Kekkaku Vol. 90, No. 3 : 387_393, 2015 387 外国人肺結核の治療成績と背景因子の検討 1 津田 侑子 1 松本 健二 1 小向 潤 1 笠井 幸 1 蕨野由佳里 1 廣田 理 2 甲田 伸一 3 下内 昭 要旨:〔目的〕外国人肺結核の治療成績を改善するため,治療成績と背景因子の分析評価を行った。 〔方法〕2006∼2011 年に大阪市の新登録外国人肺結核患者 159 例を対象とした。治療成功群と脱落中 断群の背景,および国内治療群と国外転出群の背景についてそれぞれ比較検討した。治療成績につい て,20∼30 歳代を抽出し,2010∼2011 年新登録の日本人肺結核患者と比較検討した。〔結果〕①治療 成績:治癒 53 例(33.3%),治療完了 55 例(34.6%),治療失敗 0 例(0.0%),脱落中断 14 例(8.8%), 国外転出 17 例(10.7%),国内転出 13 例(8.2%),死亡 6 例(3.8%),治療中 1 例(0.6%)であった。 ②治療成功群と脱落中断群の比較:脱落中断は,喀痰塗抹陽性 48 例では 1 例(2.1%)であったが, 喀痰塗抹陰性 69 例では 10 例(14.5%)と,喀痰塗抹陰性例で脱落中断率が有意に高かった(P < 0.05)。 ③国内治療群と国外転出群の比較:国外転出率は,有保険 ⁄ 生活保護 134 例中 12 例(9.0%)であったが, 無保険 9 例中 4 例(44.4%)と,無保険例で有意に高かった(P < 0.01)。④外国人肺結核患者と日本 人肺結核患者の治療成績の比較(20∼30 歳代) :脱落中断率は,外国人 13.6%,日本人 4.0% と,外国 人で有意に高かった(P<0.01)。転出率は,外国人19.1%,日本人5.3%と外国人で有意に高かった(P < 0.001)。〔考察〕20∼30 歳代において,脱落中断,転出は外国人で有意に高かったため,背景因子 を考慮した患者支援・服薬支援の充実が必要と考えられた。国外転出は最終的な治療成績の把握が困 難な状況であり,治療中断の可能性を考慮し,確実な治療成功へとつなげるための対策が必要と考え られた。 キーワーズ:結核,外国人,治療成績,脱落中断,国外転出 万人を超えている国々は中国(64.8 万人) ,韓国(51.9 緒 言 万 人),フ ィ リ ピ ン(20.9 万 人),ブ ラ ジ ル(18.1 万 人) 大阪市の外国人新登録結核患者数は 2008年から2012 年 であり,日本より結核罹患率の高いベトナム,ネパール にかけて年間 32∼38 名で推移しているが,全結核患者 などアジアの国で,実数は少ないものの増加率の高い国 のうち外国人の占める割合は,2008 年が 2.5% で,2012 があり,多様化している2)。今後,国際化に伴う外国人 年は 3.0% と徐々に増加傾向を認めた。特に 20 歳代に限 の増加,結核高蔓延国からの入国者の増加が予想され, ると,全結核患者に占める外国人割合は,2008 年の 13.6 結核対策の中で,外国人結核の比重が増していくと考え % から 2012 年には 29.3% と大きく増加した。全国の外国 られる。 人結核発生動向においても,20 歳代新登録患者のうち 今回,外国人結核対策に資することを目的に,外国人 外国人患者の占める割合は,2011 年には 30.0% に達して 肺結核患者の治療成績を検討したので報告する。 1) おり,大阪市と同様の傾向であった 。わが国における 方 法 外国人登録者数は,2008 年までは増加を続けており, 2007 年以降は 200 万人を超えている。2013 年末では,10 1 大阪市保健所,2 大阪市健康局,3 大阪市西成区役所 ( 1 )対象 連絡先 : 津田侑子,大阪市保健所,〒 545 _ 0051 大阪府大阪市 阿倍野区旭町 1 _ 2 _ 7 _ 1000 (E-mail : [email protected]) (Received 17 Jul. 2014 / Accepted 22 Dec. 2014)
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