がん治療におけるDDS - 日本薬剤学会22年会.概要 - UMIN

日本薬剤学会 第22年会
教育セミナー
日 時:平成19年5月21日(月)
13
:
00∼14
:
00
場 所:大宮ソニックシティ 第2会場
小ホール(ソニックシティ ホール棟2階)
埼玉県さいたま市大宮区桜木町1-7-5
TEL:048-647-4111
がん治療におけるDDS
座長
高倉 喜信
先生
京都大学大学院
薬学研究科 病態情報薬学分野 教授 演者
松村 保広
先生
国立がんセンター東病院
臨床開発センター がん治療開発部 部長
聴講には日本薬剤学会 第22年会への参加登録が必要です。
http://apstj22.umin.jp/
共 催:日本薬剤学会 第22年会
(年会長:谷川原 祐介 慶應義塾大学医学部 教授 ・薬剤部長)
日本薬剤学会 第22年会 教育セミナー
がん治療におけるDDS
松村 保広 先生
国立がんセンター東病院 臨床開発センター がん治療開発部 部長
1. がん治療におけるドラッグデリバリーシステム(DDS)の目的は、抗がん剤を化学修飾あるいはキャリアに封入するという工夫をすることにより、
より多くの抗
がん剤を選択的にがん局所へ到達させ治療効果を高めると同時に正常組織への集積を抑え、副作用の軽減を図ることにある。幾多の生化学、病理学および
薬理学的研究の結果と一般的に固形腫瘍では腫瘍新生血管の増生、それに見合うリンパ回収系の増生がないこと、
また腫瘍局所では著しい血管透過性の亢
進が起きていることが見いだされた。これらにより、正常血管では血管外へ漏出しにくい高分子物質も、腫瘍血管からは漏出しやすく、
また一旦がん局所で漏
出した高分子物質はその場に長く停滞し、結果として血中安定性に富む高分子抗がん剤はpassive targetingが可能となることが予想される。これらのア
1)
イデアはEPR(Enhanced Permeability Retention)効果と称され、現在世界的に受け入れられている 。今回、
がん化学療法の臨床に使われるようにな
った、あるいは臨床試験中のDDS製剤であるミセル製剤について概説するとともに、今後の課題について述べる。
2. 抗がん剤内包ミセル
タキソー
1) タキソール内包ミセルNK105:NK105は親水性鎖と疎水性鎖のブロック共重合体と疎水性薬剤タキソールとの水系における会合体であるために、
2)
ルと疎水性鎖が内核を形成し、外殻を親水性鎖が覆うという剤型であるために水溶性であり、
したがってCremophor ELなどの有機系溶媒は不要である 。
臨床第Ⅰ相試験では、抗アレルギー剤の前処理を一切なくして、点滴も1時間で行うようデザインした。結果1例で軽度の過敏症を経験したのみで、他はまっ
3)
たく過敏症がみられなかった 。現在胃がん対象の臨床第Ⅱ相試験を計画中である。第Ⅱ相以降も抗アレルギー剤の使用はせず、点滴も1時間以内で終了で
きるようにする予定である。
これも有害事象が多い抗がん剤である。その
2) シスプラチン内包ミセルNC-6004:シスプラチンも肺がん、胃がんをはじめ種々のがん種に適応されているが、
4)
なかで特に腎機能障害が有名である。腎機能障害の機序として腎尿細管のシスプラチンのCmaxに依存しているとされている 。NC-6004はサイズが
20nmであり、容易には腎糸球体にてろ過されない、結果として、腎尿細管のCmaxは極端に低下する。非臨床において急性腎不全をもたらすシスプラチン
5)
と当量のNC-6004を投与しても腎機能はまったく正常であった 。現在英国において臨床第Ⅰ相試験をおこなっているが、1時間の点滴で水負荷無しとい
うデザインで行っている。
3) SN-38内包ミセルNK012:SN-38は現在大腸がん、肺がん、卵巣がんなど多くのがん種に適応されているCPT-11の活性体である。CPT-11は生体内で
Carboxylesterase(CE)の作用で活性型のSN-38に変換され効力を発揮するが、CEには個人差があり、投与されたCPT-11のうちの5-10%がSN-38
に変換される。またSN-38はグルクロン酸抱合で代謝されるが、
この代謝酵素にも遺伝的多型が存在し、毒性に影響をおよぼしている。よってSN-38を直接
投与したほうがいいが、SN-38は水に溶けないということで、
しかたなくCPT-11という塩酸塩にして臨床応用しているという経緯があった。今回SN-38を
ミセル内包化したことで直接SN-38を静脈投与することが可能となった。非臨床においてはCPT-11に比較して毒性の低い量でも著しい抗腫瘍効果が発
6)
揮することが示され、特にVEGF酸性腫瘍においての抗腫瘍効果が著しいことが示された 。現在臨床第Ⅰ相試験が行われているが、腎がんなどのVEGF産
生腫瘍も積極的にエントリーすべきと考えている。また将来の第Ⅲ相試験をめざして5-FUとの併用試験について検討を行っている。
3. DDS製剤の特性に基づく承認申請への提言
近年新薬の多くが米国で先に上市される傾向にあり、新薬の使用頻度が高まるスピードも速い。一方、
日本においては、
日本オリジンの新薬であっても海外で
先に上市されるケースも多く、
また、未だ上市されていない医薬品が多数存在するなど、新薬に対する患者アクセスは良いとはいえない。例えば、最近、がん
化学療法の分野において、分子標的薬が盛んに開発されているが、すべてが欧米のものである。欧米の研究者、医療従事者そして患者が汗水垂らして開発し
たものを簡単な臨床試験を行い輸入している現状である、国際協調という観点からは問題ない。しかし、そのような一方通行だけでは「日本人は汗水垂らさ
ず金で解決する」と将来言われかねない。やはり、
日本独自のものを日本人が汗水垂らして、有用性を証明し、そして海外へ展開することも重要である。これ
はまさに国際貢献であり、
日本の国際競争力強化へとつながる。DDS製剤は日本独自のものが多く、
かつすでに臨床試験が開始されている実現可能性が高
い領域の製剤である。おそらくは伝統的に日本の高分子化学が強いところに起因すると考える。
以上の背景をもとに私見を述べる。
1) Y. Matsumura, H. Maeda. A new concept for macromolecular therapeutics in cancer chemotherapy: Mechanism of tumoritropic
accumulation of proteins and the antitumor agent smancs. Cancer Res. 46, 6387-6392, 1986
2) T Hamaguchi, Y Matsumura, M Suzuki, K Shimizu,R Goda, I Nakamura, I Nakatomi, M Yokoyama, K Kataoka and T Kakizoe.
NK105, a paclitaxel-incorporating micellar nanoparticle formulation, can extend in vivo antitumour activity and reduce the
neurotoxicity of paclitaxel. Brit J Cancer. 92:1240-1246, 2005.
3) K. Kato., T. Hamaguchi., H. Yasui., et al. PhaseI study of NK105, a paclitaxel-incorporating micellar nanoparticle, in patients with
advanced cancer. Proc Am. Soc. Clin Oncol 24, 2018, 2006. 4) Y. Mizumura., Y. Matsumura., M. Yokoyama., et al. Incorporation of the Anticancer Agent KRN5500 into Polymeric Micelles
Diminishes the Pulmonary Toxicity. Jpn. J. Cancer Res. 11, 1237-1243, 2002
5) H. Uchino., Y. Matsumura., T. Negishi., et al. Cisplatin-Incorporating Polymeric Micelles (NC-6004) Can Reduce
Nephrotoxicity and Neurotoxicity of Cisplatin in Rats. Brit J Cancer. 93: 678-687, 2005.
6) F. Koizumi., M. Kitagawa., T. Negishi., et al. Novel SN-38-incorporated polymeric micelles, NK012, eradicate vascular
endothelial growth factor-secreting bulky tumors. Cancer Res 66:10048-10056.2006.
1981年熊本大学医学部卒業後、第一外科入局。その後、微生物学教室、大学院、助手を経て、米国マウントサイナイ医科大学腫瘍内科、
英国オックスフォード大学病理に留学。帰国後1994年より国立がんセンター内科へ。1999年1月計画治療病棟医長。
2002年4月より国立がんセンター東病院、臨床開発センター、がん治療開発部、部長。
専門領域: がん化学療法