タウ粒子崩壊 - 奈良女子大学 高エネルギー

タウ粒子崩壊τ-→ωπ-ντにおける
セカンドクラスカレントの探索
奈良女子大学大学院 人間文化研究科
物理科学専攻 高エネルギー物理学研究室
玉木智子
1.
2.
3.
4.
5.
Introduction
実験装置(KEKB加速器、Belle測定器)
事象選別
セカンドクラスカレントの探索
まとめ
1.Introduction
τ粒子
・第3世代に属するレプトン
・最も重いレプトン(電子の質量の約3500倍)
・ハドロニック崩壊が可能
e μ τ
νe νμ ν τ
τ粒子の崩壊
【レプトニック崩壊】
終状態 ・・・ τ-→ e-ν e ν τ 、 τ-→ μ-ν μ ν τ
割合 ・・・ 35.1%
【ハドロニック崩壊】
πやK中間子、ハドロン共鳴状態を含む崩壊
終状態 ・・・ ベクター状態
( JP = 1- 、 π中間子を偶数個含む崩壊)
軸ベクター状態
( JP = 1+ 、 π中間子を奇数個含む崩壊)
擬スカラー状態
( JP = 0- 、 π中間子1個のみ含む崩壊)
ストレンジネス状態 (S = ±1 、K中間子を含む崩壊)
低いエネルギーのハドロン状態を調べる理想的な過程。
→ 弱い相互作用で、セカンドクラスカレント (次に説明)は観測されていない。
セカンドクラスカレント
・粒子のスピン (J)
・パリティー (P)
・アイソスピン空間におけるパリティー (Gパリティー)
を組み合わせて粒子を分類したときにあらわれるカレント。
【ファーストクラスカレント】
PG(-1)J=+1
JPG=(0++、0--、1+-、1-+)
【セカンドクラスカレント】
PG(-1)J=-1
JPG=(0+-、0-+、1++、1--)
→ 弱い相互作用での崩壊は観測されている
→ 弱い相互作用での崩壊は観測されていない
0-+、1-- ・・・クォークモデルそのもので禁止
0+- ・・・πη、ωπに崩壊可能
1++ ・・・ 共鳴状態b1(1235) →ωπに崩壊
τ-→ωπ-ντは、弱い相互作用によるセカンドク
ラスカレントの探索に適した崩壊過程である。
τ-→ωπ-ντ崩壊を用いて、弱い相互作用によるセカンドクラスカレントの探索を行う。
セカンドクラスカレントの寄与の導出方法
ωπ系の可能なスピンパリティ
→ω粒子のスピン偏極の違い = 崩壊角度分布cosθの違い として現れる。
JPG
角運動量L
F(cosθ)
FCC/SCC
1-+
1
1-cos2θ
FCC
1++
0
1
SCC
1++
2
1+3cos2θ
SCC
0-+
1
cos2θ
SCC
FCC : ファーストクラスカレント
SCC : セカンドクラスカレント
θ : ω decay planeの垂線とω粒子の静止系における4
番目のπ-とがなす角
L : ωπ系の軌道角運動量
ファーストクラスカレントJPG=1-+
π-
θ
π0
π-
π+
ω decay plane
F(cosθ)= 1-cos2θ
セカンドクラスカレントの寄与が存在
F(cosθ)=1(一定)
F(cosθ)= 1+3cos2θ の成分が観測されるはず!
崩壊角分布を調べることにより、セカンドクラスカレントの寄与を導出する。
2.実験装置
KEKB加速器
非対称エネルギー
電子・陽電子衝突型加速器
e- : 8GeV
e+ : 3.5GeV
重心系のエネルギー :10.58GeV
B中間子対を大量に生成し研究するの
に理想的な設計(年間約108個生成 )
B中間子とほぼ同数のτ粒子も生成
茨城県つくば市
高エネルギー加速器研究機構
τ - ファクトリーとしても重要
Belle検出器
*KEKB加速器で生成された粒子
を検出する大型検出器で、
複数の装置で構成されている。
*高いエネルギー及び運動量
の分解能と優れた粒子識別能
力を持つ。
SVD :粒子崩壊点 の測定
CDC :荷電粒子の飛跡や
運動量の測定
ACC : K±とπ±の識別
TOF : 荷電粒子の飛行時
間を測定
ECL : 電子や光子の
エネルギー測定
KLM : KL,μ粒子検出器
ECL
ACC
3.事象選別
e+eー→ τ+τー事象選別
Belle測定器で収集された全反応の中から、 τ対生成を選びだすことが必要。
e+e-の重心系で2つの半球に分け、τ+τ-それぞれの崩壊の区別を行う。
【事象軸】
*他の荷電飛跡と 90°以上離れている
*最も高い運動量を持つ
荷電飛跡の方向。
事象軸に垂直な面で、
生成した粒子を2つの半球に分け、
1半球ごとに条件を課していく。
e+e-→τ+τ-選別条件
*荷電飛跡の本数が2本または4本で、電荷の合計が0。
全τ崩壊事象の85%を選ぶことができる
*検出されないニュートリノによる、ミッシング質量(MM)とミッシング角(θmiss)
の情報を用いた条件。
ミッシングによる条件
終状態の荷電飛跡と光子の
4元運動量の和
始状態e+e-の
ビーム全4元運動量
θ miss
し
運動量の保存から決まった
ミッシングの重心系における方向
beam
tracks

MM2  ( pinitial
  pfianl
  pfinal
)2
ミッシング質量とミッシング角の2次元プロット
DATA
MC
τサンプル
2000年10月から2002年12月までに
Belle 実験で収集されたデータ
72.2 /fb
τ対生成事象
22.7×106
バーバー散乱
μ粒子対生成
2光子生成反応
π0の再構成 ( Sγγ = (Mγγ-Mπ0) / σγγ )
2つの光子の不変質量とπ0の質量の差を、光子の分解能で割ったものをSγγと定義した。
data
MC
mγγ − mπ 0
Sγγ ≡
σγγ
mγγ : γの不変質量
Mπ0 : π0の質量
σ γγ :mγγ の分解能
【シグナル領域】
-3 ≦ Sγγ ≦ 2
【サイドバンド領域】
-9 ≦ Sγγ ≦ -6
6 ≦ Sγγ ≦ 9
シグナル領域に含まれる、
真のπ0事象を、シグナル領域
とサイドバンドの領域との差を
用いて見積もった。
(Mγγ-Mπ0)/σγγ
τ-→h-h+h-π0ντ事象選別
h± = π±、K±中間子
さらに、τ粒子を用いて3個の荷電ハドロンとπ0に崩壊する事象を選別する。
1.半球中に、π0が1つある。
2.半球中に荷電飛跡が3本あり、
その荷電の合計が
-1( τ-→h-h+h-π0ντ )
を満たす。
3.π0を2個以上含む事象の除去
π0 から崩壊した2つの光子以外に、高い
エネルギー(200MeV 以上)の光子があ
れば除く。
4.光子転換を含む事象の除去
τ-→h- π0 ντ
γγ
e+e-
τ-→π-π+π-π0ντ事象選別
さらに、 τ-→h-h+h-π0ντ を用いて、τ-→π-π+π-π0ντ に崩壊する事象を選別する。
【π、K 粒子識別】
*荷電粒子ID(Pπ/K)を用いて、
終状態に同じ電荷を持つ2つの荷電
粒子がπとIDされていることを要求し
た。
*電荷の異なる荷電粒子はπと仮定
【 τ-→π-π+π-π0ντ候補数】
9.59 × 106 事象
【他のτ崩壊からくる
バックグラウンド】
9.28±0.33 %
【e+e-→qq過程による
バックグラウンド】
10.57±0.39 %
τ-→π-π+π-π0ντ反応における π+π-π0 不変質量分布
Pick up
τ-→π-π+π-π0ντ反応には2
つのπ-がある。
2つのπ+π-π0の組み合わせ
が同時にプロットされている。
ω粒子の質量である0.738GeV
付近のピークが顕著に見えて
いる。
τ-→ωπ-ντ事象選別
τ-→ωπ-ντ 事象選別を行うため、τ-→π-π+π-π0ντ反応から、真のω事象を選別する。
シグナル領域
0.735≦Mω≦0.815 (GeV/c2)
サイドバンド領域
0.680≦Mω≦0.700 (GeV/c2)
0.850≦Mω≦0.870 (GeV/c2)
※サイドバンド領域それぞれ2倍する
ことにより、シグナル領域に対応
total
Nsig = Nsig
− (Nside × 2)
シグナル領域に含まれる、
真のω事象を、シグナル領域
とサイドバンドの領域との差
を用いて見積もった。
ωπ-不変質量分布
b1(1235)共鳴などの顕著な
ピークは特に見られない。
【τ-→ωπ-ντ候補数】
1.61×106 事象
【他のτ崩壊からくる
バックグラウンド】
2.65±0.12 %
【e+e-→qq過程による
バックグラウンド】
1.15±0.23 %
4.セカンドクラスカレントの探索
τ-→ωπ-ντ崩壊 を用いて、セカンドクラスカレントの探索を行う。
ファーストクラスカレントの寄与
F(cosθ)= 1-cos2θ
が支配的となっている。
セカンドクラスカレントの寄与が存在
F(cosθ)=1(一定)
F(cosθ)= 1+3cos2θ
の成分が観測されるはず。
π-
θ
π0
π-
π+
ω decay plane
セカンドクラスカレントの寄与
【フィットの関数】
F cosθ = N ϵ・FSCC cosθ + 1 − ϵ FFCC (cosθ)
F(cosθ)=1について 調べる
Y=
Ymax
・3 1 − ϵ 1 − cos2 θ + 2ϵ
4
Ymax : 正規化定数
ε :セカンドクラスカレントの寄与
【フィットの結果】
統計誤差
ε =(-1.6 ± 6.2 )×10-3
( χ2 = 53.1 、NDF = 38 )
これよりεの上限値は、
ε < 0.007 (90% C.L.)
ε < 0.010 (95% C.L.)
他の実験との比較
ルミノシティー
εの上限値
C.L.
ALEPH
0.132/fb
0.086
95%
(1996年)
CLEO
4.68/fb
0.054
90%
(2000年)
0.064
95%
0.0085
90%
0.0069
95%
0.007
90%
0.010
95%
BABAR
Belle(今回)
347/fb
72.2 /fb
(2008年)
今回の解析では、統計を増やすことにより、以前に行われた実験結果
(ALEPH ・CLEO)と比較すると約1桁感度をあげることができた。
また、現在進行中の実験(BABAR)と比較すると、同等の感度まで近づける
ことができたといえる。
5.まとめ
本解析のまとめ
・2000年10月から2002年12月までにBelle実験が収集したデータ
72.2 /fb
τ-→ π-π+π-π0ντ
τ-→ ω π-ντ
事象 ・・・ 9.59 × 106
事象 ・・・ 1.61 × 106
事象
事象
・セカンドクラスカレントの探索
得られたセカンドクラスカレントの寄与 ε = (-1.6 ± 6.2 ) ×10-3
上限値 ・・・ ε < 0.007 (90% C.L.)
ε < 0.010 (95% C.L.)
今後について
*今回、解析に用いたデータは、現在Belle実験が収集したデータの約1/10
データ量を増やすことにより、より高い感度でセカンドクラスカレントの
探索を行うことができると期待される。
*系統誤差など、検討課題の解決
*セカンドクラスカレントの寄与 F(cosθ)= 1+3cos2θについてのフィット
Gパリティー
Iz
G = c e iπIy
Ix
Iy
π-π+π-π0事不変質量分布のおける
DATAとMCのずれについて
MC
DATA
ファーストクラスカレントの寄与
セカンドクラスカレントの寄与
F(cosθ)= 1-cos2θ
F(cosθ)=1(一定)
F(cosθ)= 1+3cos2θ
の外形