タイ国経済概況(2015年5月)

2015年5月8日
タイ国経済概況(2015年5月)
1.景気動向
三井住友銀行 バンコック支店 / SBCS CO., LTD.
6.主要経済指標
(1) タイ商業省が今年の物品輸出の成長目標を前年比4%増から1%増に下方修正。世界景気の停滞と原油安により、物品輸出は収縮している。タイ中央銀行は第2四半
期の景気回復のペース次第では、経済成長率3.8%増の実現は難しく、同期の実績次第では2.5%増程度になる可能性が有ると述べている。一方、合同常任委員会(タ
イ商業会議所・タイ工業連盟・タイ銀行協会から構成)は、観光業の回復、下半期の政府の投資支出増加見込を背景に「経済成長率3.5%増は達成可能」との見解を示し
ている。不振の続く物品輸出と対照的に、観光業は回復基調。3月にタイを訪れた外国人旅行者数は253万2,600人で前年同月比25.5%増加、旧正月と重なった2月の
29.6%増(268万9,492人)からはプラス幅が縮小したものの、2カ月連続で20%以上のプラス成長。旅行者数を国別にみると、中国が前年同月比2.1倍の67万9,660人と全
体の27%を占め最多。2位はマレーシアで29万2,081人。日本は16.0%増の11万7,565人で3位であった。上位10カ国のうち、6位のロシアのみルーブル安の影響で59.8%
減と前年割れとなった。
の0.41%、2月の0.52%、3月の0.57%から拡大が続いている。燃料価格の値下がりと、食肉、鶏卵、生鮮果物など食品価格の下落が主な要因であり、振幅の大きいエネ
ルギーと生鮮食品を除いたコアCPI上昇率は1.02%。同省発表の生産者物価指数も102.8(2010年=100)となり、前年同月比5.4%低下、前年同月比マイナスは8カ月連
続となっている。一方、タイの民間不動産調査会社AREAによればバンコクの地価は3%上昇と予想。景気低迷により14年の3.5%、13年の4.6%から伸び率は鈍化するも
のの、高架鉄道BTSやバンコク地下鉄の沿線地域では14年に前年比で地価が8.5%上昇したのに引続き、今年も同地域の地価は高い上昇となる見込み。
2.投資動向
(1) BOI(タイ投資促進委員会)は、第1四半期の投資計画の認可件数が計793件、総額は2175億6000万バーツと発表。前年同期は346億5000万バーツで6倍以上の増加。業
種別の総投資額は、サービス・公共施設が605億7000万バーツ、電子・電気産業が561億3000万バーツ、化学・紙・プラスチックが358億5000万バーツ、金属製品・機械・
自動車関係が298億8000万バーツ、農業・農産品加工が197億9000万バーツ、軽工業が101億2000万バーツ、鉱物・金属・セラミックスが52億1000万バーツとなってい
る。一方で、第1四半期の投資申請は176件、総額288億3000万バーツで、駆込み申請の反動や新制度の様子見により前年同期から大幅に減少している。
(2) タイ証券取引所(SET)はSETの株式時価総額を2020年までに2倍の30兆バーツにする目標を明らかにした。タイ企業のほか外国企業の新規上場を承認するほか、インフ
ラ・ファンドや預託証券など新商品の上場を促進。SETの上場会社は2014年末が573社で株式時価総額は現在15兆バーツ、株式売買代金は14年に1日当たり約455億
バーツとなり、ASEANで3年連続1位となった。今年の予想は同520億バーツで、好調だった13年の同510億バーツを上回る見通し。
2013年
2014年
実績
暫定値
暫定値
2013年(四半期毎発表分)
Q1
Q2
景気・物価動向
製造業生産指数
民間投資指数 (資本財輸入伸び率)
民間消費 (乗用車販売台数伸び率)
(2) 商業省の4月の消費者物価指数(CPI、417品目、2011年=100、速報値)は、106.35で前年同月比1.04%低下。前年同月比マイナスは4カ月連続であり、マイナス幅は1月
2012年
財政収支(単位:10億バーツ)
4.金利為替動向
〈金利動向〉
(1) (4月の回顧)
バーツ金利は、米国の経済指標低迷による米国早期利上げ期待後退、タイのマイナスインフレ、消費、投資、輸出の低迷から、月初から緩やかに低下し短期2年債は
1.80%から1.72%に、長期10年債は2.76%近辺から2.6%台に。また29日のタイ中央銀行金融政策決定委員会(MPC)で、予想外の利下げを決定、政策金利を1.75%から1.50%
に引下げた。タイの輸出は1~3月で前年比マイナスを記録したことでタイ経済への懸念が高まり、MPC委員は5対2の票差で利下げを決定した。据置きを予想する声が
大半であったため、発表後、金利は低下、政策金利が反映されやすい2年債利回りは1.59%近辺、10年債は2.46%近辺に低下した。
(2) (5月の展望)
タイ経済は、消費、投資が低迷、製造業生産も3月、前年比で再度マイナスに転じている。輸出も1~3月で前年比マイナスとなっており、景気回復の兆しは見えない。こう
した状況下、タイ中央銀行は少なくとも当面低金利を維持、更なる景気悪化、バーツ高抑制対策で再利下げの可能性も残る中、政策金利が反映しやすい短期金利は上
昇しにくい。一方、米国の利上げ開始時期、後ずれとの観測の中、バーツの長期金利は低位推移が予想される。
ドルバーツ相場はタイ中央銀行が、利下げおよび資本流出規制の緩和で、バーツ安誘導を明確にしたこともあり、しばらくはバーツ買いになりにくい。一方、米国では冴
えない経済指標が続き、早期利上げ観測が後退しつつあることからドルの上値は重くなることが想定され、ドルバーツのドル買い、バーツ売りの動きは緩やかな動きとな
ることを予想する。
5.政治動向
(1) プラユット首相以下、副首相、各主要大臣は過去六か月の実績や今後の問題点・解決策などについて国民向けに演説した。その中で首相は新憲法の承認後に総選挙
を実施し、政権に留まる考えはないことを強調。昨年5月に起きた軍事クーデターで憲法が廃止されたのを受け、憲法起草委員会は新憲法の起草作業を行っているが、
憲法草案をめぐってはクーデターで政権を失ったタクシン元首相派などから批判が噴出しており、新憲法制定には曲折も予想されている。プラユット首相は訪日の際に
早ければ年度末に総選挙を実施する旨述べたが、これは国民投票のスケジュールを組込んでおらず、新憲法の是非をめぐる国民投票を実施した場合には下院総選挙
は来年4月末になるとの見解を選挙委員会は出している。
(2) 立法議会は5月1日、反政府集会やデモを規制する法案を賛成多数で可決。デモ主催者はデモ予定時刻の24時間前までに当局に届け出て許可を得ることを必要とし、
また政府庁舎や空港、港、鉄道駅、病院、外国大使館などの出入り口を封鎖したり活動を妨害したりすることが禁じられた。タイでは過去、反政府デモ隊が首都バンコク
の空港や首相府を占拠するなど、たびたび大きな混乱が起きたため、そのような事態を防止するための措置と考えられるが、人権団体からは平和的な集会を行う自由
に対する侵害や恣意的な運用を懸念する声が上がっている。
Q1
▲ 4.6
3.0
▲ 4.9
▲ 3.5
▲ 7.1
▲ 7.1
▲ 5.0
▲ 3.9
▲ 2.3
0.1
▲ 9.6
▲ 2.0
▲ 2.1
▲ 10.8
▲ 9.3
▲ 15.3
▲ 8.1
▲ 0.3
▲ 1.1
1.6
▲ 0.9
86.7
▲ 6.8
▲ 30.6
97.2
▲ 3.3
▲ 24.8
▲ 41.3
▲ 25.9
▲ 17.1
▲ 11.6
▲ 465.8 ▲ 242.3 ▲ 305.1 ▲ 109.7
160.2
51.9 ▲ 319.7
▲ 208.9
3.0
2.2
1.9
3.1
▲ 42.0
▲ 32.5
49.0 ▲ 341.9 ▲ 198.3
161.0
2.3
1.7
1.7
2.0
前年同期比増減率、単位:%
2.5
55.4
2.0
1.1
輸出額(単位:10億米ドル)
225.9
225.4
224.8
56.0
55.6
57.9
55.9
(輸出額前年同期比増減)
(3.1)
(▲0.2)
(▲0.3)
(4.1)
(▲1.9)
(▲1.8)
(▲0.9)
輸入額(単位:10億米ドル)
219.9
218.7
200.2
57.6
56.5
52.6
52.1
49.1
49.8
52.2
49.1
(輸入額前年同期比増減)
(8.8)
(▲0.5)
(▲8.5)
(8.5)
(1.0)
(▲3.6)
(▲7.5)
(▲14.7
(▲11.8)
(▲0.8)
(▲5.7)
(▲1.1)
▲ 0.5
55.7
56.9
56.8
53.0
(0.3)
(▲1.7)
(1.5)
(▲4.3)
45.6
(▲7.2)
貿易収支
6.0
6.7
24.6
▲ 1.6
▲ 0.9
5.4
3.8
6.3
5.9
4.8
7.6
経常収支
▲ 1.5
▲ 2.5
13.1
0.5
▲ 6.7
0.8
2.9
5.5
▲ 0.6
▲ 0.5
8.7
資本収支
14.1
0.3
▲ 14.6
3.3
4.7
▲ 1.3
▲ 6.5
▲ 6.9
1.0
▲ 1.7
▲ 6.9
(▲4.0)
総合収支
5.3
▲ 5.0
▲ 1.2
2.6
▲ 2.4
▲ 2.0
▲ 3.3
▲ 0.5
▲ 0.6
0.0
▲ 0.2
(▲4.0)
債務返済比率
4.2
4.0
4.9
4.9
3.4
3.7
3.9
4.9
5.1
4.9
4.7
181.6
167.3
179.2
177.8
170.8
172.3
167.3
167.5
168.2
161.6
155.4
銀行預金伸び率
11.1
7.6
4
9.6
10.4
7.6
6.8
3.8
2.7
4.0
5.4
民間貸出伸び率
15.3
10.0
4.5
14.0
12.9
11.2
10.0
期末時点、単位:%
8.8
6.5
5.3
4.5
5.0
MLR(地場大手 5行)
7.00
6.84
6.75
7.00
7.00
7.00
6.84
6.75
6.75
6.75
6.75
6.63
1年定期預金(地場大手 4行)
2.46
2.23
1.73
2.40
2.40
2.45
2.23
1.74
1.73
1.73
1.73
1.53
インターバンク平均金利
2.65
2.15
1.90
2.65
2.40
2.40
2.15
1.90
1.90
1.90
1.90
1.65
SETインデックス (単位:ポイント) 1,391.93
1,297.71
1,497.67
1,561.06
1,451.90
1,383.16
1,297.71
1,376.26
1,485.75
1,585.67
1,497.67
1,505.94
(▲6.8)
(▲11.8)
(30.4)
(23.9)
(6.5)
(▲6.8)
(▲11.8)
(2.3)
(14.6)
(15.4)
(9.4)
金利動向
(SETインデックス前年同月比増減)
(35.8)
8.0
出所:タイ中央銀行
7.NESDB(国家経済社会開発庁)経済予測値
実績
実績
実績
2010
2011
2012
暫定値
2013
予測
2014
2015
0.7
3.5-4.5
3.4
(前年比増減率:%)
景気・物価動向
実質経済成長率
7.8
0.1
消費
5.1
1.3
6.8
1.1
0.7
投資
9.4
3.3
13.2
▲ 2.0
▲ 2.8
インフレ率 3.3
3.8
3.0
2.2
1.9
(10億米ドル、前年増減率:%)
貿易動向
6.5
2.9
6.0
0.0-1.0
輸出額
193.7
219.1
225.9
225.4
224.8
(%)
(28.4)
(14.3)
(3.1)
(▲0.2)
(▲0.3)
3.5
輸入額
161.9
202.1
219.9
218.7
200.2
203.9
(%)
(37.0)
(24.9)
(8.8)
(▲0.5)
(▲8.5)
1.8
10
4.1
(▲1.5)
(▲2.5)
14.2
18.9
経常収支
7.4
8.2
n.a
160.10
前年同期比増減率、単位:%
(2015年2月15日発表)
(2) (5月の展望)
Q4
▲ 3.2
消費者物価上昇率
〈為替動向〉
(1) (4月の回顧)
ドルバーツ相場は、月初、3月の雇用統計他、米国の冴えない経済指標発表が相次いだことからドル売りが優勢となった。7日32.40台迄ドル売りバーツ買いが進行した。
その後、米国の連邦公開市場委員会(FOMC)議事録で、数名が6月の利上げを支持していることが明らかになったことで、米金利が上昇ドル買いにつながり、ドルバーツ
相場は32.60台を回復した。ソンクラン休暇明けもドル売りの流れは続き、17日32.38迄ドル売りとなった。バーツ高が進行したことで、国内から輸出への影響を懸念する
声が相次いだ。中央銀行の介入警戒感が強まる中、23日、中国4月製造業購買担当者景気指数が低迷したことを受けて、バーツ売りに。外国人投資家のタイ株売りが
優勢となり、27日は一時32.70をつけている。その後、タイ中央銀行が予想外の利下げを発表したことでバーツ売りとなり、ドルバーツは32.90台に進行。円バーツ相場は
ドルバーツ相場でのバーツ売りから0.2770台迄円高、バーツ安となった。
Q3
2.2
通貨統計動向
タイ中央銀行の発表によると2015年3月末時点の金融機関預金残高は16兆8082億バーツ(前年同月比5.4%増)、貸金残高は15兆5048億バーツ(同5%増)といずれも増加。
2015年
Q2
24.3
対外収支動向
外貨準備高(単位:10億米ドル)
3.金融動向
2014年(四半期毎発表分)
Q3
Q4
Q1
前年同期比増減率、単位:%
232.7
(対GDP比:%)
(3.1)
(1.2)
(▲0.4)
(▲0.6)
3.8
4.9
外貨準備高
財政収支(対GDP比:%)
172.1
175.1
181.6
167.2
157.1
n.a.
▲ 2.0
▲ 1.9
▲ 2.6
▲ 2.7
▲ 1.8
n.a.
(注)本資料は情報の提供を目的としており、何らかの行動を勧誘するものではありません。
投資等に関する最終決定は、お客様ご自身で判断されますよう宜しくお願い申し上げます。