ガイダンス/研究における理論の意味

台日異文化比較研究
グローバリゼーションⅠ
導入
討論
「グローバリゼーション」【globalization】
と聞いて何をイメージするか。
 どのような現象をグローバリゼーションと呼
ぶか。それに対して、賛成か反対か。
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課題論文
課題論文
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マンフレッド・B・スティーガー/櫻井公人、
櫻井純理、高嶋正晴訳(2009=2010)「グ
ローバリゼーション――概念をめぐる論争」
『新版グローバリゼーション』岩波書店
著者紹介
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マンフレッド・B・スティーガー
(Manfred B. Steger、1961― )
オーストラリアの政治経済学者、
社会学者。グローバリゼーショ
ン研究。
ハワイ大学マノア校で修士号取
得後、1995年、ラトガース大学
で博士号を取得。ウィットマ
ン・カレッジ助教授、イリノイ
州立大学准教授、同教授を経て、
現在、ロイヤルメルボルン工科
大学教授。
主要著作
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The rise of the global imaginary: political ideologies from the French
Revolution to the global war on terror, Oxford University Press, 2008.
Judging nonviolence: the dispute between realists and idealists,
Routledge, 2003.
Globalization: a very short introduction, Oxford University Press, 2003,
2nd edtion, 2009.
「グローバリゼーション」櫻井公人・櫻井純理・高嶋正晴訳、岩
波書店、2005年、新版, 2010年。
Globalism: the new market ideology, Rowman & Littlefield, 2002, 2nd
edtion, 2005, 3rd edtion, 2009.
Gandhi's dilemma: nonviolent principles and nationalist power, St.
Martin's Press, 2000.
The quest for evolutionary socialism: Eduard Bernstein and social
denocracy, Cambridge University Press, 1997.
『グローバリゼーション』論構成
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第二版はしがき
1.グローバリゼーション――概念をめぐる論争
2.グローバリゼーションと歴史――グローバリゼー
ションは新しい現象か
3.グローバリゼーションの経済的次元
4.グローバリゼーションの政治的次元
5.グローバリゼーションの文化的次元
6.グローバリゼーションのエコロジー的次元
7.グローバリゼーションのイデオロギー――市場派
グローバリズム、正義派グローバリズム、聖戦派グ
ローバリズム
8.グローバリゼーションの未来を評価する
「グローバリゼーション」用語の使用例
…1960年代初めから
→「喧噪の1990年代」の決まり文句として浮
上
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参考
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ナヤン・チャンダ/友田錫、滝上広水(2007=2009)『グロー
バリゼーション 人類5万年のドラマ【下】』NTT出版、p.119
オサマ・ビン・ラディンを脱構築する
オサマ・ビン・ラディンを脱構築する
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「ビン・ラディンは大いなる信念をもって国際「十字軍」を糾弾してき
たのかもしれないが、彼の組織全体の円滑な活動は、終わりつつあった
二〇世紀の、グローバリゼーションの進展した何十年かに発展した情報
通信技術に頼り切っていた」(p.4)
「ビデオ映像の中の彼は、アラブの伝統的な衣装の上に近代的な軍服を
重ねている。言い換えれば、彼の装いには、グローバル・スタディーズ
の研究者が「ハイブリッド化」――グローバルな経済的・文化的交流に
促された異なる文化的形式・スタイルの混合化――と呼ぶ、現代的な分
裂と相互交流の諸過程が反映されているのである。」(p.7)
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「「グローバリゼーション反対論者」であってもグローバリ
ゼーションが提供する道具を有効活用しなければならない」
(p.6-7)
「ビン・ラディンの「純粋なイスラム」というロマン主義的なイデオロ
ギーそのものがグローバルな想像力〔社会像。…〕の産物であるように、
私たちのグローバル時代は、テクノロジー、大衆市場商品およびセレブ
たちに飽くなき欲望を示す一方で、グローバリゼーションに対する暴力
的な反動を形成してきたのであり、そのことは消し去りようがない。」
(p.9)
グローバリゼーションの定義に向けて

「「グローバリゼーション」という言葉は、一般書
でも研究書でも、過程、状態、システム、勢力や時
代を描写するための用語として様々に使用されてき
た。これらの競合するレッテルの間には意味の相違
がかなりあるため、無節操に用いればしばしば意味
が不明確になり、混乱を招くことになる。たとえば、
過程と状態を区別しないようなずさんな使い方では、
ほとんど説明にならない循環論的な定義につながる。
つまり、よく繰り返されるような「グローバリゼー
ション(過程)がいっそうのグローバリゼーション
(状態)を招く」といった自明の理からは、原因と
結果の有意義な分析的識別を導くことができな
い。」(p.10)
↓
 「私は、グローバリティという言葉を用いるこ
とを提案する。」(p.10)
 「グローバリティ」=「既存の多くの国境や境
界線の意義を失わせるほど緊密かつグローバル
な相互連関とフローが、経済・政治・文化・環
境の面で存在することを特徴とするような社会
的状態」(p.10)
 (☆「グローバリティ」は、社会編成の変化に
応じて性格を変えていくような「根本的に未確
定な性格を持つ」)

「グローバリゼーション」=「ナショナリティ
が弱まりつつある現在の社会状態をグローバリ
ティの状態へと変容させると思われるような、
一連の社会的過程」(p.11)
 →以下の三つの主張を含む(p.11)
 ①「私たちは一八世紀以降徐々に進展してきた
近代のナショナリティの状態からゆっくり離れ
つつあること」
 ②「私たちはグローバリティの新たなポスト近
代的な状態に向けて、移行しつつあること」
 ③「私たちはそこまで到達していないこと」
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「グローバリゼーション」に関わる研究課題
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グローバリゼーションはどのように生じているのか?
何がグローバリゼーションを進展しているのか?
単独の要因によるものなのか、それとも複合的な要因に
よるものなのか?
グローバリゼーションは画一的な過程なのか、それとも
不均等な過程なのか?
グローバリゼーションは近代性の持続なのか、それとも
根本的に断絶するものなのか?
グローバリゼーションは過去の社会的発展とどのように
異なるのか?
グローバリゼーションは新しい形態の不平等とヒエラル
キーを創出するものなのか?
《暫定的定義》
「グローバリゼーションは、強まりつ
つあるグローバルな想像力(イマジナ
リー)に包み込まれた一連の社会的過程
を構成し、グローバリティの状態へと
私たちを向かわせるものである。」
(p.13)
「グローバルな想像力(イマジナリー)〔社会像〕
(global imaginary)」=「グローバルな共同体
(コミュニティ)への人々の帰属意識の強まりを
指すもの」
 →「グローバルな想像力(イマジナリー)は、ナ
ショナルおよびローカルの内部やこれらを越え
たところで次第に頻度を増しながら噴出してき
ており、人々がその共同体的な存在を想像し理
解するためにこれまで通常用いてきたパラメー
ターを不安定なものにし、動揺させているので
ある。」(p.13)

《「グローバリゼーション」概念の不一致》
「グローバリゼーション概念が依然として論
争的である理由の一つは、どのような社会過
程がその本質を構成するのかについて、学術
的な合意が得られていないからである。」
(p.14)
↑
 「象の寓話のポスト近代版」
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象の寓話

「どのグローバリゼーション研究者も、問題
の現象の一つの重要な次元を正確に特定して
おり、一面では正しい。しかし、彼らに共通
する誤りは、グローバリゼーションのように
複雑な現象を自らの専門に合致した単一の領
域に還元しようとする、独善的な試みにあ
る。」(p.15)
《グローバリゼーションの五つの有力な定義》
「したがって、グローバリゼーションとは、
何マイルも離れた場所で起きた出来事によっ
てローカルな出来事が形成され、逆に、ロー
カルな出来事が遠く離れた場所の出来事を形
成するというようにして、遠く隔たった地方
同士を結びつけていく、世界規模の社会関係
の強化として定義することができる」
 アンソニー・ギデンズ、前ロンドン大学政治
経済学院(LSE)長
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《グローバリゼーションの五つの有力な定義》
「グローバリゼーション概念には、世界市場
の地平と世界のコミュニケーションとが限り
なく拡大したという感覚が反映されており、
近代のより初期の段階に比べると、その両者
がはるかに実体的で直接的な関わりをもつよ
うになったと思われる」
 フレドリック・ジェイムソン、デューク大学
文学教授
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《グローバリゼーションの五つの有力な定義》
「グローバリゼーションとは、社会関係と社
会的取引の空間的編成における変容――その
広がり、強さ、速度、影響力によって評価さ
れる――を生み出す一つの(ないしは、一連
の)過程であり、それが大陸間ないし地域間
に行動のフローとネットワーク、相互作用、
そしてパワーの行使を生み出していると考え
られる」
 デヴィッド・ヘルド、LSE政治学教授

《グローバリゼーションの五つの有力な定義》
「概念としてのグローバリゼーションが意味
するのは、世界の圧縮と、世界を一体として
とらえる意識の深まりである」
 ローランド・ロバートソン、スコットラン
ド・アバディーン大学社会学教授

《グローバリゼーションの五つの有力な定義》
「グローバリゼーションは社会関係の時間的
および空間的な側面を圧縮する」
 ジェイムズ・ミッテルマン、アメリカン大学
国際関係学教授

「四つの明確な性質ないし特徴」
1.
2.
3.
「第一に、グローバリゼーションは、伝統的な政治的・経済
的・文化的・地理的な境界を横断する新たな社会的ネットワー
クや社会的活動の創出と、既存のそれらの増殖とをともなって
いる。」(p.17-18)
「グローバリゼーションの第二特質は、社会的な関係、行動、
相互依存の拡大と伸長に反映されている。」(p.18)
「第三にグローバリゼーションは社会的な交流と活動の強化と
加速をともなう。」(p.18)


4.
「技術革新は、異常なペースで進行しており、人間生活の社会的
地勢をつくり変えつつある。」(p.18)
「一見すると逆の過程に思われるグローバリゼーションとローカ
リゼーションは、実際には互いを合意するのである。」
「第四に、…グローバリゼーションの諸過程は、単に客観的・
物質的なレベルだけで生起しているのではなく、人間の意識と
いう主観的な局面をともなっている。」(p.19)
《スティーガーの定義》
「グローバリゼーションとは、世界時
間と世界空間を横断した社会関係およ
び意識の拡大・強化を意味する。」
(p.20)
来週の課題
来週の課題
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グローバリゼーション(過程)とグローバリ
ティ(状態)を区別した上で、前近代にどの
ようなグローバリゼーションがあったと言え
るか、一つ事例を考えてきてください。