心理・研究リテラシ-:09/06/26 心理学の「人に関する」実験・調査に関 する 研究倫理 望月昭 E-mail: [email protected] 1 心理学専攻の諸君は 諸君は入門したてとは言え 立命心理道場の門下生 研究・実践は相手のある格闘技 道場を出て、むやみにその技を 使って喧嘩などするなよ。 格闘技に礼儀や品格もあるように、 研究という試合でも、実践という喧 嘩にも、君ら自身の評価を下げた り、道場の名を辱めることのないよ うに心得よ。 いざという時に、手を抜いたり 先達への尊敬をゆめゆめ忘れる べからず 2 背景と趣旨 1.臨床を含めた心理学に関する研究に おいて、守るべき倫理的行動と、「研 究」の意味を改めて確認する 2. 「研究者の倫理」と「研究の倫理」 3. 立命館大学での仕組み 道場は門下生に品格のある試合を要求し、また汚い対戦相手や 事故などから、門下生を守る義務もある。 3 君らのことです 1.研究者とは・研究とは? • 研究者とは: 学部生・院生・教員を問わず、 調査・実験・臨床・実践・発表をおこなう全ての 人間である(「研究倫理のガイドライン」07立 命館大学参照) • 研究とは: 授業内外を問わず、目的の設定、 具体的方法立案、実施、公開・報告のすべて の行為を備えた作業である。研究倫理はその 全体およびそれぞれの部分について適用され る 4 被験者の権利 これまでの研究倫理の第一義的な機能はこれ • 研究遂行において、対象となる個人や集 団に対して、 侵襲性(intrusiveness) を、最小限度にしなければならない。 対象者が、もし研究・実践者に対して、治療、支援を要請 している場合であっても、対象当事者について知る行為、 測る行為、撮影する行為は、いずれも侵襲性をもつ可能 性もある。 何か相手に、「聞き取る」、「メモをとる」、「アン ケートに書いてもらう」なども、相手に精神的な負荷 5 や時に苦痛を与える可能性がある。 研究倫理の原則 「心理学・倫理ガイドブック」 (日本発達心理学会監修、有斐閣) 「三大基本原則」 1)インフォームド・コンセント(目的から発表まで) 2)対象者のプライバシーの保護 3)研究のフィードバック(成果の公表) 3大倫理原則 -------------------------------------------------------4)先行研究へのRespect 5)データ収集、分析、表現についての公正性(integrity) 6 1)インフォームド・コンセント • 実験・調査に先立ち、対象となる個人(被 験者)や保護者(対象が子どもの場合)、そ して所属する組織に、研究の目的、方法、 結果の公表の仕方について同意を得るこ と インフォームド・コンセントを得られない被験者(対象 者)の研究は原則、研究は行えない。 結果の公表の仕方についても、あらかじめ予告・承諾 を得る。 7 2)プライバシーの保護 • 研究作業(実施から発表まで)の中で、対 象者について知り得た事実について、研究 の対象内・外を問わず、その個人が特定さ れるような情報を漏らさない。 1)研究者同士の会話(バス、喫茶店) 2)データ・媒体(USB)の管理 3)データの廃棄(VTRや録音テープなど) インフォームト・コンセントの中に、3)のデータの廃棄 の具体的予定も告げることを推奨する 8 3)研究のフィードバックと公表 ①研究に参加した個人やグループに対する 研究結果の報告:時間を割いて研究に参加した 被験者には、その研究の結果について知る権利 がある。 ②データを個人的に「死蔵」せずに公表すること。 観察・記録において侵襲性のある研究を遂行す るだけで、個人的業績のみとするのではなく、 被験者の利益をもたらし社会に問題提起を行う ために必ず報告を行う(発表のない研究はない) 9 4)先行研究の引用 ① 先達の研究者へのレスペクト 先達とは、自分の研究の源流にある大御所だけではなく、 研究室の先輩、同僚であることもある。可能な限り参考し 引用すること。これは研究入門の実験遂行や課題レポート でも遂行すること。もちろん学術雑誌に掲載されてきた 研究者の論文については言うまでもない。 ② 最新の研究結果を引用し実験(実践)している か? 臨床や対人援助系の実践・研究において、必ず最新の方 法を知った上で方針を決定すること。 大昔のテキストを読んで、「見よう見まね」のような事を絶 対にしてはいけない。それは、心理・行動的なトリートメント を薬に例えるならば、引き出しにしまってあった古い薬や、 すでに副作用が知られるようになったものを使用してしまう ことと同じである。調査研究でもそれは同様である。 10 5)データ収集、分析、表現につい ての公正性(integrity) ・ 予測(期待)される結果から、データ収集に恣 意的な選択がないか? 善意のうちにも生じうること。対象者の利益にかなうからと 都合のよいデータを恣意的に利用したりねつ造したりしない。 • 相関関係を因果関係のように表現していない か? 相関関係しか明らかでないのに、因果があるかのような示 唆を安直にしてはいけない。これが、プロとしては一番みっと もないし、関係者に著しい迷惑をかけることがある。 11 ・先行研究の網羅 先人へのRespect 4) 最新・最適のトリートメントや 調査か? 研究目的・目標の 設定 ・以降の研究活動における倫理 的諸項目についての具体的プ ラン(研究公表まで射程) 研究方法の確定 研 究 活 動 ここまでに1)インフォームト・コンセント 研究の実施 ・参加者(組織)が途中でも参加拒 否を表明する機会を設ける ・実施・発表中のプライバシー保護 存の機密性の保護 2)資料保 ・実施過程でのSV 研究の公表 参加者(組織)と社会へ向 けた発表・公表 3) ・危機管理・損害補償 ・公正な分析と表現(integrity)5) 12 2.研究倫理=研究者倫理? ●研究費流用などの不祥事の中で、 「研究倫理」の問題が、研究者個人のモラルにもっぱら帰 属するかのような状況がある(=研究者の倫理)」。 ●そして、従来の「研究倫理」の機能は、 「非倫理的行動を、罰、不の強化で減少させるためのルー ル」(坂上,2004参照) ●研究倫理に関する議論は、人間研の以下のURLへ http://www.ritsumeihuman.com/hsrc/resource/05/o pen_reseach05.html 13 研究者と対象者 • 「非倫理的行動をしない」という消極的な意 味づけの中では、ともすると研究倫理のた めの作業は、 「研究(者)」と「対象者」が、 対立的な構図として位置づけられてしまう。 研究促進と対象者の利益が ともに増大するための仕組みを追求しなく てはいけない(=「研究の倫理」) またそのような研究を強化する仕組みを具体的に工夫 14 することが、研究倫理を考える基本 臨床・対人援助実践・研究における 研究の倫理 • 研究(実践)とは「援護」(最終的には当事者や社会的 利益のために、必用な事実を社会に訴える)としての 発表である。 • 研究倫理は、手続き上の「留意点(べからず集)」では なく、研究の目的あるいは(発表まで含めた)研究の 遂行自体も、倫理的判断の対象である。 ●対象者の利益(選択肢拡大)に対して研究内容が一 致しているかどうかが、基本的な倫理的問題。 15 当事者と「善意」の研究者(援助者) の関係のチェックシステム ・直近の援助者(代理人)ではなく、 対象となる当事者自身から、実践・研究に関する 「対抗制御」(counter control)の回路を保証する(坂上,2004参照)。 いつでも被験者に「NO」と表明できる機会を設定する。 ●坂上貴之(2004) 倫理的行動と対抗制御-行動倫理学の可能性- 行動分析学研究、 19(1)、5-17. ●Nozaki & Mochizuki (1995): Assessing choice making of a person with profound disabilities. The Journal of the Association for Persons with Severe Handicaps, 20(3),196-201. ●望月昭(2000):行動分析の立場から表出援助(FTA)を考える。 国立特殊教育総合研究所、特別研究報告書、81~93 →望月昭のHPからDL可能 16 3.立命館大における研究倫理 人を対象とする研究倫理指針・審査体制による 【別紙:チェックリスト・研究倫理審査用紙を参照】 ・実践・研究は、教員、学生によらず研究倫理の審 査を受けることができる(学生・院生は、審査申請 について、必ずしも教員の許可を受ける必用はな い) ・審査を受けなかった研究についても、途中で トラブルなどが生じた際に相談することができる 17 研究を始めるにあたって • 調査・実験・臨床のコンテンツ、日程、作業フローの記録 (日誌)をとっていますか? • 実験・調査中に、「事故」が起こった場合、その「被害者」が 自分自身、対象者、あるいは第三者の場合、その保障は、 どうやってなされるか知っていますか? 通称「学研災」「学研賠」という保険に心理の学生は自動 的に加入している(各自取り寄せて詳細を読むこと)。 授 業(卒論等を含む)に関係のある活動に対しては、まずこ の保険がカバーする。その他プロジェクトによって固有な保 険に加入している場合がある。 • 当該の研究費用はどこから出費されているか知っています か? 18 文献 ・日本発達心理学会(2000)「心理学・倫理ガイドブック」、 有斐閣. ・望月昭・冨安ステファニー(監訳)(1998) 「発達障害に関する10の倫理的課題」.二瓶社. ・日本行動分析学会(2004)(編) 「特集:行動分析と倫理」、行動分析学研究19. ・坂上貴之(2004) 倫理的行動と対抗制御-行動倫理学の 可能性- 行動分析学研究、19(1)、5-17. ・望月昭(2007) コミュニケーションとしての研究の倫理― 行動的対人援助の研究の現場から.オープンリサーチセンター シリーズ(5)「研究倫理を考える」.p.11819
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