第一席 掃除と愛着 渡部 佳倫

第一席
掃除と愛着
甲南女子高等学校二年(兵庫県)
渡部 佳
倫
に、愛着を持っているか否かで人間の行動というのは全然違うもの
になるのである。つまり他人が掃除した茶室を使うより自ら一所懸
命掃除をした方が茶室を大切に出来るのである。自分で行うのが大
事なのである。
また、これは茶室に限ったことではない。自分の持ち物は気に入っ
て買ったものだから最初から愛着があるかもしれないが、綺麗に磨
き、大事に使うことで愛着が一層深まり何年も使うことが出来る。
反対に愛着が無ければ、前記した場合より粗雑に扱い長年使うこと
なぜこのような変化が私に起きたのか。恐らく愛着が湧いたのであ
まう。それは大変な事だ」と思い、しっかり掃除するようになった。
お抹茶である。今は目立た無いが時間が経てばそこだけ黄ばんでし
だが暫く経つと、自然と、
「汚れていては畳が可哀想だ。溢したのは
が綺麗であれば良いや。先生に怒られなければ」程度に思っていた。
例えば、畳にお抹茶を溢した場合。茶道部に入部した頃の私は、
ティッシュを使って「見た感じ綺麗」な程度に拭いていた。「見た目
掃除をする事で愛着が湧く」というのがあると思うのである。
は無いと思う。埃やダニ等の排除という意味も持つが「一所懸命に
先生は「茶室を綺麗にする事でいつでも新鮮な心でお茶を楽しめ
る」と仰った。なるほど。だが私は掃除がもたらすのはそれだけで
ている事と何ら変わりなく大いに安心した。
ではなく「モノ」と長く付き合っていく為自ら歩み寄るのも大切な
してみるのも悪くないと思う。汚くなったらさっさと取り替えるの
た。掃除をして愛着が湧かないのなら、反対に愛着が湧くよう意識
て、そんなものは「その人の意識」で簡単に覆せるとも書いてあっ
と何かの本で読んだが、それは単なる「その人の基礎」なだけであっ
易いかどうかはその人が幼少期をどのように過ごしたかが関係ある
にも「モノに愛着が湧いた事が無い」という人が居る。愛着が湧き
と置いたりしないのである。勿論ペットボトルホルダーに限らずで
かだと思う。単に潔癖なのではなく、愛着があるから地べたにポイッ
に地べたに置いたりせず、ずっと首から下げて大事に使っていたら
私は、自分で言うのもなんだが世間一般的に物持ちが良い方であ
る。未だに小学二年生の頃のペットボトルホルダーを使っており、
なんてなかなかできないと思う。
る。茶室は学校の備品だが、五年間毎週二日ある部活で掃除をし、
ことである。
先日、茶道裏千家学園にて茶道の基本を学ぶ研修に参加した。そ
の時茶人がすべき事として一番に掃除を教わった。日頃私達がやっ
お稽古していると愛着が湧く。愛着が湧いたから、茶室を綺麗に保
ここまで色々と書いてきたが、私が伝えたいのは、要は綺麗に保
ある。そう考えると私は愛着が湧き易いのかもしれない。私の友人
同じ物を持っていたという友人に驚かれたりする。それは外出の際
とうという心が、より強くなったのである。この事から分かるよう
つ為に掃除をするのではなく、愛着を持つために掃除をするという
ことである。これは誰かから教わった訳ではないので茶人として正
しい考え方なのかは分からない。だが、これは私が中学一年生から
今に至るまで五年間茶道部で過ごした中で最も心に残っていること
である。
「良い物はすぐに駄目になったりはしないの。大事に使えば
ずっと使えるのよ」と教えて下さった古川先生に感謝している。そ
れまで頭では分かっていても実際に「ずっと使っている」人を見た
ことがなかったので半信半疑だったのがそうでなくなった瞬間だっ
た。これからもこれらのことを忘れず何にでも愛着を持って物持ち
良く生きていきたい。