消化器関連疾患︵炎症性腸疾患︶ 腸管型ベーチェット病における 生物学的製剤の役割 谷 田 諭 史 網膜ブドウ膜炎に対して優れた効果を発揮する ステロイドや免疫調節薬であったが、治療に抵 腸管型ベーチェット病︵BD︶に対するこれ までの主な治療薬は、5 アミノサリチル酸、 速やかな寛解導入および維持効果をもたらすと 部潰瘍など︶だけでなく、腸管病変に対しても Xは、眼病変以外の主症状︵口腔内アフタや陰 はじめに 抗し腸管潰瘍病変に起因する頑固な疼痛の持続 症例報告されている。これらの結果から、20 ことが明らかになり、承認された。また、IF や潰瘍からの大量出血や腸管穿孔を来し、腸管 究班 腸管BD診療コンセンサス・ステートメ 切除を繰り返すこともしばしば経験する。また、 12年の厚生労働省難治性疾患克服研究事業研 ステロイドの副作用の糖尿病や骨粗鬆症による ント改訂案でも、IFXが、ステロイドをはじ めとした既存治療薬とともに治療オプションの 病的骨折などが併発し、治療に難渋することが 多い。 近年、抗TNFα 抗体薬インフリキシマブ ︵IFX︶が、BD主症状の一つである難治性 その一方で、抗TNFα 抗体薬アダリムマブ 一つとなった。 4) (217) CLINICIAN Ê15 NO. 636 77 1) 2) 3) − 013年、腸管型BD治療薬として世界で初め BD患者に対して有用であることが示され、2 ︵ADA︶が、既存治療抵抗性の日本人腸管型 た。 クティブに検討され、有効性、安全性が示され して、ADAの有効性および安全性がプロスペ 1. 患者・方法 節薬︶を行っているものの、回盲部に長径1㎝ 以上の典型的潰瘍を伴い日常生活に支障を来す 強い消化器症状を示すものとした。 投与後発作の頻度を減少させ、視力を改善させ でコントロール不十分な症例において、IFX 階、投与前と比較した潰瘍の縮小度は、0︵治 ︵最強 日常生活に非常に支障がある︶の5段 ア化した。ADA︵160㎎ / ㎎ / ㎎ ︶を 癒、瘢痕︶∼3︵不変、悪化︶の4段階でスコ 治療効果を評価する新たな評価基準を構築し BDの主症状の一つである難治性網膜ブドウ た。消化器症状の強度は、0︵症状なし︶∼4 膜炎に対して有効性が確認された。免疫調節薬 IFX 説したいと思う。 対象患者は、腸管型BD︵完全型、不全型、 本稿では、腸管型BDに対する抗TNFα 抗 疑い︶であり、既存治療︵ステロイド、免疫調 体薬の有効性、生物学的製剤の役割について概 て承認された。 5) ることが明らかにされた。 腸管病変に対するIFXの効果は、まだ症例 報告レベルしかない。今後の検討が待たれる。 ADA 既存治療抵抗性の日本人腸管型BD患者に対 40 隔週投与した。効果不十分の場合は ㎎ に増量 80 の強度および内視鏡所見がともにスコア1以下 が瘢痕化した場合を完全寛解とし、消化器症状 可能とした。消化器症状が消失し、回盲部潰瘍 80 78 CLINICIAN Ê15 NO. 636 (218) 3) になった場合を著明改善と定義した。 認められていた︵図①︶ 。 週での消化器症状 とんど支障なしは %、内視鏡所見の改善度も の総合評価は、症状なしは %、日常生活にほ 45 24 治癒は %、1/4以下に縮小は %であった 高い消失率を示し、 週時まで持続した︵8週 ︵図②︶ 。消化器症状以外のBD症状も早期から 60 主要評価項目は、 週時の著明改善率︵=完 全寛解+著明改善に達した被験者の割合︶とし た。 2. 結果 例︵ ・0%︶ 、2∼3㎝ 5例︵ ・0%︶ 、3 ㎝ 以上が7例︵ ・0%︶であった。典型的な 時 口腔内アフタ ・7%、皮膚症状100%、 外陰部潰瘍 ・7%、 週時 口腔内アフタ ・7%、皮膚症状 ・0%、外陰部潰瘍 ・7 %︶ 。 は、約 %であった。 24 週 時 の 著 明 改 善 率 は ・0 % 45 消失した完全寛解率は ・0%︵4/ 例︶で 20 善率 ・0%、完全寛解率 ・0%と早期から 15 12 今回構築した評価基準は、消化器症状と内視 3. 結論 り、新たな安全性上の問題は認められなかった。 反応、ベーチェット症候群︵各2例︶などであ 投与中に発現した有害事象は、鼻咽頭炎が最 2㎝ 以上の大きな回盲部潰瘍は、 例と半数以 も多く︵7例︶ 、挫傷、頭痛、咳嗽、注射部位 70 25 12 あった。これらの効果は、 週時までに著明改 20 66 日本人腸管型BD患者 例にADAが投与さ れ、2例が有害事象で中止し、 例が 週間の 投与を完了した。 週時までに5例が ㎎ に増 量した。被験者の平均年齢は ・4歳、完全型 45 週時の消化器症状の改善︵スコア1以下︶ の最も大きな開放性潰瘍の長径は、1∼2㎝ 8 と内視鏡所見の改善︵スコア1以下︶の一致率 66 80 24 1例、不全型 例、疑い9例であった。回盲部 24 20 65 24 66 75 18 42 66 24 24 ︵9/ 例︶ 、消化器症状、回盲部潰瘍がともに 上を占めた。 24 (219) CLINICIAN Ê15 NO. 636 79 10 35 40 20 40 15.0 20.0 20 Week 24 Week 8-12 40 著明改善 完全寛解 9/20 8/20 4/20 3/20 0 鏡所見の改善度の一致率が高く、腸管型BDに おいて妥当な方法であることが示された。AD Aは、既存治療に抵抗する腸管型BDに対して 有効で安全な治療法である。 おわりに BDの病態は、これまで全く不明であったが、 ADAの高い有効性から潰瘍性大腸炎やクロー ン病に比べTNFα に依存的なものと考えられ る。また、ADA投与により、ステロイド中止 が可能な症例も現れた。 世界に先駆けて、腸管型BDに対してADA の速効性、高い有効性が示された。また安全性 についてもこれまでにADAに関して報告され たもの以外に新たな問題は示されなかったこと は非常に意義深く、ADAは腸管型BD治療戦 略において中心的な役割を果たすと考えられる。 ADAは、腸管型BDで苦しんでいる世界中の 患者に広く使用されることにより、大きな貢献 80 CLINICIAN Ê15 NO. 636 (220) 40.0 患者割合 (%) ①8∼12週および 24週での完全寛解率/著明改善率(FAS/NRI) 60 45.0 解析対象/ FAS:Full Analysis Set 解析方法/ NRI:Non-Responder Imputation(中止例を含め何らかの理由で評価が得られなか (文献5より引用・改変) った症例はノンレスポンダーとして補完する手法) 80 40 20 20 内視鏡所見改善度 消化器症状の総合評価 ができる薬剤であると信じてやまない。 ︵名古屋市立大学大学院医学研究科 消化器・代謝内科学 講師︶ 文献 Tugal-Tutkun I : Behçet’s Uveitis. Middle East Afr J Ophthalmol, 16, 219-224 (2009) Hassard PV, et al : Anti-tumor necrosis factor monoclonal antibody therapy for gastrointestinal Behçet’s disease : a case report. Gastroenterology, 120, 995-999 (2001) Kinoshita H, et al : Efficacy of infliximab in patients with intestinal Behçet’s disease refractory to conventional medication. Intern Med, 52, 1855-1862 (2013) 久松理一ら、腸管ベーチェット・単純性潰瘍コンセ ンサス・ステートメント改訂ワーキンググループ 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業 ﹁原因不明小腸潰瘍症の実態把握、疾患概念、疫学、 1) 治療体系の確立に関する研究﹂分担研究報告書、腸 管ベーチェット病診療コンセンサス・ステートメン ト案︵2012︶ Tanida S, et al : Adalimumab is Effective Treatment for (221) CLINICIAN Ê15 NO. 636 81 45.0 45.0 2) 3) 4) 5) 40 12/20 15/20 9/20 13/20 16/20 9/20 0 0 100 100 75.0 80.0 80 治癒または瘢痕 1/4以下に縮小 1/2以下に縮小 症状なし 日常生活にほとんど支障なし 1段階以上の改善 60.0 60 60 患者割合 (%) ②24週での消化器症状の総合評価および内視鏡所見の改善 (FAS/NRI) 65.0 解析対象/ FAS:Full Analysis Set 解析方法/ NRI:Non-Responder Imputation(中止例を含め何らかの理由で評価が得られなか (文献5より引用・改変) った症例はノンレスポンダーとして補完する手法) Patients With Intestinal Behçet’s Disease. Clin Gastroenterol Hepatol, 2014 sep19. pii:S1542-3565 (14)01351-2 82 CLINICIAN Ê15 NO. 636 (222)
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