第5課 輻射の方程式 II 平成16年11月8日 講義のファイルは http//www.ioa.s.u-tokyo.ac.jp/kisohp/STAFF/nakada/intro-j.html に置いてあります。 レポート提出は出題の次の授業が原則ですが、それ以降でも構いま せん。単位が欲しい人は5つ以上のレポートを提出して下さい。とにか く全部のレポートを頑張って出した人には良い点が与えられます。 M2その他で単位認定を急ぐ人は申し出て下さい。 5.1. 輻射強度のモーメント n I(x,θ,φ)= I(x,θ) 輻射が軸対称の時、μ=cosθとして、 N次モメント MN を以下のように定義する。 Ω MN(x, λ)=(1/4π)∫(cosθ)N I (θ, x, λ) dΩ =(1/4π) ∫∫ (cosθ)N I (θ, x,λ) (sinθ) dφdθ θ =(1/2)∫μN I (μ, x, λ)dμ 0次モーメント M0(x,λ)= (1/4π)∫I (μ, x, λ) dΩ X = (1/2)∫I (μ, x, λ) dμ = J (x,λ) = mean intensity (平均輻射強度) 光子の密度関数 n(Ω)と輻射強度 I(Ω) は、I(Ω)=chνn(Ω) の関係がある。 輻射のエネルギー密度 uは、u = ∫hνn(Ω)dΩ で与えられる。 よって、 u=(1/c)∫c・hνn(Ω)dΩ= (1/c)∫IdΩ= (4π/c)J 1次モーメント M1(x,λ)= (1/4π)∫cosθI(θ,x,λ) dΩ = (1/2)∫μI(μ, x,λ) dμ = H(x,λ) X点でのn方向へのフラックスF(n, x ,λ)は、 F ( n, x ,λ)=∫ cosθ I (θ,x,λ) dΩ =2π∫μI(μ, x,λ) dμ = 4πH ( x, λ) 2次モーメント M2(x,λ)=(1/4π)∫ (cosθ)2I(cosθ, x,λ) dΩ = (1/2)∫μ2 I(μ, x,λ)dμ =K (x,λ) z 運動量分布関数 f ( p ) を持つ粒子の圧力 P は、 運動量 p の z 成分 p cosθの、z 方向への輸送率、 P=Pzz=∫(p cosθ・ cosθ) f (p) d3p θ p pcosθ として与えられる。 c cosθ 光子では E=cp =hνなので P=∫E (p)μ2 f ( p ) d3p =∫c p μ2f (p) p2 dΩdp =∫cμ2 (h/c)4ν3 f (p) dΩdν = (1/c)∫(h4ν3 /c2) f (p) μ2dΩdν = (1/ c) ∬I (ν, Ω) μ2dΩdν = (4π/c)∫K(ν) dν 簡単な例: I(Ω) =Io (等方輻射) J = ∫IodΩ /4π=Io H= ∫μIdΩ /4π=0 K= ∫μ2IdΩ /4π=Io/3 特に、I(ν)=B(T, ν) の場合, K(ν)=(1/3)B(T, ν) Pr = (4π/c)∫K(ν)dν = (4π/3 c)∫B(T,ν) dν = (4π/3 c)(σ/π)T4 = (4σ/3 c )T4=(a/3)T4 5.2.平面近似でのモーメント方程式 問題にしている領域の厚み が半径と同程度の時、 θ2 D θ1 R D/R≒1 光の方向は各層での鉛直線 に対して、異なる角度θを持 つ。 D/ R<<1の場合には角度 θが一定と考えてよい。 星の表面から出る光を研究 する場合、通常はτ<10程 度までで十分である。これは 星全体から見るとほんの表 面なのでD/ R<<1が成立 する。 このような場合は、本来、球 面である恒星大気の各層を 平面と考えて扱って構わな い。 恒星の大気の各層を平面状に考えた際の、変数の意味を下に示す。 Iλ (μ,τλ=0) τλ=0 Y Z X (表面) τλ θ Iλ (μ,τλ) 星の大気表面から内部に向かって、X軸を設定する。X軸に沿って光学深さτを定 める。波長λにより吸収係κが変わるので、Xが同じでもτ(λ)=∫κ(λ)dX は異なる ことに注意。 角度θの光線に沿って長さを s とすると、ds=dX/cosθ=dX/μ なので、 光線に沿った光学深さをtとする と、dt=dτ/μ μdI(μ,λ,τλ)/dτλ=I(τλ,λ)-S(τλ) または簡単に、 μdI/dτ=I-S となる。 何故、色々な角度の光線を扱うのか? 鉛直方向の光線だけでよいではないか。問題4-A θ1 θ2 θ3 5.2.平面近似でのモーメント方程式 μdI(μ,λ,τλ)/dτλ=I(τλ,λ)-S(τλ) または簡単に、 μdI/dτ=I-S ( i ) 両辺をdΩ/4πで積分する。 ∫[μdI/dτ]dΩ/4π=∫IdΩ/4π- ∫SdΩ/4π = d[∫μIdΩ/4π]/dτ dHλ/dτλ= Jλ – Sλ (ii) 両辺にμをかけてdΩ/4πで積分 d[∫μ2IdΩ/4π]/dτ =∫μIdΩ/4π-∫μSdΩ/4π ∫1-1μdμ=0 に注意すると、 dK λ/dτλ= Hλ dH J S d の意味 独立変数をxに戻し(dτλ=‐κλρdx )、最初の式をλで積分する。 dH J S J dx dH 4 d 4 J d dx ηλ=4π[ελ -κλJλ]、 η=∫ ηλdλ とおくと、 dF x x x dx 総フラックスF=一定、すなわち、 η=0でもdHλ / dx=0とは限らない。 F=一定でも深さに伴ないFλは変化するので注意がいる。 dK H d の意味 xに戻して、 (1/κλρ)[dKλ/dx]= - (1/4π)Fλ Ⅰλ (x、θ) = Bλ [T(x)] とすると、 (仮定1: ローカルに熱平衡) Kλ =Jλ/3=(1/3) Bλ (T) したがって、 1 dB T 1 F 3 dx 4 (1) 次にλで積分する前に Rosseland mean opacity κR を定義する必要がある。 1 dB T 1 F 3 dx 4 をλで積分すると、 1 dB T 1 d F d 3 dx 4 (2) 次のような、平均κを考える。 1 dB T 1 dB T dT 1 dB T d d d 1 dx dT dx dT dB T dB T dT dB T R d d d dx dT dx dT κRは、κλの[dBλ(T)/dT] という重り付き調和平均である。すると、 1 dB T 1 dB T dT d d 3 dx 3 R dT dx 1 d B T d dT 3 R dT dx d T 4 3 dT 1 dB T 1 dT 4 T d 3 dx 3 R dT dx 3R dx 結局、 (2)式 1 dB T 1 d F d 3 dx 4 1 dB T dT 1 d F 4 3 dT dx 4T 3 dT 1 F 3 R dx 4 acT3 dT 1 F 3 R dx 4 4acT 3 dT F 3 R dx は、 となる。 κR=Rossland mean opacity 5.3.Rossland mean opacity κR F Fi 4 1 dBi x 4 dT 1 dBi x 1 dB 4 dT i dx dx i dT R dT dx κRに効くのは、κiが小さい所とΔBiが大きい所でκiが大きい所は効かない。 F∝∑ΔBi /κi=ΔB /κR Bi Fi ∝ΔBi(T) /κi Bi+ΔBi 星の内部構造方程式との対応 平面近似の輻射方程式 ① dH J S d ② dK H d 星の構造の方程式 dLR R R 2 4R dR 1 2 3 16acR T dT L 3 dR τ=0 R=R* L(R) T(R) I(λ、θ) τλ Jλ(τλ)、Hλ(τλ)、Kλ(τλ) R=0 ① エネルギー保存の式 dHλ / dτλ=Jλ – Sλ : (平面近似輻射モーメント方程式) F=4π∫Hλdλ、η=4π∫[ελ -κλJλ]dλ とおくと、 dF(R)/dR=ρ(R)η(R) 今度は逆に、星の内部構造の式を変形する。 星のエネルギー保存式、 (1/4πR2)dL(R)/dR=ρ(R)η(R) L=4π(R+ΔR)2(F+ΔF) R+ΔR FとLの関係は、 L(R)=4πR2F(R) なので、 dF R 2 F R R R dR R 前ページと比べると、2 F R R の差がある。この項が球曲率効果である。 L=4πR2F R 4π(R+ΔR)2(F+ΔF)= 4πR2F R2ΔF+2RFΔR=0 ΔF=-2(F/R)ΔR ② エネルギー拡散の式 dK H d ①と同じくRに戻して、λで積分し、 κR=Rossland mean opacity を導入すると、 4acT 3 dT F 3 R dR ところで、 L(R)=4πR2F(R) したがって、 16acR2T 3 dT L 3 dR 内部構造の式のκ=κRとすれば、平面近似輻射モーメント方程式になる。 問題 4-A (天文学部生はなるべく4-Bを選ぶよう) 半径Rの星の表面でのフラックス=F´ 星からD離れた点での星からの光のフラックス=F とする。半径Rの球面を通る輻射エネルギー=半径Dの球面を通る輻射エネルギー なので、4πR2F´=4πD2F、したがって F=(R / D)2F´ である。 この関係をフラックスの定義に戻り、輻射強度 I の積分から導いて見よう。 黒体と異なり、星の表面からの光は等方的に出ているわけではない。通常、輻射強 度は鉛直方向に最も強く、水平方向に向かうにつれ弱くなる。その結果、外から星を 見ると、星円盤の中心は明るく、縁は暗く見える(Limb Darkening)。 星表面での輻射強度 I の角度分布 星円盤の輝度(輻射強度 I)分布 地球から星表面上の1点を見るときの輻射強度を I(Ω)と し、星の表面上で、その光線(視線)方向への輻射強度を I´(θ)とする。I(Ω)=I´(θ) である。 dΩ θ I´(θ) A I(Ω) 地球Aから星を観測するときのフラックス、 F =∫I (Ω)dΩ (cosθ=1と考えてよいから) ただし、積分は星の表面の方向に限る。 星表面でのフラックス F´=∫I´(θ)dΩ´ 上の2つの積分表式から、 F=(R2 / D2)F´ となることを証明せよ。 積分は上半球面に渡る。 問題 4-B 距離1Kpc,光度 L=10,000Lo、Teff=3,000 K の黒体スペクトルを持つ星が動径 方向の光学的厚み τ(λ)=τo (λ/1μ)-1.5 のダストシェルで覆われている。 (1) ダストシェルがないときのこの星のスペクトルを、縦軸を log Fν(Jy) 、 横軸を log λ(μ) ( 0.5<log λ(μ)<2 )として描け。 σ=5.67×10-8W/m2/K4 Lo=3.85 ×1026W 1pc=3.08 ×1016m (2) τo=5、1、0.5 の3つの場合につて、ダストシェルの吸収を受けた星のスペ クトルを上と同じ縦軸、横軸で描け。 (3) ダストを一定温度 Td=300K と仮定し、ダストシェルが吸収した星の光は、 全てダストシェルから赤外熱輻射として再放射されるとする。ダストシェルが出し た光が再びシェルで吸収されることはないとした場合の、この星のスペクトル (吸収を受けた星の光+ダストシェルからの放射)を(1)、(2)と同じく縦軸を log Fν(Jy) 、 横軸をlog λ(μ)として描け。 吸収された星の光の総量=ダストシェルが放射する光の総量 となること に注意すること。 (2) 再吸収を考えないから、ダストシェルから放射される輻射強度は下図のように I=τBとなり、観測されるフラックスF=∫IdΩ=B(Td、λ)∫τdΩである。 ダストシ ェルの減光を受けた星の光と、ダストシェルの熱放射を足した結果の スペクト ルを、Tdτo=5、1、0.5について(1)と同じように描け。 τ1 τ2 τ 星 τ3 ダストシェル τ1B(Td、λ) τ2B(Td、λ) τ3B(Td、λ)
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