1)婦人科腫瘍医 - 日本産科婦人科学会

N―228
日産婦誌62巻 9 号
クリニカルカンファレンス10 再発子宮頸癌の治療
1)婦人科腫瘍医
座長:東北大学
八重樫伸生
近畿大学
渡部
熊本大学
洋
片渕 秀隆
はじめに
厚生労働省人口動態統計1)による子宮がん死亡者数は年々増加しており,その主因は日
本産科婦人科学会患者年報2)に示される近年の進行子宮頸癌例の増加(図1)
にあると推察
される.進行例の増加は再発例の増加と密接に関連するため,再発頸癌の長期予後改善を
目的とした治療戦略の設定は婦人科腫瘍医にとって重要な臨床的課題といえる.頸癌に限
らず再発癌においては,手術療法,化学療法,放射線療法の各治療法を有効かつ安全に組
み合わせる集学的治療の適応が求められるが,特に再発頸癌においては他の再発婦人科癌
と異なる重要な臨床的な特徴を有している.それは再発を来す進行頸癌例においては近年
の臨床試験成績に基づいて,初回治療3)あるいは術後補助療法4)として化学放射線療法
(concurrent chemoradiation therapy:CCRT)による治療既往を有する事実である.
すなわち,婦人科腫瘍医が直面する再発頸癌の大半は CCRT 治療後再発例であるため,
治療にあたっては放射線治療の適用が困難である前提で治療戦略が構築されねばならない
という問題がある.
治療ガイドラインによる推奨治療
3)
再発頸癌に対する治療は,National Comprehensive Cancer Network
(NCCN)
およ
4)
び日本婦人科腫瘍学会 による治療ガイドラインによって臨床条件に応じた治療推奨がな
されている.しかし両ガイドラインにおける基本的治療戦略は明らかに異なった立場を
とっており,NCCN では手術治療の積極的な適用を推奨しているのに対して,日本婦人
科腫瘍学会では手術治療は限定された症例における optional treatment としての推奨に
留まっている.すなわち進行頸癌の初回治療として欧米では主として同時化学放射線治療
が適用されているのに対して,本邦では広汎子宮全摘術を中心とした根治手術が適用され
ているという現状を考慮すると,進行頸癌の総合的治療戦略は本邦と欧米では初回治療と
Gynecologic Oncologist
Yoh WATANABE
Department of Obstetrics and Gynecology, Kinki University Faculty of Medicine, Osaka
Key words : Recurrent cervical cancer・Surgery・Pelvic exenteration・Treatment
strategy
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2010年 9 月
N―229
(図 1) 浸潤子宮頸癌の年次推移
再発治療で全く反対の治療法の推奨がなされ
ている.
多施設共同治療実態調査結果
CCRT 治療既往を有する再発頸癌に対す
る治療有効性の検討を目的として,東北大学,
慶應義塾大学,愛知県がんセンター,近畿大
学,九 州 が ん セ ン タ ー の5施 設 を 対 象 に
CCRT 治療後再発頸癌に対する後方視的治
(図 2) 化学放射線療法治療後再発頸癌の初
療実態調査を実施した.調査には107例の
回治療選択
CCRT 治療後再発頸癌症例が蓄積され,初
回治療としては化学療法が最も高頻度に選択
されていた(図2)
.また,照射野外再発例に
おいては同時化学放射線療法が選択される傾向にあり,手術治療は照射野内の単独再発に
対しての適用例が最も多かった.後方視的治療実態調査成績の解析ではあるが,選択治療
別の予後をみると初回治療において手術治療の適応が考慮された症例において,より予後
良好な傾向にあった.
再発頸癌に対する骨盤除臓術の治療成績
骨盤除臓術(pelvic exenteration)
は再発頸癌に対する手術として治療ガイドラインに
おいても推奨がなされている.但し骨盤除臓術は手術が長時間かつ広範囲に及び尿路変更
や人工肛門造設を伴うことから,術後患者の生活の質(quality of life)の維持を困難にす
る治療であると考えられてきたため,これまで婦人科腫瘍医はその適用を敬遠する傾向に
あった.しかし1964年以降2007年までに報告された進行再発頸癌に対する骨盤除臓術
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N―230
日産婦誌62巻 9 号
(図 3) 骨盤除臓術治療成績の年次推移
に関する代表的文献の総説5)によると,当初周術期死亡率が5年生存率を上回っていた骨
盤除臓術の治療成績は年次推移とともに明らかに改善されており,近年では50%近い5年
生存率が達成されている(図3)
.また手術適用は不可能であるとされてきた側方骨盤壁再
発に対しても手術適用を試みたとする報告6)もなされており,近年再発頸癌に対する手術
療法は見直されて来つつある.
おわりに
再発頸癌は他の再発婦人科癌と比較して最も病巣制御の困難な悪性腫瘍であるため,婦
人科腫瘍医にとって化学療法,
(化学)
放射線療法,手術療法各々の治療を有効かつ安全に
組み合わせた集学的治療による患者長期予後改善のための戦略設定は重要な課題である.
今後の再発頸癌治療においては,十分な検査に基づく慎重な症例選択を行った上で手術
治療の適用が可能であると判断された症例については積極的に手術を行い,術中の状況に
応じて術中放射線照射治療を併用するといった治療法も考慮されていくべきであると考え
られる.
《参考文献》
1.http:"
"
www.mhlw.go.jp"
toukei"
list"
81-1.html
2.http:"
"
www.jsog.or.jp"
activity"
report.html
3.http:"
"
www.nccn.org"
professionals"
physician_gls"
f_guidelines.asp
4.日本婦人科腫瘍学会(編)
.卵巣がん治療ガイドライン.東京:金原出版,2007
5.Chiva LM, Lapuente F, Gonz lez-Cortijo L, Gonz lez-Martín A, Rojo A, García
JF, Carballo N. Surgical treatment of recurrent cervical cancer : State of the art
and new achievements. Gynecol Oncol 2008 ; 110 : 60―66
6. Hockel M. Laterally extended endopelvic resection ( LEER ) -principles and
practice. Gynecol Oncol 2008 ; 111 : 13―17
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