財政学Ⅱ 1 第5回 公債と財政赤字(1)日本の財政赤字と国債 2015年10月30日(金) 担当:天羽正継(経済学部経済学科准教授) 2 日本の財政赤字の現状(1) 財政赤字:租税等の歳入が歳出を下回っており、政府が国債等の発行によって借入れを行っている状態。 日本の財政赤字の現状 国・地方ともに、ほぼ毎年度財政赤字を記録(スライド3)。 特に国が大きく、近年は対GDP比で約10%の財政赤字。 国の財政(一般会計)は1990年代以降、歳出が増加する一方で税収が減少。拡大する財政赤字を賄うために国債発行額 が増加し、国債依存度も上昇(スライド4)。 特に2000年代以降は特例(赤字)国債(後述)の発行額が増加。 国債発行額の増加により、国債残高も上昇(スライド5)。 残高:過去に行った借入れのうち、まだ償還(返済)していない分の合計額。 国債残高の対GDP比は2015年度末で160%。その他の長期債務と地方の長期債務を合わせた額の対GDP比は205%(スラ イド6)。 財政赤字と債務残高の国際比較(スライド7、8) 2015年度現在、一般政府の財政赤字、債務残高ともに、日本は先進国中で最悪のレベル。 ユーロ危機の発端となったギリシャをも上回る。 3 日本の財政赤字の現状(2) 国と地方の財政収支の推移 年度 2001 2002 2003 2004 2005 2006 実額 ▲ 26.5 ▲ 30.5 ▲ 31.2 ▲ 24.8 ▲ 19.7 ▲ 16.4 国 対名目GDP比 ▲ 5.3 ▲ 6.1 ▲ 6.2 ▲ 4.9 ▲ 3.9 ▲ 3.2 実額 ▲ 6.9 ▲ 8.8 ▲ 7.4 ▲ 4.3 ▲ 1.8 0.5 地方 対名目GDP比 ▲ 1.4 ▲ 1.8 ▲ 1.5 ▲ 0.9 ▲ 0.4 0.1 注1:2012年度および2013年度については内閣府推計値。 注2:2011年度から2013年度については、復旧・復興対策の経費および財源の金額を含む。 出所:内閣府「国・地方のプライマリー・バランス等の推移」2013年2月28日。 2007 ▲ 12.5 ▲ 2.4 ▲ 0.0 ▲ 0.0 2008 ▲ 23.2 ▲ 4.7 1.3 0.3 (単位:実額は兆円程度、対名目GDP比は%程度) 2009 2010 2011 2012 2013 ▲ 43.0 ▲ 37.3 ▲ 41.5 ▲ 47.3 ▲ 47.1 ▲ 9.1 ▲ 7.8 ▲ 8.8 ▲ 10.0 ▲ 9.7 ▲ 1.1 ▲ 2.7 0.6 0.3 ▲ 0.5 ▲ 0.2 ▲ 0.6 0.1 0.1 ▲ 0.1 日本の財政赤字の現状(3) 4 (兆円) 一般会計における税収・歳出、国債発行額、国債依存度の推移 (%) 120.0 60.0 101.0 100.0 51.5 100.7 100.2 99.0 97.1 50.0 96.3 95.3 48.9 89.3 歳出 84.883.7 42.984.9 85.5 84.7 44.4 84.4 81.8 42.1 40.9 42.5 78.8 41.8 41.8 82.4 81.4 40.3 40.8 39.2 75.1 75.9 78.5 国債依存度(右軸) 36.6 38.3 34.7 69.3 70.5 36.9 73.6 33.7 35.4 32.9 65.9 70.5 32.6 税収 61.5 60.1 59.8 29.7 31.0 29.4 57.7 31.3 54.9 54.5 54.4 54.1 53.9 26.6 53.0 51.7 51.0 51.5 51.0 51.9 52.1 50.7 27.5 50.8 49.4 49.1 49.1 53.6 47.9 25.3 47.0 24.8 46.9 47.2 45.6 25.2 50.6 43.8 42.8 43.9 46.8 23.2 24.2 21.5 15.0 43.4 41.5 23.5 47.2 41.9 38.2 44.3 38.8 43.3 11.4 21.0 7.6 8.4 34.9 7.0 6.6 34.1 32.4 38.7 16.3 30.5 6.0 17.9 29.0 6.7 8.7 29.1 13.2 9.1 26.9 7.0 13.5 24.5 11.1 7.8 23.7 9.1 21.9 11.6 20.9 6.4 特例(赤字)国債発行額 17.0 建設(4条)国債発行額 6.0 17.3 15.7 36.934.734.436.0 10.1 13.8 33.833.930.9 9.2 9.5 10.7 9.9 28.7 26.8 26.2 25.8 24.321.9 23.521.1 20.9 16.4 7.1 7.0 7.0 7.0 6.8 6.4 6.3 19.3 16.9 6.2 16.212.3 5.0 6.3 6.9 3.7 9.5 9.2 8.5 6.2 6.4 6.3 6.7 3.2 6.3 7.2 5.9 7.0 6.7 6.4 6.0 5.0 2.5 1.0 0.2 2.1 3.5 4.5 4.3 0.8 2.0 89.0 80.0 60.0 40.0 20.0 0.0 40.0 30.0 20.0 10.0 0.0 (年度) 注:2013年度までは決算、2014年度は補正後予算、2015年度は当初予算による。 出所:財務省理財局『債務管理リポート2015 国の債務管理と公的債務の現状』より作成。 日本の財政赤字の現状(4) 国債残高の推移 (兆円) 900 807 778 10 9 266 744 9 261 800 復興債残高 705 258 10 670 250 636 11 248 594 246 700 600 527 532 499 500 237 225 508 457 241 421 392 400 368 332 300 200 100 0 247 243 541 546 238 71 0 1 2 2 2 3 4 6 8 82 96 110 63 122 69 134 75 161 145 152 157 166 172 178 116 102 108 91 97 81 87 193 131 207 142 225 158 建設(4条)国債残高 226 222 216 390 209 477 445 411 356 295 197 258 187 245 168 531 175 258 280 288 305 321 231 134 158 176 199 特例(赤字)国債残高 108 56 56 49 32 43 77 83 42 67 15 22 65 65 65 64 64 64 63 61 64 35 53 59 17 22 28 40 47 10 13 21 28 33 15 10 2 5 1965 1966 1967 1968 1969 1970 1971 1972 1973 1974 1975 1976 1977 1978 1979 1980 1981 1982 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 5 (年度末) 注1:国債残高は各年度の3月末現在額。ただし、2014年度末は補正後予算に基づく見込み、2015年度末は予算に基づく見込み。 注2: 特例国債残高は、国鉄長期債務、国有林野累積債務等の一般会計承継による借換国債、臨時特別公債、減税特例公債及び年金特例公債を含む。 出所:財務省HP 6 日本の財政赤字の現状(5) 国および地方の長期債務残高 (単位:兆円程度) 1998年度末 2003年度末 2008年度末 2009年度末 2010年度末 2011年度末 2012年度末 2013年度末 2014年度末 2015年度末 〈実績〉 〈実績〉 〈実績〉 〈実績見込〉 〈政府案〉 〈実績〉 〈実績〉 〈実績〉 〈実績〉 〈実績〉 国 694 731 770 809 837 390 493 573 621 662 807 普通国債残高 295 457 546 594 636 670 705 744 778 対GDP比 58% 91% 112% 125% 133% 141% 149% 154% 158% 160% 201 199 197 199 200 200 201 201 地方 163 198 40% 42% 42% 42% 42% 42% 41% 39% 対GDP比 32% 40% 972 1,009 1,035 国・地方合計 553 692 770 820 862 895 932 205% 173% 179% 189% 196% 201% 205% 対GDP比 108% 138% 157% 注1:GDPは、2013年度までは実績値、2014年度は実績見込み、2015年度は政府見通しによる。 注2:東日本大震災からの復興のために実施する施策に必要な財源として発行される復興債及び、基礎年金国庫負担2分の1を実現する財源を調達するための年金特例公債を普通国債残 高に含めている。 注3:交付税及び譲与税配付金特別会計の借入金については、その償還の負担分に応じて、国と地方に分割して計上している。 注4:2014年度以降は、地方は地方債計画等に基づく見込み。 注5:このほか、2015年度末の財政融資特別会計国債残高は99兆円程度。 出所:財務省資料 7 日本の財政赤字の現状(6) 財政収支の国際比較(一般政府、対GDP比) (単位:%) 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年 2015年 2016年 オーストラリア 1.57 2.65 1.75 2.17 2.49 1.85 -0.43 -4.09 -4.69 -3.44 -2.64 -1.43 -2.21 -1.92 -1.53 -4.52 -4.93 -3.75 -3.08 -2.71 -1.64 -1.65 -1.12 カナダ 0.03 0.06 1.01 1.67 1.80 1.46 -0.30 3.18 -2.81 -2.73 -2.07 -3.67 -1.06 1.25 -1.74 -2.59 デンマーク -0.02 -0.13 2.07 4.95 4.99 5.02 -1.02 -2.12 -2.54 -3.15 -3.20 -2.95 フィンランド 4.07 2.44 2.21 2.59 3.93 5.13 4.18 -2.53 -2.62 -3.21 -2.54 -3.19 -7.16 -6.80 -5.10 -4.81 -4.08 -3.98 -3.75 フランス -3.09 -3.86 -3.49 -3.17 -2.34 ドイツ -3.88 -4.07 -3.68 -3.27 -1.55 0.31 -0.02 -3.04 -4.08 -0.86 0.10 0.15 0.64 0.55 1.07 -5.80 -7.47 -6.12 -6.74 -8.68 -12.35 -3.43 -2.81 ギリシャ -4.90 -5.48 -9.92 -15.29 -11.08 -10.20 -3.56 -2.99 -2.95 -3.03 -2.58 -2.00 イタリア -3.07 -3.41 -3.57 -4.17 -3.58 -1.53 -2.69 -5.27 -4.25 -3.49 -5.95 -4.81 -1.28 -2.09 -1.86 -8.84 -8.30 -8.81 -8.66 -8.46 -7.67 -6.84 -5.82 日本 -7.71 -7.67 2.34 -1.32 0.97 0.98 1.01 1.34 1.65 1.01 0.96 韓国 3.52 -1.96 0.23 1.55 2.33 4.24 6.40 6.30 ノルウェー 9.05 7.25 10.92 14.82 18.02 17.12 18.70 10.34 11.01 13.45 13.85 11.33 9.06 2.00 -4.42 -10.96 -9.39 -9.42 -10.32 -6.80 -5.80 -4.43 -3.02 スペイン -0.42 -0.37 -0.04 1.21 2.20 1.96 -0.72 -0.03 -0.08 -0.92 -1.37 -1.88 -1.24 -0.50 スウェーデン -1.47 -1.31 0.33 1.81 2.19 3.34 -3.02 -5.02 -10.95 -9.63 -7.60 -8.28 -5.51 -5.32 -3.98 -2.54 イギリス -2.25 -3.65 -3.52 -3.48 -2.94 アメリカ -4.77 -5.95 -5.47 -4.20 -3.10 -3.70 -7.17 -12.81 -12.16 -10.74 -8.99 -5.71 -4.99 -4.01 -3.57 注:一般政府とは、中央政府、地方政府、社会保障基金を合わせたもの。 出所:OECD「Economic Outlook No97」より作成。 8 日本の財政赤字の現状(7) 債務残高の国際比較(一般政府、対GDP比) (単位:%) 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年 2015年 2016年 オーストラリア 24.5 21.8 22.1 21.8 20.7 20.4 21.2 26.7 30.0 34.1 37.3 38.3 42.5 44.6 46.8 カナダ 84.8 80.3 76.5 75.8 74.9 70.4 74.7 87.4 89.5 93.1 95.9 92.3 94.8 96.0 95.5 デンマーク 58.1 56.1 52.4 45.1 40.5 34.6 42.0 49.5 53.8 60.6 60.2 57.3 60.4 55.9 55.0 フィンランド 48.0 49.5 49.6 46.4 43.9 40.1 38.8 49.5 55.9 57.1 63.0 65.1 71.4 73.6 76.2 フランス 74.8 78.7 80.4 81.9 77.0 75.8 81.8 93.4 97.1 101.0 111.8 111.4 120.4 121.9 122.8 ドイツ 61.1 64.6 67.8 70.3 68.3 64.2 68.2 75.6 84.2 83.6 86.3 81.6 82.3 78.7 74.9 ギリシャ 113.9 108.9 110.5 112.1 119.1 114.4 118.6 135.2 128.7 111.2 166.2 182.0 184.1 187.9 187.6 イタリア 117.0 114.2 116.2 118.9 116.2 111.7 114.5 127.3 126.0 119.4 138.1 144.8 158.5 159.6 158.4 日本 153.5 158.3 166.3 169.6 166.8 162.4 171.1 188.7 193.2 209.4 215.4 220.3 226.0 229.2 231.7 韓国 18.1 18.7 22.0 24.0 26.9 26.9 28.3 31.0 31.8 33.3 34.8 34.8 34.5 34.9 35.5 ノルウェー 38.7 48.0 49.9 46.9 57.8 55.6 54.2 48.1 48.4 33.8 34.5 35.0 32.6 34.5 35.4 スペイン 59.3 54.4 52.5 50.0 45.7 41.7 47.1 61.9 66.7 77.4 91.0 102.0 115.8 117.1 117.2 スウェーデン 58.1 57.0 56.5 57.5 50.9 45.8 45.9 47.6 44.4 44.8 44.6 44.8 52.1 52.6 51.2 イギリス 47.9 47.1 48.5 50.0 49.6 50.1 62.0 75.7 87.3 101.1 105.1 100.8 111.3 113.3 113.1 アメリカ 57.4 58.8 66.7 66.8 63.9 64.3 78.1 92.5 101.8 107.7 110.5 109.2 110.1 111.4 111.1 注:一般政府とは、中央政府、地方政府、社会保障基金を合わせたもの。 出所:OECD「Economic Outlook No97」より作成。 9 公債とは何か(1) 公債:政府が借入れのために発行する債券。 財政赤字を賄うために発行される。ただし、将来世代にも便益を及ぼす事業のために発行される公債は、単なる財源不足 を賄うための公債とは区別される(後述)。 債券は有価証券であり、株式と同様に転売する(市場で流通させる)ことが可能。 民間企業が発行する債券は社債と呼ばれる。 債券は元本と利子からなる。債券を保有する主体に対して利子を支払うことは利払いと呼ばれ、利子と元本を支払うこと は元利償還と呼ばれる。 元本を支払うことで最終的な返済となる。 中央政府が発行する債券は国債、地方政府が発行する債券は地方債と呼ばれる。 日本では以上の他に、債券の形式をとらない借入金、一時的な資金不足を賄うための政府短期証券、独立行政 法人等の資金調達に保証を付与する政府保証債務があり、これらと国債・地方債を合わせて公的債務と呼ぶ (スライド10)。 10 公債とは何か(2) 日本における公的債務の概念 建設国債 ( ) 広 義 の 公 的 債 務 財 政 活 動 に よ る 資 金 調 達 に 伴 う 債 務 特例国債 国 の 資 金 調 達 に 伴 う 債 務 普通国債 年金特例 国債 復興債 国債 借換債 財政投融資特別会計 国債 (その他の国債(注)) 政府短期証券 借入金 政府保証債務 の そ 地方債 債 公の 務 的 他 独立行政法人等の債務 注:「その他の国債」には交付国債、出資・拠出国債、株式会社日本政策投資 銀行危機対応業務国債、原子力損害賠償支援機構国債、日本高速道路保 有・債務返済機構債券承継国債が含まれる。 出所:財務省理財局『債務管理リポート2014―国の債務管理と公的債務の現 状』5ページより作成。 11 日本の国債(1) 日本の国債は大きく普通国債と財政投融資特別会計国債(財投債)に分けられる。 普通国債は建設国債、特例国債、借換債、年金特例国債、復興債からなる。 建設国債:橋や道路の建設など、主として公共事業費を賄うために発行される。 財政法第4条に基づいて発行されるため、4条国債とも呼ばれる。 財政法第4条「国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない。但し、公共事業費、出資金及び貸付金の財源 については、国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行し又は借入金をなすことができる」 特例国債:建設国債を発行してもなお歳入が不足すると見込まれる場合に、公共事業以外の歳出のために発行される。 財政法は公共事業以外のために国債を発行することを禁止しているため、特例法を毎年度制定し、これに基いて発行される。赤字国債とも呼ばれる。 借換債:普通国債の償還額の一部を借り換えるために発行される。 年金特例国債:基礎年金の国庫負担の追加に伴って見込まれる費用の財源となる税収が入るまでのつなぎとして、2012年度と2013年 度に発行。 復興債:東日本大震災からの復興のための施策に必要な財源となる税収等が入るまでのつなぎとして、2011~2015年度に発行。 公共事業費のためであれば公債発行が認められる理由 橋や道路などの資産(見合いの資産)は将来の世代にも便益を及ぼすが、こうした資産を作るための費用をすべて租税で 賄うと、現在の世代がその負担をすべて負い、将来の世代は負わないこととなり、世代間で不公平が生じる。 一方、公債発行によって資産を作り、その償還のための費用を将来世代に対する租税で賄えば、将来世代も便益に応じて 費用を負担することとなり(スライド12)、世代間の公平が達成可能となる。 12 日本の国債(2) 租税により償還 公債残高 公債発行 世代
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