびユタ大学は互いに連携し
ながら,Dow Chemical社のラジントンの施設で試験稼動している晶析
装置をモデル化しました.この試みは一部,米国エネルギー省
(DOE)
から資金提供を受けているプロジェクトで,今年6月に終了していま
と塩化カリ
す.同装置の物理プロセスでは,塩化カルシウム
(CaCl2)
ウム
(KCl)
に富んだ流れにおいて,不純物と見なされる塩化ナトリウ
ム
(NaCl)
とKClを晶析させ,流れの濃縮と精製をします.流れは入口
から来る45%のCaCl2,1.28%のKCl,4.22のNaClからなる混合物で,中
には重量比にして3.8%のNaCl粒子がザウター平均粒径122μmで入っ
ています
(ザウター平均粒径とは表面積で重み付けた平均で,混相流
の用途でよく利用します)
.ここでは,溶液中のNaClをさらに約0.42%
まで減少させることを目標としました.ジャケット付き反応器を入口
からの流れ(約325K)と共に300Kまで冷却し,OLI Systems社の
StreamAnalyzerを使用したところ,300∼325Kの温度範囲で直線に
なったNaClの溶解度曲線が得られました.
FLUENTではオイラーグラニュラー混相流モデルを利用し,ポピュ
レーションバランスソルバーを400,000セルの3次元メッシュ上で動作
させました.インペラーの回転は複数基準座標系(MRF)
のアプロー
チでのシミュレーションとし,水中のNaCl,CaCl2,およびKClなる
成分はそれぞれ第1相
(連続相)
の化学種としてモデル化しました.反
応容器には曲がったフィードチューブと壁上のバッフル板に加え,液
に浸かったフィルターカートリッジが2個あり,液面の結晶を集めて
精製された液体がカートリッジにて除去されます.
結果を確認したところ,NaClの溶質が反応器(クーラー)に入ると
急速に消費され,結晶が形成されていました.出口の溶液中における
NaClの質量分率は0.37%で,入口の0.44%より少ないので,溶液は精製
されています.固体粒子の体積分率では,出口のフィルターによって
粒子がある程度沈殿,集積していました.晶析装置の底における固体
粒子量は3%,ザウター平均粒径は133.8μmで,入口の粒径よりもほ
ぼ10%大きくなっています.固体粒子の全個数密度を見ると,最大密
度が入口の近傍にあり,そこで溶質が豊富に供給され,高い過飽和比
になっていました.結晶粒径分布を出口で定性的に見ると,実験値と
良好に一致していました.現在は,定量的な比較をするため,さらに
調査を進めているところです.
容器底出口での結晶粒径分布
Fluent NEWS fall 2004
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