応用人間科学研究科:07/06/19 対人援助の実践と報告に関する 研究倫理 応用人間科学研究科 望月昭 E-mail: [email protected] ブログ「対人援助学のすすめ」 http://d.hatena.ne.jp/marumo55/ 1 背景と趣旨 1.臨床を含めた対人援助に関する研究・実践に おいて、守るべき倫理的行動と対象となる「研究」 の意味を改めて確認する 2. 研究者の倫理と研究の倫理 3. 応用人間科学研究科(あるいは「対人援助」の 実践・研究における倫理的課題の実例 4. 今後の倫理的課題への対応 2 1.研究者とは・研究とは? • 研究者とは: 学部生・院生・教員を問わず、調 査・実験・臨床・実践・発表をおこなう全ての人間 である(参照:「研究倫理のガイドライン」07立命 館大学参照) • 研究とは: 授業内外を問わず、目的の設定、具 体的方法、記述方法、公開・報告のすべての行 為を備えた作業である。研究倫理はそのどの部 分についても適用される 3 研究倫理の原則 臨床・発達・教育・福祉系 「心理学・倫理ガイドブック」 (日本発達心理学会監修、有斐閣) 応用人間科学版(暫定)は別紙参照 1)インフォームド・コンセント(内容から発表まで) 2)プライバシーの保護 3)研究のフィードバック(成果の公表) -------------------------------------------------------4)先行研究へのRespect 5)データ収集、分析、表現についての公正性(integrity) 4 ・先行研究の網羅 先人へのRespect 4) 最新・最適のトリートメントや 調査か? 研究目的・目標の 設定 ・以降の研究活動における倫理 的諸項目についての具体的プ ラン(研究公表まで射程) 研究方法の確定 研 究 活 動 ここまでに1)インフォームト・コンセント 研究の実施 ・参加者(組織)が途中でも参加拒 否を表明する機会を設ける ・実施・発表中のプライバシー保護 存の機密性の保護 2)資料保 ・実施過程でのSV 研究の公表 参加者(組織)と社会へ向 けた発表・公表 3) ・危機管理・損害補償 ・公正な分析と表現(integrity)5) 5 ここから、Practical and advanced issues 2.研究倫理=研究者倫理? ●現在、研究費流用などの不祥事の中で、 「研究倫理」の問題が、研究者個人のモラ ルにもっぱら帰属するかのような状況があ る(研究者の倫理)」。 ●そして、研究倫理の機能は、 「非倫理的行動を、罰、不の強化で減少させ るためのルール」(坂上,2004参照) 6 「研究者の倫理」と「研究の倫理」 1)研究者の倫理 コンプライアンス・他者の利益や権利を侵害しな いための自己管理の方法を考える 2)研究の倫理 どうすれば自己管理が可能になり、研究を 維持・促進する上で何が必要かを考え続ける 7 倫理的行動とは? • 現在の「研究者倫理」の方向は、 非倫理的行動をしないこと=倫理的行動 必ずしも、積極的に「倫理的行動」を促進 する状況や仕組みではない。 8 研究者と対象者 • 「非倫理的行動をしない」という消極的な意 味づけの中では、ともすると研究倫理のた めの作業は、 「研究(者)」と「対象者」が、 対立的な構図として位置づけられてしまう。 研究促進と対象者の利益が ともに増大するための仕組みを追求しなく てはいけない(=「研究の倫理」) またそのような研究を強化する仕組みを具体的に工夫 9 することが、研究倫理を考える基本 そもそも、対人援助に関わる 研究・実践の「機能」とは その内容 ・対象となる「個人」とそれに関わる広義の「環境」の関係を分 析し、その状態や必要な対策を公共的な形で表記することま で 研究:常にそれは言語行動である このような内容を記述する行動(コミュニケーション)の機能はど のようなものか? 機能:いったいどんなものに支えられているのか? 言語行動とすればその聞き手は誰で、その聞き 手にどのような影響を与えるのか? 10 対人援助の「研究行動」を決定する状況分析 先行状況 対象の行動と環境 記述行動の強化を決 める先行状況 反応(行動) 結果 ? 研究(記述)行動 倫理的: 対象者の利益を優 先してるか? ? 研究者は自らの研究行動が、どんな先行状況のもとで、何(誰)に維 持されているか、認識(記述)し、対処する必要がある 11 当事者(被援助者)・環境・援助者 特定 当事者 既存環境 研究対象 実践・研究 宗教・信条 統計・機械的 科学 市場原理 組織の規制 (^,モ,^); 援助者 研究者 個人的利益 締め切り! 「人称と臨床」(07/6/02)シンポジウム指定討論より 12 対人援助者の作業(実践=研究)の3つの 「機能」 治療・教授 既存環境への適応作業 援助 行動成立のための 新たな環境設定 援護 援助設定の定着のため の要請 13 対人援助における研究の倫理 • 研究(実践)とは「援護」としての発表を前提とする。 • 研究倫理は手続き上の「留意点」ではなく、研究の目 的あるいは研究することがすでに倫理的判断の結果 である。 ●対象者の利益(選択肢拡大)に対して研究内容が一 致しているかどうかが、まず問題。 ●「援護」(公表)することが倫理的である。 その役割を果たしうる内容であるか? 14 対人援助だから危ない点 ・「援助」している研究者の“信念”が、公正さ(integrity)を阻 害する。 無意識の改ざん・データの選択 → 長期的には「援護力」を失う ・目標達成の“信念”から、対象となる「本人」の援助要請の 有無さえ確認しないで作業を継続する (パターナリズム) ・対象者ではなく「他の援助者」(親・組織)の要請に統制さ れてしまう(クライエントが当事者ではない場合) 15 当事者と「善意」の研究者(援助者) の関係のチェックシステム ・直近の援助者(代理人)ではなく、 対象となる当事者自身から、援助実践に関する 「対抗制御」(counter control)の回路を保証する。 ●坂上貴之(2004) 倫理的行動と対抗制御-行動倫理学の可能性行動分析学研究、19(1)、5-17. ●Nozaki & Mochizuki (1995): Assessing choice making of a person with profound disabilities. The Journal of the Association for Persons with Severe Handicaps, 20(3),196-201. ●望月昭(2000):行動分析の立場から表出援助(FTA)を考える。国 立特殊教育総合研究所、特別研究報告書、81~93 http://www.ritsumei.ac.jp/kic/~mochi/FC.html 16 3.研究倫理にかかわる実例 • 学会からのストップ 旧福祉体制がゆえに成立した研究 (特殊教育学会、JASH) • 研究の成果が、直近の援助者からストップを かけられる ・「能力の証明が福祉的サービスの権利を低 減させる」 ・援助設定の常駐に確かな可能性がない ・ 修論のHPに批判が集まり炎上寸前 公開の下で、議論を重ねる必要がある。逃げないこと。 17 対人援助に関わる実践・研究について、研究倫 理規定が、研究行動をどう扱うべきか ●「非倫理行動の禁止条項の羅列」ではなく、研究それ自体の主題 に関わる倫理性についても積極的に考えるべきである ●ReactiveではなくProactiveな議論を行うべきである。 ・審査の過程を公開していく。 ・議論の過程を示していく。 ●教学の中に既に「倫理的課題」は含まれる。 研究(発表)するとはどういうことなのか? 公開された課題をもとに認識を深める可能性あり ●「発表する=研究する」ことに関しては学生も研究者としてとらえ るべきである(責任と義務のあり方は職業績研究者とは異なってい 18 ても) 4.応用人間科学研究科の現状 IRB(Institutional Review Board) としての応用人間科学研究科倫理委員会 1)研究の方法と公表の方法に関する倫理的 基準は、指導教員との共同責任である。 2)必要な場合は、研究科運営委員会が、倫 理委員会を構成し、研究の倫理的妥当性 について審査し書面で許諾を示す ----------------------------------------------------3)発表については各学会の基準によって判 19 断される。 ところで・・・・・・ • 調査・実験・臨床のコンテンツ、日程、作業 フローの記録(日誌)をとっていますか? • 実験・調査中に、「事故」が起こった場合、 その「被害者」が自分自身、対象者、ある いは第三者の場合、その保障は、どうやっ てなされるか知っていますか? • 当該の研究費用はどこから出費されてい るか知っていますか? 20 文献 ・望月昭(1997)「コミュニケーションを教えるとは」:小林重雄 監修、山本淳一、加藤哲文編『応用行動分析学入門』、学苑 社. ・日本発達心理学会(2000)「心理学・倫理ガイドブック」、有斐 閣. ・望月昭・冨安ステファニー(監訳)(1998)「発達障害に関する 10の倫理的課題.二瓶社(絶版!?) ・日本行動分析学会(2004)(編) 「特集:行動分析と倫理」、行動分析学研究19. ・坂上貴之(2004) 倫理的行動と対抗制御-行動倫理学の可 能性- 行動分析学研究、19(1)、5-17. ・望月昭(2007) コミュニケーションとしての研究の倫理― 行動的対人援助の研究の現場から.オープンリサーチセンター シリーズ(5)「研究倫理を考える」.p.118-(次ページURL) 21 http://www.human.ritsumei.ac.jp/ hsrc/resource/series/05/open_resea ch05.html 人間研HP→Open Research Center→Resource→シリーズ5 22
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