看護師のための がん免疫療法 TOPICS • がん免疫療法とは • 免疫監視機構とがん • 腫瘍関連抗原 • 抗原提示細胞(APC) • T細胞 • B細胞 • 抗体 • NK細胞 • 腫瘍関連抗原と免疫監視機構の活性化 • 実用性と安全性の考慮 • がん免疫療法における抗腫瘍効果 • 偽性増大とがん免疫療法 • 有害事象 • 免疫関連有害事象の影響 IMMUNO-ONCOLOGY がん免疫療法とは 進行がんにおける課題として、生存率の改 善が挙げられます。転移を有する固形がん 患者の5年生存率は依然として低く1 、 新た な治療法が望まれています2 。 がん治療の柱 放射線療法 化学療法 外科的 手術 1 5年生存率(%) 新たながん免 疫療法 16 12.5 3.9 12.3 患者さん自身が持つ免疫監視機構に作 用してがんと闘う「新たながん免疫療法」 の研究が進んでおり3-5、現在 900以上の 臨床試験が行われています6。 1. Surveillance, Epidemiology and End Results (SEER) Program. Retrieved May 6, 2014, from http://seer.cancer.gov | 2. Rosenberg SA. Sci Transl Med. 2012;4(127ps8):1-5 | 3. DeVita BT, Rosenberg SA. N Engl J Med. 2012;366:2207-2214 | 4. Kirkwood JM, et al. CA Cancer J Clin. 2012;62:309-335 | 5. Murphy JF. Oncology. 2010;4:67-80 2 IMMUNO-ONCOLOGY 免疫監視機構とがん: がん免疫編集機構 免疫によるがん細胞の認識と破壊という免疫監視機構により、がん細胞が質的な変化を経て、 腫瘍が形成されるまでの過程は、がん免疫編集機構(cancer immunoediting)として知られてい 1 1,2 ます 。がん免疫編集機構は、3つの相で構成されています 。 • • • 排除相 (免疫監視機構) :免疫監視機構によりがん細胞は認識され、排除されます1,2 。 破壊されな 1,2 かったがん細胞は、平衡相に入ります 。 平衡相 (がん休眠) :がん細胞は残存しているものの、免疫監視機構ががん細胞の増殖を防ぎます1,2 。 逃避相 (がんの進行) :がん細胞が免疫監視機構による認識・排除から逃れる能力を獲得します1,2 。 そ の結果、臨床においてがんが顕在化します2 。 排除相 平衡相 逃避相 (免疫監視機構) (がん休眠) (がんの進行) 新たながん免疫療法は、免疫監視機構の直接 的な活性化やがん細胞による免疫抑制を阻害 することにより、がん細胞を排除する免疫監視 機構の能力を取り戻します。 がん細胞は、免疫監視機構の活性化のメカニズ ムを阻害したり、その抑制のメカニズムを利用 することにより、免疫監視機構から逃れる可能 性があります。 3 1. Vesely MD, et al. Ann Rev Immunol. 2011;29:235-271| 2. Schreiber RD, et al. Science. 2011;331:1565-1570 IMMUNE SYSTEM AND CANCER がんに対する免疫応答における要素 腫瘍関連抗原 • がん細胞にある異常 な物質またはタンパク 質のこと(腫瘍抗原)。 免疫監視機構が認識 して反応します1 。 抗原提示細胞 T 細胞 • 感染/がん細胞の抗原を取り 込み、短いペプチド断片に分 解・処理します2 。 • T細胞受容体があり、腫瘍 関連抗原を認識します。 • T細胞にペプチド断片を抗原 として提示し、免疫応答を引 き起こします。 1 • 活性化することで、感染/ がん細胞の死滅に大きな 役割を果たします。 • 免疫応答の持続を助けま す。 4 1. Janeway CA, et al. Immunobiology: The Immune System in Health and Disease. 6th ed. New York, NY: Garland Science; 2004 IMMUNE SYSTEM AND CANCER がんに対する免疫応答における要素 B 細胞 1 • 血液やリンパ液中に浮 遊している抗原と結合す るB細胞受容体を発現し ます。 • 活性化すると、特定の抗 原に対する抗体を大量 に分泌する「プラズマ細 胞」に分化します1 。 抗体 NK 細胞 • 活性化したB細胞(プラ ズマ細胞)から分泌され ます1 。 • 抗原提示細胞や抗体と 関連せず感染/がん細胞 を認識できるため、迅速 に反応できます。 • 免疫監視機構による攻 撃のための標識となりま す。また、重要なメカニ ズムの阻害による標的 の無効化を行います1 。 1 • 細胞表面で抗体を認識 して、感染/がん細胞を 攻撃することもできま す。 5 1. Janeway CA, et al. Immunobiology: The Immune System in Health and Disease. 6th ed. New York, NY: Garland Science; 2004 IMMUNE SYSTEM AND CANCER 腫瘍関連抗原が免疫応答を誘導 B細胞が抗原に 1 結合 1 腫瘍関連抗原がT細に 1 抗原を提示 腫瘍関連抗原 成熟B細胞 不活性T細胞 活性化B細胞 抗原提示細胞 活性化T細胞 NK細胞 抗原に対して 1 産生された抗体 活性化T細胞が がん細胞に遊 走・攻撃 がん細胞 抗体ががん細胞 1 に付加 アポトーシスした がん細胞 6 1. Janeway CA, et al. Immunobiology: The Immune System in Health and Disease. 6th ed. New York, NY: Garland Science; 2004 PRACTICAL AND SAFETY CONSIDERATIONS 新たながん免疫療法における抗腫瘍効果 免疫監視機構に作用する治療は、治療開始後直ちに大きな抗腫瘍効果がみられるわけではあ 13 りません 。治療開始後、数週間~数ヵ月後に効果がみられることもあります。 即時に腫瘍縮小 1 腫瘍縮小はみられないが、 2-6 増大を遅らせる 早期に画像上の増大がみられ 1-3,5,7-11 た後に腫瘍縮小する 早期にわずかに増大する 1,4-5, 12 患者が新たながん免疫療法に反応しない可能性もあります 1. Fox BA, et al. J Transl Med. 2011; 9:214-226 | 2. Hoos A, et al. J Immunother. 2007;30:1-15 | 3. Lipson EJ. OncoImmunology. 2013;2:e23661-3 | 4. Suzuki H, et al. J Transl Med. 2013;11:97-106 | 5. Slovin SR. Front Oncol. 2012:2:43 | 6. Madan RA et al. Oncologist. 2010; 15:969-975 | 7. John T, et al. PLoS One. 2013-8:e67876 | 8. Aarntzem EHJF, et al. Cell Mol Life Sci. 2013; 70-2237-2257 | 9. FDA Guidance for Industry: Clinical Considerations for Therapeutic Cancer Vaccines. 2009 | 10. Sze DY, et al. J Vasc Interv Radiol. 2003;14:279-290 | 11. Senzer NN, et al. J Clinc Oncol 2009; 27:5763-5771 | 12. Naik JD, et al. Clinc Cancer Res. 2011;17:4214-4224 | 13.Hoos A and Britten CM. OncoImmunology. 2012;1:334-339 7 PRACTICAL AND SAFETY CONSIDERATIONS 新たながん免疫療法における偽性増大 新たながん免疫療法開始後の最初の画像診断において、偽性増大の所見がみられることがあ ります。T細胞が腫瘍部位に浸潤した際に画像上にフレアや新規病変が生じ、偽性増大となる 1,2,3 可能性があります 。 新たながん 免疫療法 腫瘍 T細胞が 腫瘍に浸潤 画像上にフレアや 新規病変が生じる 1. Wolchok JD, et al. Clin Cancer Res. 2009;15:7412-7420 | 2. Topalian SL, et al. N Engl J Med. 2012;366:2443-2354| 3. Chow LQ. Am Soc Clin Oncol Educ Book. 2013:280-285 8 PRACTICAL AND SAFETY CONSIDERATIONS 有害事象 がん細胞が私たちの体内の正常な細胞から生じるように、腫瘍関連抗原が正常な細胞に発現す ることもあります。そのため、がん免疫療法により免疫監視機構を活性化することで、免疫監視 1 機構ががん細胞だけでなく正常な細胞も攻撃してしまう可能性があります 。 T細胞 T細胞が、がん細胞 の腫瘍関連抗原を 認識して攻撃 がん細胞 1. Amos SM et al. Blood. 2011; 118:499-509 T 細胞 l T細胞が、正常な細 胞の腫瘍関連抗原 を認識して攻撃 正常な細胞 9 PRACTICAL AND SAFETY CONSIDERATIONS 免疫関連有害事象の影響 • 重篤および致死的な有害事象が起こる可能性があ ります • 治療中はもちろん、治療後も慎重に観察を続ける必 要があります • 患者教育を行って免疫関連有害事象への注意を促 し、症状が発現した場合は速やかに報告するよう指 導することが大切です • すべての有害事象が管理可能なわけではなく、治療 中止に至る可能性もあります – 治療を成功させるために、免疫関連有害事象管理ガイド ラインに従ってください 10
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