コーポレート・ガバナンスにおける各国の比較 比較コーポレート・ガバナンスの視点 企業は誰のものか、企業を支配するものは誰か、と いうことが今日の先進国において改めて問われるよう になってきている。 しかし、問題の現れ方やそれに対する対応の仕方 は国によって、時代によって、必ずしも一律ではな く、さまざまなガバナンス・システムの形態をとり うる。 こうしたコーポレート・ガバナンスの諸形態を その歴史的並びに制度的条件などの対応関係におい て把握していく視点が重要である。 問題の領域 一般的にコーポレート・ガバナンスは、株主と経営者た ちとの間の支配とコントロールを巡る問題として扱われ ている。 しかしながら、今日においては、コーポレート・ガバナ ンスをめぐる議論は、単に出資者と経営者との関係(両 者の利害の不一致の問題)のレベルにとどまらず、より 広範な諸ステイク・ホルダー(利害関係者)との関連を 含めて、展開されるようになってきている。 広義と狭義の関係(図1) 米国の場合(特徴) 株主中心主義 機関株主の発言力が増す 企業は株主のものである。株主利益の最大化 が企業の活動の目的である。 コーポレート・ガバナンスの課題は株主の視 点から経営者の行動をいかにモニタリングし ていくかという点におかれる。 アメリカにおけるトップ・マネジメント アメリカ企業では、社外取締役を中心とする取締役 会が、ヒト・モノ・カネ・情報を統合して実際の経 営(management)を行う経営者(執行役員)を監 督ないし統治(governance)するという体制を とっている。これを「ガバナンスとマネジメントの 分離」という。 取締役会の内部に、複数の委員会が設置される。代 表的な委員会として、監査委員会、指名委員会、報 酬委員会、財務委員会をあげることができる。 アメリカにおけるコーポレート・ガバナンス (図2) ドイツの場合(特徴) 企業に対して、銀行の介入する力が強い。 ユニバーサル・バンク・システム(銀行業務と証券業務 を兼務する)、そして最近はさらにコンサルティング・バ ンキングという三つの柱、というドイツ独自の制度。 銀行と企業の関係 ドイツの銀行は企業の株式を所有することが できる。したがって、銀行はまず資金調達先と しての債権者である同時に株主である。さらに 銀行は株式を銀行に寄託している顧客に議決 権を行使することができる。たとえば、ドイツ 銀行、コメルツ銀行、ドレスナー銀行の3 大銀行をはじめとする大銀行は、自分によ る株式所有に加え、投資家から委託された 株式の議決権をも有しており、これを行使 することによって、企業の経営に監督機能 を行っている。 ドイツにおけるトップ・マネジメント ドイツの企業におけるトップマネジメント構造は、執行役 上部機関として監査役会が位置し、監査役会に大きな 権限が与えられている。 監査役会と執行役会は完全に分離され、監査役会のメ ンバーはすべて社外の人物でなければならず、両者を 兼任することは禁止されている。 労使による共同決定法の下で、企業の統治主体は株 主と従業員の双方であるという認識がある。ドイツの企 業では最高の意思決定機関である監査役会は労使の メンバーによって構成されている。とくに、従業員2,000 人以上の株式会社の場合には、労働組合の参加の割 合は50%に達することができる。 ドイツにおけるコーポレート・ガバナンス(図3) 日本の場合(特徴) 日本では、企業は従業員と経営者を中心とし て、多様なステーク・ホルダーによって構成さ れるものであるとする考え方が強い。結果とし て日本の企業は従業員の利益 に沿った慣 習、年功序列、終身雇用をもたらし、企業が従 業員集団化したと言われる。 企業集団において中心的な役割を担ってきた メイン・バンクは内部の資金調達を行い、株式 の保有や役員の派遣などによって産業企業と 緊密な連携を保つと共に、融資先企業の経営 に対するモニタリングを果たしてきた。 日本におけるトップマネジメント 日本では、株式会社は意思機関である株式総会、執行 機関兼監督機関である取締役会、監督機関である監査 役会を法律上の必要機関としているが、商法上で任意 とされる常務会は事実上の最高決定機関になってい る。取締役会が単なる事後承認機関となってしまってい る。 取締役会において取締役は数が多く、そして業務執行 と監督を兼任するということから、モニター機能がうしな われた。 監査役も殆ど内部出身で監督の機能を発揮することが できない。 株式総会の形骸化によって、取締役の人事権が社長 のもとに置かれてしまうことは多いである。 日本におけるコーポレート・ガバナンス(図4) コーポレート・ガバナンス・システム コーポレート・ガバナンスの中心問題の一つは株主又 はステーク・ホルダーの視点から経営者に対するモニタ リングをいかに達成していくかにある。そのためのシス テムとして、日本やドイツをはじめとする何らかの機関 を介して企業の効率的な運営を図っていこうとする ものとアメリカを始めとするマーケット・メカニズ ムによってそれを達成していこうとするものが区別 されうる。 機関ないし制度指向的ガバナンス・システムと市場 指向的ガバナンス・システムという区別である。 経済移行中のコーポレート・ガバナンス(中国) 発展途上国である中国においては、計画経済時期に 企業はすべての国民が所有するものであるが、政府 は国民の代理人として企業を管理するという企業観 念であった。しかし、近年来、国有企業の株式会社 化によって、企業が株主のものであるという企業観 に代わりつつあるが、実際的に上場企業の場合、政 府がまだ50%以上の株式を所有することから考えれ ば、政府が依然として特定の株主として揺るぎなし の地位を占めている。したがって、企業が政府の下 に置かれるべきであるという企業観はいまだに強い。 中国におけるコーポレート・ガバナンスの特徴 中国におけるコーポレート・ガバナンスの構造
© Copyright 2024 ExpyDoc