電気ショックに対する魚類の反応 誌名 水産工学 ISSN 09167617 著者 山森, 邦夫 巻/号 28巻2号 掲載ページ p. 121-126 発行年月 1992年3月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波事務所 Tsukuba Office, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat 水産工学 F i s h e r i e sE n g i n e 巴r mg .2 8N o . 2 .pp.121~126. 1 9 9 2 Vol 1 2 1 [報文】 電気ショックに対する魚類の反応 森 邦 夫 * R e s p o n s e so fF i s ht oE l e c t r o s h o c k K u n i oYAMAMORI 本 1 . はじめに っくり育てる漁業の新しい展開には種々の技法が開発 リスで電気漁法に関するシンポジウムが開かれた 2},3)。 1 ) 感震と麻痔 魚(フナ)を実験水槽に入れて電気刺激をかけるとそ される必要がある。魚織を用いるかわりに電流の感電・ の強さに従って魚は種々の段階の反応を示すが,黒木の 麻簿作用を利用して魚類を誘導したり捕獲したりするア 観察 1) に従えばつぎのようになる。実験水槽として巾 5 イデアは電気漁法として知られるが,電気漁法は淡水域 の一部を除いてほとんど利用されていない。海水域で電 c m .長さ 5 8 c m .水深 6 . 5 c mの水槽を用い,水の両端に 巾5 cmの鋼板を水深一杯に入れて電極とし,両電極聞 気漁法が利用されにくい主な原因は,海水は篭導度が高 に交流電圧をかけた。 いため通電に多量の電力が必要になることであるが,他 ①通電しない時,魚は腹を水槽の底につけて平静な状 にも解決しなければならない問題がある。海洋牧場周柵 態で呼吸を行い,各ヒレは任意随時静かに動かしている。 として電気スクリーン方式による海域遮断技術を実用化 ②極微震圧の電流を通ずると胸ヒレのみをせわしく動か するためには工学的には消費電力の低減化を図ることが し始めるが他には変化が認められなし、。③電圧を僅かに 重要になるが,それには電気に対する魚類の反応につい 上げると水底から腹部を離して,胸ヒレのみならず鬼ヒ ての生物学的知識が基礎となる。また通電が魚類に及ぼ レの先端をも震わせるようになる。@しまだ静かである。 すかも知れない部次的影響についても十分把握しておく ④更に電圧を上げると通電した瞬間に反射的に銚び泳ぐ 必要がある。ここでは主に淡水魚を用いて得られた研究 に至る。⑤更に電圧をよげると筋肉強縮状態のままで無 報告を基に,電気による魚類の感電・麻療現象,魚類の 理に泳ごうとして水構内を苦しそうに移動する。⑤更に 電気感覚,さらに電気漁法が魚類に及ぼす影響について 電圧を上げると体の自由は全く利かなくなり時たまピク 紹介する。 ピクと動く。⑦更に電圧を上げると仮死状態になり横に 2 . 感電・麻痔 電流による感電現象は人聞が電気を発見して以来気付 倒れた姿勢になってしまう。水面に浮く事もあり,水底 に沈むこともあり水中に懸かったままで動かない事さえ も生ずる。 かれていたことと恩われる。また,電流を利用して魚類 これらのうち反応基準として f 感電 j 識別には④の を誘導しようとする電気漁法のアイデアは新しいもので 状態. r 麻簿 j の識別には⑦の状態が分かりやすいとい はなく,イギリスでは 1 8 6 3年に特許申請がなされたとい ユ 1) ノ 。 う。日本においても 1 8 8 5 年に高橋元義が電気捕鯨機およ 2 ) 電流波形による刺激効果の差異 び電気釣針の特許を得て以来,電気漁法に関する数々の 電気刺激に対する魚類の反応は電流波形によってやや 研究がなされ. 1 9 5 5年には黒木の「電戟漁法J1}が出版 呉なる(密-1)。直流を用いた場合には感電した魚が陽 された。日本では電気漁法は禁止されているが,欧米で 極へ誘引される性質があるとされ,淡水域での漁獲に応 はe l e c t r o f i s h i n gと称して淡水魚の調査・研究のために 用されているが,省電力が重要になる海水域では交流や ポータプルな機器を用いた電気漁法が多用されており, 断続電流の方が感電や麻簿効果は強いので有利である 3)。 これに関する研究・開発も活発であり. 1 9 8 8 年にはイギ 1 9 9 1年 1 1月 1B 受理 事 jヒ豆大学水産学部千 0 2 2 0 1岩手県気仙郡三陸吋越 S c h o o lo fF i s h e r i e sS c i e n c e s . 喜 来 字 烏 頭 160-4( K i t a s a t oU n i v e r s i t y .S a n r i k u .K e s e n .I w a t e0 2 2 01 ) 水中で長さ 1 cmあたりに掛かる電圧を電位傾度とす ると,電流の刺激効果は電位傾度の増加に伴って強くな るが,キンギョを照いた交流,両波整流,半波整流の各 篭流の刺激効果の比較実験1}によれば,感電電圧,麻捧 電圧ともに最小篭圧は,南波整流で最大,半波整流で最 1 2 2 水産工学 Vo. l2 8 No.2 せしめるには歪らないから幼魚の保護が可能である j と 黒木は記しているが. r 感電について体長の小なるもの 川Y ¥ハ ハ 阿波主主流 交流 が敏感であるのは体長が小なる側で著しく,体長の大な るに伴い減じ. 10-11cmの体長では殆ど差がなくなる。 魚の種類によってはむしろ逆になるとさえ推察される J とも記している。実際,最近,前畑らが 2-13cmのマ 土手波整流 ダイで比較した実験では,感電も麻療も体長の大きいも nnll のの方が敏感であった 4)。 ハハ んサイン i 皮 1 ノ , )レス 阪 長方形 ノ ミ J レス 蓄電器放電 ノ , ) レス 1 電流波形の種類 5 ) 局所刺激に対する魚類の反応 黒木 1) は様状の細長い電極を用いて魚の周盟を局所的 に刺激した場合の反応を調べた。体縞方向に刺激する場 合であるが,アナやハゼにおいて限の儀か後方の点から 吻端へわたる範密に局所的に電気刺激すると魚は転向し て後方へ逃げ去り,一方,その点、から尾端の方へわたる 範囲を刺激すると,体の大部分が電流密度の大きい区域 体深方向 を通過するにもかまわずに魚は前進し,篭援問を突破し て前方へ逃げ去る。このように電気刺激がかかるとき前 進後退の運動分岐の境界となる部位を黒木は~ (ツェー タ)点と呼んだ。 ウナギの場合1)ほぼ遊泳運動の中心と恩われる点、を 援にして,それより頭部側を刺激するとウナギは後退し, が電極にふれる それより後方を刺激するとウナギは体銀u 図-2 魚体に流す電流の方向 のも構わないで強引に前進した。 エヒの場合は1) ~点よりも前方を刺激すると後方へ普 小となり,交流と比較した場合,両波整流は 2-4倍の 通の仕方で飛び退くし,後ろを刺激すると前方へ逆立ち 電力を必要とするのに対し,半波整流では1/ 3-2/3の電 の姿勢をとって飛び進む。体俣uより高い位置に電極をお 力ですむという。 けば,エビはとびはねないでゴソゴソ這って前進し,そ 3 ) 電流方向による刺激効果の差異 して C点が電極の真下を通りすぎてから前へ跳ねる。ま 電流の感電作用や麻簿作用は電流が魚体のどの方向に たエビは電気刺激に対して著しく敏感である。 流れるかによって異なる(悶 -2)。関内がキンギョを用 いて行った実験結果 1) では,感電作用を起こすのに必要 な電位傾度は体鴨方向が最大で体長方向の 5倍を要し, 3 . 電気惑覚 電気スクリーンによって海域を遮断する目的は養殖魚、 体深方向でも 3 . 6倍を必要とした。また麻簿作用を起こ の逃亡を妨くとともに食害魚の侵入を防ぐことにある。 すのに必要な電位傾度はそれぞれ2 . 2 倍と 2 . 4 倍であった。 電気スクリーンは感電・麻療経験と電気感受とを結びつ 魚の体長方向に電流を流した場合,魚が体位を転換し ける魚類の学習効果に期待するものであるから,その効 て,刺激効果の小さい,電流にま農産の位霊へと移ること 巣は各魚、穫の電場感知能力や学習能力,記憶保持能力な を筆者もしばしば観察した。 どによって異なってくるものと恩われる。 4 ) 魚のサイズによる刺激効果の差異 1 ) 電気感受性の測定法 魚に対する電流の刺激効果は電流が体長方向に流れた 魚類の電気感受性を測定する方法は様々に考えられる ときが最も大きい。この方向で 6-llcmのキンギョに が,生理学的には心臓反射や呼吸反射を利用することが 対する刺激効果を比較した黒木の実験ではへ感電につ できる 5) 。魚に電気刺激を加えると反射的に呼吸運動が いては体長の小なるものが敏感であったのに対し,麻療 停止したり緩徐となるが,この応答は餌を与えることで については体長の大なるものが低電圧で麻簿してしまう 強化することができる。呼吸運動を電気的に記録しなが 傾向があった。「これは同一魚種でも幼魚と成魚とでは ら電気刺激を与え,応答が得られたときに鱗を与えると 影響が呉なることを意味し,幼魚、保護の観点から立てば いう訓練を繰り返しつつ刺激電圧を下げて行くと,やが 有利な現象である。すなわち,感電電圧を低くとれば幼 て反応が認められない電圧に行きつく。ここで反応率が 魚を排除しつつ,成魚を呂的域に導入しうる。また麻療 50%となる電圧を喜劇直とする。一般の魚類の電気感受性 電圧を低くとれば成魚を麻薄させる場合でも幼魚を麻簿 はほとんど研究されていないが,ウナギやコイではそれ 1 2 3 電気ショックに対する魚類の反応 ぞれ 1 mV/cm,30mV/cmの腐値が報告されているヘー 収縮することにより脊椎骨が壊れたり,ずれたり,その ブ J,ナマズの仲間や大部分のサメ・エイ類は電気受容を 際に血管が破れたりする。えらの毛細血管の破裂も起こ 機能とする特殊化した側線器をもち,微弱な電流に対し る 。 f こだ l聞のパルスが,そして時には低い電圧のパル ても反応し,その関債も 0.1~0.01μV/cm 程度と著しく スが,このような障害を生むのに充分であったりする。 低い。この高度の電気感受性は索餅行動などに利用され サケ科では皮膚の検査を通して脊椎骨が障害を受けてい ていると考えられている 6)。 るかどうかを簡単に調べることができる 3)。交感神経が 2 ) 海水中での電気スクリーンの使用例 傷つくと黒色素胞に対するアドレナリン分泌がなくなっ サメは電気に非常に敏感であるが,南アフリカのルシ てメラニン穎粒が拡散するため樟害部分に黒いスポット ア湾の沿岸でサメ用の東日し網の代わりに使用することを 奇的として電気スクリーン・システムが試験された 7) が見えるようになるからである。 電気ショックが脊椎骨に損傷を与える危険性 l 丸電流 30mの長さの裸の鋼電極が水深 3mの海底に 6m離れて 波形により異なる。すなわち,一般的に直流がもっとも . 8 m s,1 5 H zのパ 設置され,電極にパルス発生器からの 0 安全であり,交流が最も危険であり,直流ノ')レスがその ルスが流された。このシステムの電力消費は少なくとも 中間に位置するといわれている。震流ノミルス電流によっ 8kWであった。このスクリーンはサメの通常の殴遊コ て捕獲されたニジマスの約50%が平均 8偲の脊椎骨に損 ースに仕掛けられ,その効果を調べるために忌避しなか 傷を受けるという報告もある日〉。 ったサメを捕らえるための刺し網がスクリーンの上に仕 掛けられた。スクリーンに通電された 7か月以上の潤, 2 ) 生理学的影響 ラージマウスパスに対する電気ショックが血液や組織 8尾 織にかかったすメは皆無であったが,通電を停止後 2 に及ぼす影響を観察した研究がある 12)。直流ノ〈ルスで刺 が捕らえられた。 激後, 0 ,1 ,3 ,5 . 5,1 9 時間後に対照と比較してへそグ 3 ) 魚の学習・記憶能力 ロどン量,ヘマトクリット値,血紫タンパク量,筋肉組 前畑らが試作した電気スクリーンの性能確認試験にお 織中水分震には有意な差は認められなかったが,血祭乳 いて 4). 8) 試験魚であるマダイは放流後 1B闘は群単 位で行動せず全体にばらばらに行動し,スクリーンへの 酸最は 1時間後には有意に高くなり, 3時間以内に元の レベルに戻るが,その後更に減少した。一般的にどのよ 2日目以降は群単 うな捕獲法によるストレスも血中乳酸レベルを増加させ 位で行動を始め,スクリーンへの接近も見られなくなっ るため,これは電気漁法に特有な変化ではないとしてい た。マダイが「スクリーン十電気刺激という学習 j をし る 。 侵入および忌避行動を繰り返したが たためと考えられる。この学習効果持続時間をスクリー 養殖ニジマスの呼吸・循環機能,血液性状に及ぼす電 ンへの通震を停止して鋭察したところ,約 5分間はスク 気ショックの影響を調べた研究もある山。電気ショック リーンに近づくことなく,その後徐々に近づきスクリー 後,魚は呼吸運動を 6 0秒間止めたり,または 3 0秒間にわ ンへの侵入を始めるようになり,さらに通電停止後, 1 0 たり激しい洗浄運動を示したりした。心電図では T波の ~15分間でスクリーンの存在にまったく関係なく行動す 増大が起こり,時には Ti 皮が QRSと同程度に増大する るようになった。この実験から,マダイの電気ショック 個体がみられたが,これは 1~ 3分後にピークに達し, に対する学習効果時間は 5~10分間とみられる O 4~5 分後に元に戻るという一時的なものであった。こ 大西洋サケに対する電気スクリーンの遮断効果を競べ の他,血中の手L 費費量,グルコース量,コルチゾール量が た実験においても透篭停止後比較的短時間で電気スクリ 電気ショック後,増加するが 6時間後に乳酸量は元のレ ーンに対する忌避行動が認められなくなることが観察さ ベルに戻った。これらの電気ショックによる影響は一般 れている 9)。 的なストレスや窒息時の影響に似ていたとしている。 4 . 毒気漁;去の魚に及ぼす影響 欧米では淡水魚の調査・研究のためにポータブルな機 野性ニジマスと養殖ニジマスとで電気ショックに対す る反応;に遠いがあるl4l。魚、が持軍嫁するまで電気ショック を与えた後の血中のコルチゾール量は,養殖ニジマスで 器を用いた電気漁法が多用されている。このため魚に対 は0 . 5時間後に 70ng/mQのピークを示したが 1時間後に する電気漁法の効果・影響についての研究も多い。電流 は元のレベルに戻った。一方,野性ニジ、マスでは l時間 4日後もかなり高 の感電・麻簿作用によって魚、を誘導・捕獲する際に魚に 後に 2 34ng/mQのピークに達したが 及ぼす劉次的影響や後遺症についても充分に把援してお いレベルを維持した。また野性ニジマスには 5.5%の死 く必要がある。 亡があったが,養殖ニジマスにはなかった。 ] ) 解剖学的影響 3 ) 成長に及 i ます影響 電気ショックによって脊椎骨が曲がったり,出血した 電気ショックが及ぼすより長期間の影響に関してもさ りする 10)。通電によって左右の体側筋が激しく向時的に まざまな報告がある。 1 2 4 水産工学 12 か月の内に天然水域で 2~7 回の直流ノ')レスを受け Vo. l28 NO.2 褐色透明な油状の液体塩素になる。塩素は常温では水に 1%程度溶解し黄色を呈する。塩素が水道水の滅 た野性ニジ、マスや野性フラウントラウトの成長は,同一 0.5~ 地域の同一種の向一年令の魚の平均成長率に比較して低 菌に用いられていることは広く知られているが,海水を い成長率を示した 15)。この成長率の低下は 3歳以上の魚 冷却水として使用する火力発電所,原子力発電所,化学 より 1~ 2歳魚で顕著であり,また電気ショックから回 工場,船舶などでは海水取水径路に塩素を注入してアジ .5か月 復するために 3か月以上経過した魚より,過去 2 ツボ,ムラサキイガイなどの海洋生物の付着防止を図っ 以内に電気ショックを受けた魚の方が顕著であった。 ている。塩素注入法としては液化塩素などの塩素予測を注 養液魚の成長に対する電気ショックの影響についての 報告もある 16)。雑種のサンプイッシュの成長に対する電 気ショックの影響を観察した実験で,スタート特に差が なかった体震が, 3か月後には対照、に比較して電気ショ ックを毎週与えられたグループは著しく悪く 2週に 1 回や 4週に l回,または実験スタート時に 1回だけ与え られたクソレープも対照より悪かった。このことは餌を充 入する方法の他に海水を電気分解して次E 主主塩素酸ナトリ ウムを生成する方法がある 2))。 2 ) 海水通電による塩素の発生 海水を電気分解すると陽穏に塩素が発生し,陰極に水 酸イオンと水素が生成する。 揚極 2 C l→ Ch+2e 陰極 2H20+2巴 → 20W+H2t 分に与えられる養殖魚に対しでも電気ショックは慈影響 発生した複素は水酸化ナトリウムとただちに反応して有 を与える可能性を示している。 効複素源である次混塩素酸ナトリウムとなる。 これに対して,影響しないとの報告もある。すなわち, 液中 C I2+2NaOH→ NaCIO+NaCl+H20 養殖ニジマスの生残率,成長,生産力は電気ショックに 電気化学的には 2ファラデーの電気量で lモルの次連塩 よって影響されず,またその子孫の生残率や発育も影響 素酸ナトリウムが生成することになり,一般に用いられ されないとの報告17>電気麻酔はニジマス I歳魚の成長 る有効塩素震に換算すれば 1Ah当たり1.3 23gとなる。 や暗臨選択行動に影響しないとの報告 18に電気ショック はニジマスやカワマスの生残率に影響しないとの報告 19) が見られる。 4 ) 生殖機能に及ぼす影響 総括 NaCl+H20→ NaCIO+H2t 3 ) 海水の塩素要求震と残留顎素霊 冷却用海水の滋素処理では海洋生物付着妨止のために 有効な塩素濃度を保つ必要があるが,汚濁・富栄養化し 生殖機能に及ぼす電気漁法の影響を調べた研究はきわ た海水中では酸化力のある複素はアンモニアやその他の めて少ないが,カラフトマスの採卵,採精直前の毅魚に 有機窒素化合物と反応してクロラミンを生ずるため,注 対する電気ショックの有無や受精直後の卵に対する電気 入した塩素注入援の一部がいわゆる複素要求愛として消 ショックの有無が後期発眼卵段階での死卵率に及ぼす影 費される 22)。このため塩素要求量を見込んで塩素注入量 響を調べた研究 20) によれば,機親への電気ショックは を高める必要があるが,冷却用海水は通常 2~15分程度 影響がないが,成熟雌親魚に対する電気ショックは死卵 の短い時間で排出されてしまうため,低い濃度の塩素を 率を 15.8%から 27.6%に増加させた。この原因として雌 連続的に注入しているのが普通である。一方,排出待に 親の一部に内蔵が破れ,卵が体液に漬かっている状態が は残留複素量が排出基準以下になることが要求されてい 発見されたことから,体液が卵の受精能を滅返させたの るが,さらに公害防止協定により復水器出口で残留塩素 ではないかと推測されたが,受精卵への霞気ショックも 濃度が零となるよう管理するよう規制されることになっ 死卵率を増加させたことから,体液だけが死卵率の増加 た。したがって塩素注入量は必要最小限の量に微妙に調 の原鴎ではないことが考えられた。この研究は,雌親魚 整されなければならない 23)。 示唆 や受精卵を電気ショックにさらすべきでないことを f 4 ) 残留塩素の生物毒性 している。 5 . 海水通電により生ずる犠素の生物毒性 淡水に対する通電ではほとんど問題にならないことで 冷却水が排出される際に残留塩素も温排水とともに馬 辺海域へ放出されるが,これが温排水鉱数海域に生息し ている魚介類に及ぼす影響が懸念される。クロダイおよ 0 分 TLm びメジナの半数致死濃度を調べた報告24)では, 6 あるが,海水の場合には通電によって複素が発生し,塩 はそれぞれ 0 . 6 2p p m .0.34ppmであり, 12時 間 TLmは 素の強い酸化カによって魚介類が死滅する危険性がある。 . 1 1ppmであった。水産用水基準では魚そ 両種ともに 0 海水中に電気スクリーンを設置する際にこの穫の危険が の他の水生生物の正常な生怠および繁殖が維持され,そ 生ずることを指摘しておきたい。 の水域における漁業生産が支障なく行われ,かつその漁 1 ) 塩素の利用 獲物の経済的価値が損なわれることのない水域の水質と 複素は常庄では黄緑色の強烈な臭気のある気体であり, . 0 2ppm以下としているが,安全濃 して残留塩素量で 0 空気より重い。気体の複素は圧力を加えると液化し,糞 8 待問 TLmに安全係数 0 . 1を乗じたも 度の算出は一般に 4 電気ショックに対する魚類の反応、 のとされているため,メジナおよびクロダイの 1 2時間 TLmを代用すると安全濃度は 0 . 0 1ppmとなり,水産用 水基準値を下回ることになる。 5 ) 5 ) 電気スクリーン作動!こともなう塩素の発生霊 実海域に電気スクリーンを設置し作動させた場合の塩 6 ) 素発生震はどの程度のものだろうか。まず前畑らが海洋 牧場のために試作している 3極 2電位型電気スクリー ン 7 ) , 8) が作動した場合に発生する塩素量を試算する。 7 ) 4m長のプスバーと銅系電極俸(直径 2 0 スクリーンは 4. mm)を電気的に接合して組み立てた 3組のスクリーン電 極を配列することにより構成されている。このスクリー 8 ) ン電極によって囲まれる海水の体積は,水深を 1 .5mと すると約 1 0トンになる。このスクリーン電極に直流電圧 l OVをかけるとスクリーン電流は 600Aとなるため 待問当たり 600Ahの電力を消費し,したがって複素発 生効率を 100%とすれば毎待 793gの塚素が発生し,これ 9 ) が完全に海水に溶け,立つ希釈されなければ, 7 9 . 3ppm の高濃度となる。 1 0 倍に希釈されても 7 . 9ppmである。 たとえ海水が富栄養化しており塩素要求最が 5ppmであ 1 0 ) 1いてもなお残留塩素濃度は 2.9ppmを ってこれを差し 5 示し,危険である。 筆者は海水を入れた長さ 30cmの水槽の筒端に鋼板電 1 1 ) 極を設置し, 12Vの直流を 1時開通電後の海水にアイナ メを入れて観察したところ持間以内にへい死した。 またこの海水の 1 0 倍希釈海水にアイナメを入れたところ 1 2 時間以内にへい死を確認した。上記試作電気スクリー 1 2 ) ンの作勤時に実験魚の死亡はみられなかったようである が,よほど拡散がよかったのかも知れない。電気スクリ 1 3 ) ーンの設置によって囲いの中の魚が死んだり,周囲の魚 介類に危害を及ぼしては何にもならない。実際のところ はどうなのかを知るため,電気スクリーン周囲の残留塩 素濃度の測定が望まれる。 1 4 ) 電気スクリーンを海水中で作動させると発生する塩素 の量は電流に比例するため,消費電流を少なくすること が第ーである。それには少ない電流で感電,麻療を可能 1 5 ) とする電流波形の選択や最小限必要な刺激頻度の採用な どの工夫が必要であろう。 1 6 ) 引用文献 1 ) 黒木敏郎:電戟漁法,技報室主,東京, 1 9 5 5 . .G .e d .: D e v e l o p m e n t si nE l e c t r i cF i s h i n g, 2 ) Cowx,l F i s h i n g News B o o k sB l a c k w e l lS c i e n t i f i cP u b l i c a x f o r d,1 9 9 0 . t i o n s,O lG .a n dP .L a m a r q u ee d s . :F i s h i n gw i t h 3 ) Cowx, . E l e c tγi c i t y .F i s h i n gNewsB o o k sB l a c k w e l lS c i e n t i f i c P u b l i c a t i o n s .O x f o r d .1 9 9 0 . 4 ) 前畑英彦・荒井浩成・大工博之・大谷誠二・浜田 盛治:電気スクリーン方式による海域遮断技術の 開発(第 1報)一魚介類の行動指j 御のための電気 1 7 ) 1 8 ) 1 2 5 スクリーンの基礎的実験および遮断性能確認実験 p .1 9 .1 9 8 8 . 一,水産土木, 24,p 勾 u: S e n s i t i v均 t oe l e c t r i c i t yi n A s a n o .M.a n dl .Ha a r a s i l u sa s o t u s .C o m p .B i o c h e m . t h ec a t f i s h .P P h y s i o. l 86A.p p .485-489.1987. A s a n o . M.a n dl .Hanyu: B i o l o g i c a ls i g n i f i c a n c eo f u l l .]a p .] e l e c t r o r e c e p t i o nf o raJ a p a n e s ec a t f i s h .B S c i .F i s h .5 2 .p p .795-800.1986 S m i t h .E . D . :E l e c t r o p h y s i o l o g yo ft h ee l e c t r i c a l s h a r kr e p e l l a n t .T r a n s a c t i o n so ft h eS o u t hA f r i c a n p .1 6 6 1 8 5 . I n s t i t u t eo fE l e c t r i c a lEnginee~s, 65. p 1 9 7 4 . 前畑英彦・荒井浩成・大工博之・塚原正徳・大谷 誠二・鴻本武郎:電気スクリーン方式による海域 遮断技術の開発(第 2報)一海洋牧場のための電 気スクリーンシステムの試作および性能確認実験 一,水産土木, 26,p p . 5 1 2,1 9 9 0 . , t P . A . M . :E l e c t r i f i e db a r r i e r sf o rm a r i n e S t e w a r e v e l o p m e n t si nE l e c tγ i c f i s h .I nl .G . Cowx e d .:D F i s h i n g .F i s h i n gNews B o o k sB l a c k w e l lS c i e n t i f i c P u b l i c a t i o n s .O x f o r d .p p .243-255.1 9 9 0 . a r m f u le f f e c t so ft h ee l e c t r i c H a u c k .Fヌ.:Someh a n s .A m e r .F i s h . s h o c k e ro nl a r g er a i n b o wt r o u t .Tγ S o c .,7 7 .p p .61-64.1947. S h a r b e r .N .G .a n dS .W.C a r o t h e r s:I n f l u e n c eo f e l e c t r i cf i s h i n gp u l s es h a p eo ns p i n a li n j u r i e si na d u l t . .D e v e l o p m e n t si n r a i n b o wt r o ut .I nl .G . Cowx巴d E l e c tγ i cF i s h i n g .F i s h i n g News Books B la c k w e l l S c i e n t i f i cP u b l i c a t i o n s .O x f o r d .p p .19-26.1 9 9 0 . . A .a n dK .L a n t z:P h y s i o l o g i c a le f f e c t so f B u r n s,T r o g r e s s i v eF i s h e l e c t r o f i s h i n go nl a r g e m o u t hb a s s .P 0 .p p .148-150.1978 c u l t u r i s t .4 S c h r e c k .C . B . .R .W h a l e y .M.L .B a s s .O . E .Maughan a n dM.S o l a z z i:P h y s i o l o g i c a lr e s p o n s e so fr a i n b o w S a l m og a i r d n e ri )t oe l e c t r o s h o c k .J .F i s h . t r o u t( R e s .B d .C a n . .33,p p .7 6 8 4 .1 9 7 6 . n d R. J .S t r a n g e :P h y s i o l o g i c a l Woodward. C . a s t r e s sr e s p o n s e si nw i l da n dh a t c h e r y r e a r e dr a i n b o w , tT r a n s .A m e r .F i s h .S o c . .116.p p .574-579. t r o u 1 9 8 7 . 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T r a n s .A m e r .F i s h .S o c . . l O O .p p .546-552.1971 . c . 1 2 6 水産工学 .a n dE .L o n s d a l e:E x p e r i m e n t a ls t u d yo f 1 9 ) K y n a r d,B g a l v a n o n a r c o s i sf o rr a i n b o wt r o u t(Salmog a i r d n e ri ) i m m o b i l i z 司t i o n,J .Fish. R e s . Board C a n .,3 2,p p . 300-302,1 9 7 5 . . A .・E f f 巴c t so fe l e c t r i cs h o c k i n gonf e ト 2 0 ) M a r r i o t t,R t i l i t yo fm a t u r ep i n ks a l m o n,P r o g r e s s i v eF i s h c u l s t, 35,p p .191-194,1 9 7 3 . t uγi 2 1 ) 平形 蒸:電解法における問題点と進歩,セミナ 一「クロリネーションの過去と現在ークロリネー ションに未来はあるか」予稿集,電気化学協会・ 9 8 6 . 海生生物汚援対策懇談会, 1 2 2 ) 桑原 連:冷却用海水の複素処理に関する水質化 7,p p .3-25,1 9 8 6 . 学的研究,水処理技術, 2 2 3 ) 桑原 連:クロリンの魚介類への影響,セミナー Vo. l2 8 No.2 fクロリネーションの過去と現在ークロリネーシ ョンに未来はあるかj 予稿集,電気化学協会・海 9 8 6 . 生生物汚援対策懇談会, 1 2 4 ) 鈴木康二・難波高志:魚類に及ぼす残留塩素の影 響について,セミナー「クロリネーションの過去 と現在 クロリネーションに未来はあるか」予稿 集,電気化学協会・海生生物汚損対策懇談会, 1 9 8 6 . (本報文は平成 2年 1 1月 6日に開催された平成 2年 度 B本水産工学会シンポジウム「水産増養殖への新技術導 入の現状と問題点Jで課題提供した内容をまとめたもの である。)
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