経済変動論II 2006年度前期 1 第2回 フォード主義的成長体制 2 生産様式の革新 清水 耕一 www.e.okayama-u.ac.jp/~kshimizu/ 1 フォード主義 高度成長期の基本的成長メカニズム A. グラムシ「アメリカニズムとフォーディズム」 フォードによって導入された新しい労働方法は一定の生活様式と、一定 の考え方、生活の一定の感じ方と不可分である。従順な労働者の企業 定着を促進するために高賃金を支払うことによって、フォード主義は標 準化された財貨の消費によって「正常化=規格化された」生活を送る「 新しいタイプの労働者と人間」をつくりだした。 フォード主義的成長体制 大量生産と大量消費の結合した成長体制 「大衆消費に依拠した内包的蓄積体制」 フォード主義的好循環 近代化 生産性 実質賃金 消費 新生産過程 新生産物 ① 利潤 総需要 投資 ② ③ ① 加速度原理 ② 乗数効果 ③ カルドア=フェアドーン効果 2 生産様式の革新 2-1 労働過程の革新としてのテーラー主義 フレデリック・テーラーの「科学的管理法」の課題 独占化と社会紛争の激化による労働組合の勢力の拡大 職人的労働者の抵抗(組織的「ぶらつき歩き(flânerie)」やアブソ ンテイズム(absenteeism)) 英語を話せない大量の移民を雇用する必要 ⇒労働を管理する必要⇒「科学的管理法」 テーラー主義の4つの原則 管理部門が労働者の作業の分析を行い、科学的な方法を仕上げる。 管理部門は科学的な方法で労働者を選別し訓練養成する。 管理部門は労働者と親密な協力関係を結ぶ必要がある。 労働と労働上の責任は労働者と管理部門に均等に分割する(労働者 は労働を担当し、管理部門が労働上の責任を引き受ける) 2 生産様式の革新 2-1 労働過程の革新としてのテーラー主義 (続) テーラー主義とは 時間動作研究、すなわち熟練労働者の作業の個々の要素をストップ ウォッチによって計測 ⇒「唯一最善の方法」(標準作業)を確定 ⇒労働者はこの「方法」に従って作業をするだけでよい。 「第一級の労働者とは指示されたノルムに従って、与えられた仕事を 遂行する労働者である。」 考える労働=構想と実行を分離 労働者のノウハウを剥奪⇒職場における労働者の権力を破壊 テーラー主義は労働過程の資本主義的革新であった しかし、生産性上昇分の労働側への分配(実質賃金の上昇)が無い場 合、増加する供給に対して需要が停滞し、過剰生産に陥る可能性があ る。 1930年代大不況⇦需要不足が原因(ケインズ) 2 生産様式の革新 2-2 フォード主義:生産様式の革新 大量生産⇒「規模の経済」 フォードの理想:商品を大量かつ安価に生産するために連続的な生 産を実現すること フォード・システム=コンベアを利用した「流れ作業」 1910年秋に試行開始⇒1913年夏に組立工程にコンベア設置 前提:製品および部品の標準化、労働生産過程の再編(細分化され た組立作業を線形に再編成) 労働は細分化された単純作業の反復になり、作業速度はコンベアの 速度によって管理される。生産性は飛躍的に上昇したが、作業は過 酷であり、離職率が上昇した。 生産期間、中間財在庫、搬送労働を大幅に削減。 規模の経済、と生産性の上昇によってT型フォードの製造コストは劇 的に低下。1908年825ドル、1914年440ドル、1916年345ドル 大衆(ホワイトカラー、農民)がT型フォードを購入できるよ うになった。 トヨタ博物館 写真:清水 2 生産様式の革新 2-2 フォード主義:生産様式の革新(続) 高賃金政策−「1日5 ドル」 1908年1ドル90、1913年2ドル50、1914年5ドル 「金持ちの取引はたった一つの産業を生かすのにさえ不十分である。われわ れのところで買うのは労働者階級である。もしわれわれがわれわれの巨大な 生産をさばこうと思うなら、労働者階級がわれわれの富裕な階級になる必要が ある。」(H.フォード) 高い離職率(1913年に380%)⇒高賃金による労働者定着政策 アメリカ社会全体で高賃金が実現するのは第2次世界大戦中 重工業(鉄鋼業、自動車産業)において労働組合化が進み、団体交渉が制度 化される。 1941年に鉄鋼業、自動車産業で全国横断統一賃金が制度化。 その結果、労働者階級の実質賃金(購買力)が上昇。 労働者階級が耐久消費財を購入する様になり、生活条件が変化し始める。 好循環の出現(第2次世界大戦後) 生産性上昇⇒高賃金⇒消費増加⇒生産(及び投資)増化⇒生産性上昇
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