人工死産の要因と対策 ~人工妊娠中絶(人工死産)に関するアンケート調査から見えてきたもの ~ ○井上優美子 森木大輔 永野秀子 福島貴紀(健康増進課) 瀧口俊一(延岡保健所兼高千穂保健所) Ⅰ はじめに 本県では、人工死産率が高く、課題となっている。その現状について把握するため、 平 成 17 年 度 か ら 平 成 18 年 度 に か け て「 人 工 死 産 に 関 す る ア ン ケ ー ト 調 査 」を 実 施 し た 。 し か し 、 調 査 か ら 約 10 年 が 経 っ て お り 、 今 後 の 効 果 的 な 対 策 を 講 ず る こ と を 目 的 に 、 人工死産の背景調査、分析、検討を行い、女性の健康の保持及び望ましい妊娠・出産に 有効な施策の推進について検討したので報告する。 Ⅱ 方法 1対象:調査期間内に県内の調査協力機関(8 医療機関)において人工妊娠中絶を受け る( 受 け た )女 性 及 び 出 産 さ れ る( 出 産 し た )女 性 の う ち 、調 査 に 同 意 し た 者 。 2 調 査 実 施 期 間 : 平 成 26 年 9 月 ~ 平 成 27 年 3 月 3データ収集方法:自記式アンケートによる調査(聞き取りを含む) 4分析方法:アンケート調査の単純集計 5アンケート内容:人工死産調査検討委員会にて検討 6倫理的配慮:調査票は、個人が特定できないよう無記名とした。アンケートの主旨や 内容について産科医療機関のスタッフより事前に説明し、同意が得られた方のみ実施 した。 14.8% Ⅲ 結果 1 産婦 8.9% 24.9% 24.9% 18.1% 協力者の概要(表1、図1のとおり) 表 1 人工妊娠中絶 12週未満 12週以降 小計 妊産婦 2 人工妊娠 中絶 協力者の概要 人数 133 40 173 164 平均年齢 29.97 26.72 29.21 30.23 標準偏差 ±7.53 ±9.36 ±8.08 ±5.28 15.6% 0% 16.2% 20% 22.0% 16.2% 40% 60% 16.8% 20~24歳 25~29歳 35~39歳 40~44歳 45~49歳 図1 12.7% 80% 10代 8.0% 100% 30~34歳 協力者の年齢構成 アンケート結果 1) 人工妊娠中絶を受ける方と妊産婦の比較 ① 「妊娠について相談できる人の存在」につ いる 100.0% 産婦 い て 、 「 い る 」 と 回 答 し た 方 は 、 産 婦 100% 、 0% 人工妊娠中絶を受ける方(以下、「中絶群」) た ( p <0.001) 。 ( 図 2) と 回 答 し た 方 は 、 中 絶 群 5.2% 、 妊 産 婦 20.9% で あ り 有 意 な 差 が あ っ た ( p < 0.01) 。 ( 図 3) 50% 100% 図2 妊娠・出産について身近に相談できる人の割合 86.9% で あ り 、 妊 産 婦 と の 間 に 有 意 な 差 が あ っ ② 「公的な相談窓口」について、「知っている」 いない, 10.4% 89.6% 中絶群 産婦 中絶群 知ってい る 20.9% 5.2% 0% 知らない 79.1% 94.8% 50% 図3 公的な相談窓口を知っている人の割合 100% ③ 「低容量ピル(経口避妊薬)について知っている 3.7% か」について、「よく知っている」「ある程度知 9.8% 産婦 っ て い る 」 と 回 答 し た 方 は 、 中 絶 群 52.6% 、 妊 産 婦 9.8% 中絶群 64.6% で あ り 、 有 意 な 差 が あ っ た ( p < 0.05) 。 ( 図 4) 54.9% 42.8% 0% ④ 「パートナーの避妊への協力」については、「い 30.5% 9.8% 35.8% 50% 100% よく知っている ある程度知っている あまり知らない まったく知らない 図4 低容量ピルを知っている人の割合 つ も 協 力 す る 」 と 回 答 し た 方 は 中 絶 群 25.4% 、 妊 産 婦 49.3% で あ り 、 有 意 な 差 が あ っ た ( p <0.001) 。 2) 人工妊娠中絶における前期と中 期の比較 はい 67.5% 人工 死産 ① 人工妊娠中絶ができる妊娠週数が法律で定められて いることについて、「知らない」と答えた方は、妊 前期 中絶 娠 12 週 未 満 の 中 絶 ( 以 下 、 「 前 期 中 絶 群 」 ) 21.8% 、 いいえ 27.5% 87.2% 0% 妊 娠 12 週 以 降 の 中 絶 ( 以 下 、 「 人 工 死 産 群 」 ) 46.3% で あ 50% 9.0% 100% 図5 妊娠検査試薬で妊娠を確認した人の割合 り 、 有 意 な 差 が あ っ た ( p <0.01) 。 ② 「 妊 娠 検 査 薬 で 妊 娠 を 確 認 し た か 」に つ い て 、「 い い え 」と 回 答 し た 方 は 、前 期 中 絶 群 9.0% 、 人 工 死 産 群 27.5% で あ り 、 有 意 な 差 が あ っ た ( p <0.05) 。 ( 図 5) 平 成 17 年 度 調 査 と の 比 較 2 手 術 の 時 期 が 12 週 以 降 に な っ た 理 由 で 、 「仕事の都合で休暇を取ることが難しかった」 と 回 答 し た 方 が 、 平 成 17 年 度 で は 3.7% だ っ た が 、 今 回 の 調 査 に お け る 人 工 死 産 群 で は 、 22.5% で あ り 、 有 意 な 差 が あ っ た ( p <0.001) 。 Ⅳ 考察 今 回 の 調 査 に よ り 、中 絶 群 は 産 婦 群 に 比 べ 身 近 に 相 談 者 が い な い 者 が お り 、さ ら に 公 的 な 相 談 窓 口 や 低 容 量 ピ ル な ど 知 識 を 問 う 設 問 に は 知 ら な い と 答 え る 割 合 が 高 か っ た 。ま た 、 人 工 死 産 群 で は 、前 期 中 絶 群 に 比 べ て 妊 娠 に 気 づ い た 時 に 妊 娠 検 査 薬 で 確 認 し た 者 の 割 合 が低いことがわかった。 これらのことから、人工妊娠中絶を減らすためには、身近に相談できる者の存在と妊 娠・出産に関する正しい知識の普及啓発が必要と考えられる。 さ ら に 母 体 に 影 響 が 大 き い 人 工 死 産 に 至 ら な い た め に は 、思 い が け な い 妊 娠 に 気 づ い た 際 、少 し で も 早 い 時 期 に 相 談 で き る こ と が 重 要 で あ る た め 、女 性 専 門 相 談 セ ン タ ー「 ス マ イ ル 」に お け る 相 談 日 の 増 加 や 保 健 所 に お け る 妊 娠 検 査 薬 に よ る 自 己 検 査 を 無 料 で 行 え る ようにするなど相談体制の強化を図ったところであり、今後、周知が必要である。 ま た 、人 工 死 産 に 至 る 要 因 の ひ と つ と し て 、妊 娠 し た 際 に 仕 事 な ど で 休 暇 が 取 れ な い こ と に よ り 医 療 機 関 へ の 受 診 が 遅 く な る こ と が 挙 げ ら れ る 。女 性 の 社 会 進 出 が 進 む 現 代 に お いては、医療機関を受診しやすい職場環境づくりも重要だと考えられる。 参考文献 1 ) 宮 崎 県 、宮 崎 県 医 師 会 、宮 崎 県 母 子 保 健 運 営 協 議 会 、健 や か 妊 娠 推 進 専 門 部 会:人 工 死 産 に 関 す る ア ン ケ ー ト 結 果 報 告 書 、 平 成 19 年 3 月 2) 木村好秀:平成 7 年度 会医学的背景に関する研究 3)厚生労働省:人口動態統計 厚生省心身障害研究 分担研究課題、人工妊娠中絶の社
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