体育科「学び方を身に付けさせる授業」の成果と課題 第4学年器械運動「マット運動」の実践から 新潟市立鏡淵小学校 教諭 飯田 厚 「器械運動」は、第4学年から学習する初めての運動領域である。そこで、段階的に 重 点 を 置 い て「 学 び 方 」を 身 に 付 け て い く こ と が で き る よ う に し て い き た い と 考 え た 。 本単元「マット運動」においては、自分の能力に合った技を選んだり、その選んだ 技が「できる、よりよくできる」ように練習の視点を考えたり、練習の工夫したりし ていく児童を育ててきたいと考え、次の2点に重点をおいて指導を行った。 ①マット運動の技の違いを理解できるようにする。 ② そ の 技 が で き る よ う に な る た め に 、取 り 組 む 技 の ポ イ ン ト を 理 解 で き る よ う に す る 。 1 本単元で身に付けさせたい「学び方」と手だてについて 器械運動で「学び方」を身に付ける場合、今までの体育学習では、技のポイントを考 えたり、練習方法や場作りを工夫したりして技を身に付けることを大切にしてきた。し かし、技の難易度が分からずにやみくもに難しい技に挑戦したり、技のポイントのもた せ方があいまいであったりして、必ずしも効果的な学び方を身に付けていたとは言えな い。また、練習方法や場作りを工夫する場合でも、技の理解ができておらず、自分のど こが悪いのかが分からないまま、いろいろな練習方法に取り組む姿が見られた。 そ こ で 、 本 実 践 で は 、 学 び 方 の 1 と し て 「 技 の 違 い が 分 か る 」、 学 び 方 の 2 と し て 「 技 のポイントが分かる」ところに重点を置いて指導を行った。技の違いをとらえることに より、児童は、自分ができている技とこれからできそうな技を理解することができる。 また、ポイントを理解し、そこに気を付けて練習をすることにより、技を身に付ける ためのステップを習得することができる。 こ の 学 習 の 流 れ を 通 し て 学 び 方 を 習 得 し 、他 の 運 動 に も 生 か し て い け る も の と 考 え た 。 学 び 方 そのための手だて 【学び方1】 ・技の違いをとらえる示範 自分が取り組む技を決めることができるように ・系統が自然に分かる技調べカード 「技の違いが分かる」 ・技調べ(試技)の場の設定 【学び方2】 ・技のポイントを意識させる示範 その技がよりよくできるようになるために、技 ・技のポイントを意識し、体感させ のどのポイントに取り組めばよいかが分かるよう に、 「技のポイントが分かる」 るための掲示資料 ・取り組む技のポイントを見付ける 場の設定 ( 学 習 過 程 は 、指 導 案「 5 指 導 と 評 価 の 計 画 」を 参 照 ) 2 実践の概要 ( 1 )「 学 び 方 1 ・ ・ ・ 技 の 違 い が 分 か る 」 技の違いを理解させるために、技調べカードを用意した。技調べカードは、前転 →開脚前転→伸膝前転など、技の系統が分かるように技を配置し、一つ一つの技に ついて技の名前だけでなく、連続図を入れた。これだけでは、どんな技か分からな い の で 、教 師 が 示 範 を 行 っ た 。技 調 べ カ ー ド の 図 を 拡 大 し た も の を 移 動 黒 板 に 貼 り 、 系統表の図に沿って、技の特徴を児童に話した後に示範をして見せた。児童は今ま で に あ ま り 示 範 を 見 た こ と が な く 、 一 つ の 技 を 見 せ る ご と に 、「 わ あ っ 。」 と 歓 声 が上がった。示範を見ながら、児童はその技がどのような技であるか、その技はや りやすそうな技かなどを確認することができた。 技調べに入ると、技調べカードを一人が一枚ずつもって、技を試し始めた。ほと んどの児童は、カエル足打ちや前転など、取り組みやすい技から始める姿が見られ た 。技 調 べ カ ー ド の 系 統 に 沿 っ て 行 う と 、児 童 の 力 で は 、と て も で き な い 技 も あ り 、 友達に聞いたり、再度教師に聞いたりしながら、技を確認している児童もいた。技 を体感することにより、児童は、どの技が難しく、どの技ができるのかを把握し、 次時に対しての意欲 をもつことができた。 ( 2 )「 学 び 方 2 ・ ・ ・ 技 の ポ イ ン ト が わ か る 。」 技のポイントを理解させるために、掲示資料として技のポイントカードを用意し た。 ポイントカードには、技の入り方や着手、終末など、局面を分けてポイントを3 つ用意した。 まず、教師が技のポイントカードをもとに技のポイントを一つ一つ意識した示範 を行った。児童は、示範の一つ一つを食い入るように見つめ、前時の技調べで見た技 を今度はポイントに焦点化して見ることになった。このことにより、どのようにして 自分が練習に取り組むポイントを見付けるかが明確になった。 技を練習する段階では、技のポイントカードをもとに、自分が選んだ技のポイント について1回の試技に1つのポイントを意識して全てのポイントを試してみる場を設 定した。うまくできたポイントにはピンクのシールを、うまくできないがこれができ ると技ができそうだというポイントにはオレンジ色のシールを技の連続図に貼ること ができるようにした。学び方の1によって、技の違いをとらえている児童は、自分が 取り組む技を適切に決めて取り組んでいた。また、ピンクとオレンジのシールを用意 したことにより、単にできた、できなかったという考え方にならず、自分にとって技 ができるようになるための大事なポイントかどうか考えながら試技をすることにつな がった。掲示した資料には、ピンクのシールだけでなく、オレンジのシールもたくさ ん貼られた。1つの技について全てのポイントにピンクのシールを貼る児童や一つの ポイントに何度も挑戦して技がやりやすくなっていくことができた児童は、ポイント の大切さに気付き、他の技についてもポイントを試してみようという気持ちをもって 意欲的に繰り返し挑戦していた。また、うまくいかない友達がいると、ポイントをも とにアドバイスをする姿も見られ、技は確実に向上していった。 3 評価方法と総括的評価 学び方の習得を次のことから確認することにした。 (1 ) 毎時間学習カードに書かせた自己評価から (2 ) 「技の組み合わせを考える」場面において、どのように組み合わせる技を 試し、選んでいったのか児童の学習の様子から (3 ) ( 1) 単元終了後に調査したアンケートの結果から 自己評価からの学び方の評価 学習カードの自己評価からは、その時間に意識して取り組んだポイントを記述さ せるとともに、技のポイントの練習にどのくらい取り組んだか、その回数を記入さ せた。 その結果、一つのポイントについて10回以上取り組んだ児童が8人、5回∼9 回 が 13 人 、 他 の 児 童 も 3 回 以 上 は 練 習 を 行 っ て い た 。 10 回 以 上 5∼9回 3∼5回 0∼2回 8人 13 人 7人 0人 次 に 、「 ポ イ ン ト に 注 意 し て 運 動 が で き た か 。」 と い う 評 価 項 目 に 対 し 、 A ( 大 変 良 い )を 付 け た 児 童 は 、 2 時 間 目 19 名 、3 時 間 目 19 名 、4 時 間 目 22 名 、 5 時 間 目 18 名と多数おり、他の児童もほとんどBの(よい)を付けていた。 2時間目 19 人 3時間目 19 人 4時間目 5時間目 22 人 18 人 ま た 、記 述 に「 お し り を 高 く 上 げ ら れ る よ う に な っ た 。」 「 手 も 足 も 同 時 に つ け た 。」 な ど 、 ポ イ ン ト の 習 得 に か か わ る 記 述 が 見 ら れ た 児 童 が 19 名 。 そ の 他 の 児 童 も 「 全 員 ポ イ ン ト に 挑 戦 し て よ か っ た 。」「 ポ イ ン ト を や っ た ら 簡 単 に で き た 。」 な ど 、 全 ての児童が、ポイントに意識をもつことができた。 ( 2 )「 技 の 組 み 合 わ せ を 考 え る 」 場 面 で の 「 学 び 方 」 の 評 価 ○「学び方1・・・技の違いが分かる」が意識されているかどうかを、組み合わせる 技を自分の力に合った技の中から選ぶことができたかどうかから確認した。 その結果、 ・ 技の系統表をもとに自分ができる技を適切に選んで組み合わせようとした児童 23 人 ( 82 % ) 組み合わせる技を決める際、自分ができる技を適切に組み合わせることが大切であ る。このことから、1時で指導した「学び方1」の成果が意識され、生かされてい ることが分かった。 ○「学び方2・・・技のポイントが分かる」が意識されているかどうかを、組み合わ せた技についてもポイントを意識して練習していたかどうかから確認した。 その結果、 ・ 組 合 わ せ 技 を 練 習 す る 際 に も 技 の ポ イ ン ト を 意 識 し て い た 児 童 20 人 ( 71 % ) ・ 練習の際、友達同士で技のポイントについてアドバイスし合ったり、グループ 評 価 カ ー ド に 技 の ポ イ ン ト に 関 連 し た 記 述 を し た 児 童 23 人 ( 82 % ) ・ 技を組み合わせる学習において自己評価欄に技のポイントを記述していた児童 20 人 ( 71 % ) こ の こ と か ら 、「 学 び 方 2 」 の 成 果 が 意 識 さ れ 、 生 か さ れ て い る こ と が 分 か っ た 。 以 上 、「 学 び 方 1 」「 学 び 方 2 」 が 身 に 付 い た 結 果 と し て 、 行 う 技 を 適 切 に 組 み 合 わ せ 、ポ イ ン ト に 気 を 付 け て 練 習 す る 姿 が 見 ら れ た 。さ ら に 、技 能 の 向 上 が 見 ら れ た 。 ( 3 )ア ン ケ ー ト か ら の 「 学 び 方 」 の 評 価 単元終了後のアンケートで、以下の設問に対して 「技調べカード」や「技のポイントカード」を使うことによって、自分の技を決め たり、練習するポイントを決めたりする方法が分かりましたか。 とてもよく分かった・・・・ 20 人 ( 72% ) 少し分かった・・・・・・・ 7 人 ( 25 % ) まだあまりよく分からない・ 1人(3%) こ の ア ン ケ ー ト で は 、 学 び 方 の 方 法 を 理 解 で き た か ど う か と い う 問 い に 対 し て 、 20 名 の 児 童 が 、「 と て も よ く 分 か っ た 」、 7 名 が 「 少 し 分 か っ た 」 と 答 え て お り 、 ほ ぼ 全員の児童がこのやり方について理解できたと考えられる。 【総括的評価】 観 点 関 心 ・意 欲 ・態 度 十分満足できる(A) おおむね満足できる(B) 努力を要する(C) 21 名 ( 75 % ) 6 名 ( 21 . 4 % ) 1 名 ( 3. 6 % ) 思考・判断 5 名 ( 17 . 9 % ) 22 名 ( 78 . 5 % ) 1 名 ( 3. 6 % ) 技能・表現 6 名 ( 21 . 4 % ) 20 名 ( 71 . 5 % ) 2 名 ( 7. 1 % ) 学び方について、思考判断の評価では、A(十分満足できる)が5名、B(おおむ ね 満 足 で き る ) が 22 名 、 C ( 努 力 を 要 す る ) が 1 名 と な っ た 。 A の 5 名 は 、 示 さ れ た 技 の ポ イ ン ト の ほ か に ポ イ ン ト を 工 夫 し 考 え て い た 児 童 で あ る 。 そ の 他 、 B の 22 名は、示されたポイントについて意欲的に取り組んでいて、アンケートからも「やり や す く な っ た 。」「 ポ イ ン ト に 気 を 付 け た ら で き る よ う に な っ た 。」 な ど の 記 述 が 見 ら れた。 4 成果と課題 ( 1) 学び方の習得による学習の変容 ○ 教 師 の 示 範 と「 技 調 べ カ ー ド 」 に よ っ て 自 分 が 取 り 組 む 技 を 決 め る こ と が で き 、 さらにその技のどのポイントを練習すればよいかを明らかにさせたことによって、 児童は、取り組む練習のめあてを明確にして学習することができた。その結果、 何の練習に取り組んだらよいか分からず、ただマット上で動き回って終わってし まい、何を学んだのかが分からないという児童がいなくなった。 ○ 「 技 調 べ カ ー ド 」「 技 の ポ イ ン ト カ ー ド 」 と 自 分 で 技 や ポ イ ン ト を 試 す 場 を 設 定 したことによって、技に取り組む意欲が高まった。これからも、このようなカー ドを使って学習していきたいと考えている児童が ( ぜ ひ や っ て い き た い 18 人 64 % 、 と き ど き や っ て い き た い 10 人 36 % ) い る 。 ○ 他の運動でも、技ができるようになるために、その技のポイントを意識して取 り 組 み た い と ア ン ケ ー ト で 回 答 し て い る 児 童 が 100 % ( ぜ ひ 取 り 組 み た い 86 % 、 と き ど き 取 り 組 み た い 14 % ) で あ っ た 。 本 実 践 で の 、「 学 び 方 」 指 導 が 、 児 童 に とって学習に取り組みやすい(自分の力に合った、練習に取り組みたい技に取り 組むことができるという)状況をつくり出し、効果的であったことが裏付けされ たものと考える。 ○ 本実践では、器械運動の学習が初めてであることから、技のポイントを教師が 提 示 し た 。 し か し 、 数 名 の 児 童 は 「 こ こ が で き る と 技 が で き そ う だ 。」 と 自 分 で 見付けたポイントについて教師に話しかけてきた。また、言葉ではうまく表現で きないけれども、自分なりのポイントを感じ、それをめあてにして技の練習に取 り 組 ん だ 児 童 も い た 。「 技 の 違 い 」「 技 の ポ イ ン ト 」 を と ら え さ せ 、 意 識 さ せ る 「 学 び方」の成果の表れと考える。 ○「技ができるようになったり、よりよくできるようになった」児童について、 ・ できなかった技が、ポイントを意識して練習したことでできるようになった 児童 ・ 26 名 ( 93 % ) 技のポイント部分の動きがきれいに、スムーズにできるようになった児童 22 名 ( 79 % ) このように「学び方」を意識して指導することによって、技能面の成果も期待でき ることが分かった。 ( 2) 課題 ○ 技調べを行う段階で、教師が全ての技について示範したために時間がかかって しまった。技の提示を分けて、難易度の低いものを出してからチェックし、次に 進むなど提示の方法を今後検討してみたい。 ○「技のポイントカード」で与えたポイントの表現が技を行う児童側の視点であっ たり、その技を横から見ている指導者側の視点であったりしたために、必ずしも 児童に合ったポイントであるとはいえないものもあった。技を行う児童にとって 分かりやすいポイントの表現にしていきたい。 ○ 自分で見付けたポイントを付箋などに記入してカードに貼れるようにしておく と、さらに児童の意識が高まると思われる。 ○ 器 械 運 動 に お い て 初 め て 「 学 び 方 」 の 指 導 を 取 り 上 げ た 。「 学 び 方 」 の 定 着 の ためには、この後も継続して意識的に「学び方」の指導に取り組んでいくことが 鍵となる。また、その「学び方」についても重点をかけて指導したり、他の運動 領域においても常に「学び方」が生かせているかどうかについて検証していきた い。
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