応用人間科学研究科:07/06/04 対人援助の実践と報告に関する 研究倫理 応用人間科学研究科 望月昭 E-mail: [email protected] ブログ「対人援助学のすすめ」 http://d.hatena.ne.jp/marumo55/ 1 背景と趣旨 • 人(ヒト)を対象とした研究、とりわけ臨床を 含めた「対人援助」に関する研究・実践に おいて、守るべき倫理的行動と対象となる 「研究」の意味を改めて確認する • 応用人間科学に直面する課題の実例 • 今後の倫理的課題への対応 2 研究者とは・研究とは? • 研究者とは: 学部生・院生・教員を問わず、 調査・実験・臨床・実践・発表をおこなう全 ての人間である。 • 研究とは: 目的の設定、研究(実践)の遂 行、記述・報告(=公開)まで行って初めて 成立する。ただし研究倫理はそのどの部 分についてもそれぞれに配慮の必要があ る。 3 「研究者の倫理」と「研究の倫理」 1)研究者の倫理(対象は人) コンプライアンス・他者の利益や権利を侵 害しないための自己管理の方法を考える 2)研究の倫理(対象は研究行動) 上記のようなことを前提に、必要な研究 行動を維持し促進するために必要な援助 設定を考えつづけること 4 現在の倫理的ルール 臨床・発達・教育・福祉系 「心理学・倫理ガイドブック」 (日本発達心理学会監修、有斐閣) 1)インフォームド・コンセント(内容から発表まで) 2)プライバシーの保護 3)研究のフィードバック(成果の公表) -------------------------------------------------------4)先行研究へのrespect 5 具体的研究遂行と発表について • 対人援助の実践や調査に関して、過去の研究 (文献等)を充分に参照して、最新・最適な方法 を選択しているか? そのために関連する先行研究を網羅し、それを 発表時に引用しているか? • 対象者への不快感・負担感を与えていないか (対象者がいつでも研究実施事態から回避・辞 退できるか→counter controlの項参照) • 方法や結果について、表現を誇張したり恣意的 に省略・選択をしていないか? 6 研究倫理=研究者倫理? ●現在、研究費流用などの不祥事の中で、 「研究倫理」の問題が、研究者個人のモラ ルにもっぱら帰属するかのような状況があ る。 ●そして、研究倫理の機能は、 「非倫理的行動を、罰、不の強化で減少させ るためのルール」(坂上,2004参照) 7 倫理的行動とは? • 現在の方向は、 非倫理的行動をしないこと=倫理的行動 積極的に「倫理的行動」を促進する状況 や仕組みではない。 8 研究者と対象者 • 「非倫理的行動をしない」という消極的な意 味づけの中では、 「研究(者)」と「対象者」は、 対立的な構図として位置づけられてしまう。 研究促進と対象者の利益が ともに増大するための仕組みを追求しなく てはいけない(=研究の倫理) またそのような研究を「強化」する仕組みを工夫すること 9 が、研究倫理を考える基本 そもそも研究・実践の意味と は その内容 ・対象となる「個人」とそれに関わる広義の「環境」の関係を分 析し、その状態や必要な対策を、公共的な形で表記することま で 研究:それは言語行動である このような内容を記述する行動(コミュニケーション)の機能はど のようなものか? 機能:いったいどんなものに支えられているのか? 10 言語行動であるとすれば随伴性は? 先行状況刺激 対象の行動と環境 反応(行動) 行動記述 結果 ? 記述行動の強化を決 める先行状況 ? 研究者は、自らの研究行為が、どんな先行状況のもとで、 誰に(何に)強化されているか、常に明確に認識し(言語化し)公 表できなければならない。 11 当事者(被援助者)・環境・援助者 研究対象 特定 当事者 適切表現 既存環境 宗教・信条 統計・機械的 科学 市場原理 個人的利益 締め切り! (^,モ,^); 援助者 研究者 このページは、「編集モード」にして、上記の援助者・研究者の 12 パーツをドラグして自分の立場を考えること。 対人援助者の作業(実践=研究)の3つの 「機能」 治療・教授 環境への適 応 援助 行動成立のための 新たな環境設定 援護 援助設定の定着のため の要請 「研究」という言語行動は、「援護」には不可欠 13 対人援助における対象者に対する 倫理 • 研究の目的そのものに関わる問題である。 「研究 + 研究倫理」ではない。 ●対象者の利益(行動の選択肢拡大)に対して研 究内容が一致しているかどうかが、まず問題。 さらに ●「援護」(公表)までおこなっているか。 その役割を果たしうる内容であるか? 発表のない研究(実践)はない。発表があって研究 (実践)は初めてなりたつ。 http://www.ritsumei.ac.jp/kic/~mochi/1314 Mochizuki(1993).pdf 対人援助だから危ない点 ・「援助」している研究者の“信念”が、公正 (integrity)を阻害する。 → 長期的には援護力を失う ・対象者ではなく「他の援助者」の要請と強化 随伴性に統制されてしまう。 ・“信念”から、対象となる本人の援助要請の 有無さえ確認しない 15 当事者と「善意の研究者」の関係の チェックシステム ・自分や他の援助者(代理人:親・)ではなく、 対象となる当事者自身による当該の援助実践に関 する「対抗制御」(counter control)の回路(具体的設 定)を保証する。 ●坂上貴之(2004) 倫理的行動と対抗制御-行動倫理学の可能性- 行動 分析学研究、19(1)、5-17. ●Nozaki & Mochizuki (1995): Assessing choice making of a person with profound disabilities. The Journal of the Association for Persons with Severe Handicaps, 20(3),196-201. ●望月昭(2000):行動分析の立場から表出援助(FTA)を考える。国立特殊 教育総合研究所、特別研究報告書、81~93 http://www.ritsumei.ac.jp/kic/~mochi/FC.html 16 研究倫理にかかわる実例 「戦う」必要もあります。所属する研究組織によるバッ クアップも必要です。一人で抱えないこと • 学会からのストップ 「旧福祉体制がゆえに成立してるからダメ」 (特殊教育学会、JASH) • 研究の成果が、直近の援助者からストップを かけられる ・「能力の証明が福祉サービスの権利を低減 させる」 ・「(実験的)援助設定の常駐に確かな可能 17 性がない」 研究倫理(委員会)の役割 研究(者)と対象者の利益の対立という構図に陥ることなく ●「非倫理行動の羅列」ではなく、研究それ自体の主題に関わる倫 理性についても積極的に考えるべきである。 ●ReactiveではなくProactiveな議論を行うべきである。 ・審査の過程を公開していく。 ・議論の過程を示していく。 ●教学の中に既に「倫理的課題」は含まれる。 研究(発表)するとはどういうことなのか? 公開された課題をもとに認識を深める可能性あり。 ●「発表する=研究する」ことに関しては学生も研究者としてとらえる べきである(責任と義務のあり方は職業績研究者とは異なっていて も) 18 応用人間科学研究科の現状 1)研究の方法と公表の方法に関する倫理的 基準は、指導教員との共同責任である。 2)必要な場合は、研究科運営委員会が、倫 理委員会を構成し、研究の倫理的妥当性 について審査し書面で許諾を示す ----------------------------------------------------3)発表については各学会の基準によって判 断される。 1)2)のシステムは、近々、抜本的に改革します。 19 ところで・・・・・・ • 実験・調査中に、事故が起こった場合、自 分自身であれ対象者であれ第三者であれ、 その保障は、どうやってなされるか知って いますか? 緊急時の連絡先は? • 諸君の研究費用はどこから出費されてい るか知っていますか? (上記の事くらいは最低、知っておくこと) 20 文献 ・望月昭(1997)「コミュニケーションを教えるとは」:小林重雄 監修、山本淳一、加藤哲文編『応用行動分析学入門』、学苑 社. ・日本発達心理学会(2000)「心理学・倫理ガイドブック」、有斐 閣. ・望月・冨安 監訳(1998)「ヘイズら:発達障害に関する10の 倫理的課題.二瓶社(絶版!?) ・日本行動分析学会(2004)(編) 「特集:行動分析と倫理」、行動分析学研究19. ・坂上貴之(2004) 倫理的行動と対抗制御-行動倫理学の可 能性- 行動分析学研究、19(1)、5-17. ・望月昭(2007) コミュニケーションとしての研究の倫理― 行動的対人援助の研究の現場から.オープンリサーチセンター シリーズ(5)「研究倫理を考える」.p.118- 21 http://www.human.ritsumei.ac.jp/ hsrc/resource/series/05/open_resea ch05.html 人間研HP→Open Research Center→Resource→シリーズ5 22
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