第7章 事業戦略のための管理会計 1つの事業を基礎にした市場と企業との関係 1.戦略的コスト・マネジメントの意味 2.価値連鎖分析の意味と付加価値分析の違い 3.価値連鎖分析と差別化戦略 シャンク=ゴビンダラジャンによる 『戦略的コスト・マネジメント』(1995年)を中心に解説する。 1.戦略的コスト・マネジメントの意味 戦略的コスト・マネジメント SCM(シャンクら) 価値連鎖 戦略的ポジショニング コスト・ドライバー分析 価値連鎖分析 価値連鎖とは 「基本的原材料や素材から最終消費者が手にする製品 までの間で行われる価値の創造(付加価値)関係全体」 である(シャンクら、1995)。 価値連鎖分析を行うことにより、戦略的課題が何かを知 り、競争優位を獲得・維持する可能性が出てくるのである。 従来の価値連鎖 購買から営業までのプロセス 現在の価値連鎖 企画・開発段階のコスト マーケティング サービスのコスト ライフサイクル・コストなどを含む 戦略的ポジショニング分析 ビジネス・ユニットの戦略:ミッションと目標、事 業単位の競争優位獲得方法の2つ要素をもつ。 ミッションと目標 市場占有率の向上を目標とするBuild、 市場占有率や競争地位の維持を目標するHold、 短期的利益キャッシュ・インフローを目標とするHarvest →3つのミッションによって、戦略計画、予算編成、報酬制度が変 化することを指摘する(シャンクら)。 競争優位獲得方法 戦略的ポジショニング分析:コスト・リーダーシップ戦略、製品差別 化戦略のどちらを選ぶかを分析する方法。 戦略的ポジショニング分析 コスト・リーダーシップ戦略とは 競争相手よりも低価格を実現することにより、 競争優位に立つ戦略であり、Harvestというミッ ションに適合する。 製品差別化戦略とは 事業単位における製品を顧客にとって特別な ものとして差別化することによって競争優位に 立つ戦略であり、Buildというミッションに適合す る。 コスト・ドライバー分析 コスト・ドライバー分析とは コストが発生する複数の関連した要素の間での 相互関係を分析するものである。 伝統的コスト・ドライバー 産出量 シャンクらによる分析 構造的コスト・ドライバー 遂行的コスト・ドライバ 構造的コスト・ドライバー →規模、範囲、経験、技術、製品ラインの複雑度など 遂行的コスト・ドライバ: →現場の人間の参加、TQM、稼動率、工場レイアウトなど。 →ex)品質コスト分析:予防原価、評価原価、失敗原価など 伝統的コスト分析と戦略的コスト分析 戦略的コスト分析の特徴 ① ② ③ ④ 付加価値よりも総合的価値連鎖に注目する。 社内よりも社外に焦点がある。 基本的戦略的ポジショニングにより戦略的コ スト・マネジメントの中身が異なる。 コストを生産量の関数と捉えるのではなく、競 争戦略と戦略実施管理能力の関数と捉える。 (シャンクら、1995) レベニュー・ドライバーとは何か レベニュー・ドライバーとは 収益に変化をもたらす要因、あるいは収益を 測定する代理変数である。 収益もレベニュー・ドライバーによって測定できるかと いう問題について。 →どのファクターが収益にどれだけ貢献したかを把握 するのが困難な点である。 →Ex)広告、宣伝費・研究開発費の設定など、それらの 支出と効果の関係については不確実である。 2.価値連鎖分析の意味と 付加価値分析との違い 価値連鎖分析の特徴ー付加価値分析との相違点 価値連鎖分析は、価値創造活動全体を対象 にする。 付加価値分析では、川上のサプライヤーや川 下の顧客との関係を変化させることによるコス ト削減や差別化を拡大するための機会を見つ けにくい。 付加価値分析では、原材料と他のコスト要素 の関係を利用したコスト削減の機会も考慮し ない。 価値連鎖の再編成と原価低減 価値連鎖の再編成 意義:持続的な優位を築くことである。 再編成の際に自社と他社の価値創造活動の全 体を把握する必要がある。 →供給業者との関係、製品が顧客の価値連鎖にフィット するかどうか、価値創造活動におけるコスト、収益、資産要 素、価値創造活動間の相互関係を考慮する。 原価低減 中間製品の価値の計算、重要なコスト・ドライ バーの発見、供給業者や顧客の利益、ライバル社 のコスト構造を知る必要がある。 Column レバレッジ・レシオ 企業の債務に関する状態を示す指標。低成長 の状況下では負債が多いと企業にとって負担に なるが、高成長の状況では、負債とくに借入金 の支払利息は一定で利益に連動する自己資本 による配当よりも負担が軽いので、負債があっ てもあまり負担にならない。(飯田・渋谷 [1991])。 3.価値連鎖分析と差別化戦略 差別化戦略とコスト・ドライバー分析 競争戦略 競争優位性を説明する理論(淺田孝幸) ① C.K. Prahalad and G. Hamelのようなコア競争力となる新た な技術・知識の創出を重視する考え方。 しかし、日本企業は1つの戦 ② 環境適応を重視する考え方。 ポーターの競争戦略 ① ② ③ 略を選択するよりも、対決戦 (クーバー[1995]) 略をとっている。 コスト・リーダーシップ戦略:同じ便益を他社より安い価格で 提供する戦略。 差別化戦略:他社より高い価格であれば、それを相殺す るほどの特異な便益を提供する戦略。 集中戦略:狭いターゲットに集中する戦略。 レベニュー・ドライバーと差別化戦略 レベニュー・ドライバー レベニュー・ドライバーは、製品の属性、品質、 サービスの質、ブランド・パワーなどに分解して 測定する。→購買誘因を分析し、その誘因に影 響する職能部門を確定する。 製品差別化 ブランド・ロイヤルティ、優れた顧客サービス、 販売網、製品デザインと機能、製品技術などを あげている(シャンクら) まとめと今後の課題 ① ② ③ ④ 戦略的コスト・マネジメントの意義をシャンクら の価値連鎖分析を中心に解説した。 顧客満足、顧客価値、品質という概念が、顧 客の知覚品質に重点が移ると、顧客の感性 領域まで管理会計は拡大すべきである。 顧客価値は企業と顧客が協働で創造する。 戦略的コスト・マネジメントについて学習する ためには、個別テーマについて具体的な学 習を進めていく必要がある。 7章で学んだキーワード 戦略的コスト・マネジメント 価値連鎖 価値連鎖分析 競争優位 戦略的ポジショニング分析 コスト・ドライバー分析 レベニューコスト・ドライバー コスト・リーダーシップ戦略 集中戦略 差別化戦略 対決戦略
© Copyright 2024 ExpyDoc