はじめに 不眠の鑑別診断 る。 梶 村 尚 史 きちんと鑑別診断を行っていくことが求められ 断に困った場合には、フローチャートに沿って 診断に困ったときの 対処法 不眠は日常臨床において最も多く遭遇する症 状の一つであるが、その原因や病態は様々で、 不眠を呈していても睡眠薬が症状を悪化させる 場合も少なくない。睡眠障害国際分類によれば、 る必要がある。こうした状況を含め、不眠の診 して正しかったのかどうかをあらためて検討す のか︵中途覚醒︶ 、早く目が覚めてそれから眠 か︵入眠困難︶ 、眠ってから途中で目が覚める 睡眠薬を投与しても不眠が改善しない、ある 不眠の訴えをより具体的に捉えるために、ま ずは不眠のタイプ分けを行う。寝付きが悪いの いは逆に悪化してしまう場合には、診断が果た 果的な治療を選択するために必要不可欠である。 困った場合の不眠への対応について述べていく。 図①に不眠の診断フローチャートを示した。 約100種類もの睡眠障害が存在しており、こ 本稿ではこのフローチャートに従って、診断に れらの鑑別診断を的確に行うことは、不眠の効 1) (513) CLINICIAN Ê15 NO. 639 27 2) 診断 ①不眠の診断フローチャート (文献 2 より) (514) CLINICIAN Ê15 NO. 639 28 れ な い の か︵ 早 朝 覚 醒 ︶ 、熟睡感がないのか 循環があることが明らかにされている。 ︵熟眠困難︶などについて、詳しく聞いておく。 [薬剤性不眠]身体疾患の治療薬の中には不 眠を惹起するものがある。β 遮断薬などの降圧 眠日誌︵図②︶を利用することは非常に有用で 拡張薬、インターフェロンなどが知られている 剤、ステロイド、抗パーキンソン病薬、気管支 また、睡眠の状況を詳細に把握するために、睡 ある。 ある。 が、抗うつ薬であるSSRI︵選択的セロトニ [環境因による不眠]最初に、不適切な睡眠 習慣によって不眠が生じていないかを鑑別する。 ン再取り込み阻害薬︶でも不眠を生じることが 就床時刻や起床時刻、床上時間、午睡の有無な [睡眠時無呼吸症候群︵SAS︶ ]日中の過剰 どを確認して、これらが適切かどうかを検討す な眠気、中途覚醒や熟眠困難、夜間の頻尿など る。また、カフェイン、喫煙、飲酒などによる がみられる場合には、SASが疑われる。ベッ ば可能性が高くなるが、患者本人にはいびきや 影響にも注意が必要である。 [身体因による不眠]次に、かゆみや痛み、 頻尿などの身体疾患によって睡眠が障害されて 無呼吸の自覚はないので注意が必要である。 ドパートナーからいびきや無呼吸が確認できれ いないかを確かめる。不眠を生じやすい疾患と ]就床時に、 しては、アトピー性皮膚炎、線維筋痛症、胃潰 [ むずむず脚症候群︵RLS ︶ ﹁むずむずする﹂ ﹁虫がはう感じ﹂ ﹁痛みや熱 感﹂ ﹁不快感﹂などの異常感覚を下肢に生じ、 瘍や十二指腸潰瘍、気管支喘息や慢性閉塞性肺 疾患などがある。近年、高血圧や糖尿病などの 著明な入眠困難を呈している場合には、RLS と考えられる。この疾患では、下肢を動かした 生活習慣病で不眠の合併率が高く、不眠によっ てこれらの疾患が増悪するという双方向性の悪 (515) CLINICIAN Ê15 NO. 639 29 3) ②概日リズム睡眠障害(睡眠相後退型)患者における睡眠日誌の例 (文献 3 より) (516) CLINICIAN Ê15 NO. 639 30 いという強い欲求を生じ、実際に動かすと症状 が軽減するという特徴がある。 ]RLSの [周期性四肢運動障害︵PLMD︶ ∼ %に、PLMDを合併する。PLMDで 併するが、不眠を呈する患者の約 %はうつ状 うつ病による不眠と考えられる。 興味の喪失、食欲低下などの症状がみられれば、 態を呈している。不眠に加えて、憂うつ気分、 20 動が ∼ 秒周期で起こり、中途覚醒や熟眠困 [睡眠相前進症候群]夕方から眠気が出て、 は、睡眠中に足関節の背屈を主とした不随意運 夜早くには眠ってしまい早朝に目覚めてしまう 80 害︵CRSD︶の睡眠相後退型が疑われる。生 状態が続いている場合には、概日リズム睡眠障 [睡眠相後退症候群]極端な入眠困難ととも に朝の起床困難もあって、宵っ張りの朝寝坊の は患者本人は自覚しないことが多く、ベッドパ を引き起こすこともある。睡眠中の不随意運動 難の原因となるが、入眠期に生じると入眠困難 やすい。 向が強い者で起こりやすく、難治性不眠に陥り 眠困難を呈することが多いが、神経質な性格傾 生理性不眠は、いわゆる不眠症の中核群で、入 不眠症という診断に辿り着くことになる。精神 間帯が極端に早まっていることが確認できる。 前進型が疑われる。睡眠日誌を使えば、睡眠時 状態が続いている場合には、CRSDの睡眠相 90 床するのは困難である。診断には睡眠日誌が非 80 [うつ病]うつ病では、 ∼ %に不眠を合 SAS では診断に終夜睡眠ポリグラフ検査 常に有用である︵図②︶ 。 専門医療機関・専門医への紹介 [中途覚醒型不眠症、入眠障害型不眠症、精 ートナーに気づかれることがほとんどである。 神生理性不眠]以上の疾患の鑑別を行った後に、 体リズムの遅れにより、睡眠時間帯が極端に遅 30 くなっており、重要な仕事や試験があっても起 20 (517) CLINICIAN Ê15 NO. 639 31 60 ︵PSG︶が不可欠であり、この疾患が疑われ おわりに 不眠の診断に困ったときの対処法について、 た場合にはSAS専門医療機関を紹介する必要 フローチャートに沿って概説した。不眠を呈す みられたのに症状が再燃・増悪する場合、PL 行っても十分な効果がない場合、当初は効果が による薬物療法が非常に有効であるが、治療を 場合には専門医療機関や専門医への紹介を躊躇 ことは非常に重要であり、診断や治療に窮した 場面においても不眠の鑑別診断を意識しておく る睡眠障害は数多く存在するため、普段の臨床 がある。RLSでは、ドパミンアゴニストなど MDの存在が疑われる場合などは、速やかに睡 すべきではない。 ︵むさしクリニック 院長︶ American Academy Sleep Medicine : International Classification of Sleep Disorders, 2nd ed;Diagnostic and Coding Manual. American Academy Sleep Medicine, Westchester, IL (2005) 内山 真︵睡眠障害の診断・治療ガイドライン研究 会︶編 睡眠障害の対応と治療ガイドライン第2版、 じほう、東京︵2012︶ 文献 眠医療認定医︵日本睡眠学会︶などの睡眠専門 医を受診させることが望ましい。CRSDでは 睡眠専門医による時間生物学的な治療が必要と なる。うつ病による不眠では、抗うつ薬と睡眠 薬を併用することで治療効果が上がるが、この ような治療を行っても症状が十分に改善しない 場合や希死念慮が認められる場合には精神科専 門医を紹介する。 これら以外の不眠症の場合でも、治療効果が 十分に得られない場合、不眠が軽快した後の睡 眠薬の減薬や中止がうまくいかない場合などは、 睡眠専門医への紹介を考慮すべきである。 梶村尚史、高橋清久 睡眠相前進症候群︵ Advanced ︶ 、睡眠相後退症候群︵ Delayed sleep phase syndrome ︶ 、 日 本 臨 牀、 ︵ 2︶ 、13 sleep phase syndrome 4∼139︵2000︶ 三島和夫編 睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン、 じほう、東京︵2014︶ 56 32 CLINICIAN Ê15 NO. 639 (518) 1) 2) 3) 4) 4)
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