エイコサペンタエン酸 Eicosapentaenoic acid；EPA から合成されるため，広義では必須脂肪酸とな 1．概　要る。健康目的で DHA とともにサプリメントなど化審法：（既）2－609 に用いられている。血栓溶解・形成防止作用のあ CAS： 10417－94－4 るプロスタグランジンの前駆体であり，表 2 に別名：イコサペンタエン酸（icosapentaenoic 示すように数々の生理活性を有していることか acid），チムノドン酸（Timnodonic acid）構造式（例）ら，2003 年に特定保健用食品の許可を受けた（日本水産，イマーク）。〈一般物性〉外観：無色，油状融点：－54～－53℃ 分子量：C20H30O2＝302.451 引火点：93.4℃ エイコサペンタエン酸（以下 EPA）は炭素数密度：0.943 g/ml at 25℃ 20 で 5 つのシス二重結合を有するω3 脂肪酸の一保存方法：空気，光の影響を受けやすいため，種であり，天然にはトリグリセリドとして，タラ，容器は密封状態で窒素シールし，－20℃で保ニシン，サバ，サケ，イワシなど主に青魚から得管する。また強い塩基，強い酸化作用を持つられる（表 1）。動物以外からはスピルリナ，マイものを避ける。クロアルジェなどの微細藻類からも得ることができ，マイクロアルジェは商業用に開発されている。ヒトでは，体内で合成できないα－リノレン酸〈毒性〉 LD50：56,100 mg/kg 以上，経口，ラット構成脂肪酸中の EPA 含有量が 20％以上の市販の高精製魚油に関しては，適切に用いれば経口摂表 1　海産魚眼窩脂肪中の DHA および EPA の含有量海産魚メバチマグロクロマグロキハダマグロカツオマカジキカンパチマアジマイワシネコザメトラザメ 56 DHA（％） EPA（％） 30.6 28.5 28.9 42.5 28.4 20.5 15.3 12.1 29.0 12.5 7.8 6.1 4.5 9.5 3.9 6.5 15.3 22.6 3.0 13.4 取で安全と考えられているが，大量摂取は危険で表 2　EPA の生理作用 ①血小板凝集抑制作用（血栓溶解作用） ②血液中の中性脂肪低下作用 ③VLDL，LDL の両コレステロールの低下作用， HDL コレステロールの増加作用（抗動脈硬化作用） ④血液粘度低下作用 ⑤血圧降下作用 ⑥抗炎症作用 ⑦抗腫瘍作用 ⑧魚類等の必須栄養素 BIO INDUSTRY あると示唆されている。1 日 3 g 以上の摂取で出血しやすくなる可能性がある。妊娠中，授乳中の安全性については十分なデータがない。また，純度を高めている。 3．生産動向 EPA の国内メーカーは日本水産，マルハニチロ EPA を主成分とする医薬品との併用は注意を要する。 2．製　法主としてイワシ，他にサンマ，サバなどが原料に用いられている。魚油に含まれる EPA の含有量は 10～15％で，これを 18％品や 28％品に凝縮表 3　EPA の取り扱いメーカーと生産量（単位：トン）メーカー生産量日本水産マルハニチロ食品 50 40 タマ生化学ジェイエムシーアサマ化成研光通商 10 し，健康食品などに用いられている。体全体から搾汁し，遠心分離法などにより，油分と水溶性エキス分に分け，油分をウィンタリング法（冷却し，固化しやすい部分と固化し難い部分を分離する方法）により EPA を濃縮する。また，医薬品などに用いる高純度品は，精密蒸留により得られたものをさらに HPLC で精製し合　計備　考イワシ由来：18％，28％荷姿：15kg 缶，180kg ドラム，サプリメント用および完全無臭タイプイワシ由来 100 図 1　DHA および EPA の流通経路 Vol.28　No.9　2011 57 食品，タマ生化学，アサマ化成，研光通商など。バプラス　大豆バー」を発売した。生産量は年間 100 トン前後と見られる（表 3）。生 ⑵　医薬品産された EPA は図のような経路で流通する（図 1）。 4．需要動向日本で高脂血症の治療薬として実用化されている EPA エチル製剤「エパデール」の売上高は 375 億円（2010 年 3 月期）から 362 億円（2011 国内需要は年間 100 トン前後と見られる。1990 年 3 月期）と減少したが，スイッチ OTC 化する年代初めまでは，健康食品ブームにより飛躍的にことにより販売強化をはかる。日本水産は大衆薬需要を増やしたが，DHA の登場とともに横ばい用も含め，持田製薬が使用する全量を供給する。となっている。現在，健康食品用の市場規模がまた武田薬品は，DHA/EPA 製剤として 20 ヵ 75 トン（20～25 億円程度），医薬品として 25 トン国以上で販売，10 億ドルを売り上げるブロック（15～20 億円程度）と推定される。 ⑴　食　品 EPA は清涼飲料水や，ソーセージなどの形態で販売されている。日本水産のイマークは，2003 年に特定保健用食品の認可を受けてから，人気商品として 10 億円規模の売り上げを維持している。バスターとして知られている「Omacor/Lovaza （Pronova BioPharma）」の日本における臨床試験を行っており，2011 年中の製造販売の承認申請を目指している。 5．価　格また同社は 2011 年 3 月，EPA・DHA を合計 18％品：2,000～3,000 円/kg 300mg 配合した「サラサラ生活向上委員会　エ 28％品：5,000～7,000 円/kg 58 BIO INDUSTRY