資本主義改革を牽引する コーポレート・ガバナンス2.0

To t h e R e a d e r s
資本主義改革を牽引する
コーポレート・ガバナンス2.0
市場原理主義、株主価値経営への反論や批判が繰り返し投げか
レ ッ セ フ ェ ー ル
コーポレート・ガバナンス1・0は、主に株主権の尊重、そ
して経営者と取締役の規律であった。諸説あるが、1960年
けられてきた。
資本主義の改革は、その発展と同じく、経済活動の主体、す
なわち企業の振る舞いが成否のカギを握る。
が少なくなく、リーマン・ショック以前より、自由放任主義、
代のアメリカで広がったコンシューマリズム(消費者主権主
義)が大きな契機であったといわれる。その後、 年代から
年代にかけて本格化を見た。
たとえば、ジョセフ・スティグリッツやポール・クルーグマ
ンなどノーベル賞経済学者らも参加した「オキュパイ・ウォー
その背景には、2008年のリーマン・ショックを境に始ま
った「資本主義への異議申し立て」がある。
地球)に共通する目的の実現といえる。
トガバナンス・コード」が発表され、中長期的視点の必要性、
そして昨2014年、日本でも、機関投資家向けの「スチュ
ワードシップ・コード」
、経営者と取締役向けの「コーポレー
資本主義の軌道修正の必要性を訴えた。
ら が ま と め た『ケ イ・ レ ビ ュー』 に お い て、 株 式 市 場 の
イギリスは1992年、取締役の行動規範を示した『キャド
ベリー報告』を他国に先駆けて発表したが、2012年7月、
ルストリート」
(ウォール街を占拠せよ)が真っ先に浮かんでく
株主以外のステークホルダーへの配慮などが示された。
そして現在、ガバナンス2・0が萌芽しつつある。それは、
「企業の持続的成長」という、経営者、取締役、株主や投資家、
るが、驚いたことに、ローマ教皇が「排除と不平等の経済」で
ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス教授のジョン・ケイ
あり、
「この種のシステムは新しい専制を生む可能性がある」
こうした持続的成長とステークホルダー重視の経営は、近江
商人の「三方よし」
(売り手よし、買い手よし、世間よし)に代
表されるように、アングロ・サクソン経営に傾斜してしまった
短 期主義への批判、効率的市場仮説への疑問など、いち早く
ショート・ターミズム
とあからさまな批判を露わにしている。
日本企業の忘れ物にほかならない。
ド・スウォープが1920年代に、そして第7代社長ラルフ・
ただし、こうした「正論」は景気が上向いた時に登場しやす
い。実際、ゼネラル・エレクトリックの第3代社長ジェラル
0は、この仮説を前提としてきた。
コーディナーが 年代に、同様のことを唱えているが、いずれ
いう。現代の資本主義、そしてコーポレート・ガバナンス1・
「見えざる手」に導かれ、結果的に社会の利益が実現されると
アダム・スミスの『国富論』では、市場経済が十分発達して
いれば、みんなが自分の利益のことだけを考えて行動しても、
顧客や従業員などその他のステークホルダー(さらには社会や
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しかし、市場経済はスミスが意図したように機能しないこと
めにも、経営者や取締役会の覚醒が期待される。 編集室
を動かしていると述べた。ガバナンス2・0を逆行させないた
の「見えざる手」ではなく、経営者の「見える手」が資本主義
ビ ジ ブ ル・ハ ン ド
ス・スクールの経営史家アルフレッド・チャンドラーは、市場
「組織は戦略に従う」という言葉を残したハーバード・ビジネ
も経済の復興期であった。
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