解答例

2015 年度前期
有機化学演習 第6回
脱離反応 (E1, E2)
1. 2-ブロモプロパンからプロペンが生成する脱離反応は、(1) メタノール中と
(2) KOH のメタノール溶液中では反応機構が異なる。それぞれの反応機構に
ついて説明しなさい。
(1) メタノール中 (E1):
CH3 CH CH3
CH3
Br
H
CH CH2
+ Br–
CH3OH
CH3 CH CH2 + CH3OH2
(2) KOH のメタノール溶液中(E2):
CH3
H OH
H
CH CH2 + –OH
CH3 CH
Br
CH2
CH3 CH CH2
+ Br– + H2O
Br
2. (1) ブロモエタンの E2 反応について、反応物と生成物(エチレン)の立体配
座を Newman 投影図で示すと下のようになる。これに倣って、遷移状態の立
体配座を図示しなさい。
(ヒント:遷移状態は反応物と生成物の中間の構造を
持つはずである。)
H
Br
H
Br
H
H
H
H
H
H
H
H
H
H
H
HO
H
(2) E2 反応は、脱離する H 原子と脱離基が互いに anti の立体配座になると
き進行しやすい。理由を説明しなさい。
E2 反応で新しく生成する π 結合は、C–H 結合が切れたあとに残る p 軌道(電
子対を持つ)と、C–Br 結合が切れたあとに残る p 軌道(空)が重なり合って
できる。H と Br が互いに anti の立体配座にある時,これらの p 軌道はちょう
ど π 結合を作るのに適した位置関係にあるので、反応は最も進行しやすい。
3. 次の実験事実を説明しなさい。(1) 2-クロロプロパンとナトリウムエトキシド
(NaOCH2CH3)の反応では、E2 反応と SN2 反応の生成物が両方得られるが、
2-クロロプロパンと酢酸ナトリウムの反応では SN2 反応の生成物のみが得ら
れる。(2) 2-クロロプロパンとナトリウムエトキシドの反応では、温度が高い
ほど E2 反応の生成物が多くなる。
(1) 酢酸イオンはエトキシドイオンに比べて塩基性が低いため、E2 反応に必
要な C–H 結合からの H+の引き抜きを起こしにくい。従って、E2 反応は起こ
らない。
H3C
C
H
CH3
–OCH
2CH3
H3C
Cl
H
C
CH3
+
H3C
OCH2CH3
(SN2)
C CH2
H
(E2)
O
H3C
H
C
CH3
O
H3C
CH3
H
Cl
C
CH3
CH3
O
(SN2)
O
(2) SN2 反応は分子数が変化しない反応だが、E2 反応は分子数が増える反応
である。分子数が増える反応はエントロピーが増える反応であり、エントロ
ピーが増える反応は温度が高いほど進行しやすくなるので、高温では E2 反応
がより優先する。
4. (1) 下の反応の反応機構を示しなさい。
HCl
O
H
O
H+
O
OH +
OH
+
H
– H+
(2) この反応では、下に示した副生成物が得られることがある。それぞれにつ
いて反応機構を示しなさい。
Cl
OH
Cl
H
O
H+
Cl–
H
Cl + H O
2
(SN2)
Cl–
Cl
(SN1)
5. 次の反応の機構を説明しなさい。
CH2Br CH3OH
+
OCH3
+
OCH3
CH2 Br
CH2
CH2
CH3OH
O
H
CH3OH
OCH3
H
CH2
H
– H+
CH2
CH2
– H+
OCH3
CH3
– H+
CH2
OCH3