術前化学放射線療法を併用して切除された通常型膵癌における CD74 発現の検討 長田 盛典 1、冨田裕彦 1 (1 大阪府立成人病センター 病理・細胞診断科) 要旨 術前補助化学放射線療法後に根治切除された局所進行通常型膵癌 68 症例について、切除腫瘍組織内の CD74 発現 を retrospective に検討した。CD74 高発現群ではリンパ管侵襲・膵内神経浸潤が高率にみられ、高発現群は低発 現群より有意に予後不良であることが明らかになり、CD74 発現は独立予後因子と判明した。 キーワード:pancreatic cancer, CD74, prognosis はじめに 通常型膵癌は最も予後不良な癌腫の一つであるが、 化学染色を行った。CD74 の発現については、陽性腫 瘍細胞率 70%未満を発現レベルⅠ、70%以上を発現レ 患者予後は外科手術と術前補助化学放射線療法の併 ベルⅡと定義し、各症例をこれら2群に分類した 用により改善してきている [文献 1]。通常型膵癌の [Fig.1]。2群の臨床病理学的因子と CD74 発現の関 予後を今後さらに改善するために、このような治療 連解析および予後比較を行った。 を受けた患者の予後因子を同定する必要がある。 CD74 は従来、Class Ⅱ主要組織適合遺伝子複合体に 存在する不変鎖分子と呼ばれる膜内在性蛋白で、こ れまでに B 細胞リンパ腫・多発性骨髄腫・胃癌・大 腸癌・腎細胞癌・肺非小細胞癌などでの発現が報告 されている [文献 2]。膵癌では in vitro で、神経周 囲浸潤に関連する分子としての報告があるが、その 臨床病理学的意義については未だ解明されていない [文献 3]。今回の研究では、術前補助化学放射線療法 後に根治切除された通常型膵癌症例について腫瘍組 織内での CD74 発現を検討し、予後予測因子としての 有用性について検討した。 対象と方法 臨床的に T3 または T4 と診断された遠隔転移のな い局所進行膵癌を対象に、画一的な術前補助化学放 射線後に局所切除された通常型膵癌患者 68 人を対象 とした(retrospective study)。切除膵のパラフィ ン包埋ブロックから病理診断用に作製した薄切組織 片に、抗 CD74 モノクローナル抗体を用いた免疫組織 成績 対象とした 68 患者の 3 年・5 年全生存率は、それ ぞれ 56%・39%であった。発現レベルⅠは 47/68 症例 (69.1%)、発現レベルⅡは 21/68 症例(30.9%)にみ られた。CD74 高発現はリンパ管侵襲(p=0.04) 、膵内 神経浸潤(p=0.011)と相関し、術前補助化学放射線 療法が奏功し難いことが明らかになった(p=0.02)。 発現レベルⅠの症例群は、発現レベルⅡの症例群よ り有意に予後良好であった(p=0.003)[Fig.2]。単変 慎重な再発防止のフォローや追加治療が必要である 量解析で有意な予後因子群について多変量解析を行 ことが示唆された。 ったところ、CD74 発現レベルと血管侵襲が独立予後 結論 因子と判明した。 術前補助化学放射線療法後に根治切除された通常 型膵癌において、切除膵組織における CD74 発現が有 用な予後因子である。 本研究結果の発表 論文題名: CD74 is a novel prognostic factor for patients with pancreatic cancer receiving multimodal therapy. 掲 載 誌: Annals of surgical oncology(16 巻 9 号 2531-8 頁、2009 年) 文献 考察 CD74 の腫瘍増殖にかかわるメカニズムとしては、 抗原提示細胞内で CD74 分解産物が MHC クラスⅡ分子 の抗原ペプチド結合部をブロックすることにより、T 細胞への抗原提示が妨げられる機序が考えられてい る [文献 4,5]。腫瘍細胞おける CD74 の過剰発現は、 結果的に腫瘍細胞に対する宿主の免疫反応を低下さ せることになる。CD74 の腫瘍増殖機序ついてはその 他にも、種々のサイトカインレセプターとしての働 き、細胞内シグナル伝達補助因子としての役割が注 目されている。通常型膵癌においてどの腫瘍増殖機 序が主たる要因かは、本研究も含めて未だ十分な検 証がなされておらず、今後の解明が待たれる。 今回対象とした pStageⅠ~Ⅳの症例群において、 CD74 高発現群は低発現群より有意に予後不良であっ たが、病理学的進行度が pStageⅠ・Ⅱに限った場合 でも、そのような症例中 CD74 高発現例は低発現例よ りも予後不良であった(p=0.006)。このことから、 術前補助療法による down-staging が病理学的に確認 された症例群においても、CD74 高発現症例ではより 1. Evans DB, et al: J Clin Oncol 2008; 26:3496-502. 2. Ioachim HL, et al: Am J Surg Pathol 1996; 20:64-71. 3. Koide N, et al: Clin Cancer Res 2006; 12:2419-26. 4. Roche PA, et al: Nature 1990; 345:615-8. 5. Stein R, et al: Clin Cancer Res 2007; 13:5556s-5563s.
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