2005年11月18日 日本言語政策学会 シンポジウム <ヨーロッパの多言語教育の動向> フランスにおける 多言語主義の現状と展開 西山教行(京都大学) 1 多言語主義教育 母語の他に2言語を学習する体制 他者への拓き 職業能力の一環としての言語学習 民主的ヨーロッパ人の形成 母語による言語・文化の多様性の認識 2 多言語教育政策の理念 個人の言語生活に言語・文化の複合性 複数言語の並列ではない 部分的能力の構築 生涯教育としての言語教育 多言語主義教育と異文化間の対話 他者の言語の学習により、他者への尊厳をはぐく む 3 Threshould Levelから『共通参照枠』 へ The Threshould Levelの刊行(英語版1975年、現 在までに24言語) 学習目的特定のための機能・概念モデルの提示 コミュニカティヴ・アプローチの発展へ 就学前児童から成人までの全レベルの言語教育 に共通する共通参照枠の開発へ(1991年以降) 『共通参照枠』の刊行(2001年) 言語教育のシラバス、カリキュラム、教材、試験、評 価の共通基準 4 国内言語政策と対外言語政策 ヨーロッパはフランス語普及の最重点地域 ヨーロッパ諸国におけるフランス語の地位の低下 多言語教育により、英語+フランス語の選択肢を 確保 多言語教育の模範を狙うフランス ヨーロッパ諸国への影響力を確保する 国内言語教育の充実が対外フランス語普及の担 保 5 フランスの言語教育への取り組み 早期教育の導入 義務教育修了までに2言語教育の実施 言語教育の多様化 ヨーロッパ語、地域語、移住者の出身語 諸言語教育館の開設(2002年) 6 早期教育の実施体制 1989年より、試験的に導入(小学5年、週1コマ90 分) 2000年より、幼稚園年長(5歳)より導入教育(3年 間)+言語教育(3年間)を実施 小学3年より5年までの学習によりA1のレベルを めざす 7 『参照枠』におけるA1のレベル(基礎段階) 聞くこと:数、値段、時間が理解できる 読むこと:短く、簡単に書かれている指示に従うこ とが出来る 話すこと、やりとり:誰かを紹介することが出来る 話すこと:個人情報(住所、電話、国籍、年齢など) を伝えることが出来る 書くこと:自分自身について、簡単な表現を使い文 を書くことが出来る 8 早期教育の目的 他言語による表現への拓き 他言語との比較により、母語(フランス語)のよりよ い理解、とくに読解能力の養成 母語以外の言語を学ぶ喜びと欲求 国際交流(姉妹校交流)の推進 英語教育に限定しない現代語教育 9 初等教育の課題 英語教育への一極化の流れ 初等段階での言語教育から英語をはずすべきとの 提言 社会的ニーズの高いものはその後にも学習可能 教員の言語教授能力の養成 児童の家庭に向けた情宣の不足 地域の外国人、民間人との連携 10 中等教育の多言語教育 中学1年からの第1現代語リスト ドイツ語、英語、アラビア語、中国語、スペイン語 、現代ヘブライ語、イタリア語、日本語、オランダ 語、ポーランド語、ポルトガル語、ロシア語 中学3年から第2現代語追加リスト トルコ語、バスク語、ブルトン語、コルシカ語、ガ ロ語、メラネシア諸語、アルザスやモーゼル地方 の諸言語、オキシタン語、タヒチ語 11 中等教育の言語教育実施体制 中学1年より第2現代語の導入 『参照枠』の定めるB2レベルが第1現代語の達成 目標(会話能力をのぞく) 外国人TAの活用 ヨーロッパ・セクションの設置 インターナショナル・セクションの設置 12 『参照枠』におけるB2のレベル(自立した 言語使用) 聞くこと:かなり長い講演や演説理解することが出 来る 読むこと:現代文学のテキストを理解できる 話すこと:関心のあるさまざまな話題について明瞭 で詳しく説明することが出来る 書くこと:ある意見についての賛否を明らかにする 論文を書くことが出来る 13 中等教育の課題 英語(第1現代語)+スペイン語(第2現代語)が多 数 第1現代語(英語、ドイツ語、スペイン語)の固定化 ドイツ語、ロシア語の凋落 移住者の言語教育(アラビア語、ポルトガル語)の 低迷 初等教育との連携の遅れ 初等教育での言語選択の影響 2言語教育に立ち遅れる職業学校 14 教員養成の課題 現代語教育の多様性の確保 外国語による教科教育教員の養成 15 高等教育での言語教育 教養課程における言語教育の継続 留学制度の拡充(Erasmus, Erasmus mundus) 言語教育の多様性 103言語を提供(東洋語学校が46言語を提供) 外国語コースでは63.9%が英語を選択 16 課題:英語の寡占化と言語の多様化 英語への一極集中 多様性の確保 ドイツ語の凋落 スペイン語の上昇 移住者の出身語教育の振興 17 元老院からの政策提言 多言語主義教育に向けた世論の形成 地域の言語教育資源の調査 魅力的で、効率的な言語教育への整備 生涯教育の一環としての言語教育 初等教育での教員養成の整備 国際交流、異文化間理解と連動する言語教育へ 18 日本は何を学ぶか 中等教育と高等教育、生涯教育の連携 諸言語教育(国語、日本語、英語、フランス語、ド イツ語、中国語、朝鮮語など)の連携 生涯教育としての言語教育 多言語教育へ向けた世論の形成 言語教育と国際交流の推進 多言語教育をめざした教員養成の再編 19
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