この論文は、「Arterial Stiffness」WEBサイトに掲載されています。その他の論文はこちら Click "Arterial Stiffness" web site for more articles. 11 炎 症 性 マ ー カ ー 英文原著論文紹介 Relationship between markers of inflammation and brachial-ankle pulse wave velocity in Japanese men. Andoh N, Minami J, Ishimitsu T, Ohrui M, Matsuoka H. Int Heart J. 2006; 47: 409-20. 日本人男性における炎症性指標と上腕−足首間脈波伝播速度の関係 南 順一(獨協医科大学循環器内科講師) 安藤登一/石光俊彦/大類方巳/松岡博昭 背景および目的 0.0001)、 血 清hs-CRP値(r= 0.23、p= 0.0002) の 日本人の生活習慣の欧米化に伴い、冠動脈疾患や閉塞 。 間に有意な相関関係が認められた(表1) 性動脈硬化症などの動脈硬化性疾患が急増している。近 ESRの3 分 位 群 上 位 のbaPWVは3 分 位 群 下 位 の 年動脈硬化の診断において、動脈コンプライアンスの指 baPWVより有意に高値であった(p= 0.005)。また、 標である脈波伝播速度(pulse wave velocity;PWV) hs-CRP 3 分位群上位のbaPWVは3 分位下位および中位 測定が有用であることは確立されつつある。最近、簡便 のbaPWVより有意に高値であった(p= 0.002およびp に上腕−足首間PWV(baPWV)を測定できる機器が開 = 0.02)(図1) 。 発され、日常診療に用いられている。 重回帰分析において、baPWVとhs-CRPの有意な正 他方近年、動脈硬化は血管内皮の炎症を背景として進 の相関関係は年齢、血圧などの交絡因子と独立して認め 行する可能性が指摘されており、その炎症の指標として られたが、baPWVとESRの相関関係はこれらの交絡因 血中の高感度C反応性蛋白(hs-CRP)が有用であると 。 子と独立したものでなかった(表2) の報告が相次いでなされている。 本研究では、日本人男性を対象に、hs-CRPなどの炎 考察 症性指標とbaPWVとの関係について検討した。 これまでにも、baPWVとhs-CRPとの関係について 検討する研究がいくつか行われているが、小規模での検 対象・方法 討であったり、あるいは降圧薬や血糖降下薬、抗高脂血 以下のすべての条件を満たした269 例を対象とした。 症薬などを服用中の患者も含めて検討しているなどの問 すなわち、①男性、② 2003 年 12 月 1 日∼ 2004 年 9 月 題点があった。 10 日までに当院短期人間ドック(1 泊 2 日)を受診、③ 本研究では、降圧薬や血糖降下薬、抗高脂血症薬など 研究の趣旨を説明し文書にて同意を取得、④降圧薬や血 を服用中のものを除外したうえで、比較的多数例(n= 糖降下薬、抗高脂血症薬いずれも非服用とした。 269)の男性を対象に検討を行った。また、炎症性指標 これらの対象に対して、当院短期人間ドックにおける として、hs-CRPに加えてESRについても検討を行った。 通常の検査項目に加えて、baPWV値測定(日本コーリ 欧米で行われた疫学研究では、ESRが動脈硬化性疾 、および血清hs-CRP値 ン社製form PWV/ABIを使用) 患の予後指標となるとの報告がなされているが、これま 測定(ELISA法による)を行った。 でにPWVとESRの関連性について検討した研究はまっ たく行われておらず、本研究が初めてである。 70 結果 本研究において、baPWVとhs-CRPの有意な正の相 単回帰分析において、baPWVと年齢(r= 0.41、p 関関係は年齢、血圧などの交絡因子と独立して認められ < 0.0001) 、身長(r=− 0.21、p= 0.0006) 、体重(r たが、baPWVとESRの相関関係はこれらの交絡因子と =−0.17、 p=0.007)、収縮期血圧(r=0.65、p<0.0001)、 独立して認められるものではなかった。ESRは古典的 、脈圧(r= 0.56、 拡張期血圧(r= 0.60、p< 0.0001) な炎症性指標であるが、hs-CRPに比べて動脈硬化の指 p< 0.0001)、心拍数(r= 0.25、p< 0.0001)、赤血球 標としては感度が劣る可能性が考えられた。 (r 沈降速度(erythrocyte sedimentation rate;ESR) hs-CRPの上昇がなぜbaPWVの高値、すなわち動脈 = 0.20、p= 0.001) 、 空 腹 時 血 糖 値(r= 0.23、p= コンプライアンスの低下につながるのかの具体的機序は この論文は、「Arterial Stiffness」WEBサイトに掲載されています。その他の論文はこちら Click "Arterial Stiffness" web site for more articles. 表1 baPWVとその他の臨床因子の間の単回帰分析(n=264) 年齢 0.41 身長 − 0.21 − 0.17 − 0.08 収縮期血圧 0.65 拡張期血圧 0.60 平均血圧 0.66 脈圧 0.56 心拍数 0.25 白血球数 − 0.01 ヘモグロビン − 0.06 In ESR 0.20 尿酸 0.11 血清クレアチニン 0.08 総コレステロール 0.03 LDL- コレステロール HDL- コレステロール In 中性脂肪 − 0.04 空腹時血糖 0.23 0.07 0.08 In 血清 hs-CRP 0.23 喫煙 0.04 飲酒 − 0.06 従属変数として、 Model 1ではESRを、 Model 2ではhs-CRPを用いている。 Model 1(ESR) r p 重回帰相関 R P 独立変数 年齢 0.20 身長 0.01 体重 −0.16 平均血圧 0.41 脈圧 0.22 心拍数 0.16 空腹時血糖 0.05 In ESR 0.05 In血清hs-CRP − Model 2(hs-CRP) r p 0.75 0.75 <0.0001 <0.0001 0.0001 0.89 0.003 <0.0001 0.0004 0.0003 0.28 0.24 − 0.20 0.02 −0.19 0.40 0.23 0.14 0.05 − 0.10 <0.0001 0.78 0.0007 <0.0001 0.0002 0.001 0.29 − 0.03 11 炎症性マーカー 体重 BMI 子における重回帰分析(n=264) p < 0.0001 0.0006 0.007 0.20 < 0.0001 < 0.0001 < 0.0001 < 0.0001 < 0.0001 0.88 0.32 0.001 0.07 0.21 0.61 0.50 0.28 0.18 0.0001 0.0002 0.53 0.31 相関係数 英文原著論文紹介 臨床因子 表2 baPWVと、ESR、hs-CRPを含むその他の臨床因 図1 ESR 3分位におけるbaPWVの平均値(左) 、hs-CRP3分位におけるbaPWVの平均値(右) ESR 3分位の範囲は、1∼3mm/h(n=84) 、4∼6mm/h(n=93) 、7∼47mm/h(n=92)であった。 hs-CRP 3分位の範囲は、0.050∼0.316mg/L(n=90) 、0.325∼0.697mg/L(n=89) 、0.702∼9.640mg/L(n=90)であった。 *:p=0.005 vs ESRの3分位群下位、**:p=0.002 vs 血清hs-CRP 3分位群下位、***:p=0.02 vs 血清hs-CRP 3分位群中位。 2,000 2,000 1,800 1,600 1,400 1,200 1,000 800 600 **,*** 1,600 baPWV(cm/s) baPWV(cm/s) 1,800 * 1,400 1,200 1,000 800 600 400 400 200 200 0 0 下位 中位 上位 下位 ESR 3分位 中位 上位 血清hs-CRP 3分位 明らかでない。血管内皮における炎症それ自体が血管内 れる。さらに、アンジオテンシン変換酵素阻害薬やアン 皮機能を障害して動脈コンプライアンスを低下させる可 ジオテンシン受容体拮抗薬といったレニン・アンジオテ 能性が指摘されているが、逆に動脈コンプライアンスの ンシン系抑制薬、あるいはスタチンなどの薬剤の抗炎症 低下が血管内皮における酸化ストレスを亢進させ、その 作用が示唆されているが、これらの薬剤の投与により炎 結果として炎症がもたらされる可能性も否定できない。 症性指標やPWVがどのように変化するかについても十 最終的な結論を得るためには、基礎・臨床両面からのさ 分な検討を行っていく必要があると考えられる。 らなる検討が必要である。 本研究は、男性のみを対象とした検討であるので、今 結論 後女性も対象に加えた検討も行う必要があるものと思わ 日本人男性において、 baPWVとhs-CRP値の間に年齢、 れる。また、 本研究の対象者は人間ドック受診者であり、 血圧などの交絡因子と独立して有意な正の相関関係が認 比較的動脈硬化性リスクの低いものが多かったが、すで められた。このことから、動脈コンプライアンスの減少 に動脈硬化性疾患を複数有するハイリスクの患者でも同 に炎症が関与していることが示唆された。 様の結果が得られるか検証する必要があるものと考えら 71
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