実験観察講座

“ぷち発明”をいかした教材としての
サボニウス型風車風力発電機
東京理科大学理学部応用物理学科4年
1508135番 松田 峻
目的
風力エネルギーは地球温暖化防止の対策の1つとして,
化石燃料を用いないタイプのクリーンなエネルギー源として期待
されている。
しかし,実験を通して学ぶ科学的な学習教材が豊富とはいえない。
このことがエネルギー環境教育の実践が広がりにくい要因の1つ。
身近なものでできるサボニウス型風車風力発電実験機を
開発し,実際に作成・発電を行ったエネルギー・環境教育の
授業実践について報告。
研究背景
高等学校学習指導要領(平成21年公示)
科学と人間生活
自然と人間生活とのかかわり及び科学技術が人間生活に
果たしてきた役割についての学習を踏まえて,
これからの科学と人間生活とのかかわり方について考察させる。
→例えば,エネルギー,環境負荷軽減技術,自然とのかかわり
物理基礎
様々な物理現象とエネルギーの利用に関する探究活動
物理
物理学の成果が様々な分野で利用され,未来を築く新しい
科学技術の基盤となっていることを理解する。
研究背景
高等学校学習指導要領(平成21年公示)
科学と人間生活,物理基礎,物理のどの科目においても
自然と科学技術と人間生活のかかわりについて考察させる。
先日,東日本大震災が起こり,2次災害として原子力発電所が
大きなダメージを受け,放射線を始め様々な問題が起きた。
→2つの教訓
①物理に関する正しい知識②安全なエネルギー源
ここでは,風力エネルギーを利用した
サボニウス型風車について考察していく。
研究背景
風車について
水平軸風車:垂直軸風車
抗力型水平軸風車
(かざぐるま型風車)
揚力型風車:抗力型風車
揚力型水平軸風車
(ダリウス型風車)
現在の風力発電について
現在実用化されている風力発電における風車の主力タイプ
→水平軸プロペラ型風車…しかし多くの問題がある。
研究背景
サボニウス型風車→抗力型垂直軸風車
フィンランドのサボニウスが開発,バケット(円筒形を縦に2つに
切った形をしたもの)を,中心をずらして心棒を取りつけた形。
学校での理科学習や環境学習において,風力発電は学習教材
としてよく扱われる。モーターを発電機として利用する。
→モーターを風力で回転させれば風力発電が可能であると指導。
実例として実際に稼働している大型風力発電機を紹介する。
…児童・生徒が実際に風力発電を体験することは少ない。
リアリティがない!!
→自然の風で手軽に作成できる風力発電機の開発を目指す。
研究内容
サボニウス型風車とは…
パドル
回転させる向きの風
バケット
回転させる向きの風
中心軸
中心軸
回転に役立った風
回転を止める向きの風
回転を止める向きの風
風力エネルギー→電気エネルギー
研究内容
サボニウス型風車風力発電実験機
材料
半分に切った円筒型プラスチック容器 導線つきモーター
金属棒 タッパー マジックテープ スポンジ プーリー 輪ゴム
両面テープ 千枚通し モーター止め 発光ダイオード(LED)
電子メロディー
→主に手軽に入手できるものが多い。
研究内容
サボニウス型風車風力発電実験機の具体的構造…
研究内容
サボニウス型風車風力発電実験機の具体的構造…
研究内容
サボニウス型風車風力発電実験機の性能…
風速 回転数 電力×10-5
〔m/s〕 〔rpm〕 〔W〕
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
2.5
3.0
3.5
4.0
4.5
0
0
0
0
0
55.4
101.2
158.3
196.1
211.1
0
0
0
0
0
0.65
1.38
1.90
2.31
2.64
研究内容
サボニウス型風車風力発電実験機の性能…
発光ダイオードの点灯
発電機に発光ダイオードを接続する。
風速2.3m/s(回転数247.1rpm)以上で発光ダイオードが点灯。
電子メロディーを鳴らす
発電機に電子メロディーを接続する。
風速2.0m/s(回転数172.2rpm)以上で電子メロディーが鳴る。
研究内容
サボニウス型風車風力発電実験機の作成過程を確認してきた。
主に手軽に入手できるものが多い。
作製工程は危険が少なく,簡単である。
サボニウス型風車風力発電機を作成し,発電実験を行う
授業は実験を通してエネルギー・環境学習を行うことができる
科学的な学習教材であるといえる。
→サボニウス型風車風力発電機を用いた実践を行った。
結果
サボニウス型風車風力発電実験機を用いての実践…
東京理科大学理学部の授業「講義実験」での実践。
①サボニウス型風車の理論を解説
↓
②180名の受講生に対して2名に1台,サボニウス型風車を作成
↓
③発電実験を行う
実践後,アンケート
「授業で用いたサボニウス型風車風力発電機を,
あなたはどのように利用すると良いと思いますか?」
結果
サボニウス型風車風力発電実験機を用いての実践…
東京理科大学理学部の授業「講義実験」での実践。
肯定的
エネルギー源
電力供給・発電
自家発電
ビル風を用いて都心で発電
自動車・自転車・バイク等
外灯・イルミネーション等
充電
低電力で使えるもの
非常用電源
オブジェ・モニュメント+発電
その他
175
165
54
30
20
19
17
8
4
4
9
10
否定的
有用性が不明
発展途上すぎる
記述なし
5
1
1
3
97%の学生が
肯定的な回答!!
結果
サボニウス型風車風力発電実験機を用いての実践…
親子で楽しむエネルギーフェスタ2008・工作教室での実践。
①親子で試行錯誤しながらサボニウス型風車風力発電機を作成
↓
②電子メロディーや発光ダイオードで発電実験
実際に発電できて,子どもたちは非常に感動していた
実践後,アンケート
「サボニウス型風車を作ってみて楽しかったですか?」
→大半が楽しかったという結果であった。
結果
サボニウス型風車風力発電実験機を用いての実践…
親子で楽しむエネルギーフェスタ2008・工作教室での実践。
子どもたちの声
「サボニウス型風車を作るのは大変だけど電子メロディーの
音がた時は嬉しかった」
「もっと少ない風でも発電できるような風車に改良してくれたら
嬉しい」
「地球にやさしい風力発電に興味を持った」
→子どもたちが,楽しさを実感でき,自分自身で発電することで,
環境問題について身近に感じてもらえたと考えられる。
結果
一般に,物理分野の学習は好まれない傾向にあるといわれている。
しかし,今回のサボニウス型風車風力発電機を用いたエネルギー
学習は好評であった。
エネルギー・環境教育はすべての人に関係している。
そのため,理科学習のみならず,総合的な学習の時間や
社会科教育においても活用したい。
サボニウス型風車風力発電機での発電実験の成功体験を
子どもたちと共有することで,自分自身が科学技術を用いて
エネルギー・環境問題に貢献できることを体感できた。
考察
論文への評価,論文から学べる知見
この論文より,子どもたちが地球に優しいエネルギー源である
サボニウス型風車風力発電機を作成でき,実際に風力発電を
体験できるため,驚きや感動を与えられた。
また,子どもたちの声からもわかるように,地球環境やエネルギー
環境問題についての興味・関心を刺激することのできる効果的な
教材であるといえる。
自宅に帰ってからも風力発電実験を行うことができ,自由に
工夫ができるため,子どもたちも“ぷち発明”を体験できる。
考察
論文を読んだ結果として将来やっていきたい授業
前段階として,地球温暖化や酸性雨などの環境問題についての
授業を行い,生徒たちに「地球にやさしいエネルギー源」について
考えさせる。
→クリーンなエネルギー源について考察。
太陽光発電や風力発電,水力発電などが挙がる。
効率のよい風力発電方法を考えさせ,班ごとに自由に風車を
作成してもらい,実際に風力発電を体験してもらう。
まとめ
現段階では,エネルギー環境教育の実験教材は豊富であるとは
いえない。しかし,今回開発したような身近な材料で手軽にできる
実験教材を作成し続ければ,この分野の実験教材も豊富になると
考えられる。
→今回,“ぷち発明”をいかした身近なものでできるサボニウス型
風車風力発電機を提案し,これを用いた授業・実験教室を行った
ところ,非常に好評であった。
材料費も安価であり,子どもたちが個別に実験を行うことができ,
風力発電について実験を通して実践的に学ぶことができる。
実験手順も簡単であるため,理科の教員でなくとも学校の授業で
指導がしやすいと考えられる。