2010 バリアフリーのための心理学 (その7) 「人を助ける」実践・研究に関する 倫理的課題(FC問題を中心に) 望月昭 1 援助者(実践者・研究者)が、 対象となる個人に、新しい負担や「新 たなバリア」を作っていないか? 臨床を含めた心理学に関する研究にお いて、守るべき倫理的行動と、「臨床・ 実践・研究」の意味を改めて確認する 道場は門下生に品格のある試合を要求し、また汚い対戦相手や 事故などから、門下生を守る義務もある。 2 君らのことです 研究者とは・研究とは? • 研究者とは: 学部生・院生・教員を問わず、 調査・実験・臨床・実践・発表をおこなう全ての 人間である • 研究とは: 授業内外を問わず、目的の設定、 具体的方法立案、実施、公開・報告のすべて の行為を備えた作業である。研究倫理はその 全体およびそれぞれの部分について適用され る 3 被験者の権利 これまでの研究倫理の第一義的な機能はこれ • 研究遂行において、対象となる個人や集 団に対して、 侵襲性(intrusiveness) を、最小限度にしなければならない。 対象者が、もし研究・実践者に対して、治療、支援を要請 している場合であっても、対象当事者について知る行為、 測る行為、撮影する行為は、いずれも侵襲性をもつ可能 性もある。 何か相手に、「聞き取る」、「メモをとる」、「アン ケートに書いてもらう」なども、相手に精神的な負荷 4 や時に苦痛を与える可能性がある。 研究倫理の原則 「心理学・倫理ガイドブック」 (日本発達心理学会監修、有斐閣) 「三大基本原則」 1)インフォームド・コンセント(目的から発表まで) 2)対象者のプライバシーの保護 3)研究のフィードバック(成果の公表) 3大倫理原則 -------------------------------------------------------4)先行研究へのRespect 5)データ収集、分析、表現についての公正性(integrity) 5 1)インフォームド・コンセント • 実験・調査に先立ち、対象となる個人(被 験者)や保護者(対象が子どもの場合)、そ して所属する組織に、研究の目的、方法、 結果の公表の仕方について同意を得るこ と インフォームド・コンセントを得られない被験者(対象 者)の研究は原則、研究は行えない。 結果の公表の仕方についても、あらかじめ予告・承諾 を得る。 6 2)プライバシーの保護 • 研究作業(実施から発表まで)の中で、対 象者について知り得た事実について、研究 の対象内・外を問わず、その個人が特定さ れるような情報を漏らさない。 1)研究者同士の会話(バス、喫茶店) 2)データ・媒体(USB)の管理 3)データの廃棄(VTRや録音テープなど) インフォームト・コンセントの中に、3)のデータの廃棄 の具体的予定も告げることを推奨する 7 3)研究のフィードバックと公表 ①研究に参加した個人やグループに対する 研究結果の報告:時間を割いて研究に参加した 被験者には、その研究の結果について知る権利 がある。 ②データを個人的に「死蔵」せずに公表すること。 観察・記録において侵襲性のある研究を遂行す るだけで、個人的業績のみとするのではなく、 被験者の利益をもたらし社会に問題提起を行う ために必ず報告を行う(発表のない研究はない) 8 対人援助における作業 • 3つの作業が必要である。 • 援助: • 援護: • 教授: 望月昭(編)2007 「対人援助の心理学」、朝倉書店 9 対人援助作業の3つの機能の連環的発展 個人の行動(反応)形成 3 治療・教授 2 Instruction 1 援助 援護 assist advocate 行動成立のための 新たな環境設定 援助設定の定着のため の要請 10 臨床・対人援助実践・研究における 研究の倫理 • 研究(実践)とは「援護」(当事者のために、 必用な事実を社会に訴える)としての発表 である。 • 研究倫理は、手続き上の「留意点(べからず集)」では なく、研究の目的あるいは(発表まで含めた)研究の遂 行自体も、倫理的判断の対象である。 ●対象者の利益(選択肢拡大)に対して研究内容が一致 しているかどうかが、基本的な倫理的問題。 11 対人援助だから危ない点 ・「援助」している研究者の“信念”が、公正 さ(integrity)を阻害する。 無意識の改ざん・データの選択 → 長期的には「援護力」を失う ・対象者ではなく「援助者」の強化随伴性に統制されてし まう。 ・“信念”や“援助者の利益”から、対象となる「本人」の 援助要請の有無さえ確認しないで作業を継続する (パターナリズム) 12 当事者と「善意」の研究者(援助者) の関係のチェックシステム ・直近の援助者(代理人)ではなく、 対象となる当事者自身から、実践・研究に関する 「対抗制御」(counter control)の回路を保証する (坂上,2004参照)。 いつでも被験者(被援助者)に「NO」と表明できる機会を設 定する。 ●坂上貴之(2004) 倫理的行動と対抗制御-行動倫理学の可能性- 行動分析学研究、19 (1)、5-17. ●Nozaki & Mochizuki (1995): Assessing choice making of a person with profound disabilities. The Journal of the Association for Persons with Severe Handicaps, 20(3),196201. ●望月昭(2000):行動分析の立場から表出援助(FTA)を考える。 13 国立特殊教育総合研究所、特別研究報告書、81~93 →望月昭のHPからDL可能 Facilitated Communication 「表出援助」 という援助設定に対する問題 • FC: 援助者が、対象となる個人に手を添え る等の身体的支援を通じて、言語行動の 自発を支援する。 VTR「奇跡の詩人」(NHK) 14 15 VTRをみて • 1) この状況で問題点は何か • 2)援助者(母親など)の「援助つき の行動」として、認めるべきか、認 めるべきではないのか? • 3)解決策は? 16 Blind test の 様子 17 どのようにチェックすべきか? 18 選択肢を押しつけない選択機会 は、具体的にはどのように設定 すればよいか? 否定選択肢設定の導入について 19 選択肢提供者の予想を「裏切れる」選択肢 Choice option 1 Choice option 2 Rejection 20 「選択肢否定」は要求言語行動の機能の 条件でもある。(要求していないものが供給 された場合に,「違います」という 否定の反応が出るか) Choice option 3 Choice option 4 Rejection 21 FCの状況での解決策 • 「援助つき行動」(他立)を認めつつ、 当事者の決定(自律)を確認する手続きが 必要。 • 具体的には、どのようにすれば良いか? 22 「対人援助作業」がつくるバリア • 対人援助という行動が、対象個人の自律 的な行動の選択肢の拡大を阻害する場合 • どうしてそのような事態が生じるのか? 23 当事者(被援助者)・環境・援助者 研究対象 特定 当事者 適切表現 既存環境 宗教・信条 統計・機械的 科学 市場原理 個人的利益 締め切り! (^,モ,^); 援助者 研究者 「人称と臨床」シンポジウムより 24
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