科学者が見つけた 「人を惹きつける」文章方程式 第4章 「笑い」の名文方程式 30316017 柴田ふみ 第4章 「笑い」の名文方程式 北 杜生 ①繰り返しておかし ②止まらぬリズム 椎名 誠 ①どうでもよいことは正確無比 ②さりげなく理系単語 ③先入観最大限利用 藤田紘一郎①価値逆転 ②自己多重笑い 北 杜生 <バカの繰り返し> 父は激怒した。 「おまえはバカになった。今ごろ、ファーブルだのメスアカムラサキだのと言っ ているのは、なんたるバカであるか」 しかしながら、私がバカになったのは、昆虫研究よりもむしろ文学に親し んだためである。あまつさえ、その最初の衝撃は当の父の短歌からでは ① なかったか。 「自分勝手にあんな歌をこしらえておいて、自分の息子をバカにならせ、それ をバカ呼ばわりするとは、なんたるバカであろうか」 と、私は父のことを考えた。世の無常を感じ、肩をすくめ、さすがにしょんぼ りと。 ② 北 杜生 『どくとるマンボウ青春期』中央文庫 151~152㌻ 言葉を繰りかえして使うことによっておかしみがエスカレートしてゆく ①バカという言葉を重ねる可笑しみの中に父とこの深い哀愁が描かれて いる。 ②バカを羅列したそれまでの文章とのコントラストが鮮やかに表現されて いる。 北 杜生 <読み出したら止まらないリズム> 三年生の後半となれば、どこへ行っても神経衰弱が大流行であった。 友人と会って、 「どうだ、近ごろ?」 「うん、ちょっと神経衰弱気味なのだ」 また別な友人と会い、 「しばらくだな。あまリ学校へ出て来ないようだが」 「どうも神経衰弱気味でね。本当のまっさらな神経衰弱なのだ」 三人目には質問を変える。 「君も神経衰弱かい?」 「よくぞ言ってくれた。神経衰弱も神経衰弱、地球上の神経衰弱の三分の一はおれにとり ついているな」 四人目の男との会話。 「どうだね、神経衰弱の具合は?」 「え、なんのことだ?」 「つまり君の神経衰弱は・・・」 「シンケイスイジャク? それとぼくとどういう関係にあるんだ?」 「ちょっと息をさせてくれ。すると君は、神経衰弱じゃないってうのか?」 「ピンピンしてるよ。そんなものじゃないな」 「本当か」 「別にうそをつく理由もないじゃないか」 「信じられん」 (中略) 「どういう訳なのかね。神経衰弱でないとなにか不都合なことでもあるのかね」 「不都合だな」 「どういうふうに不都合なのだ?」 「なぜって、挨拶がスムーズにいかないじゃないか!」 北杜生、『どくとるマンボウ青春期』中央文庫 152~154㌻ 同じ言葉の繰り返しによって、可笑しさがいやおうなしに高まっていく 椎名 誠 <どうでもいいことは正確無比に> 車座になってみんなで金を出しあった、カクシ金もあまさず出そう、 ということになった。子安が金をかき集め、なんとなく計算してみると 連日にわたる酒盛りですでに決定的に金が足りなくなっているらし い、ということがわかった。全員がそれぞれ「おまえがのみすぎるか ① ② らだ!」「おまえがのみすぎるからだ!」とみにくく罪をなすりつけあ い、ののしりあった。 椎名誠『あやしい探検隊 北へ』角川文庫 36㌻ ①大事なことはいいかげんに、どうでもよいことは正確無比に。 ②罵声を繰り返すことで、非日常のおかしみがエスカレートする。 <さりげなく理系単語> 「金が足りない」という衝撃の事実を知ったとたんにチームワークはたち どころに崩壊し、友情は時空間をこえて二万光年の彼方に飛んでいき、 リーダーの統率力はたわいなく瓦解し、ドンブリはひっくりかえりラー油 はこぼれた。 椎名誠、同上、36㌻ さりげなく理系単語を書くと、読者はそのわけの分からなさに納得する。 <先入観を最大限に利用> 読者は書き手に対して、それぞれ固有のイメージ(期待)を持っている。 椎名誠の場合・・・ 何でもないところでドタバタを開始→ハチャメチャにまでエスカレート 「困るな、こんなにたくさん、美しい卵が見えているのに。だいたい医者という ものはもう少しウンコに愛着をもたなくては」(中略)僕はいつもこんなことを 言っているので、卒業生が毎年選ぶ「ベストティーチャーズ賞」や、「ベストナイ スガイ・プロフェッサー賞」には一度も選ばれたことがない。何とか選ばれよう と下工作したこともあったが、「ウンコに愛着をもて」とか「カイチョウはかわい い」などと講義でしゃべっていると、どうしても点が入らない。いつも女生徒に 囲まれている解剖学の教授だけが賞を独占しているのが現状で、僕は最近 すっかりあきらめている。 藤田紘一郎『笑うカイチュウ』講談社 23~24㌻ <常識をひっくり返す> 著者は医学部教授の寄生虫学者。 しかし彼の書く文章には予測を裏切るギャップがある。 価値観の逆転→現実とのギャップがおかしさを生みだしている <自分を何重にも笑う> 上手に自分を笑うことによって、みごとにおかしみをだしている。 まとめ 著者によってテクニックは異なるが、隅々にま で笑いの要素が計算されていて、どの文章も よく読み出したら止められない工夫がされて いる。 なにげなく読んで面白いなぁと思っている文 章にも、著者によって様々な工夫がされてお り、いろいろな要素が集まっておもしろさを作 り出しているということがわかった。
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