情報通信のエネルギー問題 参考文献 • 小笠原敦,「情報通信のエネルギー問題―求められる通信イ ンフラの省 電力化―」 http://www.nistep.go.jp/achiev/ftx/jpn/stfc/stt063j/0606_03_featureartic les/0606fa01/200606_fa01.html、 文部科学省 科学技術政策研究所 科学技術動向研究センター、 科学技 術動向 2006年6月 • 本論文での参考文献 – 1) Mark P. Mills,“THE INTERNET BEGINS WITH COAL”, GREENING EARTH SOCIETY RELEASES NEW REPORT BY SCIENCE ADVISOR MILLS, Arlington, VA, June 1, 1999 – 2) Kawamoto, et al, Best estimate of annual electricity used by U.S. office equipment in 1999, 1999 – 3) NTTグループ会社の電力エネルギー削減の取り組み、NTT西日本: http://www.ntt-west.co.jp/corporate/2010-e/ – 4) 「情報とエネルギーシンポジウム」、産業技術総合研究所、2006年3月30日発 表資料:http://www.aist.go.jp/aist_j/research/honkaku/symposium/infoene/index.html – 5) 竹内寛爾、「光インターコネクション技術動向―「京速計算機システム」への適 用を目指して―」、科学技術動向、2006年1月号 背景 • 20世紀の工業化社会から高度情報化社会へと21世紀は急 速に移行しつつあるが、一方、高度情報処理および通信に 伴うエネルギー消費効率化の概念、エネルギー消費の最小 化の概念は、必ずしも十分に議論されていない。 • 特に米国・日本をはじめとして先進国経済の70%以上を サービス産業が占めるようになった現在、ハードイノベーショ ンからソフトイノベーション、サービスイノベーションへの移行 が重要なテーマとなっており、そのようなイノベーションを支 える情報流通やサービスの高度化に伴う情報処理・通信に よるエネルギー消費の増大が懸念されている。 ※イノベーション(innovation):(技術)革新 情報通信で消費されるエネルギー • 例)携帯電話 – 90年代以前 ⇒ ショルダーフォン – 90年代前半 ⇒ 片手で持てる(300g以上) 待ち受け時間はせいぜい1日 <デジタル化&急速な端末の小型化&低消費電力化> – 90年代後半 ⇒ 待ち受け時間500時間(約20日間) • 一人の人が電話をかけて相手につながるまで には、多数の情報処理機器、通信機器を経由 しなければならない。 • 一人の人が電話をかけて相手につながるまでに、 18Wのエネルギーを消費すると試算した。 情報通信とエネルギーに関する問題意識と最近の議論 • 米国における議論 – Mark P. Millsは、インターネットに関わる機器の消費エネルギーが、 1999年には全米の全消費エネルギーの8%を占めると試算した ⇒ 情報通信とエネルギー問題の議論の端緒 – DOE(米国エネルギー省)ローレンスバークレー研究所Environmental Energy Technologies Division(EETD)、End‐Use Energy Forecasting GroupのKawamotoらは、1999年度のオフィス機器の消費電力を11分 類して詳細に分析した(図表2) • オフィス機器の総消費電力:71TWh/年 ネットワーク機器(通信機器は除く):3TWh/年 計74TWh/年=全消費電力の約2% (信頼度が高い) – 1999年以後、年率40%通信量の増大 消費電力の中心:PC⇒ルーター – 通信インフラも含めた試算が必要となる – デバイスや回路、ネットワークアーキテクチャーの基本的な見直し を含めた議論が必要だという共通認識が、政府レベルでも民間企 業レベルでも形成されている。 • 日本における議論 – NTTグループが検討を行っている。 – 図表3はNTTグループ会社の電力エネルギー削減の取り組み(NTT西日本) – NTTグループの買電量)2002年度:66億kWh(総発電量の0.8%) 2006年度:総発電量の1.0% – NTTグループでは、送電損失、交流-直流変換損失低減等を目的としたブ ロードバンド関連装置(サーバ・ルーター等)への直流給電化等、低消費電 力化施策の強化による削減を目指している。 直流給電とは? • テレビやパソコン,電話機,プリンター,携帯電話機,ゲーム機,携 帯型音楽プレーヤー = 直流駆動 • 洗濯機やエアコン,蛍光灯などの機器 = インバータで交流を一 度直流に変換し、その後,高周波の交流に変調 • 現状の交流ではなく,直流で機器に給電し,AC-DC/DC-AC変換の 回数を減らして変換ロスを低減しようとしているのが直流給電 • 例)現在のデータ・センターでは,無停電電源装置(UPS: uninterruptible power supply)を設けているため,系統電力からの 交流は,一度AC-DC変換して直流となって蓄電装置に供給された 後,DC-AC変換して再び交流となり,サーバー機などの機器に供 給されています。そして,サーバー機内に供給された交流は機器 内でもう一度AC-DC変換され,直流となって機器内に給電されてい ます。(一度の変換効率が90%であっても約27%のロス) (参考:知っていますか? 直流給電への取り組み- 日経エレクトロニクス - Tech-On!) • 今後必要とされる議論 – 図表4は、日本でのインターネットトラフィックの増大を表している。 (原因:文字情報の通信⇒音楽、静止画、動画等のデータ通信) – 音楽ソフト、映像ソフトのファイル交換:トラフィックの相当量を占める • 一時期、東京-大阪間の基幹線のトラフィックの90% • P2Pのアプリケーションの台頭 – 携帯電話の普及⇒通信データ量の増大、通信インフラの拡大 – 携帯電話:小ビットの頻繁なデータ流通も課題 リアルタイム性が要求されることから、小ビットではあってもデータを 受けるネットワークはオンになっている必要があること、ルーティング が頻繁になされること、などに課題がある。 情報通信インフラに関わる機器のエネルギー消費 • 3つの重要な鍵 – 情報インフラの整備 – 通信トラフィックの増大 – ルーターの設置数の増大 • 経済産業省の「省エネルギー技術戦略報告書」(2002年6月)による と,日本におけるサーバー消費電力を84億kWh/年、ルーター消費 電力36億kWh/年と試算(図表6) • 挾間は、ルーターの構造をさらに詳細に分析してLSIの低電力化等の要 素も加え、データトラフィックの実際の伸びと併せて下記のようなルーター の消費電力予測を行っている(図表7) • ハード的な面で日本には、世界をリードする材料技術やデバイス技術、 低消費電力回路技術がある。また電子技術を代替する光デバイス技術 も世界のトップレベルにある。これらの技術を「情報通信とエネルギー」の 視点から整理し、強化することは今後重要である。 世界の情報通信インフラ拡大にともなうエネルギー消費増大の懸念 • S. H. Yookらのデータ4)によれば、現在先進国に偏在しているルーターの 設置が人口分布と同様に進んだ場合、世界的にもエネルギー危機が生 じる(図表8) 情報通信のもつ社会科学的側面の研究課題 • 携帯電話普及以前の1990年頃 「携帯電話を使いますか?」 ⇒ 「必要が無い」がほとんどメー ルや写真の送信 ⇒ 「使わない」がほとんど • ところが現在では、子供から老人まで国民の過半数がそれ らを使いこなしている • 「情報に対する欲求」は認知限界を超えていても追い求める 傾向にあることから、情報処理や通信量の増大について、認 知科学的な側面からも議論する必要。 • 工学と社会科学の境界領域での、今後の大きな課題である。 まとめ • 情報通信技術に関わるエネルギー問題は、定量的な議論が 世界的に始まりつつある。 – 米国:DOE(米国エネルギー省)、IEEE、IBM社、インテル社等 – 日本:総務省、NTTグループ • NTTグループの買電量は、1990年当時の2倍(総発電量の1%) • 通信インフラ用の機器:デバイスの基本構造にまで遡った研究 開発をはじめるとともに、デバイス・機器・ネットワークアーキテ クチャー等の多面的かつシステム的な視点からの検討が必要 • 情報通信の社会科学的な側面:情報や通信の根源となるコミュ ニケーションの本質に遡って、情報への欲求と通信量の増大に ついて、例えば認知科学的な側面からも議論することや、消費 の概念をさらに詳細な経済学的な側面から検討することが必要
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