GCI Global View

GCI Global View
2012 年 3 月 12 日
【目次】
● 新年度のヘッジファンド投資に際しての留意事項(再掲載)
P.2
● Global Markets
1.オーバービュー
P.7
【連絡先】
株式会社 GCI アセット・マネジメント
金融商品取引業者
○住所:〒101‐0065 東京都千代田区西神田 3‐8‐1
○電話番号:
03‐3556‐5540(代表)
関東財務局長(金商) 第 436 号
日本証券投資顧問業協会
加入
○電子メール:[email protected]
当資料は、株式会社 GCI アセット・マネジメントが情報提供を目的として作成したもので、投資家に対する投資勧誘を目的とするものでは
ありません。当資料は、当社が信頼できると判断した情報データに基づき作成しておりますが、その内容の完全性、正確性について、当社
1
が保証するものではありません。当資料における見解は作成時点のものであり、今後予告なく変更される場合があります。
巻頭レポート
前回担当分(2012年2月6日号)を執筆した際に従来から続けている「イベントに
対峙する運用者・投資家」というテーマのサブ・テーマとして温故備新(おんこびしん:
古きを尋ね新しきに備える)を採りあげたい旨お話ししました。ちょうど次号の執筆テー
マを考えていたところある企業年金基金の方から今から2年ほど前2010年1月18日
号に筆者が執筆した「ヘッジファンド投資におけるオペレーショナル・リスクについて」
記事へのご照会があり、自分で読み返して見るとAIJ事件に関連した実務上の注意事項
の確認の意味で時期に適ったものであることから、再度掲載させていただくことといたし
ました。業務に真摯に取り組まれている常務理事様からのご照会で、筆者自身まさに「温
故備新」の重要性を実感いたしました。少しでも皆様のご参考になれば何よりです。また、
当時の記事の最後に「具体的に投資家という立場で何ができるのか、どこまでやるべきな
のかこのあたりをまた機会を見て検討していきたいと思います。」と書いておきながらまだ
そのお約束を果たせていないことにも思い当りました。次回筆者の担当時にこのテーマで
AIJ事件の教訓も踏まえお話をさせていただきたいと思います。グローバル・ビュー記
事や採りあげたテーマに関するご質問、ご照会等ございましたらいつでもご遠慮なく小職
までご連絡ください。
(インベストメント・グループ永井、電話:03-3556-5569、e-mail: [email protected])
新年度のヘッジファンド投資に際しての留意事項
―
ヘッジファンド投資におけるオペレーショナル・リスクについて
―
はじめに
先週号では「アルファの源泉」について、アルファ創設能力の見極めに関する分析をお届
けいたしました。投資候補マネジャーの選定においては「継続的にアルファを創出するこ
とができる能力を有しているか」の見極めがまさに最大のポイントとなります。一方で、
ヘッジファンド投資におけるオペレーショナル・リスクの問題がここ数年特にクローズア
ップされてきています。今号ではどのようなオペレーショナル・リスクに機関投資家が関
わることになるのか、そのオペレーショナル・リスク防止のためどのような手当が必要と
なるのか概要につきご説明いたします。
オペレーショナル・リスクの類型
ヘッジファンドへの投資を行う場合、私達のようなファンド・オブ・ヘッジファンズの運
用者や活発にヘッジファンドに投資を行っている欧米の機関投資家などはヘッジファンド
の運用者(運用会社とファンド・マネジャー)
、並びにファンドの関係者を直接訪問し、い
くつかの項目について調査、検討いたします。その項目とは下記のようなものです。
2
1.運用者(運用会社とファンド・マネジャー)に関するもの
(1)運用会社に関するもの
・ 一般的な会社情報(会社設立年月日、業務内容、資本金、株主、取締役、沿革等)
・ 業務に必要な免許・登録等(免許・登録の有無、協会等団体への加入、処分歴の有無
等)
・ 業務体制(コンプライアンス・オフィサーの経験、インサイダー取引防止措置等)
・ 他の会社との関係(親会社、子会社、兄弟会社等資本関係、業務上の関係が深い先等)
・ 経営者に関するもの(学歴、経歴、運用へのコミットメント、運用業務以外の業務へ
の関与の有無等)
(2)ファンド・マネジャーに関するもの
・ 一般情報(学歴、職務経歴、犯罪歴等)
・ 運用関連情報(運用業務経験、専門性、資格、運用実績)
・ 業界内における位置(出身、縁故、親しい友人等)
・ インキュベーション投資等特殊な経済関係を有する投資家の有無
・ 運用業務への専念(他に兼務する職務や、関与する事業の有無)
・ 優秀なファンド・マネジャーのモチベーション確保とコミットメント(収益配分スキ
ーム、ファンドへの自己資金投資等)
2.ファンド・ストラクチャーに関するもの
(1) ドキュメンテーション(法律面)に関するもの
・契約書面における瑕疵(書面間の矛盾、法令からの逸脱等)の有無
・ 投資家保護の担保(不当あるいは過度な恣意性が運用者等に付与されることの防止等)
(2)サービス・プロバイダーに関するもの
・各サービス・プロバイダーの内容チェック(業界における地位、規模、専門性等)
・運用会社、ファンド・マネジャー等との経済的利益関係、利益相反の有無
(3)会計・税務面に関するもの
・ファンド会計書類のチェック(NAV算出プロセス、ファンド経費の妥当性等)
・ファンド置籍地と投資家所在のチェック(低減税率地であるか、租税条約の有無等)
・投資対象商品から生ずる問題の有無等(キャピタル・ゲイン課税の態様等)
マネジャーに対する運用調査や継続したモニタリングの結果、有力な投資候補となるよう
な場合に上記のような項目を対象に、オペレーショナル・リスク調査(オペレーショナル・
デューディリジェンス)を実施するのが一般的です。
3
オペレーショナル・デューディリジェンスの目的と実際
言うまでも無くオペレーショナル・デューディリジェンス(以下「オペレーショナルDD」)
を行う目的は、自分が行う(顧客のために行うものも含めて)投資が運用環境の変化等運
用面の理由によるものではない理由で損失を被ることを防止するためです。オペレーショ
ナル・リスクの顕在化(問題の発生)は、ヘッドライン・リスクにもつながります。
したがって投資候補先を選定する手続の中ではもちろん、投資後も継続してオペレーショ
ナル・リスクに関する調査は行っていかなければなりません。
しかし、ヘッジファンド運用におけるオペレーショナル・リスクといわれるものは、一般
的な銀行や保険会社等金融機関において運用やトレーディング以外のリスクを指すリスク
としてあげられるもの(決済リスク、事務リスク等)に比べると、人的要因(ヒューマン・
ファクター)に関わるものの重要性が高く形式的な調査では見えにくいのが特徴です。こ
れは本来ヘッジファンド運用におけるファンド・マネジャーや運用会社が果たすべき役割
は、金融機関における(自己勘定)運用におけるフロントの機能であり、元来一定の枠組
みで定められた運用に関する指図以外はできない仕組(ファンドのストラクチャー)とな
っている(はず)だからです。具体的には資金決済や現金・有価証券の保管はアドミニス
トレーターとカストディアンが行い、その運営の適合性は会計士(多くの場合は監査法人)
により詳細にチェックされることとなっています。本来働くべきチェック機能が働かない
場合とは、ファンドのストラクチャーに何らかの問題があったり、ファンド運営に関わる
運用者(ファンド・マネジャー、往々にして運用会社の経営者でもある)やサービス・プ
ロバイダーがともに関わりあって持つ事情が問題の芽となっていたりするケースです。
(1) ファンド・ストラクチャーの問題
ヘッジファンドの法律書類を読むと、運用に関してだけではなくファンドの運営に関して
も原則論と例外規定のような形で、運用者あるいはファンドの運営責任者(会社型の場合
取締役会、投資信託型の場合トラスティー)に裁量的な取り扱いが認められていることが
見受けられます。しかし投資家の利益に反する事項についてまで投資家の合意を得ること
なく変更が可能としているような場合、投資家は解約が停止され、サイドポケット投資が
作られてからびっくりするようなことになります。ドキュメント精査においても「性悪説」
が求められます。
(2) 運用者が固有に持つ事情
・学歴・職務経歴の詐称
日本では身近なことではありませんが、欧米の会社の場合入社前に通常刑事犯罪歴がない
か、申告された学歴や職務経歴が真実のものかチェックがかけられます。
驚くべきことはこのチェックにひっかかる事例がけっこうな頻度であるということです。
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筆者の米国勤務時代にも何度かそういう経験をし、刑事犯罪のデータベースや学歴・職務
経歴の詐称確認の専門コンサルタントの存在にも驚かされましたがヘッジファンド運用者
の調査でも同様なアプローチは当然なことと考えられます。逆に言えば、学歴や職務経歴
も運用判断に影響を与えているということです。
・他の事業や慈善活動への関心
欧米人マネジャーの場合、運用に成功するとより幅広く事業家としての成功を目指し、地
位ある者の社会的責務として積極的に慈善活動や地域貢献活動に時間を割く傾向がありま
す。しかし、このような場合アルファを創設する優秀なマネジャーも運用に割くことの時
間が減り、自らが直接投資判断を下すことが必然的に少なくなります。場合によっては他
の事業で生じる損失により運用会社が影響を受けることもあります。こうしたケースも潜
在的に投資家が損失を被る可能性のあるリスクです。
(3)運用者とサービス・プロバイダーがともに関わりあって持つ事情
マドフ事件では、ファンド運用の中枢部分はマドフ氏の親族のみが関わり他の従業員は誰
もその部署のオフィス(1つのフロアー)には立ち入ることが認められていませんでした。
また監査を行っていたのは無名の個人会計士であり、監査レポートは見開き1ページの厚
紙のみという通常考えられないものでした。マドフ氏のファンドに多額の資金を投資して
いた機関投資家やファンドもこの会計士からの報告のみを受け入れたこと、投資有価証券
は外部のカストディ口座ではなくマドフ氏関連の証券会社の保護預りとなっていたことも
巨大な不正を可能とした要因でした。
いくら上述の仕組やルールがあっても本来独立しているはずの運用関係者が利害関係者と
なってしまっては、問題事例を食い止めることはできません。マドフ事件のような極端な
ものではなくとも例外的な取扱いが運用者からの指図で行うことが認められている、サー
ビス・プロバイダーの任免の権限を運用者が持っているような場合があり実際には運用者
に対する牽制が効かなくなることがあるからです。金融当局からの監督強化の動きが出る
のもこのためです。
ストラクチャーの円滑な運用を考えても不必要なほど運用者に恣意性を与えるような場合
はもちろん危険信号ですが、そうしたものがなくとも運用者とサービス・プロバイダーと
の間に業務上の利害関係、利益相反の余地があったりする場合詳しく調べると同じ郷里の
出身、大学や高校の先輩・後輩関係等微妙な情報が出てくるケースも実際多々あります。
最後に
オペレーショナル・リスクによる損失の発生は、ヘッドラインという形も伴って運用面の
不満足な結果とは次元の異なるダメージを投資家の皆様にもたらします。オペレーショナ
ル・リスク回避の基本は、ファンドの経理書類を含むドキュメントの精査とすべての運用
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関係者に対するデューディリジェンスの実施という地道で手間のかかる作業以外にはあり
ません。
しかしそのような専門的な調査を機関投資家それぞれに行うことは現実的とはいえません。
そのことが近年のシングル・ヘッジファンド投資からファンド・オブ・ヘッジファンズ投
資への移行の一因ともなりました。しかし、ファンド・オブ・ヘッジファンズ投資にした
からといって個別投資先のオペレーショナル・リスクによる損失から逃避できるわけでは
ありません。
投資先ファンド・オブ・ヘッジファンズ運用者が的確なオペレーショナル・リスク管理の
枠組を有しており、貴重な資金を委ねることができるかという判断を投資家自身で下さな
ければならないからです。では具体的に投資家という立場で何ができるのか、どこまでや
るべきなのかこのあたりをまた機会を見て検討していきたいと思います。
(インベストメント・グループ
永井)
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Global Markets (3 月 5 日~3 月 9 日)
1.
オーバービュー
世界の株式市場は、ギリシャ債務交換の動向を睨みつつ、中国経済成長率の目標引き下げやユーロ圏経
済成長鈍化を嫌気した売りと、米国雇用統計の改善を好感した買いがせめぎあう展開に。日本では、円安
も追い風となり約 7 ヶ月ぶりに一時日経は 1 万円台を回復。
【各国株価インデックスの 2008 年末からの変化率の推移】
2.20
2.00
ブラジルBOVESPA
指数
インドNIFTY指数
1.80
香港ハンセン指数
1.60
シンガポールST指
数
ドイツDAX指数
1.40
1.20
米SP500指数
1.00
英FT100指数
0.80
東証株価指数
0.60
ユーロ・ドル相場は、ギリシャ債務交換の動向や米国経済指標の結果に振らされ方向感に欠ける展開。
日本円は経常収支赤字が月次で過去最大規模となったこともあり、円安基調を維持。
【各国通貨の 2008 年末からの対ドルでの変化率の推移】
1.60
1.50
ブラジルレアル
カナダドル
1.40
豪ドル
1.30
日本円
スイスフラン
1.20
ユーロ
1.10
英ポンド
シンガポールドル
1.00
韓国ウォン
0.90
南アフリカランド
ドルインデックス
0.80
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日米独の国債市場の関心は、ギリシャ債スワップの民間債権者の合意取り付けに向けられるなか、ユー
ロ圏経済成長鈍化や米国経済指標の改善など材料入り混じり引き続き極めて狭い範囲のレンジでの推移に。
イタリア 10 年国債利回りは 5%を下回る水準で推移。
各国10年国債の利回り推移
8.0
7.0
英10年国債
独10年国債
米10年国債
日10年国債
伊10年国債
6.0
利回り(%)
5.0
4.0
3.0
2.0
1.0
0.0
スワップスプレッドはもみあい。
2年物スワップスプレッドの推移
180
160
USD
2年物スワップスプレッド (bp)
JPY
140
EUR (Germany)
120
100
80
60
40
20
0
8
CDS スプレッドは先進国が小緩む中、欧州周辺国は小幅拡大。
主要先進国ソブリン5年物CDSスプレッド推移
CDS スプレッド(bp)
200
180
Japan
160
United Kingdom
United States
140
Germany
120
100
80
60
40
20
0
ポルトガル、アイルランド、スペイン、イタリア5年物CDSスプレッド推移
1,800
1,600
CDS スプレッド(bp)
1,400
1,200
Portugal
Ireland
Spain
Italy
1,000
800
600
400
200
0
9
原油はイランの核開発阻止に向けた協議や、ギリシャ債務交換の動向を眺めつつもみ合う展開に。
商品市況の推移(2006年末からのドルベースでの騰落率)
3.00
2.75
2.50
2.25
原油(WTI)
金
CRB
騰落率
2.00
1.75
1.50
1.25
1.00
0.75
0.50
ブレークイーブンレートはもみあい。
各国ブレークイーブンレートの推移
ブレークイーブンレート(%)
4.0
3.0
2.0
1.0
0.0
英国債2017年満期
米国10年債
フランス国債2015年満期
-1.0
(末永)
10