「目指す看護=看護観」 が伝わる目標管理と カンファレンスを伝えていく

《特集》今こそしっかり伝えよう!
師長の「思い・考え」
「ビジョン」
久保千夏
スタッフの声を反映! 成果を実感!
「目指す看護=看護観」
が伝わる目標管理と
カンファレンスを伝えていく
旭川医科大学病院
看護師長
1996年北海道立旭川高等看護学院看護婦科卒業。
1997年同学院保健婦科卒業。同年旭川医科大学病
院9階東ナースステーション(胸部・血管・呼吸器外
科,歯科口腔外科)入職。2000年8階東ナースステー
ション(循環・呼吸・神経内科)を経て,2005年8階
西ナースステーション(整形外科)副看護師長に昇
任。2010年看護師長に昇任。2013年より9階西ナー
スステーション(循環・呼吸器内科)看護師長。
◉スタッフ一人ひとりが力を発揮できるように支えることが看護の質向上につながる
◉スタッフが生き生き働けるよう,意見を目標に反映する
◉カンファレンスは看護師長の看護観を伝える絶好の機会
スタッフが力を発揮できるように
導くのが看護師長の役割
者や家族の話をして,直接ケアを行えること
安全・安心・安楽な看護の提供と患者満足
できるのか悩んだが,今はスタッフ一人ひと
のためには,質の高い看護の提供が必要だ
りが看護の力を十分発揮できるようにサポー
が,そのためには看護師のやりがいが基盤と
トすることが患者満足につながり,看護の質
なり,スタッフが同じ方向を向いて看護ケア
を高めることにもつながると考えている。
を行っていくことが大切である。そして,同
スタッフが笑顔で看護することができ,さ
じ方向を向いて看護ケアを行うためにスタッ
らには患者・家族からの言葉や看護目標の達
フを導いていくのが看護師長の重要な役割で
成から看護を実感し,喜びを感じることでや
ある。
りがいを感じ,看護を語る,そんな看護師の
筆者が看護師長になって5年が経った。副
姿がある病棟をつくりたいと思っている。
看護師長の時には,看護実践モデルとして
そのために看護師長としていつも心がけて
日々看護できることが楽しく,スタッフと患
いることは,次の5点である。
が誇りだった。その後,看護師長となり何が
①いつも笑顔で目を見てはきはきとあいさつ
旭川医科大学病院の概要(2015年3月現在)
病床数:602床 診療科:19科
看護配置:7対1入院基本料
平均在院日数:12.7日 平均稼働率:92.8%(一般病棟)
旭川医科大学病院9階西ナースステーションの概要
(2015年3月現在)
診療科:循環器内科,呼吸器内科,腎臓内科
病床数:44床
平均在院日数:13.9日 平均稼働率:86.9%
看護職員数:29人(日勤看護師数:平均12∼14人,
夜勤看護師数:4人)
看護体制:チームナーシング,プライマリーナーシング
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看護師長の実践! ナースマネジャー Vol.17 No.4
をすること。
②出勤した時のスタッフの表情や行動に目を
向け,声をかけること。
③相手の言葉に耳を傾けること。
④看護実践場面を見ること,スタッフの会話
を聴くこと,看護記録を読むこと。
⑤現場で気づいたことは,「私は○○と思い
ました」「私は△△と感じました」という
ようにアイメッセージで伝えること。
みんなが同じ方向を向いて
看護ケアを行うために
することがチームを活性化し,よい看護の提
◎看護の楽しさを実感できる環境に
◎スタッフの意見を目標に反映する
筆者は,
「医師は病気の専門家,看護師は
看護のやりがいと素晴らしさは,人が病気
患者の専門家」という看護観を大切にしてい
によって人生の岐路に立たされた時,看護師
る。看護管理者は,よりよい看護を提供する
のかかわりによって,その人や家族の人生に
ために,よい看護サービスを提供できる看護
大きな影響を与える可能性があるというとこ
職を育成する必要がある。
ろにある。かかわる看護師の責任は重大だが,
筆者が現在の病棟に異動してきた時,1人
患者・家族と共に目標を達成した時の満足感
の中堅看護師がいつも精いっぱい看護してい
は,何にも代えられないものがある。そのこ
るのに表情に明るさがなく,ネガティブな発
とを一人でも多くの看護師に実感してほしい
言が多いことが気になり面談をした。すると
と考え,スタッフ一人ひとりがどんな看護が
この中堅看護師は,「私には人に誇れるよう
したいと考えているのか聴取し,副看護師長
な看護の経験がありません。患者さんや家族
と共有しこの年の病棟目標に反映させた。
のために自分が満足できるほど,一生懸命に
スタッフの考えは,「患者や家族の生きが
看護した経験がないので楽しくないのだと思
いを大切にしたい」「最期にしたいこと,希
います」と話した。内科での看護経験があっ
望を叶えたい」「これからの人生を楽しく生
た筆者は,
「看護師は患者の専門家」と考え
きていけるように支援したい」など素晴らし
ており,この専門性を発揮するにはとてもや
いものばかりだった。慢性疾患を抱えながら
りがいのある看護の現場であるのに,なぜそ
生きていく多くの患者・家族をケアしていく
のような発言が出てしまうのかと驚いたと共
上で,看護師には患者・家族の意思決定を支
に残念に感じた。しかし,話をよく聞くと,
援し,自己管理能力を向上させ,高いQOLを
業務をこなすことで精いっぱいで患者や家族
目指すという重要な役割がある。これらのよ
の目標にまで目が行き届かないという業務上
うなスタッフの示してくれた目指す看護と,
の問題があることや,自分が何をしたいのか
看護師長として目指したい看護が一致してい
分からなくなっており目標を見失っているこ
ることを伝えた。そして,副看護師長と共に,
とが分かった。
看護のやりがいを実感して行えるようにする
この件から,日々の業務の中で目の前にあ
ためにはどのような目標が必要か検討し,ス
る問題を一つずつ解決するのに必死で,自分
タッフに承認を得た。その結果,「ベッドサ
が行った看護を評価し意味付けする時間がつ
イドケアを充実させ,タイムリーな退院支援
くれず,ただ業務をこなしているという病棟
を行う」「日々実践する看護ケアと看護目標
の現状が分かった。「特に中堅看護師が看護
達成状況,患者・家族の反応が分かる看護記
の楽しさ,素晴らしさを実感できなくては後
録をする」という2つの目標が挙がった。
輩たちも看護の素晴らしさを実感できない
◎目標達成に向けた業務改善
し,やりがいを感じることはできない」と
病棟目標達成のための組織編成は,全員参
思った。そこで,中堅看護師が生き生き看護
加で,より達成感が得られるようにスタッフ
供につながると考え,対策に取り組んだ。
看護師長の実践! ナースマネジャー Vol.17 No.4
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の希望を優先し,ラダーレベルⅠ~Ⅳのメン
に,医師との指示受けや薬剤の確認などもし
バーに偏りがないように編成した。チームは
なければならないことから,看護ケアの方針
総務,業務,教育担当に分類し,看護部と部
を十分に検討しスタッフに指示できていない
署目標の達成に向けて系統立てて実践するこ
状況に陥り,退院支援が遅れ,あわてて準備
とが可能になるように配置した。
を行わなくてはならない状況があった。この
そして,看護師長は自分の言葉でビジョン
ため,看護ケアの主軸となるリーダーは2人
を語った。スタッフ一人ひとりのレベルに合
とし,名称も業務リーダーからケアリーダー
わせて,より詳細に説明することもあった。
に変更して,看護ケアのリーダーシップをと
また,副看護師長,チームリーダーとは目標
るという役割を意識付けた。その結果,ケア
と実践計画をより具体的に共有した。さら
リーダーが中心となって退院支援を行い,患
に,各チームメンバーが自分たちの力で目標
者・家族が安心して帰るべき場所に帰ること
達成できたと実感できるように,責任を明確
ができるように支援することが可能となった。
に,看護師長と副看護師長は,スタッフの力
初めは多職種とのカンファレンスをどのよ
で必ず目標達成できるように実践過程をサ
うに行ったらよいか分からず苦手意識があっ
ポートしよう,という意思統一をしてかか
たケアリーダーも,今では患者・家族を支援
わった。その結果,各チームはスタッフの意
するために必要なさまざまな職種に率先して
見を取り入れ,試行錯誤を繰り返しながら一
連絡し,地域連携看護師,MSW,緩和ケア
つひとつの業務を修正することができた。
チームや薬剤師などの多職種とのカンファレ
次に,目標ごとに実際に行った業務改善を
ンスが頻回に行われるようになった。スタッ
紹介する。
フが不十分であると感じていた退院支援は,
目標①ベッドサイドケアを充実させ,
タイムリーな退院支援を行う
スは患者・家族と目標設定し,看護計画を協
ベッドサイドケアを充実させ,早期から退
働立案する。そして,ケアリーダーは看護ケ
院支援を行うことが可能となるように,日勤
アの方向性を指示し,部屋担当リーダー・メ
部屋担当リーダー看護師が受け持つ患者数を
ンバーが看護計画を実践し,患者・家族が意
平均12人から2~8人に減らした。これに
思決定し,自己管理を可能にし,しっかりと
より,看護記録をしっかりと読めるようにな
準備をした上で帰るべき場所へ帰る」という
り,患者状態の把握が十分できるようになっ
一連の流れで看護が提供され,成果がはっき
ただけでなく,担当患者数が減ったため,患
りと見えることで自己の看護のやりがいを実
者1人当たりの直接ケア時間を増やすことが
感できるようになった。
できた。さらに,安全が確保できるようにメ
目標②日々実践する看護ケアと
ンバー看護師と2人で担当することとした。
また,業務リーダーは在院日数の短縮や稼
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「多職種で情報を共有し,プライマリーナー
看護目標達成状況,患者・家族の
反応が分かる看護記録をする
働率の上昇の中,44人の患者状態を1人で
看護記録は,バイタルサインや症状などの
把握しなければならず,情報の多さから把握
経過記録のまとめが多く,看護実践内容や患
が不十分になりジレンマを感じていた。さら
者・家族の反応が読み取りにくかった。生活
看護師長の実践! ナースマネジャー Vol.17 No.4
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