海外調査報告

資料1-2
海外調査報告
(英国)
平成28年4月7日
目次
1.財政健全化に至るまで
2.2010年財政健全化計画
3.2015年財政健全化計画
4.ポイント
1.財政健全化に至るまで
金融危機前の経済財政の状況
○ 金融危機前は、個人消費と政府支出、そして、それを支える借金によって、16年にわたるプラス成長を謳歌。
【財政収支・構造的財政収支・純債務残高の推移(対GDP比)】
【英国の実質GDP成長率及び経常収支の推移(対GDP比) 】
5
4
(%)
(%)
(%)
1997年~2007年の平均成長率3.2%のう
ち、3%が個人消費と政府支出。
4
政府支出
住宅投資
3
設備投資
70
構造的財政収支(左軸)
2
60
0
財政収支(左軸)
2
経常赤字(対GDP比)
1
純債務残高(右軸)
実質GDP成長率
個人消費
50
-2
40
0
-4
2001年度以降、構造的財
政収支の赤字が継続。
30
-1
純輸出
-6
-2
20
-8
-3
-4
-5
1999年度以降、1~2%超の
経常赤字が継続。
1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 (年度)
(出典)成長率及び経常赤字は英国統計庁、97年~07年の平均成長率と寄与度は
3 秋の財政声明(2011年11月)による。
10
-10
-12
0
1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 (年度)
(出典)Office for Budget Responsibility “Public finances databank (March,2016)”
金融危機による経済と財政の悪化
○ 金融危機により経済が大幅に悪化する中、財政赤字が急増(2007年度2.7%→2009年度10.3%)。借金に支
えられた成長は持続不可能であることが判明。
【欧州主要国の国債金利の推移】
【歳出・歳入の推移(対GDP比)】
(%)
(%)
50
総歳出(対GDP比、%)
2010年5月の総選挙で、ハングパーラメ
ントにより政治が不安定化するとの懸
念もあり、国債金利がスペイン、イタリ
ア並みに。
5.0
総歳入(対GDP比、%)
48
46.1
46
4.5
金融危機前の成長を前提と
した歳出拡大により、急増
(+6%程度)。
44
43.8
4.0
42
40.3
40.1 40.1 39.9
40
3.5
38.7
37.9
38
36
37.7
36.9
36.7
36.2 36.2
37.4
37.1
35.9 36.1
3.0
37.3 37.5
37
36.7
35.6 36.1
37
36.9
35.8
34
32
30
“The UK is a must to avoid. Its gilts are resting on a
bed of nitroglycerine.”
(2010年1月、ピムコ共同最高投資責任者、ビル・グロス氏
の発言)
1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009
(出典)Office for Budget Responsibility “Public finances databank (March,2016)”
2.5
ドイツ
フランス
スペイン
英国
2.0
イタリア
(年)
(年度)
(出典)Bloomberg
4
2010年総選挙
○ 2010年5月の総選挙では、財政健全化のあり方が最大の争点に(与野党とも財政健全化の必要性は認め
つつ、そのペースが争点に)。
労働党の主張(選挙時点では自民党も同様の主張)
・拙速な財政赤字削減は景気の腰を折る(緩やかな赤字削減)。
・このため、削減開始は2011年度から。
・財政目標として、2013年度までに、2009年度比で財政赤字を半減。
保守党の主張
・英国経済最大のリスクは、財政への信認喪失と金利の急騰(より早い赤字削減)。
・このため、削減開始は2010年度から。
・労働党よりも、より早くより多く赤字を削減。2015年を目途に構造的経常財政収支赤字の大部分を削減。
選挙結果は、ハングパーラメント(単独過半数326議席を獲得する政党がない状況)
議席数
5
得票割合
保守党
労働党
自民党
その他
306議席
258議席
57議席
28議席
36%
29%
23%
12%
連立政権の成立
○ 総選挙後、保守党は「国益」という言葉を強調し、自民党と精力的に連立交渉を実施。その結果、財政健全
化の加速を最重要課題と位置付ける保守党・自民党の連立政権が発足。
5月6日 総選挙
5月7日 選挙結果判明(ハングパーラメント)
保守党キャメロン党首:自民党に対し、オープンで包括的で大きな申し出をしたい。英国の喫緊の課題である債務危機、
社会問題、政治システムの改革にともに取り組んでいきたい。
⇒自民党クレッグ党首と電話会談、保守党・自民党による連立協議が開始
5月9日 保守党ヘイグ影の外相:政治改革、経済問題、財政赤字削減、金融改革、市民の自由、環境問題などについてよい議論
ができた。連立合意の主なものは、経済の安定と財政赤字の削減となることに合意し、それぞれの党首に報告することと
している。
⇒キャメロン・クレッグ両党首が会談
※労働党ブラウン首相もクレッグ党首と同日会談。
5月10日 ブラウン首相、9月までに労働党党首を辞任することを表明。
⇒労働党と自民党による連立協議が公式に開始。
⇒保守党が自民党に対して、選挙制度改革についてのレファレンダム実施を約束。
5月11日 労働党と自民党の連立政権樹立の可能性がなくなり、ブラウン首相が辞任を表明し、保守党キャメロン党首が首相に就
任。
(参考)ギリシャ債務危機を受けて、IMF・EUが、欧州金融安定化のための総額7,500億ユーロの対策を公表。
5月12日 連立合意が両党で承認、保守党・自民党の連立政権が成立
-財政赤字削減のペースについては、保守党の主張を採用(自民党は、ギリシャ債務危機を方針転換の理由として説
明)。
-自民党は、所得再分配政策として、所得税の基礎控除の引上げや譲渡益課税の引上げを盛り込むことに成功。
-政権安定のため、首相は解散権を放棄。
6
連立政権の主な顔触れ
アレクサンダー
財務第一相
(38歳、自)
ダンカン雇用・年金相
(56歳、保)
7
キャメロン首相
(44歳、保)
メイ内相
(54歳、保)
オズボーン財相
(39歳、保)
ヘイグ外相
(49歳、保)
クラーク法相
(70歳、保)
クレッグ副首相
(43歳、自)
ケーブル産業相
(67歳、自)
2.2010年財政健全化計画
2010年財政健全化計画の内容
○ 歳出削減を中心に、過去に例のない厳しい財政健全化計画を策定。
財政健全化目標
①フロー目標:構造的経常財政収支の黒字化(期限:経済財政見通しの予測期間(5年)の最終年度)
②ストック目標:純債務残高(対GDP比)の減少(期限:2015年度)
※ 経済財政見通しが政治的動機により楽観的になることを防ぐため、独立して見通しを行う財政責任庁を設立。
同庁が経済財政見通しを作成し、目標の達成可能性を判断。
財政健全化計画
○ 2014年度ベースで1100億£(2010年度から開始。対GDP6%程度)の財政健全化策を決定。
歳出削減策:810億£
①省庁別歳出限度額の削減:490億£
・NHS予算と海外援助予算を除き、4年間で実質 19%の
削減 ※名目ベースでは全体で▲1.5%の削減
・NHS予算も、過去5年(名目+6.5%)と比べ、 大幅に抑
制(名目+2.7%)。
②各年度管理歳出(福祉給付等)の削減:220億£
・公的年金、福祉給付のスライド率の引下げ
・給付付税額控除・福祉給付の合理化
③利払費の減少
:100億£程度
9
(注)①の490億円は実質ベースの削減額であり、2010年度の歳出をCPIで延
伸させた金額と計画で設定された限度額との差(2014年度ベース)。
増税策:210億£
①前政権の増税策の殆どを承継:210億£
・所得税の課税ベース拡大(高所得者の控除等)
・社会保険料の引上げ
②消費税率の引上げ等の税制改革:80億£
○増税策
・消費税の引上げ(17.5%→20%)
・譲渡益課税の適用税率引上げ
・銀行負担金の導入
・法人税の課税ベース拡大
○減税策
・所得税の基礎控除の引上げ
・法人税率の引下げ
歳出削減策の具体的内容
①省庁別歳出限度額の主要省庁別の増減率(実質ベース、2014年度/2010年度)】
公営住宅の賃料引上げと公営住宅整備費の削減(公共)
大学授業料値上げによる大学向け補助金の削減
地方公共団体向け補助金の合理化
警察への補助金削減、国境庁バックオフィス業務効率化
(各省共通事項)
・公的部門の職員(先生、医師、看護師含む)の給与凍結
・長期的な経済成長を支える公共投資への重点化(公共)
学校新設を人口増地域に重点化、その他は改修(公共)
内訳
経常支出▲8.1%
公共支出▲29.5%
軍保有の不動産等の売却、訓練効率化、調達改善
医療サービスの効率化
(注)保健省は歳出見直し時点では実質増となる歳出枠が
設定されていたが、その後、インフレ見通しが上方修正さ
れたため、IFSの計算では実質減となっている。
(出所)増減率はIFS, Green Budget 2011。削減策の内容はHMT, Spending Review 2010。
②福祉給付等の削減の具体例
・公的年金、給付付税額控除、各種社会福祉給付に適用される物価スライド率の引下げ:60億£程度
・給付付税額控除の合理化:30億£程度
・住宅手当・障害手当の合理化:30億£程度
・児童手当の支給対象者の重点化(高所得者を除外):25億£程度
・公務員の年金保険料率の引上げ:20億£程度
10
財政健全化の役割と成長との関係
○ 財政健全化の役割として、中期的な成長・雇用創出の下支えなど以下の4点を指摘。
①民間のコンフィデンスと資金調達環境が改善し、中期的な成長・雇用創出を下支え。
②財政健全化に失敗すると、国債金利だけでなく、住宅ローンや企業向け貸付の金利も上昇(IMF:債務残高
の10%増加で、金利が1/2%増加し、成長率が1/4%減少するおそれ)。また、利払費は非生産的なものであ
り、公共サービスの財源を奪うもの。
③将来の経済ショックに対する対応力が増加。
④財政赤字は課税の先送りに過ぎず、将来世代の負担により現役世代の受益を賄うもので、無責任で非公
正。
(参考)成長に与える影響
財政赤字削減策
GDPに対する
直接的な悪影響
英国財政に対する
信認の増加
家計・企業の
予見可能性の向上
金融緩和
の予測
長期金利の低下
家計の消費・企業の設備投資を活性化
11
ポジティブな効果
ポンド安圧力
(参考)財政乗数
・消費税の引上げ:0.35
・個人所得税の課税ベースの見直し:0.30
・社会保険料の引上げ:0.30
・社会保障給付の削減:0.6
・省庁別歳出限度額(経常支出)の削減:0.6
・省庁別歳出限度額(公共投資)の削減:1.0
純輸出を活性化
ネガティブな効果
国民の支持・理解
○ 総選挙後の約100日間のハネムーン期間を最大限活用し、財政健全化の必要性を訴え。
- 政権発足後、財政政策の詳細を矢継ぎ早に公表(ほぼ一週間おき)。
- 財政政策の詳細を公表するごとに以下のメッセージを繰り返し強調。
①財政赤字は前政権の負の遺産。
②財政赤字を放置すれば金利高騰を通じて家計・企業に悪影響を及ぼす。
③財政赤字削減策は国民にとって非常に厳しいものではあるが、英国にとって不可欠。
(参考)国民の受け止めの例
≪歳出削減策公表後の新聞挿絵≫
○
ラジオから「厳しい歳出削減
策が発表された」
・イギリス人の反応
⇒「お茶の時間だ」
・フランス人の反応
⇒「火炎瓶のお出ましだ」
※英国人のモットー“keep Calm and
Carry on”(冷静に、そして実行せ
よ)を連想させ、忍耐強い気質を
物語ったもの。
(出所)The Independent
12
計画策定後の動き①
○ 2010年5月以降、スペインやイタリアの国債金利が高止まりする中で、英国の国債金利は徐々に低下して
いき、スペイン等との差別化に成功。
○ 一方、2011年6月以降、ユーロ圏債務危機による経済の低迷等を受け、野党、IMF、一部の経済学者等か
ら、財政健全化計画の変更(Plan B)を求める声が高まる。
※ この時期は、経済の低迷に対応した政策への批判、政府首脳の発言の揚げ足取りやスキャンダルが相次ぎ、政
治的にも苦しい時期であった。
【欧州主要国の国債金利の推移】
(%)
8.0
【Plan Bを求める声】
ドイツ
フランス
イタリア
スペイン
英国
7.0
6.0
②IMF(2012年10月Fiscal Monitor)
・経済が見通しよりも大幅に悪化した場合には、英国を含
め、余裕のある国は2013年度以降の財政健全化のペース
を緩和すべき。
5.0
4.0
3.0
2.0
1.0
・金利低下は英国債と英国経済への信認投票であり、政
府の財政健全化が拙速と批判していた者の誤りを示すも
の。(2011年8月)(オズボーン財務相)
0.0
2010/1/1
13
①野党(2011年6月ボールズ影の財相)
・増税や歳出削減に異論はないが、問題は政府の財政健
全化のペースだ。
2011/1/1
(出典)Bloomberg
2012/1/1
2013/1/1
③経済学者(2012年8月the guardian)
・財政緊縮に起因する経済悪化から回復した先進国はな
い。(スティグリッツ)
・低金利で借入ができる今こそ、公共投資を増やすべき。
(クルーグマン)
・他に成長の源となるものがない中で歳出を削減すれば、
不景気になるのは当然。(スキデルスキー)
計画策定後の動き②
○ 連立政権は、財政健全化計画をしっかりと堅持。歳出削減については計画以上の削減を実現する一方、歳
入については、経済が計画どおりに改善しなかったため、計画よりも少ない状況。
○ 英国経済は、2013年から、個人消費と住宅投資の改善を受け回復軌道に入り、2014年にはG7で最も高い
成長率を実現。
○ こうした結果、2015年度の財政赤字は2010年度比で半減(2010年度8.7%⇒3.8%)。保守党は、2015年5月
の総選挙において、これまでの経済財政運営の成果を強調し、大勝利。
(%)
【財政健全化計画の堅持】
【実質GDP成長率の推移】
4.0
 2011年11月に財政健全化目標の達成を図るため、
2015年度と2016年度の予算削減を追加。
3.0
※2010年度~2014年度の歳出削減と同じペースで
削減を行うとの考えにより151億£の削減。
1.0
 公共支出の増加や減税を行う場合には、経常支出
の削減等により財源を確保。
在庫+誤差脱漏
実質GDP成長率
2.0
個人消費
2010年度
経常支出
公共支出
総額
歳入
6,373
595
6,968
5,477
2014年度
(計画)
6,927
472
7,398
7,001
2014年度
(実績)
6,714
508
7,221
6,548
(注)実績値は、公的部門の範囲の変更などによる予算額への影響を排除し、計
画時点と比較可能になるように財務省調査課にて推計したもの。
2.9
0.0
-1.0
政府消費
-2.0
-4.0
(単位:億£)
1.5
1.2
-3.0
【予算の計画と実績】
2.2
2.0
-4.2
純輸出
総固定投資
-5.0
2009
2010
2011
2012
2013
2014
(年)
(出典)Office for National Statistics
【2015年総選挙の結果】
議席数
得票割合
保守党
労働党
自民党
その他
331議席
232議席
8議席
79議席
36.9%
30.4%
7.9%
21.1%
14
3.2015年財政健全化計画
2015年財政健全化計画の内容
○ 保守党政権は引き続き財政健全化路線を堅持。連立政権の下での収支改善ペースを継続し、2019年度ま
での財政収支の黒字化等を目標とする財政健全化計画を策定。
財政健全化目標
①フロー目標:財政収支の黒字化(期限:2019年度)、2020年度以降も財政黒字を継続。
※ 連立政権の下で、財政収支が年平均1.1%改善(2009年度10.2%⇒2014年度4.9%)したことを踏まえ、この収
支改善ペースを継続すれば、2019年度に黒字化が達成可能との考え方。
※ 過去4・四半期の実質成長率が前年同期比で1%未満(英国の潜在成長率は2%強)となるような重大なショッ
クがある場合(財政責任庁が判断)、黒字化ルールの適用を停止。ショック収束後、政府が財政収支を黒字化す
るための計画とそのための財政ルールを策定。
②ストック目標:純債務残高(対GDP比)を毎年度減少
財政健全化計画
○ 2019年度ベースで350億£(2016年度から開始。対GDP1.6%程度)の財政健全化策を決定。
歳出削減策:240億£
①省庁別歳出限度額の削減等:120億£
・「守られた省」(NHS、海外援助等)以外の予算を210億£削減
し、「守られた省」の予算を95£増額
・経常支出を、「守られた省」を除き、 4年間で実質19%削減
②福祉給付の削減:120億£
・現役世代向けの社会福祉給付(税額控除、住宅手当等)の物価
スライド凍結(2016年度から4年間)
・非就労世帯に対する社会福祉給付の総額の上限引下げ
(2.6万£→2.0万£)
増税策:110億£
①租税回避・税制簡素化:80億£
②お試し雇用負担金:30億£
16
財政健全化目標の推移
目標
○構造的経常財政収支の黒字化
※景気循環の期間の平均値を事後的に検証。
労働党政権
(1997~2010)
○純債務残高(GDP比)40%未満
※景気循環の期間の平均値を事後的に検証。
考え方
○前保守党政権時代に公共支出が大幅に削減 されたことに
対応するもの。
※対GDP比:1978年度2.9%⇒1997年度0.5%
○純債務残高の目標により、公共支出に対する財政規律を
確保(公共支出は以前の水準には戻らず)。
※対GDP比:2006年度2.0%
○構造的経常財政収支の黒字化
連立政権
(2010~2015)
保守党政権
(2015~2020)
※経済財政見通しの最終年度までに。
○公共支出による機動的対応の余地を残すもの。
○純債務残高を2015年度に減少
○ただし、上記同様、純債務残高の目標が厳しい規律として
働き、金融危機対応で増加した公共支出はその後大幅に
減少。 ※対GDP比:2009年度3.2%⇒2014年度1.6%
○財政収支の黒字化
※2019年度までに。
○債務残高(対GDP比)を長期に渡って引き下げる最も信頼
できる方策は財政黒字の継続(参考)。
○純債務残高を毎年度減少
○調整前の数字をベースにしたシンプルでわかりやすい目標。
※構造的財政収支はアウトプットギャップの置き方次第で数字が大きく
変動し得る。
(参考)債務残高の継続的な引下げが必要な理由
①総債務残高(対GDP比)が70~90%になると成長率が低下し、経済に悪影響を与えること。
※英国は、大規模な経常赤字、巨大な金融センターを擁するため、負の影響が大きくなる可能性。
②英国は経済ショックの発生率が相対的に高く、経済ショックに対する財政の対応力を確保する必要。
※8年おきに経済ショックが発生し、これにより債務残高が10%増加すると仮定した場合、構造的経常財政収支の黒字化だけでは債務残
高(対GDP比)はほとんど減少しない(2035年度70%強)。
③第二次大戦後に超インフレと金融抑圧により債務削減を実現した歴史を踏まえ、債務削減と低インフレを両立させることが必
17要。
歳出削減策の具体的内容
○ 守れた省以外の省では、行政サービスの効率化や地方自治体向け補助金の削減により、引き続き厳しい
歳出削減に取り組むこととされている。
【省庁別歳出限度額(経常支出)の主要省庁別の増減率(2016年度-2020年度)】
-40
運輸省
コミュニティ・地方公共団体省
ビジネス・イノベーション・技能省
エネルギー・気候変動省
-30
-20
-10
-17.0
-16.0
環境・食料・農村省
-15.0
内務省
教育省
国防省
保健省
国際開発省
20
-29.0
-15.0
地方公共団体
10
-37.0
法務省
雇用年金省
0
(%)
30
-14.0
-6.7
-4.8
-1.1
2.3
3.3
21.0
18
今後の見通し
○ 財政責任庁によれば、2019年度の財政収支の黒字化は50%以上の確率で達成される見込み。
【財政収支・構造的経常財政収支・純債務残高の見通し(対GDP比)】
【歳出・歳入の見通し(対GDP比)】
(見通し)
(%)
(見通し)
(%)
4
48
純債務残高(右軸)
46.1
46
43.8
40
36
60
-2
40.8
40.1
38.7
37.4
36.9
37.7
36.1
35.9
40.2
35.6
財政収支(左軸)
39.7
36.7
36.1
37.5
38
36.9
36.9
36.7 36.8
36.3
35.8
36.2
36
50
-4
38.8
37 37.3
37
36.2 36.2
39.9
37.9
37.1
36.7
40.1
70
41.9
40.3
42
構造的経常財政収支(左軸)
0
43.5
90
80
43.9
44
38
2
45.3
(%)
40
37.5
-6
36.9 37 37
30
35.7
-8
20
34
総歳出(対GDP比、%)
32
-10
10
-12
0
19
(年度)
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
2016
2017
2018
2019
30
(出典)Office for Budget Responsibility “Public finances databank (March,2016)”
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
2016
2017
2018
2019
総歳入(対GDP比、%)
(年度)
4.ポイント
ポイント
 国債金利がスペイン、イタリア並みに高騰する中、2010年の総選挙では、与野党とも財政健全化の
必要性では一致しつつ、そのペースが最大の争点に。財政健全化の加速を最重要課題と位置付け
る連立政権が発足。
 連立政権は、2010年に、歳出削減を中心に、過去に例のない厳しい財政健全化計画を策定。その
際、「財政健全化は国民にとって非常に厳しいものではあるが、英国にとって不可欠なもの」として、
その必要性を訴え。
 2011年6月以降、ユーロ圏債務危機等を受けて、財政健全化計画の変更を求める声が高まったが、
連立政権は計画をしっかりと堅持。2013年からは経済も回復軌道に入り、財政赤字も2015年度に
は2010年度比で半減。2015年の総選挙では、保守党がこうした成果を強調し、大勝利。
 保守党政権は引き続き財政健全化路線を堅持。連立政権の下での収支改善ペースを継続し、2019
年度までの財政収支の黒字化等を目標とする財政健全化計画を策定。また、公的債務残高の圧縮
が必要として、2019年度以降の財政黒字の継続にもコミット。
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