(5) プラグインハイブリッド自動車 プラグインハイブリッド自動車は、通常のハイブリッド自動車よりも容量の大きな二次 電池を搭載し、走行中だけでなく家庭などのコンセントからも停止中でも充電できるよう になっている。したがって、電気自動車としての機能を増加し、電池だけでの走行距離が 増えている。さらに、充電を夜間に行えば、安い深夜料金を活用できるというメリットも ある。 米国ではで大きな注目を集めており、すでに実物(プリウス等に蓄電池を追加して改造 したもの)が公道を走り始めている。 図 3-4 プラグインハイブリッド自動車のコンセプト (出所) トヨタ自動車(株) 資料 38 3.2 「ハイブリッド自動車」のライフサイクルコスト分析 (1) ハイブリッド自動車のライフサイクル ハイブリッド自動車のライフサイクルは一般車と同様に考えられるが、製造段階でモー タ/発電機、パワーコントロールユニット、二次電池などハイブリッド特有の部品が追加 されることになる。また、二次電池に関しては、リサイクル・廃棄を別途検討する必要が ある。 図 3-5 一般自動車のライフサイクル 部品メーカー 生産設備 自動車メーカー 生産設備 運転 保守 他の製品 他の部品 他の素材 39 リサイクル処理 輸送 自動車使用 輸送 自動車組立 輸送 部品の生産 輸送 素材の生産 輸送 資源の採掘 (出所) 各種資料をもとに日本エネルギー経済研究所作成 廃棄処理︵ 埋立・焼却︶ 素材メーカー 生産設備 (2) ハイブリッド自動車の製造コスト 一方、乗用車の販売価格(消費税を除く)は、トヨタ自動車のプリウスやホンダ技研の シビックなどは約 220 万円となっており、同クラスの一般車より約 40 万円割高となって いる。最終製品の部品レベルで比較した推計値を表 3-3 に示す。 一般に自動車の製造コストの内訳は、部品材料費が 70%、人件費が 15%、その他が 15% といわれている1。産業連関表(2000 年度)の「乗用車」の投入係数をみると、製造業に 73%、非製造業に 12%という投入構造になっている。つまり、製造原価は販売価格の約 8 割と見積もることができる。 表 3-3 一般乗用車とハイブリッド自動車の最終製品段階でのコスト構造比較(推計) 一般乗用車 ハイブリッド乗用車 (千円/台) (千円/台) 1,800 2,200 - 400 モータ/発電機 - 80 (4%) パワーコントロールユニット - 80 (4%) その他 - 80 (4%) 蓄電池 - 160 (7%) 1,800 1,800 構成要素分類 自動車 ハイブリッド固有部品 一般車との共有部品 エンジン 432 (24%) 432 (20%) シャーシ 198 (11%) 198 (9%) 車体 414 (23%) 414 (19%) 電装品・電子部品 360 (20%) 360 (16%) 用品 396 (22%) 396 (18%) 注)各部品の価格には、製造コスト以外に、付加価値などその他の間接コストも含まれる。 (出所) 各種資料をもとに日本エネルギー経済研究所作成 自動車の製造段階では、上流産業にあたる海外の資源採掘・発電・材料製造、輸入材の 外航輸送、国内の石油精製・発電・材料製造、自動車産業の部品・車両製造(組立)の各 プロセスでコストが発生する。自動車に関する LCA 評価事例はいくつか見られるため、そ の結果を利用してコストを推計することにする。 ニッケル水素電池およびリチウムイオン電池ともに、自動車部品とは異なる特殊な化学 品を多く利用しているため、素材製造が主体となっている。 1 日経 BP「ハイブリッド・電気自動車のすべて 2007」 40 1) モータおよび電装機器 モータやインバータなどの電装部品については、電気自動車の LCA 評価の一部として実 施例がある。 表 3-4 電気自動車(EV)の LCA 評価における固有部品の投入金額例 モータ コントロール ユニット (円/台) (円/台) 18,737 12,512 483 483 3,004 3,004 9,025 3,663 5,362 4,557 4,455 4,455 4,188 2,960 57 57 1,932 1,932 971 410 561 746 698 608 90 48 5 13 23 7 482 355 128 項 目 合計 部品・材料 化学製品 ABS樹脂 鉄鋼 冷間仕上鋼材 非鉄金属 銅 アルミ 設備運転 (投入エネルギー) 電力・ガス・熱供給 電力 都市ガス 石油・石炭製品 灯油 軽油 A重油 LPG その他変動費 商業マージン 運輸 102 102 1,668 1,261 407 (出所) 疋田ほか「電気自動車 KAZ の LCA」(2002 年) 2) 二次電池 リチウムイオン電池のエネルギー密度はニッケル水素電池の 2 倍であるため、同容量で あれば重量を半分にすることができる。しかし、現時点ではコストは約 2 倍となっている。 表 3-5 二次電池のコストおよび質量 電池種類 ニッケル水素電池 リチウムイオン電池 46 90 エネルギー密度 (Wh/kg) 出力密度 (W/kg) 1,300 2,500 128,000 256,000 1kW 当たりの価格 (円) 3,381 ニッケル水素の 2 倍 重量 (kg) 29.2 15.2 容量 (kWh) 1.3 1.4 37.9kW の価格の目安 (円) (出所) 日経 BP「ハイブリッド・電気自動車のすべて 2007」 41 (3) ハイブリッド自動車の使用(走行)コスト 自動車を走行する際には、燃料となるガソリンや軽油を消費する。自動車の走行距離や 燃費により消費量は変動する。また、保守点検のための検査が行われるが、故障や定期的 な交換のための部品が必要となる。 表 3-6 ハイブリッド自動車とガソリン自動車の想定仕様と燃料コスト 燃費 (km/L) 年間走行距離 (km) 耐用年数 (年) ハイブリッド車 ガソリン車A ガソリン車B 30 15 10 10,000 10,000 10,000 10 10 10 年間ガソリン消費量 (円/L) 333 667 1,000 ガソリン価格 (円/L) 120 120 120 40,000 80,000 120,000 年間ガソリン費用 (円) ハイブリッド車との差額 生涯ガソリン費用 (円) ハイブリッド車との差額 − 40,000 80,000 400,000 800,000 1,200,000 − 400,000 800,000 (出所)日本エネルギー経済研究所作成 1) 燃料コスト ハイブリッド自動車と既存のガソリン自動車との燃料コストの比較例を表 3-6 に示す。 ハイブリッド自動車の代表であるプリウスの場合、10・15 モード燃費は 35.5 km/L である が、実際の走行では低めになるので 30km/L と想定する。日本の平均的な乗用車(ガソリ ン車 B)の燃費は 10 km/L といわれているが、効率の高い車種(ガソリン車 A)を 15 km/L として比較した。走年間走行距離を1万 km と想定して試算すると、ガソリン車 A とハイ ブリッド車との生涯ガソリン費用の差額は 40 万円となり、購入時の差額と同様になる。 2) 修理・部品交換コスト 定期点検や部品交換・修理などは一般車と同様に考えられるが、ニッケル水素電池は 50 万 km 走行毎に交換が必要といわれている。年間1万km走行して 10 年間使用する場合に は交換不要と考えてよい。 (4) ハイブリッド自動車のリサイクル・廃棄コスト 1) 一般自動車のリサイクル 我が国では、2005 年に「自動車リサイクル法」が施行され、使用済み自動車から発生す るシュレッダーダスト等をリサイクルすることによりリサイクル実効率を 95%に向上させ る取り組みが始まっている。 使用済み自動車は、まず解体事業者によって、エンジン、トランスミッション、タイヤ、 バッテリ、触媒コンバータなどが取り外され、リサイクルされる。車体は、シュレッダー 事業者により、鉄・非鉄金属と樹脂などのシュレッダーダストに選別され、鉄・非鉄金属 はそのままリサイクルされているが、残りのシュレッダーダストは、自動車メーカーが引 42 取り、リサイクルまたは適正処理されている。 図 3-6 一般自動車のリサイクル状況とリサイクル部品 注) ASR=Automobile Schredder Residue(シュレッダーダスト) (出所) トヨタ自動車(株) 2) ハイブリッド自動車の二次電池のリサイクル ハイブリッド自動車の場合、二次電池(ニッケル水素電池)のリサイクルシステムが確 立されている。自動車会社は、電池メーカーと共同で全数回収・再利用を目指した全国規 模のリサイクルを実施している。(図 3-7) リチウムイオン電池についてはハイブリッド自動車用としては実用化されていないが、 ニッケル水素電池と同様に、鉄、希少金属、プラスチックなどを回収することが検討され ている。 図 3-7 ニッケル水素電池のリサイクル (出所) パナソニック EV エナジー(株) 43 図 3-8 リチウムイオン電池のリサイクル(想定) (出所) NEDO「燃料電池自動車の普及に関連する技術に対するライフサイクル影響評価等に関する調査」 (2005 年 10 月) (5) ハイブリッド自動車のライフサイクルコスト(一般車からの追加分) 一般のガソリン車と比較して、ライフサイクルコストを整理すると表のようになる。部 品が多い分だけハイブリッド自動車の方が製造時のコストは高くなるが、使用時は燃料コ ストが低いため、ライフサイクル面から見た経済性はハイブリッド自動車の方が優れてい るといえる。 表 3-7 <参考>ユーザーからみた乗用車のライフサイクル内部コスト (単 位:円) (出所) (社)産業環境管理協会 環境会計研究センター活動推進委員会 「平成 15 年度 環境ビジネス発展促進等調査研究(環境管理会計)報告書」 44 3.3 「ハイブリッド自動車」の普及に伴う産業へのインパクト分析 (1) ハイブリッド自動車の普及とコストの見通し トヨタでは、1997 年にプリウスを発売して以来、全世界で販売量が増加している。2005 年度全世界のハイブリッド車販売台数は約 25 万台、累計で 61 万台を突破している(図 3-1)。 ホンダは、1999 年にアメリカで初のハイブリッド車「インサイト」を発売して以来、 「シ ビックハイブリッド」、さらに「アコードハイブリッド」を発売してきたが、2005 年 11 月、 新 Honda ハイブリッドシステム「3 ステージ i-VTEC+IMA」搭載の「シビックハイブリ ッド」を発売している。 図 3-9 世界のハイブリッド自動車生産量の推移 (出所) トヨタ自動車(株) 図 3-10 ハイブリッド自動車の生産量およびコストの推計 ハイブリッドカー 2015年の生産量を変えた場合に生じる年間生産量と1台あたりコスト 2015年 生産量 50 150 300 450 600 700 800 (万台) 生産台 コスト(万 生産台 コスト(万 生産台 コスト(万 生産台数 コスト(万 生産台数 コスト(万 生産台数 コスト(万 生産台数 コスト(万 年 数(万台) 円/台) 数(万台) 円/台) 数(万台) 円/台) (万台) 円/台) (万台) 円/台) (万台) 円/台) (万台) 円/台) 2003 3.0 216.0 3.0 216.0 3.0 216.0 3.0 216.0 3.0 216.0 3.0 216.0 3.0 216.0 2004 6.9 211.5 12.0 210.0 13.0 209.7 14.0 209.4 16.0 208.9 18.0 208.5 20.0 208.0 2005 10.8 208.5 20.0 205.9 24.0 205.2 30.0 204.3 35.0 203.5 40.0 202.8 40.0 202.6 2006 14.8 205.8 25.0 202.9 38.0 201.4 45.0 200.4 80.0 198.2 90.0 197.5 100.0 197.0 2007 18.7 203.5 48.0 199.4 70.0 197.6 80.0 196.7 120.0 194.5 150.0 193.6 150.0 193.4 2008 22.6 201.4 64.3 196.7 100.0 194.7 150.0 193.2 180.0 191.6 200.0 190.8 220.0 190.5 2009 26.5 199.7 76.5 194.6 120.0 192.5 200.0 190.6 260.0 189.2 300.0 188.5 320.0 188.2 2010 30.4 198.2 88.8 192.9 160.0 190.6 263.8 188.6 340.0 187.2 409.6 186.5 450.0 186.2 2011 34.3 196.9 101.0 191.5 200.0 188.9 301.0 187.0 401.0 185.7 467.7 185.0 534.3 184.6 2012 38.3 195.7 113.3 190.3 225.8 187.6 338.3 185.7 450.8 184.5 525.8 183.8 600.8 183.4 2013 42.2 194.6 125.5 189.3 250.5 186.5 375.5 184.7 500.5 183.5 583.8 182.8 667.2 182.4 2014 46.1 193.7 137.8 188.4 275.3 185.6 412.8 183.8 550.3 182.6 641.9 182.0 733.6 181.5 2015 50.0 192.8 150.0 187.6 300.0 184.7 450.0 183.0 600.0 181.9 700.0 181.3 800.0 180.8 2003年の累積生産量=15万台 2015年の生産量を想定して各年にふりわけた 生産量のうち国内むけ50%、輸出は50%とする 普通自動車とのコスト差部分(28%)に進歩指数=0.9、 b=−0.152を適用した (出所) (株)システム技術研究所 45 (2) 製造段階の波及効果 ハイブリッド自動車は、一般自動車と基本的な製造プロセスは同様であり、ハイブリッ ド特有部品である二次電池、モータ、パワーコントロールユニットなどに関する波及効果 だけを検討する。 太陽光発電システムの評価と同様に、産業連関表の形式で波及効果を示す。(表 3-8) 1) 二次電池 現在は、電池・電気メーカーが生産し、自動車メーカーが購入している。民生用の電池 は産業として確立されているが、ハイブリッドや電気自動車用の二次電池は特殊な製品で ある。産業分類では、「電気機械」の「その他の電気機器」のうちの「電池」産業に属する が、性能の鍵を握る電極や電解質などの部品・素材は「化学製品」の「無機化学基礎製品」 産業から供給される。 2) モータ 産業用のモータは、「電気機械」の「重電機器」のうちの「電動機」産業が生産している が、ハイブリッド自動車や電気自動車用のモータは、「輸送機械」のうちの「自動車部品」 として取り扱われる場合が多い。さらに高性能モータについては、「乗用車」産業が内製し ている場合があるので、いずれにも波及すると考えられる。 素材としては磁石材料、銅線、鋼材が主成分であるため、 「鉄鋼」や「非鉄金属」への波 及効果もある。 3) パワーコントロールユニット(制御装置) 主要部品であるインバータは半導体素子であり、 「電気機械」の「半導体素子・集積回路」 産業への波及効果がある。 素材としてはシリコン、銅線、鋼材が主成分であるため、 「鉄鋼」や「非鉄金属」への波 及効果もある。 共通して、素材・部品の加工にはエネルギーが必要であり、「電力・ガス・熱供給」およ び「鉱業」の「原油・天然ガス」産業、 「石油・石炭製品」の「石油製品」から投入される。 46 表 3-8 「ハイブリッド自動車」製造段階の産業インパクト(産業連関表の投入係数) (出所) 日本エネルギー経済研究所作成 47 (3) 使用(走行)段階の波及効果 ガソリン車に比べてハイブリッド自動車が走行することにより、ガソリン消費量が減少 するため、「石油・石炭製品」の「石油製品」にマイナスの影響を及ぼす。 修理等については、二次電池の交換なども考えられるため、「電気機械」の「その他の電 気機器」のうちの「電池」産業、および関連する「化学製品」産業にも影響を及ぼす。 (4) 技術の相乗効果 本調査では乗用車のみを扱ったが、すでにトラックやバスのハイブリッド車も開発され、 市販されているものもある。したがって、貨物輸送分野でのハイブリッドには大きなイン パクトがある。 二次電池やモータ技術の進展は、電気自動車(EV)の開発への相乗効果もある。また、 電気自動車およびハイブリッド技術は、将来の燃料電池自動車への相乗効果も大きい。 48 表 3-9 「ハイブリッド自動車」使用段階の産業インパクト(産業連関表の投入係数) (出所) 日本エネルギー経済研究所作成 49
© Copyright 2024 ExpyDoc