ソフトウェア無線による GNSS 信号シミュレータの開発

ソフトウェア無線による GNSS 信号シミュレータの開発
GNSS Signal Simulation using Software Defined Radio Platform
海老沼 拓史
Takuji Ebinuma
中部大学 電子情報工学科
Electronics and Information Engineering, Chubu University
1.はじめに
近年,GNSS 受信機は,オープンスカイだけではなく,
マルチパスの多い市街地など,さまざまな信号環境で利用
されている.このような信号環境における受信信号を模擬
するツールとして,GNSS 信号シミュレータがある.
しかし,このようなシミュレータは,一般に受信機メー
カ向けの試験機器として製造販売されており,大学などに
おける研究開発のためのツールとしては高価である.
一方,スマートフォンを始めとする移動体無線通信機器
の急速な普及により,ベースバンド信号の処理をすべてソ
フトウェアで実行するソフトウェア無線(SDR: Software
Defined Radio)の開発プラットフォームが安価に入手でき
るようになった.
本研究では,このような SDR プラットフォームを活用
し,安価で自由度の高い GNSS 信号シミュレータの開発を
試みた.
ンテナポートに同軸ケーブルで接続し,受信実験を行った.
動作確認用の GNSS 受信機としては,ublox 社の LEA-6T
を使用している.
実験のセットアップを図 1 に,受信結果を図 2 に示す.
各衛星の擬似距離に応じた伝搬損失による信号の減衰を考
慮していないために,すべての受信信号が同じ信号強度を
示しているが,航法メッセージも問題なく復調され,3D
測位が実施されることが確認された.
2.ベースバンド信号の生成
SDR プラットフォームの送信機部は,デジタル化された
zero-IF の Quadrature 信号をベースバンド信号として PC か
ら受け取り,それを所望の中心周波数にアップコンバート
し,RF 信号として送信する.
ある GNSS 衛星から受信したベースバンド信号は,一般
に次式で記述することができる.
図 1: bladeRF による GNSS 信号シミュレーション
= √2 − − exp
2஽ + ここで,は拡散コード,は航法メッセージである.は
擬似距離に相当する時間遅延であり,஽ はレンジレートに
相当する中心周波数からの周波数オフセットである.
今回の試作では,サンプリング時刻ごとに,すべての可
視衛星の擬似距離およびレンジレートを求め,上式より
個々のベースバンド信号の値を算出している.その後,こ
れらのベースバンド信号を足し合わせることで,その時刻
における受信信号を模擬している.
3.GNSS 信号の生成と受信
数値的に生成されたベースバンド信号は,USB 3.0 や
Gigabit Ethernet などの高速シリアルインターフェイスを経
由して PC から SDR プラットフォームに転送される.今回
の実験では,SDR プラットフォームとして nuand 社の
bladeRF を用いた.bladeRF は 28MHz の帯域を持つ full
duplex の SDR プラットフォームであり, 300MHz から
3.8GHz の周波数帯をカバーしている.
最終的に RF 信号として送信される GNSS 信号の動作を
確認するために,市販の GNSS 受信機を bladeRF の送信ア
図 2: LEA-6T による受信結果
4.まとめ
SDR による GNSS 信号のシミュレーションは,数値的に
ベースバンド信号を生成するために,数式モデルさえ構築
できれば,どのような受信信号であっても模擬できる自由
度がある.しかし,サンプリング時刻ごとの擬似距離の算
出など,計算負荷が非常に高いことが問題となる.マルチ
スレッドや GPGPU などの並列化による高速化およびリア
ルタイム処理が,今後の課題である.