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電気ショックに対する魚類の反応
誌名
水産工学
ISSN
09167617
著者
山森, 邦夫
巻/号
28巻2号
掲載ページ
p. 121-126
発行年月
1992年3月
農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波事務所
Tsukuba Office, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat
水産工学 F
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.pp.121~126. 1
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Vol
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1
[報文】
電気ショックに対する魚類の反応
森 邦 夫 *
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oYAMAMORI
本
1
.
はじめに
っくり育てる漁業の新しい展開には種々の技法が開発
リスで電気漁法に関するシンポジウムが開かれた 2},3)。
1
) 感震と麻痔
魚(フナ)を実験水槽に入れて電気刺激をかけるとそ
される必要がある。魚織を用いるかわりに電流の感電・
の強さに従って魚は種々の段階の反応を示すが,黒木の
麻簿作用を利用して魚類を誘導したり捕獲したりするア
観察 1) に従えばつぎのようになる。実験水槽として巾 5
イデアは電気漁法として知られるが,電気漁法は淡水域
の一部を除いてほとんど利用されていない。海水域で電
c
m
.長さ 5
8
c
m
.水深 6
.
5
c
mの水槽を用い,水の両端に
巾5
cmの鋼板を水深一杯に入れて電極とし,両電極聞
気漁法が利用されにくい主な原因は,海水は篭導度が高
に交流電圧をかけた。
いため通電に多量の電力が必要になることであるが,他
①通電しない時,魚は腹を水槽の底につけて平静な状
にも解決しなければならない問題がある。海洋牧場周柵
態で呼吸を行い,各ヒレは任意随時静かに動かしている。
として電気スクリーン方式による海域遮断技術を実用化
②極微震圧の電流を通ずると胸ヒレのみをせわしく動か
するためには工学的には消費電力の低減化を図ることが
し始めるが他には変化が認められなし、。③電圧を僅かに
重要になるが,それには電気に対する魚類の反応につい
上げると水底から腹部を離して,胸ヒレのみならず鬼ヒ
ての生物学的知識が基礎となる。また通電が魚類に及ぼ
レの先端をも震わせるようになる。@しまだ静かである。
すかも知れない部次的影響についても十分把握しておく
④更に電圧を上げると通電した瞬間に反射的に銚び泳ぐ
必要がある。ここでは主に淡水魚を用いて得られた研究
に至る。⑤更に電圧をよげると筋肉強縮状態のままで無
報告を基に,電気による魚類の感電・麻療現象,魚類の
理に泳ごうとして水構内を苦しそうに移動する。⑤更に
電気感覚,さらに電気漁法が魚類に及ぼす影響について
電圧を上げると体の自由は全く利かなくなり時たまピク
紹介する。
ピクと動く。⑦更に電圧を上げると仮死状態になり横に
2
.
感電・麻痔
電流による感電現象は人聞が電気を発見して以来気付
倒れた姿勢になってしまう。水面に浮く事もあり,水底
に沈むこともあり水中に懸かったままで動かない事さえ
も生ずる。
かれていたことと恩われる。また,電流を利用して魚類
これらのうち反応基準として f
感電 j 識別には④の
を誘導しようとする電気漁法のアイデアは新しいもので
状態. r
麻簿 j の識別には⑦の状態が分かりやすいとい
はなく,イギリスでは 1
8
6
3年に特許申請がなされたとい
ユ 1)
ノ
。
う。日本においても 1
8
8
5
年に高橋元義が電気捕鯨機およ
2
) 電流波形による刺激効果の差異
び電気釣針の特許を得て以来,電気漁法に関する数々の
電気刺激に対する魚類の反応は電流波形によってやや
研究がなされ. 1
9
5
5年には黒木の「電戟漁法J1}が出版
呉なる(密-1)。直流を用いた場合には感電した魚が陽
された。日本では電気漁法は禁止されているが,欧米で
極へ誘引される性質があるとされ,淡水域での漁獲に応
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gと称して淡水魚の調査・研究のために
用されているが,省電力が重要になる海水域では交流や
ポータプルな機器を用いた電気漁法が多用されており,
断続電流の方が感電や麻簿効果は強いので有利である 3)。
これに関する研究・開発も活発であり. 1
9
8
8
年にはイギ
1
9
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1年 1
1月 1B 受理
事
jヒ豆大学水産学部千 0
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1岩手県気仙郡三陸吋越
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2
01
)
水中で長さ 1
cmあたりに掛かる電圧を電位傾度とす
ると,電流の刺激効果は電位傾度の増加に伴って強くな
るが,キンギョを照いた交流,両波整流,半波整流の各
篭流の刺激効果の比較実験1}によれば,感電電圧,麻捧
電圧ともに最小篭圧は,南波整流で最大,半波整流で最
1
2
2
水産工学
Vo.
l2
8 No.2
せしめるには歪らないから幼魚の保護が可能である j と
黒木は記しているが. r
感電について体長の小なるもの
川Y
¥ハ
ハ
阿波主主流
交流
が敏感であるのは体長が小なる側で著しく,体長の大な
るに伴い減じ. 10-11cmの体長では殆ど差がなくなる。
魚の種類によってはむしろ逆になるとさえ推察される J
とも記している。実際,最近,前畑らが 2-13cmのマ
土手波整流
ダイで比較した実験では,感電も麻療も体長の大きいも
nnll
のの方が敏感であった 4)。
ハハ
んサイン i
皮
1
ノ
,
)レス
阪
長方形
ノ
ミ J
レス
蓄電器放電
ノ
, )
レス
1 電流波形の種類
5
) 局所刺激に対する魚類の反応
黒木 1) は様状の細長い電極を用いて魚の周盟を局所的
に刺激した場合の反応を調べた。体縞方向に刺激する場
合であるが,アナやハゼにおいて限の儀か後方の点から
吻端へわたる範密に局所的に電気刺激すると魚は転向し
て後方へ逃げ去り,一方,その点、から尾端の方へわたる
範囲を刺激すると,体の大部分が電流密度の大きい区域
体深方向
を通過するにもかまわずに魚は前進し,篭援問を突破し
て前方へ逃げ去る。このように電気刺激がかかるとき前
進後退の運動分岐の境界となる部位を黒木は~
(ツェー
タ)点と呼んだ。
ウナギの場合1)ほぼ遊泳運動の中心と恩われる点、を
援にして,それより頭部側を刺激するとウナギは後退し,
が電極にふれる
それより後方を刺激するとウナギは体銀u
図-2 魚体に流す電流の方向
のも構わないで強引に前進した。
エヒの場合は1) ~点よりも前方を刺激すると後方へ普
小となり,交流と比較した場合,両波整流は 2-4倍の
通の仕方で飛び退くし,後ろを刺激すると前方へ逆立ち
電力を必要とするのに対し,半波整流では1/
3-2/3の電
の姿勢をとって飛び進む。体俣uより高い位置に電極をお
力ですむという。
けば,エビはとびはねないでゴソゴソ這って前進し,そ
3
) 電流方向による刺激効果の差異
して C点が電極の真下を通りすぎてから前へ跳ねる。ま
電流の感電作用や麻簿作用は電流が魚体のどの方向に
たエビは電気刺激に対して著しく敏感である。
流れるかによって異なる(悶 -2)。関内がキンギョを用
いて行った実験結果 1) では,感電作用を起こすのに必要
な電位傾度は体鴨方向が最大で体長方向の 5倍を要し,
3
.
電気惑覚
電気スクリーンによって海域を遮断する目的は養殖魚、
体深方向でも 3
.
6倍を必要とした。また麻簿作用を起こ
の逃亡を妨くとともに食害魚の侵入を防ぐことにある。
すのに必要な電位傾度はそれぞれ2
.
2
倍と 2
.
4
倍であった。
電気スクリーンは感電・麻療経験と電気感受とを結びつ
魚の体長方向に電流を流した場合,魚が体位を転換し
ける魚類の学習効果に期待するものであるから,その効
て,刺激効果の小さい,電流にま農産の位霊へと移ること
巣は各魚、穫の電場感知能力や学習能力,記憶保持能力な
を筆者もしばしば観察した。
どによって異なってくるものと恩われる。
4
) 魚のサイズによる刺激効果の差異
1
) 電気感受性の測定法
魚に対する電流の刺激効果は電流が体長方向に流れた
魚類の電気感受性を測定する方法は様々に考えられる
ときが最も大きい。この方向で 6-llcmのキンギョに
が,生理学的には心臓反射や呼吸反射を利用することが
対する刺激効果を比較した黒木の実験ではへ感電につ
できる 5) 。魚に電気刺激を加えると反射的に呼吸運動が
いては体長の小なるものが敏感であったのに対し,麻療
停止したり緩徐となるが,この応答は餌を与えることで
については体長の大なるものが低電圧で麻簿してしまう
強化することができる。呼吸運動を電気的に記録しなが
傾向があった。「これは同一魚種でも幼魚と成魚とでは
ら電気刺激を与え,応答が得られたときに鱗を与えると
影響が呉なることを意味し,幼魚、保護の観点から立てば
いう訓練を繰り返しつつ刺激電圧を下げて行くと,やが
有利な現象である。すなわち,感電電圧を低くとれば幼
て反応が認められない電圧に行きつく。ここで反応率が
魚を排除しつつ,成魚を呂的域に導入しうる。また麻療
50%となる電圧を喜劇直とする。一般の魚類の電気感受性
電圧を低くとれば成魚を麻薄させる場合でも幼魚を麻簿
はほとんど研究されていないが,ウナギやコイではそれ
1
2
3
電気ショックに対する魚類の反応
ぞれ 1
mV/cm,30mV/cmの腐値が報告されているヘー
収縮することにより脊椎骨が壊れたり,ずれたり,その
ブ
J,ナマズの仲間や大部分のサメ・エイ類は電気受容を
際に血管が破れたりする。えらの毛細血管の破裂も起こ
機能とする特殊化した側線器をもち,微弱な電流に対し
る
。 f
こだ l聞のパルスが,そして時には低い電圧のパル
ても反応し,その関債も 0.1~0.01μV/cm 程度と著しく
スが,このような障害を生むのに充分であったりする。
低い。この高度の電気感受性は索餅行動などに利用され
サケ科では皮膚の検査を通して脊椎骨が障害を受けてい
ていると考えられている 6)。
るかどうかを簡単に調べることができる 3)。交感神経が
2
) 海水中での電気スクリーンの使用例
傷つくと黒色素胞に対するアドレナリン分泌がなくなっ
サメは電気に非常に敏感であるが,南アフリカのルシ
てメラニン穎粒が拡散するため樟害部分に黒いスポット
ア湾の沿岸でサメ用の東日し網の代わりに使用することを
奇的として電気スクリーン・システムが試験された 7)
が見えるようになるからである。
電気ショックが脊椎骨に損傷を与える危険性 l
丸電流
30mの長さの裸の鋼電極が水深 3mの海底に 6m離れて
波形により異なる。すなわち,一般的に直流がもっとも
.
8
m
s,1
5
H
zのパ
設置され,電極にパルス発生器からの 0
安全であり,交流が最も危険であり,直流ノ')レスがその
ルスが流された。このシステムの電力消費は少なくとも
中間に位置するといわれている。震流ノミルス電流によっ
8kWであった。このスクリーンはサメの通常の殴遊コ
て捕獲されたニジマスの約50%が平均 8偲の脊椎骨に損
ースに仕掛けられ,その効果を調べるために忌避しなか
傷を受けるという報告もある日〉。
ったサメを捕らえるための刺し網がスクリーンの上に仕
掛けられた。スクリーンに通電された 7か月以上の潤,
2
) 生理学的影響
ラージマウスパスに対する電気ショックが血液や組織
8尾
織にかかったすメは皆無であったが,通電を停止後 2
に及ぼす影響を観察した研究がある 12)。直流ノ〈ルスで刺
が捕らえられた。
激後, 0
,1
,3
,5
.
5,1
9
時間後に対照と比較してへそグ
3
) 魚の学習・記憶能力
ロどン量,ヘマトクリット値,血紫タンパク量,筋肉組
前畑らが試作した電気スクリーンの性能確認試験にお
織中水分震には有意な差は認められなかったが,血祭乳
いて 4). 8)
試験魚であるマダイは放流後 1B闘は群単
位で行動せず全体にばらばらに行動し,スクリーンへの
酸最は 1時間後には有意に高くなり,
3時間以内に元の
レベルに戻るが,その後更に減少した。一般的にどのよ
2日目以降は群単
うな捕獲法によるストレスも血中乳酸レベルを増加させ
位で行動を始め,スクリーンへの接近も見られなくなっ
るため,これは電気漁法に特有な変化ではないとしてい
た。マダイが「スクリーン十電気刺激という学習 j をし
る
。
侵入および忌避行動を繰り返したが
たためと考えられる。この学習効果持続時間をスクリー
養殖ニジマスの呼吸・循環機能,血液性状に及ぼす電
ンへの通震を停止して鋭察したところ,約 5分間はスク
気ショックの影響を調べた研究もある山。電気ショック
リーンに近づくことなく,その後徐々に近づきスクリー
後,魚は呼吸運動を 6
0秒間止めたり,または 3
0秒間にわ
ンへの侵入を始めるようになり,さらに通電停止後, 1
0
たり激しい洗浄運動を示したりした。心電図では T波の
~15分間でスクリーンの存在にまったく関係なく行動す
増大が起こり,時には Ti
皮が QRSと同程度に増大する
るようになった。この実験から,マダイの電気ショック
個体がみられたが,これは 1~ 3分後にピークに達し,
に対する学習効果時間は 5~10分間とみられる O
4~5 分後に元に戻るという一時的なものであった。こ
大西洋サケに対する電気スクリーンの遮断効果を競べ
の他,血中の手L
費費量,グルコース量,コルチゾール量が
た実験においても透篭停止後比較的短時間で電気スクリ
電気ショック後,増加するが 6時間後に乳酸量は元のレ
ーンに対する忌避行動が認められなくなることが観察さ
ベルに戻った。これらの電気ショックによる影響は一般
れている 9)。
的なストレスや窒息時の影響に似ていたとしている。
4
.
毒気漁;去の魚に及ぼす影響
欧米では淡水魚の調査・研究のためにポータブルな機
野性ニジマスと養殖ニジマスとで電気ショックに対す
る反応;に遠いがあるl4l。魚、が持軍嫁するまで電気ショック
を与えた後の血中のコルチゾール量は,養殖ニジマスで
器を用いた電気漁法が多用されている。このため魚に対
は0
.
5時間後に 70ng/mQのピークを示したが 1時間後に
する電気漁法の効果・影響についての研究も多い。電流
は元のレベルに戻った。一方,野性ニジ、マスでは l時間
4日後もかなり高
の感電・麻簿作用によって魚、を誘導・捕獲する際に魚に
後に 2
34ng/mQのピークに達したが
及ぼす劉次的影響や後遺症についても充分に把援してお
いレベルを維持した。また野性ニジマスには 5.5%の死
く必要がある。
亡があったが,養殖ニジマスにはなかった。
]
) 解剖学的影響
3
) 成長に及 i
ます影響
電気ショックによって脊椎骨が曲がったり,出血した
電気ショックが及ぼすより長期間の影響に関してもさ
りする 10)。通電によって左右の体側筋が激しく向時的に
まざまな報告がある。
1
2
4
水産工学
12 か月の内に天然水域で 2~7 回の直流ノ')レスを受け
Vo.
l28 NO.2
褐色透明な油状の液体塩素になる。塩素は常温では水に
1%程度溶解し黄色を呈する。塩素が水道水の滅
た野性ニジ、マスや野性フラウントラウトの成長は,同一
0.5~
地域の同一種の向一年令の魚の平均成長率に比較して低
菌に用いられていることは広く知られているが,海水を
い成長率を示した 15)。この成長率の低下は 3歳以上の魚
冷却水として使用する火力発電所,原子力発電所,化学
より 1~ 2歳魚で顕著であり,また電気ショックから回
工場,船舶などでは海水取水径路に塩素を注入してアジ
.5か月
復するために 3か月以上経過した魚より,過去 2
ツボ,ムラサキイガイなどの海洋生物の付着防止を図っ
以内に電気ショックを受けた魚の方が顕著であった。
ている。塩素注入法としては液化塩素などの塩素予測を注
養液魚の成長に対する電気ショックの影響についての
報告もある 16)。雑種のサンプイッシュの成長に対する電
気ショックの影響を観察した実験で,スタート特に差が
なかった体震が,
3か月後には対照、に比較して電気ショ
ックを毎週与えられたグループは著しく悪く
2週に 1
回や 4週に l回,または実験スタート時に 1回だけ与え
られたクソレープも対照より悪かった。このことは餌を充
入する方法の他に海水を電気分解して次E
主主塩素酸ナトリ
ウムを生成する方法がある 2))。
2
)
海水通電による塩素の発生
海水を電気分解すると陽穏に塩素が発生し,陰極に水
酸イオンと水素が生成する。
揚極
2
C
l→ Ch+2e
陰極
2H20+2巴 → 20W+H2t
分に与えられる養殖魚に対しでも電気ショックは慈影響
発生した複素は水酸化ナトリウムとただちに反応して有
を与える可能性を示している。
効複素源である次混塩素酸ナトリウムとなる。
これに対して,影響しないとの報告もある。すなわち,
液中
C
I2+2NaOH→ NaCIO+NaCl+H20
養殖ニジマスの生残率,成長,生産力は電気ショックに
電気化学的には 2ファラデーの電気量で lモルの次連塩
よって影響されず,またその子孫の生残率や発育も影響
素酸ナトリウムが生成することになり,一般に用いられ
されないとの報告17>電気麻酔はニジマス I歳魚の成長
る有効塩素震に換算すれば 1Ah当たり1.3
23gとなる。
や暗臨選択行動に影響しないとの報告 18に電気ショック
はニジマスやカワマスの生残率に影響しないとの報告 19)
が見られる。
4
) 生殖機能に及ぼす影響
総括
NaCl+H20→ NaCIO+H2t
3
) 海水の塩素要求震と残留顎素霊
冷却用海水の滋素処理では海洋生物付着妨止のために
有効な塩素濃度を保つ必要があるが,汚濁・富栄養化し
生殖機能に及ぼす電気漁法の影響を調べた研究はきわ
た海水中では酸化力のある複素はアンモニアやその他の
めて少ないが,カラフトマスの採卵,採精直前の毅魚に
有機窒素化合物と反応してクロラミンを生ずるため,注
対する電気ショックの有無や受精直後の卵に対する電気
入した塩素注入援の一部がいわゆる複素要求愛として消
ショックの有無が後期発眼卵段階での死卵率に及ぼす影
費される 22)。このため塩素要求量を見込んで塩素注入量
響を調べた研究 20) によれば,機親への電気ショックは
を高める必要があるが,冷却用海水は通常 2~15分程度
影響がないが,成熟雌親魚に対する電気ショックは死卵
の短い時間で排出されてしまうため,低い濃度の塩素を
率を 15.8%から 27.6%に増加させた。この原因として雌
連続的に注入しているのが普通である。一方,排出待に
親の一部に内蔵が破れ,卵が体液に漬かっている状態が
は残留複素量が排出基準以下になることが要求されてい
発見されたことから,体液が卵の受精能を滅返させたの
るが,さらに公害防止協定により復水器出口で残留塩素
ではないかと推測されたが,受精卵への霞気ショックも
濃度が零となるよう管理するよう規制されることになっ
死卵率を増加させたことから,体液だけが死卵率の増加
た。したがって塩素注入量は必要最小限の量に微妙に調
の原鴎ではないことが考えられた。この研究は,雌親魚
整されなければならない 23)。
示唆
や受精卵を電気ショックにさらすべきでないことを f
4
) 残留塩素の生物毒性
している。
5
.
海水通電により生ずる犠素の生物毒性
淡水に対する通電ではほとんど問題にならないことで
冷却水が排出される際に残留塩素も温排水とともに馬
辺海域へ放出されるが,これが温排水鉱数海域に生息し
ている魚介類に及ぼす影響が懸念される。クロダイおよ
0
分 TLm
びメジナの半数致死濃度を調べた報告24)では, 6
あるが,海水の場合には通電によって複素が発生し,塩
はそれぞれ 0
.
6
2p
p
m
.0.34ppmであり, 12時 間 TLmは
素の強い酸化カによって魚介類が死滅する危険性がある。
.
1
1ppmであった。水産用水基準では魚そ
両種ともに 0
海水中に電気スクリーンを設置する際にこの穫の危険が
の他の水生生物の正常な生怠および繁殖が維持され,そ
生ずることを指摘しておきたい。
の水域における漁業生産が支障なく行われ,かつその漁
1
) 塩素の利用
獲物の経済的価値が損なわれることのない水域の水質と
複素は常庄では黄緑色の強烈な臭気のある気体であり,
.
0
2ppm以下としているが,安全濃
して残留塩素量で 0
空気より重い。気体の複素は圧力を加えると液化し,糞
8
待問 TLmに安全係数 0
.
1を乗じたも
度の算出は一般に 4
電気ショックに対する魚類の反応、
のとされているため,メジナおよびクロダイの 1
2時間
TLmを代用すると安全濃度は 0
.
0
1ppmとなり,水産用
水基準値を下回ることになる。
5
)
5
) 電気スクリーン作動!こともなう塩素の発生霊
実海域に電気スクリーンを設置し作動させた場合の塩
6
)
素発生震はどの程度のものだろうか。まず前畑らが海洋
牧場のために試作している 3極 2電位型電気スクリー
ン
7
)
,
8)
が作動した場合に発生する塩素量を試算する。
7
)
4m長のプスバーと銅系電極俸(直径 2
0
スクリーンは 4.
mm)を電気的に接合して組み立てた 3組のスクリーン電
極を配列することにより構成されている。このスクリー
8
)
ン電極によって囲まれる海水の体積は,水深を 1
.5mと
すると約 1
0トンになる。このスクリーン電極に直流電圧
l
OVをかけるとスクリーン電流は 600Aとなるため
待問当たり 600Ahの電力を消費し,したがって複素発
生効率を 100%とすれば毎待 793gの塚素が発生し,これ
9
)
が完全に海水に溶け,立つ希釈されなければ, 7
9
.
3ppm
の高濃度となる。 1
0
倍に希釈されても 7
.
9ppmである。
たとえ海水が富栄養化しており塩素要求最が 5ppmであ
1
0
)
1いてもなお残留塩素濃度は 2.9ppmを
ってこれを差し 5
示し,危険である。
筆者は海水を入れた長さ 30cmの水槽の筒端に鋼板電
1
1
)
極を設置し, 12Vの直流を 1時開通電後の海水にアイナ
メを入れて観察したところ持間以内にへい死した。
またこの海水の 1
0
倍希釈海水にアイナメを入れたところ
1
2
時間以内にへい死を確認した。上記試作電気スクリー
1
2
)
ンの作勤時に実験魚の死亡はみられなかったようである
が,よほど拡散がよかったのかも知れない。電気スクリ
1
3
)
ーンの設置によって囲いの中の魚が死んだり,周囲の魚
介類に危害を及ぼしては何にもならない。実際のところ
はどうなのかを知るため,電気スクリーン周囲の残留塩
素濃度の測定が望まれる。
1
4
)
電気スクリーンを海水中で作動させると発生する塩素
の量は電流に比例するため,消費電流を少なくすること
が第ーである。それには少ない電流で感電,麻療を可能
1
5
)
とする電流波形の選択や最小限必要な刺激頻度の採用な
どの工夫が必要であろう。
1
6
)
引用文献
1
) 黒木敏郎:電戟漁法,技報室主,東京, 1
9
5
5
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前畑英彦・荒井浩成・大工博之・塚原正徳・大谷
誠二・鴻本武郎:電気スクリーン方式による海域
遮断技術の開発(第 2報)一海洋牧場のための電
気スクリーンシステムの試作および性能確認実験
一,水産土木, 26,p
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) 桑原 連:クロリンの魚介類への影響,セミナー
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) 鈴木康二・難波高志:魚類に及ぼす残留塩素の影
響について,セミナー「クロリネーションの過去
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集,電気化学協会・海生生物汚損対策懇談会,
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(本報文は平成 2年 1
1月 6日に開催された平成 2年 度
B本水産工学会シンポジウム「水産増養殖への新技術導
入の現状と問題点Jで課題提供した内容をまとめたもの
である。)