マクロ経済学 II 第7章 久松佳彰 財政政策のマクロ経済分析 • 多くの先進工業国において、政府活動の大き さは拡大してきた。 • この章では、税や公債などのメカニズムを中 心に、財政政策の基本的な構造を学ぶ。 – 景気変動への影響 – 財政赤字・政府債務の意味 – 現代世代と将来世代の経済的利害関係 政府の課税活動と乗数プロセス • 乗数プロセスは税体系によって影響を受ける。 • 追加所得の一部分が税金として政府に持っ ていかれるので、追加的な消費の増加額も 小さくなる。 政府の課税活動と乗数プロセス 政府の課税は、T=tY-T0 (7-1) によって行われると仮定する。 ただし、tは限界税率(所得の増加に対して、そ のうちどの程度の割合が税にとられるか表し た数字)、T0は定数、Yは所得水準、Tは総税 収。 T=0.2であれば、所得の増分のうち2割が税で とられる(0<t<1)。 政府の課税活動と乗数プロセス Yd=Y-T (7-2) が家計の可処分所得(Yd)。消費額は、 C=cYd+C0 (7-3) 財市場の均衡条件は、 供給Y=需要=C+I+G (7-4) よって、(7-1), (7-2), (7-3)を(7-4)に代入すると、 政府の課税活動と乗数プロセス Y=[c(1-t)Y+cT0]+(C0+I+G) (7-5) これを変形して、Yを求める式にすると、 1 Y (C0 I G cT0 ) 1 c(1 t ) 3章(p.60)の乗数1/(1-c)と比べると、小さくなっ ている。→乗数プロセスの「漏れ」(図7-1) 累進課税制度と自動安定化装置 • 多くの国の所得税は、ほとんどの場合、累進 的構造を持っている(図7-2)。 • =所得が高くなるほど、高い所得税率に直面 することになる。 • 累進的税体系のもとでは、平均税率も逓増的 になっている。 平均税率=「総税額」/「所得額」 累進課税制度と自動安定化装置 • 累進的な所得税は、課税後の可処分所得を 平等化する働きがある。→所得再分配機能 • マクロ的な働き=自動安定化装置 累進課税制度と自動安定化装置 • 景気が良くなる⇒所得の上昇⇒限界税率の 上昇 • 景気が悪くなる⇒所得の低下⇒限界税率の 下降 • 思い出してください: 限界税率が高い⇒乗数プロセスの乗数値は小さい すなわち、 景気良くなる⇒乗数値の低下=景気減速の働き 景気悪くなる⇒乗数値の上昇=景気加速の働き 累進課税制度と自動安定化装置 景気良くなる⇒乗数値の低下=景気減速の働き 景気悪くなる⇒乗数値の上昇=景気加速の働き 累進課税体系のもとでは、課税体系自身が自動的 に景気の波を抑制する働きがある。 このメカニズムを自動安定化装置(ビルトイン・スタ ビライザー)と呼ぶ。 自動安定化装置 • 同様のメカニズムは失業保険についても働く。 • このように考えると、政府の財政収支が常に 均衡(歳入=歳出)していることが必ずしも望 ましいことではないと考えることもできる。 – 好景気⇒財政黒字 – 景気悪化⇒財政赤字 • ケインジアンの立場では長期的に財政均衡 が成り立てばよい。 財政収支の長期的意味 • では、長期的に財政収支を考えてみよう。(図 7-3) • 図7-3は、政府の国債発行残高と対GDP の比率の推移を表している。 • 政府の予算制約 政府財政収支(黒字なら+、赤字なら-) =税収-(財政支出+政府負債への利払い) 財政収支の長期的意味 • 政府財政収支が赤字であれば、公債発行で 賄わなければならない。 公債発行額 =(財政支出+政府負債への利払い)-税収 政府負債=政府の財政赤字の累積額=公債 残高 政府負債残高の今後 • 財政収支が黒字になれば、黒字分だけ公債 を償還(政府による買戻し)できるので、政府 の債務残高は次第に減少していく。 • いわゆる財政改革、行財政改革の狙いはこ れであったと考えられる。 政府負債残高の今後 • では、政府支出(利払い含まず)と、税収が均 衡していたらどうなるか? • 政府債務額の対GDP比率は上昇するか、下 降するか? • 債務額は、利子率と同じ割合で成長 • GDPは、経済成長率と同じ割合で成長 • 利子率と経済成長率のどちらが大きいかが 課題! 公債の負担 • 公債はいつかは返さなければなりません。 • 政府債務が増大している場合には、将来ある 時点で増税して公債を償還する必要がありま す。 • 「成長率<金利」の場合にはいつまでも借金 を先延ばしにはできません。 • 増税で公債の償還をするのは現代世代では なくて、将来世代です。 公債の負担 • では、公債は将来世代の負担になるのでしょ うか? • それは簡単にはいえません。財政赤字の中 身を見る必要があります。 – 政府消費による財政赤字⇒金利上昇⇒民間の投 資を抑制=資本蓄積を抑制=将来の生産能力 が低下=将来のGDPの低下。 – では、財政赤字が公共投資目的であったら? 公債の負担 • 公共投資目的の財政赤字⇒公共投資⇒将来 世代の所得の増大or生活を豊かにする • 親が酒を飲む為に借金をし債務を残せば、そ れは子供の負担になるが、土地を買うために (子供の教育のために)借金をし、借金の利 子よりも土地の値上がり率が高ければ(高給 料の仕事につけば)、そのような借金は子供 の負担にはならない。 減税政策の有効性への疑問 • 以上の説明は、ケインジアンのマクロ経済政 策の根本です。 • 批判があります(マネタリストと新古典派か ら)。 – 消費者が合理的であるかぎり、一時的な減税政 策では消費は刺激されないと主張。 – 「現在の減税が将来の増税をもたらす」なら、合 理的な人は所得が増えたとは思わず、消費を増 やさないだろう。=多時点の視点 多時点モデルの消費者 • もしも政府が現在減税を行なって、将来に増 税するということが予想されるのであれば、合 理的な消費者は減税分を貯蓄でとっておいて、 将来の増税に備えるはずです。 • リカード仮説: – 政府の政策は多時点間の制約にあり、それを国 民が理解していれば減税政策は効果を持たない。 • 最近の日本の消費者行動を部分的には説明 する。 遺産動機 • 高齢者は、将来の増税時には生きていない (増税を負担しない)のであれば、高齢者は 減税に反応するだろうか。 • しかし、高齢者は自分の子供・孫のことを考 え、遺産を残す。すると、「現在の減税+将来 の増税」があるとすると、高齢者は子供・孫の ことを考えて遺産を多く残そうとするだろう。そ うであれば、やはり減税は意味が無い。 減税政策 • ケインジアン: – 一時的な減税政策は働く。将来、増税すればよ い。 • 新古典派(およびマネタリスト): – 一時的な減税政策は効かない。恒久的な減税政 策は効果がある。
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