日消外会誌 30(11):2225∼ 2229,1997年 大腸 5多 発癌 と胃癌,腎 癌 を重複 した 7重 癌 の 1例 市立只塚病院外科,大 阪大学医学部附属病院第 2外 科 * 金 川 崎 勝 弘 先 田 功 西 敏 夫 * ネ 来 相澤 青 志 大 植 雅 之 中 野 芳 明 冨 田 尚 裕 * 森 門田 卓 士 武 貞 柄 老 大腸 5多 発癌 と胃癌,腎 癌 を重複 した 1例 を経験 したので報告す る.症 例 は57歳の女性 。 36歳時 に 横行結腸 癌 にて横行結腸部分切 除術,50歳 時 に S状 結腸癌,横 行結腸癌,胃 癌,腎 癌 を同時性 に発症 し S状 結腸切 除,横 行結腸切 除,胃 切 除,右 腎摘 出術 を他 院で施行 された。57歳時 に下血 にて 当科初 診,直 腸癌 と診 断 し直腸切 断術 を施行.フ ォ ロー ア ップ中の60歳時,横 行結腸癌 を発見 し横行結腸部 分切 除術 を施行 した。1997年 3月 ,63歳現在再 発,転 移 の徴候 な く健在 で あ る。自験例 の第 7癌 で DNA 複製 エ ラー が認 め られた。 これ は多重癌発生 の リス クフ ァクター で あ り,今 後 も慎 重 な フ ォロー ア ッ プが必 要で あ る。 Key words: multiple prilnary cancer, colon cancer は じめ に 45× 3.5cmの 3型 病 変 で病 理組織 学 的 には 中分化腺 癌忠者 の治療 にあた って は,そ の忠者が第 2癌 ,第 3の 癌 に罹患す る可能 性 が あ る ことを常 に念頭 にお く 痛 で あ り,POHOmpnl,stage IIIaで あった (Fig。3). 1994年12月,60歳 時 にフォロー ア ップの大腸 内視鏡 必 要が あ る。今 回,わ れわれ は大腸 5多 発痛 と胃癌, 検査 で横行結腸癌 を発見 し,1995年 1月 横行結腸部分 腎癌 を重複 した 1例 を経験 したので,若 子 の文献 的考 切 除術 を施 行 した,切 除標本 で は50× 3.Ocmの 3型 察 を力回えて報告 す る。 病 変 で 病 理 組 織 学 的 に は中分 化 腺 癌 で あ り,POH0 症 例 患者 :57歳 ,女 性 家族歴 :両 親,兄 弟姉妹 7人 ,子 1人 に痛 を発症 し た もの はい な い. 既往歴 :1971年 1月 ,36歳 時 に横行結腸癌 (中分化 腺癌)に て横行結腸部分切 除術 を受 けた (Fig.la). 1984年,50歳 時 に S状 結腸癌 (2型 ,勝 脱浸潤,中 分化腺癌,POHOSno,stage IIIa),横 行結腸癌 (2型 , 中分化腺癌,POHOssno,stage II),胃 化腺癌,POHOmpnO,stage lb),腎 癌 (2型 ,中 分 ssnO,stage IIであった (Fig,4)。こ の腫瘍 と正 常大 腸粘膜 か ら DNAを 抽 出 し, 2つ の マ イ ク ロサ テ ライ トマ ー カー を用 い た PCR法 に よ り, こ の腫瘍 にお い て DNA複 裂 エ ラー が認 め られた。患者 は1997年 3月 現在再発,転 移 の徴候 な く健在 で あ る。 考 察 われわれ は重 複癌 の定義 を 日本癌治療学会 ・癌規約 1)に い 総論 従 ,異 な る臓 器 にそれ ぞれ原 発性 の癌 が 存 一臓器 内 に同 じ 在 す る もの とし,同 組織型 の癌 が 多発 癌 (cにar cell car― す る もの を多発癌 とした。 また,重 複癌 と多発癌 とを cinoma,stage I)を同時性 に発 見 され,S状 結腸切 除, 併 せ て 多重癌 と称 した。診 断時期 に関 して は 1年 以 内 勝批合併切 除,両 側尿管皮膚慶造設術,横 行結腸部分 を同時性 とした。 自験例 は初発 よ り25年間 にわた り大 切除,幽 門側 胃切 除,右 腎摘 出術 を大阪船 員保 険病 院 腸 に 5つ の多発癌 と胃癌,腎 癌 を重複 した 7重 癌 で あ にて 2期 に分 けて施行 された (Fig。lb,c,2). る。 現病歴 :1991年12月,57歳 時 に下血 にて 当科初診, 注腸 造 影 お よび大 腸 内視 鏡検 査 にて直 腸 癌 と診 断. 重複癌 の発生頻 度 は,文 献 的 には0,87∼364%と 報 2Ⅲ6)。 また高次重複癌 にな るに従 って,そ 告 され てい る 1992年 1月 直腸 切 断術 を施 行 した。切 除標 本 で は, の発 生頻 度 は低 くな る。 日本病 理 剖 検 輯 報 に よ る と 1985年 か ら1994年 の10年 間 で,悪 性 腫 場 全 症 例 数 <1997年 6月 11日受理>別 用1請求先 :金 柄 老 〒597 貝 塚市堀 3-10-20 市 立貝塚病院外科 210,368例中 4重 癌 は202例, 5重 癌 は51例, 6重 癌以 上 は 5例 となって い るつ。重複癌 の組 み合 わせ として 大腸 5多 発癌 と村癌, 腎格 を重複 した 7重 を の 1例 100(2226) Fig. I Ilistological findings of the transverse Fig. 2 日消外会誌 30巻 11号 Histological finding of the gastric cancer ir.r colon cancerin 1971(a). thc sigmoid colon canc e r i n 1 9 8 4 ( b ) a n d t h e t r a n s v e r s ec o l o n c a n c e r i n 198.1shos's moderatell' differentiated adenocar. cinorra (a). llistokrgical finding of the renal cell 1984 (c) ; each finding shog's moderatel-v d i f f e r e n t i a t e d a d e n o c a r c i n o r . n a .( l l & E . x 4 0 ) a carcinoma in 19U1shoq's clear cell carcinoma b c ( b ) .( H & E , x 4 o ) a b 例 (45%)で ,そ の うち大腸癌 は14例で あった, 重複癌発生 因子 として は環境 要因,医 原性 要因,ウ イル ス,そ して遺伝 的要因 な どが あげ られ る。環境 要 因 として,自 験例 について何 らかの環境 因子 が働 い て いたか どうか は不明 であ る。医原性 要因 とは,医 療行 為 が次の癌 を引 き起 こす もので放射線照射や抗癌剤投 与 が挙 げ られ る。 自験例 で は第 5癌 の術後 よ リカルモ フー ル を約 4年 間投与 され,全 期 間 を通 じて放 射線治 は,本 邦 で は 胃癌 を中心 とした 消化器 系癌 の関わ る こ とが 多 い と報 告 され てい る41-6)。 当科 にお ける大腸 と ま受 け て い な い。ま た, 自験 例 は human T‐ cell 療ヤ lymphotrOpic virus type‐ 1(HTLV l)抗 体 陽″ 性で あ 280例の うち,他 臓 器 との重 複癌 は23夕」(82%)で あっ る。 HTLV lは 成人 T細 胞性 白血病 (ATL)と の関連 が 強 く指摘 され て い るが ,ATL以 外 の悪 性腫 瘍 へ の 13)。 関与 も示 唆 され て い る 自験 例 に は1984年の 第 2 ∼ 5癌 の手 術時 に輸血歴 が あ るが感 染時期 は不 明 であ 他 臓 器 との重 複 癌 を Table lに 示 した (Table l). 1981年よ り1996年5月 までの当科 で 治療 された大腸痛 た。大腸癌 が他臓 器癌 を重複 す る頻度 は,文 献 的 には る。 3.8∼118%で 重複他臓器癌 としては 胃癌 が最 も多 く, 1 2)。 次 いで子 宮癌や乳癌 が続 くと報告 され てい る8)∼ 当 科 において も重複痛23例中14例(609%)が 胃癌 であ っ 若年発症 し,多 重癌 を伴 う遺伝性疾 患 として遺伝性 非 ポ リポー シ ス 大 腸 癌 (hereditary nOn‐ polyposis c010rectal cancer,HNPCC)カ ラ招らオ して ↓ゝる。自 験 た。また 同時期 の 胃癌 442例中,他 臓器癌重複頻度 は20 例 は,1)若 年発症 (36歳初発),2)大 腸 多発癌 (横 101(2227) 1 9 9 7 年1 1 月 Fig。 3 Fig. 4 Resected specimen reveals type 3 tumor in Resected specilnen reveals type 3 tumor in the rectum (a)_Histologicai nnding shows mod the transverse colon (a) Histological anding erately ditterentiated adenocarcinoma(b) (H& sho、/s lnoderately ditterentiated adenocarcinoma E,× 100) (b)(H&E,× a a b b 100) Table 1 Counterpart organs of double primary cancer involving color ectal cancer Organ Asynchronous Colorectal cancer prior Stomach 6 Breast 2 Gall bladder Synchronous 4 L Thyroid gland Pancreas 4 2 ] 2 1 ] 1 Bone marrow 行結腸 ,S状 結腸,直 腸 ),3)他 臓 器重複癌 (胃癌,腎 癌 )と い う点で臨床 的特徴 が類似 して い る。 しか し自 験例 で は,両 親,兄 弟,子 に癌 の集積 が な く HNPCC 14 ] 1 Total TOtal 2 L Ovary Asynchronous Colorectal cancer subsequent 1 5 と 8 R E R ) が , 多 重痛 患者 にお いて も高頻度 で認 め られ, 発 癌 の リ ス ク フ ァク ター と し て 注 目 さ れ て い 1 つ この R E R は に散在 す る反復配 列 る1 4 卜 。 ,DNA上 ( マイク ロサテ ライ トマ ー カー) の不安定性 として検 出 の定義 には当て はま らな い。最近 HNPCC忠 者 の腫瘍 組織 にみ られ る DNA複 製 エ ラー (replication error; 可能 で あ る。 自験例 の第 6 癌 で は R E R に つ いて検 索 102(2228) 大腸 5多 発痛 と胃痛, 腎店 を重複 した 7重 癌 の 1例 Fig. 5 Analysis of genetic instability in paired normal (N) and tumor (T) DNA at loci D2S123 and D2S1067. In tumor DNA. abn<>rmal patterns are shou'nat each microsatellitelocus. ] B ‐ ￨1‐ ‐ 3 コ NTlll‐￨￨I NT中 犠 搭輝壌将懇鍛=,OS,067‐ され ていないが,第 7痛 について腫場 と正 常大腸粘膜 か ら DNAを 抽 出 し, 2つ の マ イ ク ロサ テラ イ トマ ー カー を用 い た PCR法 に よ り不安 定性 の有無 を判 定 し た。 その結果 , 2つ の マ ー カー ともに正 常組織 で は見 られ ない異常 バ ン ドが腫瘍 組織 で検 出 され,不 安定性 で あ りと判定 された (Fig.5).複 数 の マ イク ロサテ ラ イ トマ ー カー で RER(十 )で あ る癌 の場 合 には,そ の 患者 において, ミ スマ ッチ修復 系 になん らかの異常 が 存在 し痛 が生 じやす い環境 にな ってい る もの と考 え ら れ る。自験例 について今後,さ らに厳重 な フ ォ ロー ア ッ プが必 要 と考 え られた。 最近 の分子生物学 の著 しい進 歩 に よ り,DNA診 断 に よる発症前診 断 や癌 のハ イ リス ク群 の把 握 とい う こ とが可能 になって きた。更 なる発展 に よ り,そ の成果 が一 層臨床応用 され る ことが期待 され る。 病理組織学的標本の一部 について大阪船員保険病院泌尿 器科中村隆幸先生 よりご協力頂けました ことを心 より深謝 いた します。 文 献 1)日 本痛治療学会,癌の治療に関する合同委員会,癌 同 消外会誌 30巻 11号 規約総論委員会編 :日 本癌治療学会 ・癌規約総論. 金原出版,東 京,1991,p64 2)赤 崎兼義,若 狭治毅,石館卓 三 :原 発性重複癌 につ いて。 日痛 19:1543-1551, 1961 3)中 津喬義,大 槻道夫,後 藤政治 :原 発性重複癌 につ いて.臨 外 19:457-468,1964 4)中 村恭二 ,相 澤 幹 :組 み合わせ よ りみた重複癌 の検討 ― 重複痛1121例 の分 析 ―.癌 の臨 18:662 --666, 1972 5)小 川隆文,竹 田繁美 :重 複癌 の統計的検討.衛 検 29 : 1465--1470, 1980 6)及 川郁雄,平 回公一 ,奏 史 壮 ほか :原 発性重複癌 58例の検討.日臨外医会誌 45:1195-1199,1984 7)日 本病理学会編 :日 本病理剖検輯報。第 28-37輯 . 杏林書院,東 京,1986-1995 8)関 根 毅 ,須 田秀夫 :大 腸 と他臓器 との重 複痛 の 検討.日 消外会誌 20:765-771,1987 9)加 藤知行,山内晶司,森本剛史 ほか :大 腸 と他臓器 の重複癌,日 消外会誌 14:1099-1107,1981 10)友 固博次,古澤元之助,瀬尾洋介 ほか :大 腸 と他臓 器 との重複癌.外 科 51:596-599,1989 11)大 内明夫,佐久間晃,菅原 暢 ほか :大 腸重複痛症 例 の臨床病理学的検討.癌 の臨 29:1424-1432, 1983 12)松 本収生,松本好市,石島直人 ほか :大 腸癌 と他臓 器 との重複痛 の検討.日 本大腸肛門病会誌 43: 1409--1414, 199() 1 3 ) 高 月 清 : A T L の 病態分類. 豊 島久真 男, 高 月 清 編. 図 説臨床癌 シ リー ズ N 0 9 . メ ジカル ビュ ー社, 東 京, 1 9 8 6 , p 1 0 - 1 6 14)Ionov Y, PeinadO MA, lvlalkhOsyan S et ali Ubiquitous somatic mutatiOns in simple repeated sequences reveal a ne、 v mechanisn■fOr colonic carcinogenesis Nature 363:558--561, 1993 15)Aaltonen LA, Peltomaki P, Leach FS et al: Clues to the pathogenesis of fa■ 111lal co10rectal cancer Sctence 260:812--816, 1993 16)1｀hibodeau SN,Bren G,Schaid D: MIicrOsateト lite instability in cancer of the proxilnal colon Science 260:816--819, 1993 17)中 村祐輔,堀 井 明 ,韓 恵 程 :DNAミ スマ ッチ 修復 の異常 とヒ トのが ん。細胞 工 学 13:683689, 1994 1997年11月 103(2229) A Case Report of Asynchronous Multiple Cancers Including Quadruple Colon Cancers. Gastric Cancer. Renal Cell Carcinoma and Rectal Cancer Heiro Kin, Katsuhiro Kawasaki, Isao Sakita, Toshio Nishi, Seishi Aizawa, Masayuki Ohue*, Yoshiaki Nakano*, Naohiro Tomita*, Takushi Monden* and Takesada Mori Department of Surgery, Kaizuka Municipal Hospital *Department of Surgrey II, Osaka University School of Medicine A case of asynchronous multiple cancers including quadruple colon cancers, gastric cancer, renal cell carcinoma, and rectal cancer is described. The patient, a S7-year-old woman, was diagnosed as having transverse colon cancer at the age of 36 in 1970. In 1984sigmoid colon cancer, transverse colon cancer, gastric cancer and renal cell carcinoma were found simultaneously. The rectal cancer was revealed in 1991, and the seventh cancer developed in the transverse colon in 1994. All carcinomas were resected radically. No sign of recurrence or metastasis has been seen since the last operation. Replication errors in DNA, which may play an important role in development of multiple primary cancers, were observed in the seventh tumor. The patient should be considered to have an increased risk of an additional primary cancer. Reprint requests: Heiro Kin Department of Surgery, Kaizuka Municipal Hospital 3-10 20 Hori, Kaizuka City, 597 JAPAN
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