LPガスの保安 法政大学名誉教授 渡邊嘉二郎

LPガス事業団広報 No.200
LP
Pガ
ガス
スの
の保
保
保安
安
法政大
法 大学
学 名
名誉
誉教
教授
授
渡邊嘉
渡邊
嘉二郎
学博
博士
士・
・博
博士
士(
(医
医学)・技術
技術士(情
情報
報工
工学
学)
工学
1.はじめに
に
全 のエ
全て
エネ
ネル
ルギ
ギー
ーは
は、信頼
頼性
性の
の高
高い
い
制
制御
御と 十分
十 な 管理
理の
のも
もと
とで
で使
使用
用さ
され
れ
な
なけ
ければなら
らな
ない
い。エネ
エ ルギー
ーの
の単
単位
位
は J(ジ
ジュ
ュー
ール
ル)で
であ
あり、そ
その
の単
単位
位時
時
間
間当
当た
たり の 使 用率
率あ
ある
るい
いは
は仕
仕事
事率
率は
は
W(ワ
ワッ
ット
ト)であ
ある
る。エネ
エ ルギー
ーは
は様
様々
々
な
な形
形で蓄えら
られ
れて
てい
いる
る。この
のエ
エネ
ネル
ルギ
ギ
ー
ーは
は必
必要
要に 応 じ た ワッ
ッ ト数
数で
で使
使用
用さ
さ
れ
れることで
で我
我々
々に
に恩
恩恵
恵を
を与
与える。
。そ
その
の
た
ため
めにLPガ
ガス
スで
でい
いえ
えば
ば、タン
ンク
ク内
内の
の
高
高圧
圧ガスを圧
圧力
力調
調整
整(
(制
制御)し
し適
適正
正な
な
圧
圧力
力のもとで
で燃
燃焼
焼器
器に
に送
送られる。
。そ
そし
し
て
てそ
そこ では
で 適 正 な ワッ
ッ ト数
数で
で燃
燃焼
焼さ
さ
れ
れ料
料理に使
使わ
われ
れ、暖
暖を
を取るた
ため
めに
に使
使わ
わ
れ
れて
ている。
。軒
軒下
下の
のL
LPガスタン
ンク
クに
には
は、
通
通常
常使
使用 す る と数
数か
か月
月分
分の
のエ
エネ
ネル
ルギ
ギ
ー
ーが
が蓄えられ
れて
てい
いる
る。これが
が何
何か
かの
の不
不
幸
幸な
な原
原因 で 非 常 に短
短い
い時
時間
間で
で全
全て
て使
使
わ
われ
れたとす
すれ
れば
ば、こ
この
のときの
のワ
ワッ
ット
ト数
数
は
は極
極めて大
大き
きな
なも
もの
のに
にな
なる。ま
まさ
さに
に爆
爆
発
発的
的に
にエ ネ ル ギー
ーが
が他
他の
のエ
エネ
ネル
ルギ
ギー
ー
に
に変
変換
換され
れる
る。これ
これに
により人
人類
類に
に恩
恩恵
恵
を
を与
与え
える べ き エネ
ネル
ルギ
ギー
ーが
が凶
凶器
器と
とし
し
て
て我
我々に被
被害
害を
を与
与え
える
る。この
のこ
こと
とを
を避
避
け
けるために、
、と
とり
りわ
わけ
けLPガ
ガス
スは
は軒
軒下
下
に
に在
在庫
庫さ れ る エネ
ネル
ルギ
ギー
ーで
であ
ある
るか
から
ら
こ
こそ
そ、万
万全
全の
の安
安全
全対
対策
策が講じら
られ
れ管
管理
理
さ
され
れて使用
用さ
され
れて
てき
きて
てい
いる。
LP
Pガ
ガス
スは
は、上記
記の
の大
大き
きな
なエ
エネ
ネル
ルギ
ー を軒
軒下
下に
に抱
抱え
えて
てい
いる
ると
とい
いう リ ス ク
だけ
けで
では
はな
ない
い。ガス使
使用
用に
に伴
伴う
う「
「漏
漏え
い」
」、
「漏
「漏えい爆
爆発
発」
」、
「漏えい火
「漏
火災
災」
、
「
「中
毒・酸
酸欠
欠」など
などがある。
。
本論は
本論
は、LPガスに
にお
おけ
ける
る事
事故
故を分
析考察
析考
察し
し、事故
事故をでき
きる
る限
限り
り減
減ら
らす
す方
法を考
法を
考察
察す
する
るも
ものである。
。
2.
.事
事故
故の
の年
年次
次推
推移と分
分析
析
図 1は
は昭
昭和
和4
42年
年か
から
ら平
平成
成255年
年ま で
のLP
Pガ
ガス
ス事
事故
故の発生頻
頻度
度を
を示
示す
す。こ
の図
図は
はL
LP
Pガ
ガス
ス関
関係
係者
者で
であ
あれ
れば
ばだ れ
もが
が目
目に
にす
する
る図
図で
であろう。
。事
事故
故件
件数
数お
よび
び負
負傷
傷者
者数
数は
は昭
昭和
和54
4年
年を
をピ
ピー
ーク と
して
て漸
漸次
次減
減少
少し
している。
。そ
それ
れま
まで
でのL
Pガ
ガス
スの
の事
事故
故の
の増
増加をうけ
け、行
行政
政、民
間企
企業
業が
が安
安全
全対
対策
策に
に力
力を
を入
入れ
れた
た結 果
であ
ある
る。
昭和555年
昭和
年、静岡駅
静 駅前
前の
の地
地下
下街
街で
で発
発生
した
たメ
メタ
タン
ンガ
ガス
スと
と都
都市
市ガ
ガス
スの
の二
二度 の
爆発に
爆発
に伴
伴い
い、15
5名
名の
の死
死亡者
者、
、2223
3名の
負 傷者
負傷
者を
を出
出し
した
た事
事故
故は
は大
大き
きな
な衝
衝撃 と
なり、安
安全
全装
装置
置内蔵
蔵の
のマ
マイ
イコ
コン
ンメー
ータ
ー開
開発
発が
が取
取り
り組
組ま
まれ
れ、昭和
和5
58年
年に
には
は、
地 震や
地震
や異
異常
常流
流量
量を
を感
感知
知し
して
て自 動的
動 に
ガス
スを
を遮
遮断
断す
する
る機
機能
能を
を持
持つ
つマ
マイ コ ン
メー
ータ
ター
ーが
が開
開発
発された。
。こ
この
の事
事故
故件
件数
の減
減少
少は
はこ
この
のマ
マイ
イコ
コン
ンメ
メー
ータ ーの
ー 普
─4─
LPガス事業団広報 No.200
及によるところが大きい。当時のマイ
コンに関する技術革新がガス業界に
もたらした福音である。その後、昭和
54年の事故件数793件から平成9年の
68件まで、事故はほぼ10%を切るとこ
ろまで減少したが、平成15年に120件
と増加し事故は高止まりになってい
る。平成12年以降の事故増加は現実の
事故が増加したというより、それまで
事故として報告されなかったような
軽微な事故も報告されたことによる
ものと考えられる。事故として報告さ
れなかった、まさに軽微な事故やヒヤ
リハットの事故以前の顕在化されて
いないリスクは事故統計には載らな
い。おそらくこれらは数限りないであ
ろう。「起こる可能性のあることは、
いつか実際に起こる」というマーフィ
ーの法則を引っ張り出すまでもなく、
このような顕在化されないリスクの
一定の割合での顕在化は間違いなく
起こる。
900
800
事故件数
700
負傷者数
600
死亡者数
500
400
300
200
100
0
図1
42年 44年 46年 48年 50年 52年 54年 56年 58年 60年 62年 元年 3年 5年 7年 9年 11年 13年 15年 17年 19年 21年 23年 25年
事故の年次推移
(「平成25年度液化石油ガス関係事故年報」(平成26年3月 経済産業省商務流通保安グルー
プ)を基本とし、その後の数値変更を取り入れている。図2~5も同様)
図2は、平成16年から25年までの事
故件数とB級以上事故(注)の件数・
死者数である。B級以上事故の件数と
死者数は少なく見えるが、全事故はこ
のような重大事故になってもおかし
くない。
(注)
「B級事故」とは、①死者1人以上4
人以下、②重傷者2人以上9人以下、③負傷
者6人以上29人以下、④直接被害総額が1億
円以上2億円未満、⑤社会的影響大のいずれ
かに該当する事故をいう。また、これを上回
る事故を「A級事故」といい、両者を合わせ
たものを「B級以上事故」という。
─5─
LPガス事業団広報 No.200
300
250
239
219
260
234
227
185
200
全事故件数
150
105
100
図2
B級以上事故件数
105
B級以上事故死者数
50
0
6
2
16年
1
1
17年
5
2
8
6
4
4
5
20年
21年
22年
4
4
0
18年
19年
3
1
23年
1
24年
25年
3
CO中毒事故件数
14
14
12
B級以上事故のうちCO中毒事故件数
10
8
8
5
6
4
2
2
1
1
16年
17年
B級以上事故件数
11
10
10
図3
3
CO中毒事故死者数が多い。事故原因
者ごとにグラフにしたものが図5で
ある。この数年は一般消費者が多くな
っている。
16
0
3
最近の年別事故件数と死者数
また、B級以上事故のなかでは、図
3に示すように一酸化炭素(CO)中
毒事故が多い。さらに、図4に示すよ
うにB級以上事故死者数のなかでは
6
210
204
18年
6
5
19年
4
6
3
3
2
20年
8
6
4
3
8
21年
CO中毒事故件数と死者数
─6─
22年
3
23年
3
2
2
24年
25年
LPガス事業団広報 No.200
6
B級以上事故死者数
5
5
4
4
4
CO中毒事故死者数
4
3
3
2
2
3
1
1
0
16年
図4
17年
18年
2
2
19年
20年
21年
65
62
33
42
80
23年
24年
25年
38
28
38
60
図5
22年
販売事業者
一般消費者など
100
0
2
B級以上事故死者数とCO中毒事故死者数
120
20
1
1
140
40
3
20
20
33
31
16年
17年
28
66
83
77
49
66
78
77
24年
25年
23
18年
19年
20年
21年
22年
23年
原因者別事故件数の推移
3.保安の取り組み
LPガスの事故発生の実態をうけ
て、保安高度化プログラムが官民一体
となり重点的に取り組まれ、経済産業
省本省のもとで液化石油ガス販売事
業者等保安対策指針がまとめられ、年
次更新されながら今日に至っている。
平成26年度版の要点は次のとおりで
ある。
LPガス販売事業者が講ずべき具
体的な保安対策(要請4項目)および
重点事故防止対策3項目を要請として
示している。
要請4項目は次のとおりである。
1.法令遵守の徹底
(1)経営者の保安確保へ向けた
コミットメント等
(2)LPガス販売事業者等の義
─7─
LPガス事業団広報 No.200
務の再認識
(3)保安教育の確実な実施
(4)販売所・営業所単位での保安
確保
(5)事業譲渡時の保安業務の確
実な実施
(6)バルク貯槽等の20年検査に
向けた体制準備
2.組織内のリスク管理の徹底お
よび自主保安活動の推進
(1)組織内のリスク管理の徹底
(2)集中監視システムの導入等
による自主保安活動の推進
3.事故防止対策
(1)CO中毒事故の防止対策
(2)一般消費者等に起因する事
故の防止対策
(3)LPガス販売事業者等に起
因する事故の防止対策
(4)その他
4.自然災害対策
(1)「東日本大震災を踏まえた
今後の液化石油ガス保安の
在り方について」および「L
Pガス災害対策マニュアル」
を踏まえ、災害発生時におけ
る保安確保のための具体的
な取組について、着実に実施
すること。特に、地震等によ
る大規模災害に備え、容器転
倒防止の鎖またはベルトの
二重掛けの推進や新設また
は取り替え時等におけるガ
ス放出防止型高圧ホース等
の設置を徹底すること。
(2)仮設住宅におけるLPガス
の供給に係るLPガス販売
事業者等は、供給設備の点検、
消費設備の調査等の保安業
務の確実な実施ならびにガ
スの漏えい事故防止および
CO中毒事故防止に係る一
般消費者への注意喚起につ
いて、特に留意して取り組む
こと。
重点事故防止対策3項目は次のと
おりである。
(1)CO中毒事故の防止対策
(2)一般消費者等に起因する事
故の防止対策
(3)LPガス販売事業者等に起
因する事故の防止対策
4.利便性と危険性
技術がいかに進歩しようと、ヒュー
マンエラーは避けられない。上述のと
おり、平成26年度液化石油ガス販売事
業者等保安対策指針の重点事故防止
対策3項目のなかには、「一般消費者
等に起因する事故の防止対策」が述べ
られている。我々は便利な道具を手に
入れると、それまでは我々の力でなし
てきたことを道具に頼ってしまうこ
とがある。ワープロの導入により漢字
が書けなくなった、カーナビ車に乗る
と土地勘が鈍るということは、多くの
人が実感していることではなかろう
か。実は同じようなことがLPガス保
安でも起きてはいまいかという懸念
である。マイコンメーターの出現で間
違いなく顕在化した事故は減った。さ
らにマイコンメーターは進歩し続け、
─8─
LPガス事業団広報 No.200
24時間ガスの使用状況を見守る機能
がついている。地震はもとより、長時
間継続してLPガスを使用すると自
動的に漏えいと判断して遮断してし
まう。極めて安全サイドで動作する機
能がついている。これは有難いことで
ある。しかし、この有難さに消費者は
慣れてしまっていて、軒下に大きなエ
ネルギーを蓄えている事実を忘れて
いないであろうか。事故の起こり方は
実に多様である。「想定外」の燃焼機
器の使い方で事故は起こるのである。
想定できることであれば、メーカーは
あらかじめ機器に組み込み、事故に至
らない対応をとる。利便性に慣れるこ
とは、その代償として危険性が忍び寄
っていることに気付くべきである。
LPガスの使用に伴うリスクとし
て図3、図4に示すようにCO中毒が
あげられる。LPガスは、主成分がプ
ロパン(C3H8)であり、燃焼時に酸素
(空気)が十分に供給されないと、不
完全燃焼によりCOが発生してしま
う。常識ある市民であれば、燃焼に伴
う酸欠を防ぐために換気扇を回すで
あろう。しかし換気扇は排気扇でしか
なく、適切に給気をしなければ換気に
はならない。とくに高気密住宅では、
すきま風は入らなく自然給気に期待
できない。換気扇を回す場合には同時
に窓を開けるなど給気の対応が必要
である。高気密住宅で、密閉状態で換
気扇を回すと室内の気圧がさがり、排
気もしにくくなり換気がなされずC
O中毒になりかねない。またCO警報
器を設置していて、警報器がうるさい
から電源を切ってしまうヒヤリ情報
をよく聞く。これは、CO警報器が鳴
っても気分が悪くならなかったとい
う危険な経験に基づきこのような行
動をとるのであろうが、これはいけな
い。CO警報器が鳴ったら、自分の経
験で判断するのではなく、その原因を
自ら調べるか、専門家に調べてもらう
べきである。このようなことは論外と
しても、我々は利便性に慣らされ、L
Pガスの扱いをあまりにも知らない
まま使っていはしないであろうか。消
費者はLPガスについて正しい知識
を得て、正しく安全に使う賢さを維持
してほしい。
5.新技術の開発動向事例
(1)調整器の経年劣化異常検知技術
ここで筆者が関わった新技術の開
発に触れておく。様々な開発に関わら
せて頂いたが、印象に残る開発は、圧
力調整器の経年劣化異常検知技術で
ある。圧力調整器はLPガスのタンク
内圧力をエネルギー源とする完全機
械式でパッシブなフィードバックシ
ステムである。機械としては傑作であ
る。この圧力調整器が不具合を起こし
たとして、それを取り外し、調べてみ
るとどこにも欠損が見つからないこ
とがある。実験で圧力調整バネを外し
てもそれなりの調整をしてくれる。こ
の圧力調整器で不具合を作ることが
まず困難である。調整用のダイアフラ
ムに疲労実験を行ってもなかなか疲
労しない。この技術開発において経年
劣化異常状態がなかなか作れない。こ
─9─
LPガス事業団広報 No.200
こが一つの大きな苦労であった。結局
はダイアフラムに思い切って穴を開
けるしかなかった。この状態ではダイ
アフラムから固有の異常圧力振動が
表れこれを高感度マイクロホンで検
知し、その異常振動の特徴を見極める
方式でこの技術は完成した。この異常
信号は集中監視システムで転送でき
るようにして、この標準システム仕様
を取りまとめた。
(2)集中監視による液化石油ガス燃
焼器自動識別
超音波流量計を搭載したE型マイ
コンでは、応答が速く極めて精度の高
い流量が計測できる。この流量をモニ
ターしていると、その流量パターンか
ら、どのような燃焼機器が使用されて
いるかをパターン認識信号処理の技
法により、判別可能となる。さらにこ
れを進めていくことで、燃焼の状態も
判別でき燃焼器の不適切な使用やC
Oを発生している異常な燃焼器を識
別できる可能性がある。いま使用され
ている燃焼機器が判別できると高度
な保安に結び付くだけでなく、様々な
展開が可能となる。この開発では燃焼
器自動識別が可能な流量計の開発と
この流量計による海外製品も含めた
様々な燃焼器の流量パターンを計測
した。これにより、個別燃焼機器判別
ロジック、同時使用燃焼機器自動判別
ロジックが開発され、さらには燃焼器
不適判定ロジック、不完全燃焼警報器
連動ではあるがCO発生燃焼特性ロ
ジックが検討された。その他、燃焼器
の経年劣化による燃焼器自動識別ロ
ジックへの影響が調査され、新型ガス
消費機器等への燃焼器自動判別ロジ
ックの対応アルゴリズムが検討され
た。これらの成果により近い将来、か
なり完成度の高い集中監視による液
化石油ガス燃焼器自動識別システム
の構築が期待される。
6.技術革新の更なる導入による保安
の高度化
昭和58年当時、マイコンはエレク
トロニクス技術の先端デバイスであ
った。マイコンメーターはこの先端技
術を導入したメーターであり安全機
器であった。ガス業界はその時代の技
術革新の成果を導入して現在に至っ
ている。マイコンメーター以後はメー
ターをネットワークでつなぎ、LPガ
ス供給業者は遠隔からタンク内の残
留量、保安情報を得て対処できるよう
にしてきた。また東日本大震災の経験
から、集合住宅においてタンク調整器
直後に大型のマイコンメーターを設
置し、子機となる各家庭のマイコンメ
ーターの流量合算との差から埋設管
の漏えいがあるか否かを判定するこ
とまで研究が進められている。
21世紀前期における技術革新の成
果の一つは携帯電話、スマートホンお
よびタブレット端末の普及に見るこ
とができる。これらの通信端末には数
えきれない高度な技術が詰まってい
る。これらの技術を活用する幾つかの
私案を述べる。
─ 10 ─
LPガス事業団広報 No.200
(1)スマートホン端末による設備管
理および工事の情報管理
スマートホンやタブレット端末は、
通信機能はもとよりコンピュータ機
能、カメラ機能、マイクロホンや各種
センサを搭載しており計測器機能を
内在したハンディな総合情報処理機
器である。LPガス保安におけるこれ
らの積極利用の例として、設備管理や
工事にこれらの活用が考えられる。あ
る場所で、あらかじめ定められた手順
に従い管理、工事を行う場合には、は
じめ場所の確認エビデンスとして、G
PSの位置情報を入力し、作業手順が
端末に示され、その手順に従って作業
をすすめ、作業終了ごとにチェック入
力する。また作業のエビデンスを残し
ておくために、チェック入力ごとにタ
イムスタンプが押され、必要に応じて
様子を写真で残しておく。これらの結
果は、ネットワークを通じて管理者の
コンピュータのデータベースに蓄え
ておくことで、正確なエビデンスが残
され、管理や工事がトレーサブルにな
る。また作業終了時には作業報告が出
来上がりデータベースに登録される。
これは作業の省力化にもつながる。設
備管理に特殊な計測器が必要な場合
に は 、 こ れ ら の 計 測 器 に Wi-Fi や
Bluetooth などの通信機器を計測器に
搭載し、端末と交信しながら管理する
こともできる。
(2)ペンダント型COセンサと通信
端末接続
各年の保安対策指針に組み込まれ
ているように、COによる重大事故防
止対策は重要課題である。COガスの
流れは、一寸した風の流れで大きく変
わり、思わぬ場所でその濃度が高いこ
とがある。従って現在の設置型のCO
警報器は場合によって危険濃度でも
COを検知しそこなう可能性がある。
CO中毒の被害者は厨房で作業する
人に多い。そうであるとすれば、ひと
りひとりが身に着けられるウエアラ
ブルCOセンサおよび警報器があっ
てよい。厨房で作業する場合、COを
吸い込む鼻や口の近傍にペンダント
型にするか胸のポケットに入る程度
の小型のものを作る。あるレベルを超
えたら警報を鳴らすCOスイッチ型
で十分であり、これならば、若干の技
術開発で小型化は可能であろう。作業
者に警報で知らせるとともに、上記の
無線通信で通信端末に通報しそこか
ら管理者に通報もできる。
以上はほんの思い付きの私案であ
る。スマートホンなどの通信端末とL
Pガス保安の組み合わせについて考
えを捻り出すと、それほどコストのか
からない高度な保安デバイスやシス
テムが構築できるはずである。
7.むすび
エネルギーはそれを普通に上手に
使うことで我々の生活を豊かにする。
しかし、普通でない状況で使うと「爆
発的」にエネルギー形態を変える。こ
れが爆発事故である。またガス状のエ
ネルギーは、その燃焼の不完全さによ
りCOという有毒成分を発生する。こ
─ 11 ─
LPガス事業団広報 No.200
れはCO中毒事故を引き起こす。これ
らの事故は「想定外」状況で起こる。
全てを想定して安全装置を作りその
もとでLPガスを使うとするとその
装置はとても高価なものになるであ
ろう。これは現実的でない。私たちは、
安全装置に頼るだけでなく、LPガス
の性質を知り、安全にこれを使う賢さ
を持たなければならない。
以下に経済産業省がホームページ
で公表している①LPガスの事故年
報、②LPガスによる事故発生状況、
③LPガスの安全のサイトを示す。こ
れらは、LPガスを安全に使うための
情報やどのような経緯で事故が起こ
ったかの情報が網羅されている。事業
者の方のみならず消費者の方にも目
を通していただきたい。
①事故年報
https://www.khk.or.jp/activities/incident_investigation/lpg_incident/s
tatistics_material.html
②LP ガスによる事故発生状況
http://www.meti.go.jp/policy/safety_security/industrial_safety/sangyo/
lpgas/detail/jiko.html
③LPガスの安全
http://www.meti.go.jp/policy/safety_security/industrial_safety/sangyo/
lpgas/index.html
筆者略歴
1972年3月
東京工業大学大学院理工学研究科電気工学専攻博士課程修了
1972年3月
博士の学位取得
種類(工学)
授与機関
(東京工業大学)
2010年10月
博士の学位取得
種類(医学)
授与機関
(東京医科歯科大学)
1970年4月
法政大学工学部電気工学科計測制御専攻研究助手
1973年4月
法政大学工学部電気工学科計測制御専攻専任講師
1975年4月
法政大学工学部電気工学科計測制御専攻助教授
1984年4月
法政大学工学部電気工学科計測制御専攻教授
1993年4月
法政大学工学部システム制御工学科教授
2009年4月
法政大学理工学部応用情報学科教授
2011年4月
法政大学理工学部創生科学科教授
2015年4月
法政大学名誉教授
この間
1980年4月
ミシガン州立オークランド大学客員助教授
─ 12 ─